100のキスをあなたに

菅井群青

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66.シュークリーム

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 突然残業中の私の目の前に後輩の立花が現れた。定時で帰ったはずなのになぜ、ここにいるのだろう……。

 瞳は残業でハサミとのりを持ち工作中だった。明日の会議のために残業をしていた。イベントの企画のプレゼンのため視覚的に訴えかけようと急遽ジオラマを作成中だった。

「先輩、エネルギー補給しませんか?」

「え?」

 立花の手には皮が硬めのカスタードシュークリームが有名な店の袋があった。

 あぁ! 私の大好物!

 瞳が最も大好きなシュークリームだ。残業の時や、頑張った自分へのご褒美にいつも立ち寄る。

「あら、ありがとう……」

 平静を装って立花に礼を言う。立花は「いいえ」と言いそれを差し出す。

「コーヒー入れてきますね」

 立花が給湯室に向かったのを確認すると瞳は箱の中を覗いた。シュークリームが三つ入ってあるのが見えて嬉しくなる。

 美味しいんだよね、ここのシュークリーム……。

 瞳は思わず微笑んでしまう。食いしん坊の血が騒ぐ。

「先輩、はい……どうぞ」

「あ、ありがとう」

 いつのまにか立花がコーヒーを両手に持ち戻ってきた。見られていたかもしれない……。立花を見ると優しい眼差しでこちらを見ている。

 ゔ、絶対見られた──。

 瞳は誤魔化すようにシュークリームに齧り付いた。カスタードクリームが口いっぱいに広がる。

「……先輩、いつもここのシュー買ってますよね」

「……た、たまにね」

「残業の次の日、ゴミ箱にこの袋ありますもんね」

「そうだっけ?」

 名探偵立花の登場に焦ってしまう。
 立花が急に瞳に近づくと瞳の顔を覗き込むように屈む。

「ついてますよ──先輩」

「え、どこどこ?」

「じっとして──」

 立花が瞳の口角についたクリームを指で掬って舐めた。その動作に思わず固まってしまう……。心の中で悲鳴が上がる──。

 真っ赤になる私の顔を見て立花が笑う。

「……意外でした。こんな可愛い反応見せてくれるなんて」

「先輩に向かってそんな──」

 立花はそのまま顔を傾けると一気に距離を詰めた。チュッと唇にキスをするとペロッと自分の唇を舐める。

「あ──結構甘いんですね、ここのシューって……」

「ななな、なん──」

 もう一度立花はキスをする。次はもっと深く舌を絡ませてくる。突然のキスに思わず立花の腕を掴む。どれぐらい繋がっていたのだろう解放された時、立花は私の体を支えながらキスしていた。

「……かなり甘いですね。美味しい」

「…………」

「また、買ってきますね。ご馳走様でした」

 そう言って立花は微笑んだ。


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