友達の肩書き

菅井群青

文字の大きさ
15 / 32

胸の痛み

しおりを挟む
 千紘たちが消えて行くと俺は暫くその場所から動けなかった。二人がいた場所から視線を外せず、足は金縛りにあったように動かない。

『……悪いけど、千紘は俺と付き合ってるから。今さら、遅いよ』

 男の言葉が言霊のように俺の心へと絡みつく。

 初めてだった。

 初めて千紘が浩介以外の彼氏といるところを見た。自分の知らない千紘がそこにいて男に触れられていた。千紘が申し訳なさそうな顔をしながらも男に肩を抱かれて俺から離れていった。

 人間本当に驚くと呼吸するだけで胸が震えるらしい。この年で初めて知った。

 通り過ぎる車のライトが自分を照らす眩しさで我に帰るとその場から離れた。 なぜこんなにも千紘のことばかり考えてしまうのだろう。執着してしまうのだろう。大切な友達だからだろうが……今まで離れていった友達とは何かが違う。

 琢磨は夜道を歩きはじめた。

『もう琢磨と会わない──』

 千紘の声が聞こえた。千紘が離れて行くなんて夢にも思わなかった。ずっとバカやって、勝負して、酒飲んで笑い合えると信じていた。 

 脳裏にあのタトゥーの男と千紘が裸で抱き合っている姿が浮かぶ。千紘が妖艶な笑みで龍のタトゥーにキスをしていた……男が千紘の顎を掴み啄ばむようなキスをし始めて徐々にかぶりつくような荒々しいキスになる。
 そこまで想像して琢磨は大きく息を吐いた。

 何で、イラつくんだ、彼氏だろう? 笑顔だったろう? 千紘があの男と幸せになるんだろう?……こんなの、変だ。こんなんじゃまるで──嫉妬してるみたいだ。

 気がつくと千紘のアパートの前まで歩いてきていた。見上げた部屋には明かりもない。当然だ、あの男と今一緒なんだから……。

 琢磨は慣れた階段を一歩ずつ上がっていく。白い手摺が錆びて指に当たる感覚が一気にさっきの出来事が現実である事を教えてくれる。
 階段を上りきると踊り場で立ち尽くす。電灯もない暗闇が寂しい。千紘の隣の部屋の窓明りが踊り場の床を微かに照らす。

 千紘の部屋だ。今にも部屋のドアが開いて千紘が顔を覗かせそうだ。

『何ぼうっとしてんの? 入んなよ、ほら』

 ドア越しにいつか見た千紘の笑顔を思い出した。さっきの千紘も笑顔だった。あの男と微笑み合っていた。少し前までは自分もあんな風に千紘の肩を抱き寄せてふざけ合って、冗談を言っていたのに……。

「何やってんだろ、俺……」

 革靴で長時間歩いたせいで足の裏が痛む。ドアの前で琢磨はしゃがみこんだ。酒のせいだろう……自分の腕に顔を伏せるとそのまま意識が遠のいた。



「たく──」

 誰かが俺の腕を揺らして起こそうとする。誰だろう……。微睡んで体が自分の物じゃないみたいに動かない。瞼が重たい──。

 俺の頰に触れるその手は震えているようだ。ようやく意識がはっきりしてきた。微睡みの霧が晴れていく……。

「ち、ひろ?」

 屈み込み俺の頬に触れていたのはここにいるはずのない千紘だった。
しおりを挟む
感想 37

あなたにおすすめの小説

いい加減こっち見ろよ!〜見た目だけだとフラれ続ける私は、どうやら幼馴染の執着愛に気づいていなかったようです。〜

こころ ゆい
恋愛
保育士の八重と外科医の一生は、小学生の頃からの幼馴染。 傍から見れば、儚く清楚に見えるらしい八重は、実は外見にそぐわぬ性格をしていた。 そのせいで、見た目につられて告白してくる男性たちは、ことごとく彼女の中身を知って離れていく。 フラれる度に、やけ食いややけ酒に付き合ってもらっている一生は優しいが、懲りずに同じような恋愛を繰り返す八重に呆れている....と思っていたら? 「....八重の可愛さは、そんなもんじゃないんです。....誰も気付かなくていい。俺だけが知ってればいい」 ーーどうやら、かなり愛されていたようです? ※じれじれ・執着・溺愛 ラブストーリー。🌱 ※この物語は、全て作者の想像で描かれたフィクションです。実際の場所・建物・人物とは関係ありません。🌱

嘘をつく唇に優しいキスを

松本ユミ
恋愛
いつだって私は本音を隠して嘘をつくーーー。 桜井麻里奈は優しい同期の新庄湊に恋をした。 だけど、湊には学生時代から付き合っている彼女がいることを知りショックを受ける。 麻里奈はこの恋心が叶わないなら自分の気持ちに嘘をつくからせめて同期として隣で笑い合うことだけは許してほしいと密かに思っていた。 そんなある日、湊が『結婚する』という話を聞いてしまい……。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

【短編】ちゃんと好きになる前に、終わっただけ

月下花音
恋愛
曖昧な関係を続けていたユウトとの恋は、彼のインスタ投稿によって一方的に終わりを告げた。 泣くのも違う。怒るのも違う。 ただ静かに消えよう。 そう決意してトーク履歴を消そうとした瞬間、指が滑った。 画面に表示されたのは、間の抜けたクマのスタンプ。 相手に気付かれた? 見られた? 「未練ある」って思われる!? 恐怖でブロックボタンを連打した夜。 カモメのフンより、失恋より、最後の誤爆が一番のトラウマになった女子大生の叫び。

冷徹公爵の誤解された花嫁

柴田はつみ
恋愛
片思いしていた冷徹公爵から求婚された令嬢。幸せの絶頂にあった彼女を打ち砕いたのは、舞踏会で耳にした「地味女…」という言葉だった。望まれぬ花嫁としての結婚に、彼女は一年だけ妻を務めた後、離縁する決意を固める。 冷たくも美しい公爵。誤解とすれ違いを繰り返す日々の中、令嬢は揺れる心を抑え込もうとするが――。 一年後、彼女が選ぶのは別れか、それとも永遠の契約か。

ひみつの姫君  ~男爵令嬢なのにくじ引きで王子のいる生徒会の役員になりました!~

らな
恋愛
男爵令嬢のリアはアルノー王国の貴族の子女が通う王立学院の1年生だ。 高位貴族しか入れない生徒会に、なぜかくじ引きで役員になることになってしまい、慌てふためいた。今年の生徒会にはアルノーの第2王子クリスだけではなく、大国リンドブルムの第2王子ジークフェルドまで在籍しているのだ。 冷徹な公爵令息のルーファスと、リアと同じくくじ引きで選ばれた優しい子爵令息のヘンドリックの5人の生徒会メンバーで繰り広げる学園ラブコメ開演! リアには本人の知らない大きな秘密があります!

初恋だったお兄様から好きだと言われ失恋した私の出会いがあるまでの日

クロユキ
恋愛
隣に住む私より一つ年上のお兄さんは、優しくて肩まで伸ばした金色の髪の毛を結ぶその姿は王子様のようで私には初恋の人でもあった。 いつも学園が休みの日には、お茶をしてお喋りをして…勉強を教えてくれるお兄さんから好きだと言われて信じられない私は泣きながら喜んだ…でもその好きは恋人の好きではなかった…… 誤字脱字がありますが、読んでもらえたら嬉しいです。 更新が不定期ですが、よろしくお願いします。

【書籍化】番の身代わり婚約者を辞めることにしたら、冷酷な龍神王太子の様子がおかしくなりました

降魔 鬼灯
恋愛
 コミカライズ化決定しました。 ユリアンナは王太子ルードヴィッヒの婚約者。  幼い頃は仲良しの2人だったのに、最近では全く会話がない。  月一度の砂時計で時間を計られた義務の様なお茶会もルードヴィッヒはこちらを睨みつけるだけで、なんの会話もない。    お茶会が終わったあとに義務的に届く手紙や花束。義務的に届くドレスやアクセサリー。    しまいには「ずっと番と一緒にいたい」なんて言葉も聞いてしまって。 よし分かった、もう無理、婚約破棄しよう! 誤解から婚約破棄を申し出て自制していた番を怒らせ、執着溺愛のブーメランを食らうユリアンナの運命は? 全十話。一日2回更新 完結済  コミカライズ化に伴いタイトルを『憂鬱なお茶会〜殿下、お茶会を止めて番探しをされては?え?義務?彼女は自分が殿下の番であることを知らない。溺愛まであと半年〜』から『番の身代わり婚約者を辞めることにしたら、冷酷な龍神王太子の様子がおかしくなりました』に変更しています。

処理中です...