100のキスをあなたに

菅井群青

文字の大きさ
上 下
59 / 101

59.ドライヤー

しおりを挟む
 帰宅後里美はそのまま風呂場へと直行した。シャワーを浴びると信じられないほど体が軽くなった。やはり一日の終わりのシャワーほどスッキリするものはない。

「んー、最高ね!」

「ふ、生まれ変わったみたいだな」

 台所で首にタオルをかけてその様子を見ていた憲司は笑った。里美の帰宅直前にシャワーを浴び、まだ髪が半乾きのままだ。

 憲司は冷蔵庫から麦茶を出しコップに注ぐと里美に手渡した。

「ありがとう」
「どうも」

 憲司は入れ替わるように脱衣所に向かい髪を乾かす。短い髪はあっという間に乾く。

 そのままドライヤーのコンセントを引き抜くと里美の元へと戻ってくる。

「さ、乾かすぞ」

「え、まだ暑いよ」

「時々冷風にしてやるから、前を向いて……」

 憲司はそのままタオルを持ちながらドライヤーで乾かし始めた。
 里美は誰かにこうして頭を撫でられると気持ちが良くてウトウトする。美容室ではよくうたた寝をして店員さんに笑われてしまうほどだ。

「気持ちいねぇ……」

 里美は俺のドライヤーテクニックで微睡み始めた。眠りに落ちる直前の里美は幼い子供のようで可愛い。

「ほら、もう少しだから、ほら、しっかり頭を起こして」

 里美の頭が揺れ出した。もう限界だろう。ドライヤーをオフにすると里美がベッドに寄りかかり始めた。

「里美……ベッドで寝なきゃ──」

「ん……はぁい」

 最後の力を振り絞りベッドによじ登るとポスっと枕へと突っ伏した。

 憲司はドライヤーを戻しベッドへ帰ってくると里美は横向きで体を丸めて気持ちよさそうに眠っている。週末だったので店が忙しかったのだろう。

「お疲れ様……」

 憲司は里美に向かい合うように横になると肩を優しく撫でる。
 ほんのり微笑んだような気がした。

 憲司は里美の唇にキスをした。

 里美の手を握るとそのまま憲司も瞳を閉じ、夢の中へと落ちていった──。
しおりを挟む

処理中です...