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10.寝ても覚めても2
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電話の呼び出し音が鳴り響くこの部屋が私の職場だ。電話の相手の機嫌が良いか悪いか分からないがとにかく電話に出なければ始まらない……。そんな中、風香はボールペンを持ったままこの世の終わりのような顔をして席に座ったままだ。
「おーい。生きて、るわね……。耳栓してるの? 電話鳴ってるわよ」
隣の席に座る先輩の春子が風香の柔らかな頬をつまんだり突いたりしている。人一倍働き者の風香らしくない様子に春子が顔を覗いている。
呆れた春子は風香の目の前の電話を取ると手際よくメモを取り美しい声で対応し終えた。風香は春子を子犬のような潤んだ瞳で見上げている。
「春子先輩……つかぬ事をお聞きしてもよろしいですか?」
「その前に鳴り響く電話に出なさいよ。これが落ち着いたらいくらでも聞いてあげるわよ」
風香はバインダーを手に電話を取る。瞳の奥に生気が戻ったのを確認すると春子も仕事を再開した。
◇
「さ、酒を飲んだの?……風香が?」
「すみません、アルコール禁止って言われたのに……つい……」
風香が申し訳なさそうに頭を下げる。二人は自社ビルの屋上に置かれたベンチで昼ごはんを食べていた。天気の良い日はもっぱらここで食べる事が多い。数席置かれたベンチはいつも満員だ。春子は茶色の長い髪を掻き上げると天を見上げた。
「男は、その席にいなかったわね? もちろん」
「あ、あの……じつは春子先輩に言ってない事があって、いや、女友達とシェアして住んでるって言ったんですけど……実は──」
風香は貴弘の事を話すと地響きがなるほど春子が大声を上げた。春子の知っている風香は男に不慣れで純粋な女の子だ。まさか色んな順序を飛ばして男と同棲しているだなんて信じられなかった。
「まさかだわ……」
春子はサンドイッチを頬張ると無言になる。風香は反省しているようでシュンとして、おにぎりを頬張っている。
「まさか、酔って寝たの?」
「え? いえいえ……絡んで迷惑掛けただけ……でした」
風香はさすがにキスをしたとは言えなかった。相手にとって意味のないキスを自分の中でキスだとカウントしたくなかった。あれはただ、触れ合っただけだ。事故だ。ただの試験だ。しかも下手じゃないと証明する為にシラフでもう一度キスしたとは言えない。
春子は風香の顔色が赤くなったり青くなったりするのを見ていた。風香にアルコール禁止令を出した日のことを思い返していた……。
風香が入社してしばらく経った頃……理由は忘れたが会社で飲み会があった。入社したての頃の風香は緊張していたので烏龍茶しか飲んでいなかった。あれから随分と社内の雰囲気にも慣れてきていたので春子が何気なくチューハイを勧めてみた……本当に軽い気持ちで。
まさか風香が酒を飲んだ事がないお嬢様だとは思わなかった──。
『美味しい……ふふ。お酒を飲めるって知らなかったなぁ』
ブドウサワーらしき酎ハイを半分飲んだ辺りから風香が頬杖をつき隣に座っていた同僚に笑い掛けた。同僚は瞬きを繰り返した。まさしく豹変という言葉通りのことが起こった。春子がそのなんとも言えない表情に思わず固まっていると風香は突然春子に抱きついた。
『ちょ、ちょっと! 渡辺さん!?』
春子は無理やり引っ剥がすと次に風香は春子の胸に顔を埋めた。酔ったふうに見えないがどうやら随分と出来上がっているようだ。
『柔らかーい』
風香の何気ない言葉に周りの男性陣が春子の胸に視線を送る。春子は一気に酔いが覚めて風香を無理やり女子トイレに連れて行った。春子は悟った──間違い無く風香が酒を飲むと男に手篭めにされる……。しかもシラフの時と違って色気ムンムンの瞳で見上げる、距離が異様に近くなる。危険以外何物でもない。
春子はそこまで思い出すと同居している幼馴染みの忍耐を称えた。酔った風香の誘惑に耐え抜いたその精神に感服した。
「なかなかやるじゃない……幼馴染みくん。その男の子真面目ね」
「貴弘ですか? 女遊びしてる今時の男です! とんでもない奴です!」
風香は頬を膨らませて残りのおにぎりを頬張った。セフレの話を思い出して腹が立ってきたらしい。風香の言葉に春子は首を傾げた。
「遊び人で……硬派?──変なの」
春子の独り言は風香の耳には届かなかったようだ。
「おーい。生きて、るわね……。耳栓してるの? 電話鳴ってるわよ」
隣の席に座る先輩の春子が風香の柔らかな頬をつまんだり突いたりしている。人一倍働き者の風香らしくない様子に春子が顔を覗いている。
呆れた春子は風香の目の前の電話を取ると手際よくメモを取り美しい声で対応し終えた。風香は春子を子犬のような潤んだ瞳で見上げている。
「春子先輩……つかぬ事をお聞きしてもよろしいですか?」
「その前に鳴り響く電話に出なさいよ。これが落ち着いたらいくらでも聞いてあげるわよ」
風香はバインダーを手に電話を取る。瞳の奥に生気が戻ったのを確認すると春子も仕事を再開した。
◇
「さ、酒を飲んだの?……風香が?」
「すみません、アルコール禁止って言われたのに……つい……」
風香が申し訳なさそうに頭を下げる。二人は自社ビルの屋上に置かれたベンチで昼ごはんを食べていた。天気の良い日はもっぱらここで食べる事が多い。数席置かれたベンチはいつも満員だ。春子は茶色の長い髪を掻き上げると天を見上げた。
「男は、その席にいなかったわね? もちろん」
「あ、あの……じつは春子先輩に言ってない事があって、いや、女友達とシェアして住んでるって言ったんですけど……実は──」
風香は貴弘の事を話すと地響きがなるほど春子が大声を上げた。春子の知っている風香は男に不慣れで純粋な女の子だ。まさか色んな順序を飛ばして男と同棲しているだなんて信じられなかった。
「まさかだわ……」
春子はサンドイッチを頬張ると無言になる。風香は反省しているようでシュンとして、おにぎりを頬張っている。
「まさか、酔って寝たの?」
「え? いえいえ……絡んで迷惑掛けただけ……でした」
風香はさすがにキスをしたとは言えなかった。相手にとって意味のないキスを自分の中でキスだとカウントしたくなかった。あれはただ、触れ合っただけだ。事故だ。ただの試験だ。しかも下手じゃないと証明する為にシラフでもう一度キスしたとは言えない。
春子は風香の顔色が赤くなったり青くなったりするのを見ていた。風香にアルコール禁止令を出した日のことを思い返していた……。
風香が入社してしばらく経った頃……理由は忘れたが会社で飲み会があった。入社したての頃の風香は緊張していたので烏龍茶しか飲んでいなかった。あれから随分と社内の雰囲気にも慣れてきていたので春子が何気なくチューハイを勧めてみた……本当に軽い気持ちで。
まさか風香が酒を飲んだ事がないお嬢様だとは思わなかった──。
『美味しい……ふふ。お酒を飲めるって知らなかったなぁ』
ブドウサワーらしき酎ハイを半分飲んだ辺りから風香が頬杖をつき隣に座っていた同僚に笑い掛けた。同僚は瞬きを繰り返した。まさしく豹変という言葉通りのことが起こった。春子がそのなんとも言えない表情に思わず固まっていると風香は突然春子に抱きついた。
『ちょ、ちょっと! 渡辺さん!?』
春子は無理やり引っ剥がすと次に風香は春子の胸に顔を埋めた。酔ったふうに見えないがどうやら随分と出来上がっているようだ。
『柔らかーい』
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風香は頬を膨らませて残りのおにぎりを頬張った。セフレの話を思い出して腹が立ってきたらしい。風香の言葉に春子は首を傾げた。
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春子の独り言は風香の耳には届かなかったようだ。
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