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6.キスの人数
しおりを挟む風香が風呂から上がるとドライヤーで髪を乾かしていく。貴弘と生活を始めて二週間経った。意外にも同棲生活は上手くいっていた。貴弘は家事に協力的だったし、私の作ったご飯も「悪くないな」と残さず食べる。それでも顔を合わせば小言を言い合うのは変わらない。
リビングでは貴弘がテレビを見て楽しそうに笑っている。昔から貴弘はお笑いが好きだ。将来お笑いのプロデューサーになると言っていたことを思い出した。風呂を上がった風香は隣に座ると貴弘が徐ろにビール缶を手渡す。
「……何?」
「いや、ビールだけど。明日土曜日で休みだろ。気兼ねなく飲める最高の日じゃん」
風香はそれを受け取ると溜息を吐く。実は風香はアルコールが強くない。顔色こそ変わらないが脳は酒に浸かりフラフラになる。今の職場でアルコールデビューしたものの当然のことながら記憶が曖昧になった。あくる日仕事を教えてもらっていた春子先輩からアルコール禁止令を出されてしまった。何か醜態を呈してしまったらしいが詳しくは怖くて聞けなかった……。
「え、まさか……飲めない、のか?」
「え?……いや、まぁ……」
なんかバカにされているみたいだ。貴弘は意外そうに風香の手からビールを受け取るとニヤリと笑った。
「可愛いんだな……飲めそうな顔してんのに」
「いや、大丈夫」
風香はビール缶を奪い取るとグビッとビールを流し込んだ。慌てて貴弘がそれを止めようとするが風香が立ち上がり腰に手を当てて飲み干す。飲みっぷりだけは一人前だ。
「あ……いや、おい。誰も一気に飲めって言ってないだろうが、大丈夫か?」
「平気だって! 大人だもん」
「いや、誰も子供だなって言ってないんだけど……まぁ、大丈夫ならいい。ほら、ピーナッツ食べろよ」
貴弘の隣に座ると風香は余裕があるのか足を組みテレビを楽しそうに見ていた。その姿を見て貴弘は首を傾げていた。
大丈夫……だよな? 顔も赤くないし……。飲めるくせになんで飲めない雰囲気出してたんだ? コイツ。
誠大はピーナッツを口に放り込むとビールで流し込む。こうして幼なじみと酒を飲める日が来るなんて思わなかった。ふと、一緒にオレンジジュースをストローで飲み合った仲だったことを思い出した。
あ、そうだ。前に仕事終わりに買った酒があったな。
貴弘は立ち上がると冷蔵庫の中からスクリュードライバーの缶を手にして戻ってきた。きっと風香はこっちの方が飲みやすいだろう。貴弘はついでにチーズを手にして戻ってくるとある異変に気がついた……風香の頭が前後に大きく揺れていた。
「貴弘……暑くない?」
「……は?」
ソファーにきちんと座っているが風香の様子がおかしい。目がすわっているし口も半開きだ。誘うようなその表情に思わず唖然とする。
貴弘が何も答えないでいると風香が突然上の服を脱ぎ始めた。胸の前で腕を交差しシャツの裾をめくり上げる。ヘソが丸見えになったあたりで貴弘が慌ててその手を下げさせる。もう少しでブラジャー姿になるところだった……。いや、正確には見えたけど……ピンクのレースが見え隠れしていた。
「ちょ、ちょっと待て! 風香!」
「うん? 脱がしてくれる?」
「……は?」
風香の上目遣いに貴弘は思考が停止する。風香を見下ろすと角度的に胸の谷間が見えた。一気に頭に血が昇ったのが分かった。同時に違う部分も反応している。男の悲しいサガだ。
まずい、これはまずい……。
貴弘は慌ててローテーブルに置いていた酒を台所に持っていく。これ以上風香が口にすると危険だ。焦る貴弘の気も知らない酔っ払いの風香はふらつく足取りで歩き出すとシンクでビールを流し捨てていた貴弘の背中に抱きつく。
「隙あり!」
「ぬお! お、おい……」
背中に風香の胸の膨らみを感じる。貴弘は思わず頭を抱える。安易な気持ちで風香に酒を勧めたことを後悔していた。振り返ると風香の頭を掴んで睨みつけるが、風香は満面の笑みを絶やさない……。幼い頃を思い出させるような笑顔だ。
「風香、おい、しっかりしろって……」
「んー……」
風香の顔が至近距離にある。まるでキスをねだるようだ……。
「誘ってるのか? キスを──したいのか?」
「うん? 今日いっぱいしてきたー」
貴弘の瞳が細められて風香の顎を掴んで顔を上に向けさせる。風香は相変わらず物欲しげな表情だ。
「今まで何人と、キスしたんだ?」
「んー、分かんない。キス? 最近は森くんとしかしてないもん……」
森くん──?
舌を出し妖艶な笑みを浮かべた風香の言葉に貴弘は息を呑んだ。自分の知っている風香は男を知らなかった。風香が見せた真っ赤な舌を見て貴弘は何か吹っ切れた。
「分かった」
貴弘はそのまま風香の唇にキスをした。噛み付くように口付けると風香が苦しそうに顔を歪めた。貴弘はお構いなしに顔を傾け風香の唇を食べた。
「ん、や──」
風香の顔が逸らされると貴弘はソファーに風香を寝させると覆いかぶさり口の中を堪能する。風香は口の中で貴弘の舌が別の生き物のように蠢いているのをただ受け入れていた。口の中が泥濘み出すと粘膜が擦られるたびに脳がチカチカした。しばらく堪能すると貴弘が理性を取り戻し風香から体を離した──。
「ふ、風香……お、れ──」
「んん……あったかくて、気持ちがいい」
風香の言葉に貴弘は口元を押さえて真っ赤になる。頭に浮かんだ事を言葉にする風香が純粋すぎて罪悪感に襲われた。
「……くそっ」
押し倒したソファーから飛び上がるとそのまま貴弘はトイレに駆け込んだ。しばらく出てくることはなかった。
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