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36.心臓破裂
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風香はシャワーを浴びながらじっと佇んでいた。頭から湯を浴びているが別にシャンプーを洗い流しているわけでもない。ただ、時間稼ぎをしていた。壁に手をつき項垂れるその姿は片思いが成就したとは思えない有様だ。
まずい、まずい、まずい……まずいことになった……。
あれから不動産に立ち寄り手付金を納めると二人は一週間分の食材の買い出しをして家へと帰ってきた。想いが通じたのはいいが二人が並んで歩く距離は変わらない。二人の両手には大量の買い物袋でいっぱいだった。
家に到着すると晩ご飯の支度をした。いつもと同じだけれど何かが違う。時折目が合うと貴弘は優しく微笑む。風香は事あるごとに頬を赤らめて顔を背けた。並んで立つ台所で触れ合う肩や手にいつも以上に風香は反応してしまっていた。晩ご飯の支度がある程度済むと貴弘が「先に風呂入る」と言った。その言葉に風香は異様に反応してしまった。
「え、風呂……風呂!? 今から!?」
「入ったらダメなのか?」
「え、あ……どうぞどうぞ」
貴弘は風香の慌てぶりに笑いそうになるが本人は普通を装おうとするので敢えてその事に触れずに風呂場に向かった。
「風香……一緒に入るか?」
貴弘は揶揄うように服を脱ぎ脱衣所から顔を覗かせた。風香はまな板に置いてあった包丁を握ると舌打ちをした。真っ赤な顔をした赤鬼の登場に貴弘は声を出して笑うと頭を引っ込めた。風香は今晩のことを考えると目眩がした。あのエロい貴弘のことだ……何も考えていないことはないだろう。風香は流し台に使った調理器具を置くと黙々と洗い始めた。そしてふと……自分がついた最大の嘘に気が付いた。
まてよ……私、処女だって……言ってない。ろくな経験積んでないって言ってない!
風香は思わず持っていたまな板を流し台に落とした。一気に血圧が下がったのが分かった。今更あんなことやこんなことをしておいて、キスすらもさほど経験もなかったんです。下手なんです。胸も触られたこともありません。ましてや男性の朝立ちなんてもってのほか、下半身を見たことも父ありません(父親除いて……)──だなんて貴弘は夢にも思っていないだろう。貴弘が風呂を上ると風香は逃げるように風呂に入った。そしてさっきからずっと修行僧のようにシャワーを頭から浴び続けている。
ここは正直に言うべきだけど……恥ずかしすぎない? ご飯食べながら処女なのと告白するのもおかしいし、やる気満々と誤解されても困る。この年になってもまだ処女なのかと面倒臭がられるかも知れない。
いや、ちょっと待って。両思いになったけどすぐにヤったりしないか? こんなに長く風呂に入ってるのも気合入ってると思われちゃうんじゃないの? やる気満々とか思われたらダメだ! 今すぐ出よう!
風香は慌てて風呂場を出る。風香は混乱していた。いつもの日常通りなのに一人でそわそわと落ち着かない。ドライヤーで髪を乾かすと脱衣所のドアを開けてこそっとリビングを覗いた。テレビを見ていた貴弘は気づいていないようだ。抜き足差し足で貴弘の後ろを通り過ぎようとすると突然貴弘が振り返りソファーに風香を引き込んだ。
「……わっ」
「逃げんなよ」
あっという間にソファーに座らされて抱きしめられた。目の前の貴弘から風呂上がりのいい香りがした。自分と同じもののはずなのによりいい香りに感じる。貴弘は顔を寄せると風香の頬から顎にかけてを優しく撫でた。その瞳は獲物に噛みつこうとする狼のようだ。じっと見つめるその視線の熱に溶けてしまいそうだ。さっきから背筋がゾクゾクする。
「なんで、そんなに緊張してるんだ? いつも通りだろう?」
俺は嘘つきだ。いつも通りなことはない……今までよりも風香が愛おしくて抱きしめたくて堪らなかった。興奮を抑えて話しているつもりだが風香にその欲情を感じ取られているのかも知れない。風香は俺に触れられると体を震わせた。どうも様子がおかしい……怖い、のか?
風香は貴弘にうなじを撫でられて動けなくなった。怖かった。風香がじっと貴弘を見つめていると貴弘は触れていた手を離して子供にするように優しく頭を撫でた。風香はその感覚にようやく肩の力が抜けるのを感じた。貴弘は小さく頷いた。
「風香、正直に言え。何人と関係を持った?」
「…………」
「じゃ、キスをしたのは? こうして撫でられたのは?」
「貴弘……」
「風呂に入ったのは?」
「……貴弘……私……」
貴弘は風香の頬にキスをした。そして風香の手を取り甲にキスをした。
「大丈夫だ。ゆっくりでいい……言え」
貴弘は風香の唇にキスをした。数秒ののち離れると優しく微笑んだ。
「俺だけ、だろ? 頼むから、言ってくれ……俺だけだって。全部俺が初めてだって言え」
風香の様子から貴弘は風香がまだ無垢のままだと気付いた。今までは幼馴染みだからむず痒がったのかと思っていたがそれは間違いだったと気付いた。風香に正直に話して欲しかった。風香は貴弘の優しい声色に涙が溢れた。怖いからじゃない、ついた嘘のせいでもない。貴弘の優しさが、愛が、ゆっくりと滲みてきたからだ。
「……キス以外は……した事、ない。貴弘しか知らない。キスは、キスだけは……ごめん」
本当ならファーストキスも初めての彼氏も全て貴弘が良かった。過去を変えることは出来ないが風香は強く願った。当然そんなことはあり得ないのだが今は純粋にそう思った。貴弘に申し訳ない気持ちになり顔を伏せる……。
突然貴弘は笑った。顔を上げると貴弘が口元を押さえて顔を赤らめていた。貴弘が喜んでいた。子供の頃のような無邪気な笑顔だった。
「え……何?」
「悪いな。風香のファーストキスは、三歳の俺がもう貰ってた」
貴弘は笑いながら風香の唇に再びキスをした。
まずい、まずい、まずい……まずいことになった……。
あれから不動産に立ち寄り手付金を納めると二人は一週間分の食材の買い出しをして家へと帰ってきた。想いが通じたのはいいが二人が並んで歩く距離は変わらない。二人の両手には大量の買い物袋でいっぱいだった。
家に到着すると晩ご飯の支度をした。いつもと同じだけれど何かが違う。時折目が合うと貴弘は優しく微笑む。風香は事あるごとに頬を赤らめて顔を背けた。並んで立つ台所で触れ合う肩や手にいつも以上に風香は反応してしまっていた。晩ご飯の支度がある程度済むと貴弘が「先に風呂入る」と言った。その言葉に風香は異様に反応してしまった。
「え、風呂……風呂!? 今から!?」
「入ったらダメなのか?」
「え、あ……どうぞどうぞ」
貴弘は風香の慌てぶりに笑いそうになるが本人は普通を装おうとするので敢えてその事に触れずに風呂場に向かった。
「風香……一緒に入るか?」
貴弘は揶揄うように服を脱ぎ脱衣所から顔を覗かせた。風香はまな板に置いてあった包丁を握ると舌打ちをした。真っ赤な顔をした赤鬼の登場に貴弘は声を出して笑うと頭を引っ込めた。風香は今晩のことを考えると目眩がした。あのエロい貴弘のことだ……何も考えていないことはないだろう。風香は流し台に使った調理器具を置くと黙々と洗い始めた。そしてふと……自分がついた最大の嘘に気が付いた。
まてよ……私、処女だって……言ってない。ろくな経験積んでないって言ってない!
風香は思わず持っていたまな板を流し台に落とした。一気に血圧が下がったのが分かった。今更あんなことやこんなことをしておいて、キスすらもさほど経験もなかったんです。下手なんです。胸も触られたこともありません。ましてや男性の朝立ちなんてもってのほか、下半身を見たことも父ありません(父親除いて……)──だなんて貴弘は夢にも思っていないだろう。貴弘が風呂を上ると風香は逃げるように風呂に入った。そしてさっきからずっと修行僧のようにシャワーを頭から浴び続けている。
ここは正直に言うべきだけど……恥ずかしすぎない? ご飯食べながら処女なのと告白するのもおかしいし、やる気満々と誤解されても困る。この年になってもまだ処女なのかと面倒臭がられるかも知れない。
いや、ちょっと待って。両思いになったけどすぐにヤったりしないか? こんなに長く風呂に入ってるのも気合入ってると思われちゃうんじゃないの? やる気満々とか思われたらダメだ! 今すぐ出よう!
風香は慌てて風呂場を出る。風香は混乱していた。いつもの日常通りなのに一人でそわそわと落ち着かない。ドライヤーで髪を乾かすと脱衣所のドアを開けてこそっとリビングを覗いた。テレビを見ていた貴弘は気づいていないようだ。抜き足差し足で貴弘の後ろを通り過ぎようとすると突然貴弘が振り返りソファーに風香を引き込んだ。
「……わっ」
「逃げんなよ」
あっという間にソファーに座らされて抱きしめられた。目の前の貴弘から風呂上がりのいい香りがした。自分と同じもののはずなのによりいい香りに感じる。貴弘は顔を寄せると風香の頬から顎にかけてを優しく撫でた。その瞳は獲物に噛みつこうとする狼のようだ。じっと見つめるその視線の熱に溶けてしまいそうだ。さっきから背筋がゾクゾクする。
「なんで、そんなに緊張してるんだ? いつも通りだろう?」
俺は嘘つきだ。いつも通りなことはない……今までよりも風香が愛おしくて抱きしめたくて堪らなかった。興奮を抑えて話しているつもりだが風香にその欲情を感じ取られているのかも知れない。風香は俺に触れられると体を震わせた。どうも様子がおかしい……怖い、のか?
風香は貴弘にうなじを撫でられて動けなくなった。怖かった。風香がじっと貴弘を見つめていると貴弘は触れていた手を離して子供にするように優しく頭を撫でた。風香はその感覚にようやく肩の力が抜けるのを感じた。貴弘は小さく頷いた。
「風香、正直に言え。何人と関係を持った?」
「…………」
「じゃ、キスをしたのは? こうして撫でられたのは?」
「貴弘……」
「風呂に入ったのは?」
「……貴弘……私……」
貴弘は風香の頬にキスをした。そして風香の手を取り甲にキスをした。
「大丈夫だ。ゆっくりでいい……言え」
貴弘は風香の唇にキスをした。数秒ののち離れると優しく微笑んだ。
「俺だけ、だろ? 頼むから、言ってくれ……俺だけだって。全部俺が初めてだって言え」
風香の様子から貴弘は風香がまだ無垢のままだと気付いた。今までは幼馴染みだからむず痒がったのかと思っていたがそれは間違いだったと気付いた。風香に正直に話して欲しかった。風香は貴弘の優しい声色に涙が溢れた。怖いからじゃない、ついた嘘のせいでもない。貴弘の優しさが、愛が、ゆっくりと滲みてきたからだ。
「……キス以外は……した事、ない。貴弘しか知らない。キスは、キスだけは……ごめん」
本当ならファーストキスも初めての彼氏も全て貴弘が良かった。過去を変えることは出来ないが風香は強く願った。当然そんなことはあり得ないのだが今は純粋にそう思った。貴弘に申し訳ない気持ちになり顔を伏せる……。
突然貴弘は笑った。顔を上げると貴弘が口元を押さえて顔を赤らめていた。貴弘が喜んでいた。子供の頃のような無邪気な笑顔だった。
「え……何?」
「悪いな。風香のファーストキスは、三歳の俺がもう貰ってた」
貴弘は笑いながら風香の唇に再びキスをした。
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