友達の肩書き

菅井群青

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絡まる

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 ちょうど十二時に針が指すとオフィスは一気に温和な空気に包まれる。

 席を立ち皆ランチの話をしている。千紘もキリがいいところでパソコンを一旦閉じる。背もたれに体を委ね背伸びをしていると隣に座る後輩の桃香がピンクの財布を持ち声を掛ける。

「先輩、一緒にランチ行きませんか?」

「いいね、あ、前に混んでて諦めたところに行こっか」

 桃香は千紘の二歳年下の後輩だ。茶髪を後ろでまとめている。真面目で仕事ぶりは丁寧だ。千紘が教育係として一から仕事を教えてきた。今では可愛い妹のような存在だ。

 会社を出ると二人で歩道を歩き出す。桃香は千紘の横顔を見つめると羨ましそうな顔をした。

「先輩の黒髪まっすぐでキレイですよね……私天然パーマなんです」

 桃香は後ろで一つにまとめた茶色の髪の束を摘み上げた。その仕草は女性らしくて千紘は微笑む。

「そうなの? 桃香ちゃんの髪ってふわふわして可愛いわよ? 女の子らしいじゃない」

 千紘の言葉に頰を赤らめて微笑む。桃香は小さなウサギのようだ。大通りを抜けて細い路地に入ると背後から声を掛けられた。

「千紘? あ、やっぱ千紘じゃん! お疲れ!」

 振り返ると琢磨がひらひらと手を振ってこちらに近づいてくる。スーツ姿に手には茶色の紙袋を持っていた。人違いならどうする気だったのだろうか……後先考えないのが琢磨らしい。だから、ゲームで私に負けるのだけれど。

「あ……お疲れ、何? 外回り?」

「おう、原稿もらいにな。お? 同僚? こんにちは、千紘がお世話になってます」

「あ、はい……こちらこそ」

 桃香は顔を真っ赤にさせてしどろもどろになる。桃香の表情を見て琢磨は吹き出す。

「千紘もこれぐらい可愛い反応しないとダメだぞ、教えてもらえ」

「うるさいな……シッシっ──あっち行きなさい。桃香ちゃん、この男と話したら脳が腐るわよ」

 千紘は桃香を抱きしめると琢磨に別れを告げた。琢磨は手を振るとランチの店を物色しながら路地を曲がった。姿が見えなくなると千尋は胸を押さえた。

 びっくりした……あー、焦った。まさかこんなところで会うなんて……。

 千紘が大きく息を吐くと同じように横で桃香が息を吐いていた。桃香が千紘にしがみつく。その表情は真剣だ。

「先輩、あの人お友達ですか!? あの、あの、紹介してもらっていいですか!?」

「え……あ──」

 桃香の瞳が揺らいでいる。
 桃香の視線の熱量に耐えかねて千紘が視線を逸らす。

「あ……、うん……そうだ、ね」

 紹介するよとも、ダメとも言えなかった。桃香に嘘はつきたくなかった。
 桃香は「あ……」と言いそのまま話を変えた。優しい子だ、きっと何かを察したのかもしれない。その優しさに甘えて千紘はそのまま桃香の腕を組み店へと向かった。

「さ、行こっか」

「楽しみですねぇ」



 ランチは美味しかった。さすが混むだけあって量も味も文句なしだった。苦しそうに桃香がお腹を押さえている。千紘はそれを見ながら笑った。鞄から通帳を出すと桃香に声を掛けた。

「あ、私、銀行に用事があるから先に帰ってて?」

「分かりました。じゃ、また後で」

 千紘はそのまま桃香に別れを告げ銀行へと向かった。お昼の時間で済ませなければならない事は多い。桃香は千尋を見送ると一人会社に向かって歩き始めた。

「ご馳走さま──ってあれ? さっきの……」

 ちょうど蕎麦屋から琢磨が出てきて桃香と鉢合わせる。暖簾越しに琢磨が笑うと桃香は真っ赤になる。琢磨は周りを見渡しあるべき姿を探す。

「あれ? 千紘は?」

「あ、銀行に行くって言ってました。呼びましょうか?」

 琢磨は首を振る。千紘の元へと駆け出しそうな桃香を止める。

「いいんだ、いつでも会えるから。じゃ……」

 琢磨はそのまま桃香の横を通り過ぎて歩き出す。
 桃香は震える手を握りしめて振り返った。遠ざかる琢磨の背中に向かって精一杯の勇気を出して声を掛ける。

「あ、あの──!」

「ん?」

 琢磨は振り返って首を傾げた。

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