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第一章
94.資料室で振り返る
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「ふぁぁぁあぁ……ねむ」
山形は目の前の捜査資料に突っ伏した。頭を勢いよく叩きつけたせいで周りに埃が舞い上がる。隣で真剣に仕事に取り組んでいた木村が嫌そうな顔をする。
「んもう、ゴホ……ゴホッ! 真面目にやってください! 警部」
聞く耳を持たないと知っているのかそのまま捜査資料に目をやる。今日は若林組に関する過去の資料を読み漁っていた。
山形は足で稼ぐ時代を過ごしたせいか座る環境が合わない。ちなみにパソコンもいまだに指打ちで報告書も手書きだ。
真っ向勝負しか出来ない山形は過去を掘り下げて炙り出すやり方は気に食わない。だが、手掛かりが全くないこの状況を打開すべく朝から資料室兼倉庫に入り浸っている。若林組は随分と長い間大人しくしているように見えていたが、急に穏健派から掌を返してきた理由を探ろうとしていた。
これまでの殺人事件に若林組が関わっているのは間違いない。ビルから転落死した男が死ぬ前に若林組と会っていた事が確認されている。
「二十年程前の争いが最後みたいですね……ほら、それから少しの小競り合いぐらいはありますけど、そのまま示談しているものばかりです」
木村は倉庫に入って一人黙々と調べていたのだろう。気付くと目の前の資料の山に所々青の付箋が貼られている。山形は舌打ちすると後輩の顔を見る。この男は数年後は自分の上司になる事を確信した。
「拗ねてないでここ見てください。ほら、ここ。二十年前に船越組と大きな争いになってたみたいですよ……って警部、この時もう警察に居ましたよね?」
木村が顔を上げると山形は視線に耐えきれず目をそらして「あー、そうだなー」と明らかに不自然な態度をとる。山形が胸の前で腕を組むときは何かを隠しているときだと木村は最近気づいていた。
「もしかして……知ってました?」
山形は机をバンっと殴る。
「知らねぇよ、知るわけねぇよ! そんなもん!」
山形はそのまま腕を組み直しそっぽ向く。
木村は一人納得すると捜査資料に目をやる。担当刑事の名前を確認するとすらすらと手帳に書き留める。
「とりあえず、この刑事を探しましょう。データベース照会してきますから、警部はここで、大人しくしておいてくださいね。では」
木村の嫌味な言い方に腹を立てた時にはすでに木村の姿は消えていた。
二十年前……目を付けていた船越組の男が消えた。名前も忘れてしまったが、随分と気性の荒い騒ぎばかりを起こす男だった。相当なナイフの使い手だった気がする。
「……探してみるか……」
山形は嫌々ながらもパソコンの前に座る。 旧型のパソコンは最近活躍の出番が減っているらしい。画面についた埃を掌で払う。置かれた回転椅子も山形の重みに耐えかねているようで動くたびに軋んでいる……。経費削減の波は至る所に押し寄せているようだ。
山形は大きく息を吐くと両手の人差し指を立ててキーボードを押していく。二つほど押したところで山型の手が止まった。
「……ローマ字が分からん」
山形は頭を掻くと置いてあった古く黄色みがかったマウスを放り投げた。
山形は目の前の捜査資料に突っ伏した。頭を勢いよく叩きつけたせいで周りに埃が舞い上がる。隣で真剣に仕事に取り組んでいた木村が嫌そうな顔をする。
「んもう、ゴホ……ゴホッ! 真面目にやってください! 警部」
聞く耳を持たないと知っているのかそのまま捜査資料に目をやる。今日は若林組に関する過去の資料を読み漁っていた。
山形は足で稼ぐ時代を過ごしたせいか座る環境が合わない。ちなみにパソコンもいまだに指打ちで報告書も手書きだ。
真っ向勝負しか出来ない山形は過去を掘り下げて炙り出すやり方は気に食わない。だが、手掛かりが全くないこの状況を打開すべく朝から資料室兼倉庫に入り浸っている。若林組は随分と長い間大人しくしているように見えていたが、急に穏健派から掌を返してきた理由を探ろうとしていた。
これまでの殺人事件に若林組が関わっているのは間違いない。ビルから転落死した男が死ぬ前に若林組と会っていた事が確認されている。
「二十年程前の争いが最後みたいですね……ほら、それから少しの小競り合いぐらいはありますけど、そのまま示談しているものばかりです」
木村は倉庫に入って一人黙々と調べていたのだろう。気付くと目の前の資料の山に所々青の付箋が貼られている。山形は舌打ちすると後輩の顔を見る。この男は数年後は自分の上司になる事を確信した。
「拗ねてないでここ見てください。ほら、ここ。二十年前に船越組と大きな争いになってたみたいですよ……って警部、この時もう警察に居ましたよね?」
木村が顔を上げると山形は視線に耐えきれず目をそらして「あー、そうだなー」と明らかに不自然な態度をとる。山形が胸の前で腕を組むときは何かを隠しているときだと木村は最近気づいていた。
「もしかして……知ってました?」
山形は机をバンっと殴る。
「知らねぇよ、知るわけねぇよ! そんなもん!」
山形はそのまま腕を組み直しそっぽ向く。
木村は一人納得すると捜査資料に目をやる。担当刑事の名前を確認するとすらすらと手帳に書き留める。
「とりあえず、この刑事を探しましょう。データベース照会してきますから、警部はここで、大人しくしておいてくださいね。では」
木村の嫌味な言い方に腹を立てた時にはすでに木村の姿は消えていた。
二十年前……目を付けていた船越組の男が消えた。名前も忘れてしまったが、随分と気性の荒い騒ぎばかりを起こす男だった。相当なナイフの使い手だった気がする。
「……探してみるか……」
山形は嫌々ながらもパソコンの前に座る。 旧型のパソコンは最近活躍の出番が減っているらしい。画面についた埃を掌で払う。置かれた回転椅子も山形の重みに耐えかねているようで動くたびに軋んでいる……。経費削減の波は至る所に押し寄せているようだ。
山形は大きく息を吐くと両手の人差し指を立ててキーボードを押していく。二つほど押したところで山型の手が止まった。
「……ローマ字が分からん」
山形は頭を掻くと置いてあった古く黄色みがかったマウスを放り投げた。
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