ぽっちゃり少年と旅するご近所の神様

とっぷパン

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序章 ”始まりと旅立ち” の段

8話~天を司る神

「ああ~……。毎度の事ながら俺だけ理不尽な目に会うのは何なんだ、全く。それで、話が終わったのなら早い所出立の用意をした方が良いんじゃないか? そろそろ奴さんも結界の中心に辿り着いた頃だろうしよ」

「おう、相変わらず復活が早いのう。……じゃが、確かに我が弟の言う通りであるようじゃな。結界中央で奴が暴れておる」

 あーちゃんの手刀によるダメージから復活したスーさんは、自業自得が含まれた自身の不幸を嘆きつつほんわかした雰囲気で一瞬忘れていた敵の様子を話す。毎度の事ながら復活が早い彼に感心しつつも呆れた様な溜息を吐くあーちゃんは、軽く瞳を閉じて自身が作り出した結界の中を探っているようだ。
 ふむ、とひとつ肯いて目を開けたあーちゃんは、そのままスタスタと歩いて結界陣の所へ戻る。月姉とスーさんの二人もそれに倣って結界陣の所へと戻って行く。僕と九ちゃんは直接関与はできない為に、結果の外で座って待つ事にする。勿論、九ちゃんは僕の膝の上に座ると言う定位置だ。

「ふむ。では妹弟達よ、これより坊の旅立ちに際しての芝居を始めようぞ。盛大で物悲しく、悲壮であり痛快な芝居をな」

 ニヤリと笑みを浮かべた彼女が力強く宣言しいよいよ芝居の幕が上がる。舞台は此処母屋、役者は僕達五人で敵役は哀れな化け物が一人……。すでに捉えられた化け物を封じた結界が陣中央から僕らの前に姿を現す。紅の輝きを発する結界は圧縮されて元の大きさから手の平サイズに変化している。不規則にゆっくりと回転しながら浮遊するそれを、あーちゃんが指先に金色の光を灯して弾いた。すると、指先に灯っていた光が結界内に入り込み、中心部分へと取り込まれると同時にその力を爆発的に解放させて結界を分解していく。

『グ、グガア!?』

「ほほ、久方ぶりじゃのう童よ。いや、今では唯の化け物と言った方がよいかの?」

『ガアァァァァッ!!』

 中から現れたのは化け物と化した男。理性も言葉も忘れた顔に浮かぶのは、あーちゃんに対する憎しみとどう足掻いても勝つ事ができないと言う悔しさ。だが、それにも増して浮かんでいる感情は再会する事ができたと言う嬉しさだった。

「この期に及んで勝てるとは思っちゃいねえだろうが、ある意味お前さんの執念には感心するぜ。……そんな姿になってまで姉貴と会いたかったなんてよ」

「言葉も無くし理性も無くし、その魂に残ったのは姉さんに対する想いだけ……。でも、今はそれすら憎しみの念に消えかかっているなんて、愛に狂ったものだけが辿る悲しき運命と言う訳ですね」

 化け物の執念と想いに呆れながらも感心した様子を見せるスーさん。それとは対照的に、目を瞑りながら淡々と語る月姉の言葉からは哀れみの心に溢れた感情が伝わってくる。二人が哀れんだり感心したりするのも何と無く分かる気もするけど、最初っから自業自得でこうなったんだからと微妙に共感できない自分がいる。

(おい、月姉。本当にこんな感じで良いのか?)

(うふふふ、大丈夫よスーちゃん。別に誰かが死ぬわけでもないお芝居なんだから、精々姉さんと奏ちゃんの為に精一杯演出しなきゃ)

(お、おう。そこまでハッキリ言われたらなんだが……。奴さん、本気で哀れに見えてきたぜ)

 何やら月姉とスーさんが僕達だけに聞こえる念話をしてるけど、内容が内容だけにどう反応していいか分からないよ……。

「ねえ、九ちゃん。これって僕は出来るだけ怯えた顔をしていた方がいいのかな? ……状況的にさ」 

「うん? 特に何もせんで良いと思うぞ、奏の字。というか、こういう芝居はとことん下手な奏の字が何かやったら、それこそ芝居が台無しになってしまうと妾は容易に想像できるのじゃ」

「……分かった。これ以上は黙って見守る事にするよ」

 僕の膝で寛ぐ九ちゃんとの話し声が聞こえたのか、ここで初めて僕達の方を向く化け物。ぽっちゃりとした僕の姿が奴の視線に掴まった瞬間、ぞわっとした感覚が僕の身体を駆け巡って行く。身の毛が総立ちになるこの感覚は、かつて味わった事の無い悪意の塊がぶつけられた事による身体の危機察知能力が働いた証拠だろう。自然と身構えしまうほど強力な悪意が詰まった視線に、思わずひるんでしまいそうになる心に力を入れて踏ん張る。やはり腐っても相手はそれなりに力を持った格上の相手だね。達磨の様に後ろに転んでしまいそうだよ……!

「ほほ、坊よ。ここが男の見せ所ぞ。見事彼奴の悪意を跳ね返して見せい!」

 倒れそうになる僕の心を優しく力強く叱咤し、背中を押してくれる彼女の声に励まされた僕は魂の奥底から邪を打ち倒す力を引き出す。生まれてから今日に至るまで、あーちゃん達に鍛えられた僕の力はそんじょそこ等の化け物に負けるほど弱くは無いつもりだ。

「むむっ! ……凪風 奏慈は男の子ぉぉぉぉぉぉっ!!」

 魂から溢れ出る邪気を払う力。僕等神職者は力の程度と質によってこれを段階的に振り分けていて、第一段階の力は人間が元々持っている霊気と周りの自然から霊力を取り出して行使する放出・転化式精霊力。第二段階はそれをさらに発展させて両者の力を融合させかけ合わせる融合・倍加精霊力。そして、第三段階は己の魂から溢れ出る霊魂力を引き出して行使する精霊力の最終形態、魂魄式精霊力だ。
 魂というのは個が存在を提起するのに必要不可欠な物であり、それ自体がとても強いエネルギーを持っている強力な存在だ。一般人は今世に生まれてからその生涯を終えるまでその力に気づく事も、またそれを行使する事もまず在り得ない。
 しかし、僕の様な特殊な環境に身を置く人間にはその機会が回ってくる事があるんだ。勿論その誰もが最終形態に辿り着ける訳ではないし、素質や知識も併せ持たなければ一歩でも間違えばとても危険な力である。だがしかし、危険であるからこそ溢れ出る力は他の段階とは比べ物にならないくらい強力なのだ。そう、異世界の存在とはいえ神の一柱が発した悪意を跳ね返す力があるのだから。

「グガァッ!?」

「見事じゃぞ、坊よ!」

「……はぁ、はぁ。……あ、ありあがとう」

 跳ね返った悪意に怯んだ化け物、もとい神の一柱。ハッキリ言って疲労困憊の状態まで追い込まれたのだけど、あーちゃんからの褒め言葉にあるのか無いのか分からない様な短い首を動かして頷いておく。僕に向けられた悪意を跳ね返すだけでこの疲労なのだから、やはり人と神様という存在の間にはもの凄い差があるんだと改めて実感するね。

「大丈夫か? 奏の字よ。あまり大丈夫そうではないみたいじゃが、微々たるものでも妾が膝から退いた方がよいかの」

「う、うん……。か、身体のあちこちが結構痛い……けど、なんとか座ってる分にはまだ大丈夫……だよ。っていうか、逆に今は動かなでくれると嬉しいかな?」

「ん、了解したのじゃ。妾はこのまま奏の字に抱かれておこうぞ」

 力を一気に解放した反動で身体の節々が悲鳴を上げている。だがしかし、ここは女の子の手前だし精々格好つけておこうと思う。僕だって一端の男の子だもんね!

 僕から思わぬ反撃を食らった異世界の神は、二、三度頭を振って意識を正常な状態に素早く戻した。高だか一人の人間が発した力程度じゃ、例えその人間が僕よりも力が強く経験が豊富でも敵いやしない。存在そのものが根本から違うのだから、どう足掻いても差という奴は如何し様も無いんだ……。
 視線を僕に定めた異世界の神は、人の目には捉えられない速度をもって一瞬で距離を詰めてきた。傷だらけでありながらも抵抗する気が失せるほどの力を周囲に溢れさせながら僕にその悪意に満ちた手を伸ばす。太く力に満ちたその手に頭をつかまれれば、僕の頭はスイカ割りの様に砕けてしまうだろう。

「……まったく、僕もスーさんと同じ位理不尽な目に遭うもんだよね――――」

 だけども、今回狙われたのが僕で良かった。

「――だけど、それと同時にあーちゃんと同じ位幸運でもあるんだよ? 僕ってばさ……!」

 だって、僕よりも遥かに強くて人を超えた存在である神様が三人もここに居るのだから。

「ほほ! なんとも逞しく成長したものよな、坊よ。今日は我にとって嬉しい事だらけじゃ……!」

 眼前に立つ優雅な出で立ちに耳を打つ力強くも優しい凛とした声。艶やかな黒髪は純白の巫女装束に流れ、袖や緋色の袴からちらりと覗く肌は女性の艶やかさに満ち満ちている。金色の気を纏った姿は言葉では言い表せないほど神々しさに溢れ、神様という存在の対して持つ畏怖の念を否応なく心に思い起こさせてくれたよ。

「なれば、今宵この場を汚す無粋な輩は――――」

 手に握られた鮮やかな舞扇が異世界の神へと向けられる。異世界の神を遥かに凌ぐ力を迸らせながらも、その美しい顔には笑みを浮かべて自信は満々。

「――この日ノ本を守護する八百万の神々が頂点、太陽神・天照大御神が直々に相手をして進ぜようぞ!」

 古代から日本を見守ってきた八百万の神々、その最高位に君臨する太陽を司る女神様。漲る闘志は日輪の如く、奔る力は太陽のエネルギーを凝縮して何億倍にも圧縮した力の塊。それが彼女、天照大御神様ことあーちゃんなのだ!

「グゥルルル……!」

「なに、全力で戦う訳ではないから安心せい。運が良ければ一撃で母上の管理する黄泉の国へと旅立てるぞ。無論、大いに抵抗してくれて構わん。その代わり、下手に抵抗すれば当たり所の悪さで無駄に苦しむ事になろうがな」

「ガアアァァァァァッ!!」

 太い腕を更に巨大化させ、全身の筋肉がミシミシと音を立てる程力を入れて振り下ろされる。拳の先に邪悪な神気を纏い、よりダメージが加算される様にコークスクリューの捻りが加えられた一撃。八百万の神々でも力の弱い神様だったら消滅寸前まで追い込まれるであろう拳があーちゃんに迫る。だが、九ちゃんを抱きかかえたまま身体が痛くて動けない僕の前に立つ彼女に焦りは微塵も感じられ無い。唯々自然と在るがまま立っているだけ……。だけど――――

「精々踏ん張れよ? 小僧」

 これから異世界の神が何をしようとも、決して負けるイメージが湧かない程頼りになる背中を見せていた……!


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