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一章 ”カリム村での旅支度” の段
11話~朝の御約束?
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窓辺で小鳥さん達による合唱が行われているのを感じ、すっきりとした心持ちで以って朝を迎える。四日日間走り続けた足の疲労もすっかり取れ、薄い毛布の割りにいやに暖かいベッドから身体を起こ――
「あれ? 身体が動かない……?」
――そうと思ったけれどビクともせず……。左右の腕もお腹も動かせない中、唯一動くのは大根がくっ付いたかの様な足だけ。首は自由に動かせるのでとりあえず右の方を見てみると、毛布に包まれた腕に小さな盛り上がりが見て取れる。改めて力を籠めて持ち上げれば、腕にガッチリと掴んで離さない九ちゃんが吊れた。
昨日は何だかんだで夜は冷えたし、温もりが欲しかったのだろうと言う事で納得。ゆっくりと腕を下ろして軽く揺するれば、小さく身じろぎをして九ちゃんが眼を覚ました。
「くぁ~……むにゃ、うむん……むぅ?」
のびーっと筋肉と関節を伸ばしてから暫しの間焦点が定まらない眼を擦り、意識を覚醒させる彼女。完全に覚醒した後で視線を彷徨わせると、僕を見つけたのか彼女は愛らしい笑顔で以って微笑みかけてくれた。
「おはようなのじゃ、奏の字。夕べは至極ご苦労であったのう」
「おうはよう、九ちゃん。まあ、一応話は付けて来たから当分の間食料とお金に困る事は無さそうだね」
「ほうか、ほうか。それは朝から嬉しい報告。金は幾らあっても困る事は無いからして、今日は皆の身なりを整える買い物が出来そうじゃ!」
縁日ではしゃぐ童の如く楽しそうに笑う九ちゃんを眼にして、朝露に冷える心がほっこりと暖かくなるのを感じる。外見が美少女でも心はやはり大人の女性。幾つになっても買い物が好きなのは何時の世でも変わらず、賑やかにあれやこれやと見て回る羽目にはなりそうだ。
さて、残るは左腕の拘束とお腹の上に感じる重みに退いて貰うだけなんだけど……。この感触からすると、左腕に巻きついている柔らかな物体は昨夜名前を贈った御方かな?
「……むにゃ……にへへ」
やっぱりか。
拘束の解けた右腕で以って毛布をまくれば、左腕に抱きついた志乃さんの姿がまろび出る。何時の間に脱いだのか絹の様な素肌に纏っているのは薄いブラウスのみ。更にはボタンは胸の半ばまで外れ、美しい曲線が僕の左腕を挟んで柔かく押しつぶされている。天にも昇らん気持ちよさとはよく言ったものだよ……!
「――所で奏の字よ、妾は兎も角として両手に華とはどういう訳かのう~?」
「え? い、いや、寝る前はきちんと別れてベッドに入ったんだけどね? いや~、何故にこうなっているのか僕が教えて欲しい――――すみません」
からかいと怒りが同居した不思議で凄みがある笑みで追及されれば即座に折れるしか手は無い。古から続く男の運命とでも申しましょうか、親しい女性がお怒りになった時は男が折れるしか手段が無いんだよ……少々情けないけど。
戦々恐々とした思いで腕を志乃さんのチョモランマサンドから引き抜くべく奮闘する。しかして、これが中々にがっちり嵌っているもので、動かざる事山の如しと言わんばかりに抜けない。原因としては勿論胸部のダブルチョモランマでは無く、抱きかかえている彼女の腕が万力の様に動かない事だ。流石は元・龍帝、人の身と成って力は増しに増しているご様子で……!
「ぐぬぬぬっ! ちょっと九ちゃん、これ全然解ける様子が砂粒程も見えないんだけど……!」
「ふ~んだ! そんなに女子の胸が良いのならば妾に言えばよいものを――って、なんじゃこ奴……! ふんぬぬぬぬぬ! ほ、ほんに万力の如く離れやせんぞ!?」
見た目に似合わず九ちゃんは僕よりも力が強い。勿論、平常時では僕の方に軍配が上がるんだけど、尻尾を一本でも出せば忽ち形勢は逆転。力の値が一気に上昇して大の大人を千人は片手で持ち上げ、結界で囲ってお手玉を出来る位に力持ちになるんだよね。先の戦いでも彼女の力は群を抜いて輝いていたし、尻尾を仕舞っている状態とは言え彼女が歯を食いしばって力を入れているのに動かない志乃さんも大したものだ。
このままでは埒が明かないと踏んだ九ちゃんは、早速尻尾を出して志乃さんの腕を力技で解きに掛った。すると、万力のネジは徐々に緩くなり始め、数秒もしない内にできた隙間から何とか腕を引き抜く事に成功。そのままホッと一息つく間もなく、今度はお腹に乗っている龍帝さんを退かしてやっとのこさ起き上がる事に成功した。
「ふぅ……朝っぱらからやるにしては少々難儀なものよな。奏の字、はよう飯にしようぞ」
「お疲れ様。二人とも起こさないと面倒臭そうだし、皆で行こうか。ほら、二人とも朝だよ!」
当然一人と一匹もそのまま起床。何事も無かった様に双方とも欠伸をする姿に微笑ましさを覚えつつ、この次からはもう少し気を付けようと心に誓った朝でした。
◆
「ほほん? むぐむぐ……そうか、奏の字から名を貰うたか」
「はい! ”志乃”と、主様より受け賜りました。今後とも宜しくお願い申します、姉上」
所は変わって朝ごはんの時間。宿屋のご主人夫婦に改めてご挨拶をした後食堂へ直行し、それぞれ二人前程度をぺろりと平らげている最中。量が多い事に越した事はないが、宿に負担が掛かるであろう事がありありと分かる為に皆自重している。本音を言えば十人前は欲しいね!
「クルルルァ!? クゥ~……」
志乃さんが新たな名を授かっていた事に驚愕の意を示す龍帝さん。齧っていたライ麦パンもどきを口から落としそうになりながらも右手でキャッチ、しっかりと手で掴んで羨ましげで悲しい声を志乃さんへと掛けた。
「ほれ、その様な声を出さずとも妾がきちんとした名を考えてあると以前言ったであろう? 何は無くともまず、飯を腹に収めてからでないと立派な竜にはなれんぞ!」
「クゥ~ン……クゥア!」
「うむうむ、やはり男は力強くあらねばの! ――よく噛んで食うのも忘れたらいかんぞ?」
九ちゃんが諭す様に励ませば途端に食欲全開だね!
久方ぶりの文明を感じさせる食事に舌鼓を打ち、パンと何とか肉のソテーとサラダの異世界セットを堪能する。ソテーされたお肉のパリッとした皮から油と塩味が溢れ、それをパンに乗せて食べると又美味い。サラダは良く分からない野菜を数種程使ってあり、ドレッシングも玉葱の様な食材を元に数種類の調味料が使われているのが分かる。
このお宿の朝食は毎回日替わりで決まっているらしく、ご主人が仕入れてきた食材で以って味付けも違うのが売りだそうだ。ちらほらと僕らの他にもお客さんが来ている中、先程受け付けのカウンターですれ違った人などは外から食事の為だけに通っているらしい。
「は~あ、食べた食べた。もうお腹が一杯だよ」
無論、冗談である。正直言って後五人前くらいは余裕で入ります、はい。
「奏の字、妾にジュースの御代わりを頼むぞ! それとな、パンをもう一切れ貰うてきくれ――むぐむぐ」
「了解。でも、あんまり食べ過ぎると動けなくなっちゃうから気を付けてよ? 今日は皆の旅衣装とか色々買い物しなきゃならないし、午後からは王都に向けて出発するんだからね」
九ちゃんのグラスに果実のフレッシュジュースを酌んで渡しながら注意を一つ。それからご希望通りにパンを給仕カウンターに頼むべく一旦席を立つ。三十畳程の食堂には朝早くから既に旅支度をしている方々も多く、剣士だの魔法使いだのと言う格好をしている人達が予定を話しながら食事に勤しんでいる。この村はカルルの森やモレク山がある事で所謂”モンスター”の発生も多いらしく、此処最近は邪気の発生もあることからそう言った”異形のモノ” を退治する事を生業とする人達が集まってくる拠点の一つとの事。恐らく、今此処で食事を取っている大半の人はこれからお勤めに行くのだろう。
給仕さんからパンを受け取った僕は席へと戻る。自分達が食事をしているテーブルへと視線を向けると、そこには何時の間にやらカリムさんとジェミニさんをお供にフォルカさんが来て談笑しているではないか。隣のテーブルをくっ付けて座り、何やら楽しげに爽やかな朝の会話をしていらっしゃるね。
僕のぽっちゃりボディが視界の入ったのだろう、フォルカさんがにこやかに微笑み掛けてくれた。溢れるイケてる面子のオーラが半端じゃないよ、眩しい!
「やあ、お早う奏慈殿。昨夜は良く眠れただろうか? 事の次第はジェミニより聞きましたが、またご迷惑をおかけしたご様子で……」
「いえ、そうお気になさらないで下さい。僕らとしても資金を手に入れるのは急務ですし、今回は僕らの方からジェミニさんにお願いした事ですので。それよりも、今日は僕達に色々と必要な物を買う為に意見を下さいね? それでお互いにとんとん、お詫びも御終いにしましょう」
お互いに苦笑を交えながらも快諾に至った事はそれ幸い。今日は楽しい買い物日和、湿っぽい雰囲気はあーちゃんの神力でお天道様の中に”ぽいっ”てもんだよ。摂氏六千度の灼熱でこんがりと上手に焼けまし――
「パンの御代わりを持ってきてくれたのじゃな、早うおくれ!」
「――おおう、そうだった……。はい、焼き立ての美味しい所を貰って来たからね~。野菜とお肉を挟んで食べると美味しいかもね」
「ほほん、所謂”ばーがー”とか言う奴じゃのう。どれ、菜っ葉を下敷きに肉を挟んで――と、はむっ……むぐむぐ。う~む、いま少し酸味が足らん気がするが……とりあえず良しとするか」
評論家の如く唸る彼女に、テーブル備え付けのトマトケチャップみたいな味のするソースのボトルを手渡す。待ってましたと言わんばかりの笑みと共にソースを掛けて齧り付き、口の周りを赤く染めながら満足そうに噛み締める姿を見れば、どうやらご希望に添えたらしいね。足をパタパタしながらご機嫌の九ちゃん……なんと可愛らしい、思わず頬が緩んじゃうね。
子供(見た目が……)が元気良く食べる姿は何時見ても心地が好いもので、フォルカさん達も漏れなく微笑ましい笑みをを向けていらっしゃる。龍帝さんも無邪気に、しかしお行儀良く食べる姿も気持ちが良い。……なんだか抑えている食欲がまたまた湧き出して来そうなので、ジェミニさんに話題を振ってみようか。
「ところでジェミニさん。この村で買い物できる品物で服飾品って種類がありますかね? 志乃さん――ああ、雲龍帝さんの新しい名前なんですけど、これだけの美人なんだから出来ればそれなりに着飾って欲しいと思っておりまして。旅衣装とは別にで構いませんので、良いお店を紹介して頂けないかな~って」
「志乃である。主様の意向に従ってくれると私も嬉しいぞ」
志乃さんの名前を伝えるのを忘れていたので一緒に教えて、午前中の買い物を服飾品に絞ってたずねて見る。近衛兵の立場でも普段は王都にいるであろうジェミニさんなら、女性に纏わる”あれやこれや”を揃えられる様々なお店を知っている事であろう事を見越しての質問。勿論返ってきた答えは昨夜と同じく胸を張っての御返答。眼鏡を陽光でキラリと光らせて知的要素が三割増の彼女なら、中々に良い店を知っていそうである。
「任せてください、奏慈殿。特使団が紅一点、昨夜の雪辱を果たして見せましょう……!」
ふんすっふんすっ! と綺麗な小鼻から漏れ出るジェット鼻息。良い感じに蒸気がタービンを回して出発進行――って、さすがに女性を表現するにしても失礼が過ぎるね。騎士の鎧から開放された胸元の小山が瑞々しい弾力で彼女自身の拳を跳ね返す様を傍目に、苦笑いを深めるフォルカさんとカリムさん。
と、まあ。やる気を全開にしてくれているのだからしっかりと頼らせて頂きましょうか。
「奏の字、御代わりじゃ!」
「クルアッ!」
はいはい、御代わりね……僕ももうちょっと食べようかな?
「あれ? 身体が動かない……?」
――そうと思ったけれどビクともせず……。左右の腕もお腹も動かせない中、唯一動くのは大根がくっ付いたかの様な足だけ。首は自由に動かせるのでとりあえず右の方を見てみると、毛布に包まれた腕に小さな盛り上がりが見て取れる。改めて力を籠めて持ち上げれば、腕にガッチリと掴んで離さない九ちゃんが吊れた。
昨日は何だかんだで夜は冷えたし、温もりが欲しかったのだろうと言う事で納得。ゆっくりと腕を下ろして軽く揺するれば、小さく身じろぎをして九ちゃんが眼を覚ました。
「くぁ~……むにゃ、うむん……むぅ?」
のびーっと筋肉と関節を伸ばしてから暫しの間焦点が定まらない眼を擦り、意識を覚醒させる彼女。完全に覚醒した後で視線を彷徨わせると、僕を見つけたのか彼女は愛らしい笑顔で以って微笑みかけてくれた。
「おはようなのじゃ、奏の字。夕べは至極ご苦労であったのう」
「おうはよう、九ちゃん。まあ、一応話は付けて来たから当分の間食料とお金に困る事は無さそうだね」
「ほうか、ほうか。それは朝から嬉しい報告。金は幾らあっても困る事は無いからして、今日は皆の身なりを整える買い物が出来そうじゃ!」
縁日ではしゃぐ童の如く楽しそうに笑う九ちゃんを眼にして、朝露に冷える心がほっこりと暖かくなるのを感じる。外見が美少女でも心はやはり大人の女性。幾つになっても買い物が好きなのは何時の世でも変わらず、賑やかにあれやこれやと見て回る羽目にはなりそうだ。
さて、残るは左腕の拘束とお腹の上に感じる重みに退いて貰うだけなんだけど……。この感触からすると、左腕に巻きついている柔らかな物体は昨夜名前を贈った御方かな?
「……むにゃ……にへへ」
やっぱりか。
拘束の解けた右腕で以って毛布をまくれば、左腕に抱きついた志乃さんの姿がまろび出る。何時の間に脱いだのか絹の様な素肌に纏っているのは薄いブラウスのみ。更にはボタンは胸の半ばまで外れ、美しい曲線が僕の左腕を挟んで柔かく押しつぶされている。天にも昇らん気持ちよさとはよく言ったものだよ……!
「――所で奏の字よ、妾は兎も角として両手に華とはどういう訳かのう~?」
「え? い、いや、寝る前はきちんと別れてベッドに入ったんだけどね? いや~、何故にこうなっているのか僕が教えて欲しい――――すみません」
からかいと怒りが同居した不思議で凄みがある笑みで追及されれば即座に折れるしか手は無い。古から続く男の運命とでも申しましょうか、親しい女性がお怒りになった時は男が折れるしか手段が無いんだよ……少々情けないけど。
戦々恐々とした思いで腕を志乃さんのチョモランマサンドから引き抜くべく奮闘する。しかして、これが中々にがっちり嵌っているもので、動かざる事山の如しと言わんばかりに抜けない。原因としては勿論胸部のダブルチョモランマでは無く、抱きかかえている彼女の腕が万力の様に動かない事だ。流石は元・龍帝、人の身と成って力は増しに増しているご様子で……!
「ぐぬぬぬっ! ちょっと九ちゃん、これ全然解ける様子が砂粒程も見えないんだけど……!」
「ふ~んだ! そんなに女子の胸が良いのならば妾に言えばよいものを――って、なんじゃこ奴……! ふんぬぬぬぬぬ! ほ、ほんに万力の如く離れやせんぞ!?」
見た目に似合わず九ちゃんは僕よりも力が強い。勿論、平常時では僕の方に軍配が上がるんだけど、尻尾を一本でも出せば忽ち形勢は逆転。力の値が一気に上昇して大の大人を千人は片手で持ち上げ、結界で囲ってお手玉を出来る位に力持ちになるんだよね。先の戦いでも彼女の力は群を抜いて輝いていたし、尻尾を仕舞っている状態とは言え彼女が歯を食いしばって力を入れているのに動かない志乃さんも大したものだ。
このままでは埒が明かないと踏んだ九ちゃんは、早速尻尾を出して志乃さんの腕を力技で解きに掛った。すると、万力のネジは徐々に緩くなり始め、数秒もしない内にできた隙間から何とか腕を引き抜く事に成功。そのままホッと一息つく間もなく、今度はお腹に乗っている龍帝さんを退かしてやっとのこさ起き上がる事に成功した。
「ふぅ……朝っぱらからやるにしては少々難儀なものよな。奏の字、はよう飯にしようぞ」
「お疲れ様。二人とも起こさないと面倒臭そうだし、皆で行こうか。ほら、二人とも朝だよ!」
当然一人と一匹もそのまま起床。何事も無かった様に双方とも欠伸をする姿に微笑ましさを覚えつつ、この次からはもう少し気を付けようと心に誓った朝でした。
◆
「ほほん? むぐむぐ……そうか、奏の字から名を貰うたか」
「はい! ”志乃”と、主様より受け賜りました。今後とも宜しくお願い申します、姉上」
所は変わって朝ごはんの時間。宿屋のご主人夫婦に改めてご挨拶をした後食堂へ直行し、それぞれ二人前程度をぺろりと平らげている最中。量が多い事に越した事はないが、宿に負担が掛かるであろう事がありありと分かる為に皆自重している。本音を言えば十人前は欲しいね!
「クルルルァ!? クゥ~……」
志乃さんが新たな名を授かっていた事に驚愕の意を示す龍帝さん。齧っていたライ麦パンもどきを口から落としそうになりながらも右手でキャッチ、しっかりと手で掴んで羨ましげで悲しい声を志乃さんへと掛けた。
「ほれ、その様な声を出さずとも妾がきちんとした名を考えてあると以前言ったであろう? 何は無くともまず、飯を腹に収めてからでないと立派な竜にはなれんぞ!」
「クゥ~ン……クゥア!」
「うむうむ、やはり男は力強くあらねばの! ――よく噛んで食うのも忘れたらいかんぞ?」
九ちゃんが諭す様に励ませば途端に食欲全開だね!
久方ぶりの文明を感じさせる食事に舌鼓を打ち、パンと何とか肉のソテーとサラダの異世界セットを堪能する。ソテーされたお肉のパリッとした皮から油と塩味が溢れ、それをパンに乗せて食べると又美味い。サラダは良く分からない野菜を数種程使ってあり、ドレッシングも玉葱の様な食材を元に数種類の調味料が使われているのが分かる。
このお宿の朝食は毎回日替わりで決まっているらしく、ご主人が仕入れてきた食材で以って味付けも違うのが売りだそうだ。ちらほらと僕らの他にもお客さんが来ている中、先程受け付けのカウンターですれ違った人などは外から食事の為だけに通っているらしい。
「は~あ、食べた食べた。もうお腹が一杯だよ」
無論、冗談である。正直言って後五人前くらいは余裕で入ります、はい。
「奏の字、妾にジュースの御代わりを頼むぞ! それとな、パンをもう一切れ貰うてきくれ――むぐむぐ」
「了解。でも、あんまり食べ過ぎると動けなくなっちゃうから気を付けてよ? 今日は皆の旅衣装とか色々買い物しなきゃならないし、午後からは王都に向けて出発するんだからね」
九ちゃんのグラスに果実のフレッシュジュースを酌んで渡しながら注意を一つ。それからご希望通りにパンを給仕カウンターに頼むべく一旦席を立つ。三十畳程の食堂には朝早くから既に旅支度をしている方々も多く、剣士だの魔法使いだのと言う格好をしている人達が予定を話しながら食事に勤しんでいる。この村はカルルの森やモレク山がある事で所謂”モンスター”の発生も多いらしく、此処最近は邪気の発生もあることからそう言った”異形のモノ” を退治する事を生業とする人達が集まってくる拠点の一つとの事。恐らく、今此処で食事を取っている大半の人はこれからお勤めに行くのだろう。
給仕さんからパンを受け取った僕は席へと戻る。自分達が食事をしているテーブルへと視線を向けると、そこには何時の間にやらカリムさんとジェミニさんをお供にフォルカさんが来て談笑しているではないか。隣のテーブルをくっ付けて座り、何やら楽しげに爽やかな朝の会話をしていらっしゃるね。
僕のぽっちゃりボディが視界の入ったのだろう、フォルカさんがにこやかに微笑み掛けてくれた。溢れるイケてる面子のオーラが半端じゃないよ、眩しい!
「やあ、お早う奏慈殿。昨夜は良く眠れただろうか? 事の次第はジェミニより聞きましたが、またご迷惑をおかけしたご様子で……」
「いえ、そうお気になさらないで下さい。僕らとしても資金を手に入れるのは急務ですし、今回は僕らの方からジェミニさんにお願いした事ですので。それよりも、今日は僕達に色々と必要な物を買う為に意見を下さいね? それでお互いにとんとん、お詫びも御終いにしましょう」
お互いに苦笑を交えながらも快諾に至った事はそれ幸い。今日は楽しい買い物日和、湿っぽい雰囲気はあーちゃんの神力でお天道様の中に”ぽいっ”てもんだよ。摂氏六千度の灼熱でこんがりと上手に焼けまし――
「パンの御代わりを持ってきてくれたのじゃな、早うおくれ!」
「――おおう、そうだった……。はい、焼き立ての美味しい所を貰って来たからね~。野菜とお肉を挟んで食べると美味しいかもね」
「ほほん、所謂”ばーがー”とか言う奴じゃのう。どれ、菜っ葉を下敷きに肉を挟んで――と、はむっ……むぐむぐ。う~む、いま少し酸味が足らん気がするが……とりあえず良しとするか」
評論家の如く唸る彼女に、テーブル備え付けのトマトケチャップみたいな味のするソースのボトルを手渡す。待ってましたと言わんばかりの笑みと共にソースを掛けて齧り付き、口の周りを赤く染めながら満足そうに噛み締める姿を見れば、どうやらご希望に添えたらしいね。足をパタパタしながらご機嫌の九ちゃん……なんと可愛らしい、思わず頬が緩んじゃうね。
子供(見た目が……)が元気良く食べる姿は何時見ても心地が好いもので、フォルカさん達も漏れなく微笑ましい笑みをを向けていらっしゃる。龍帝さんも無邪気に、しかしお行儀良く食べる姿も気持ちが良い。……なんだか抑えている食欲がまたまた湧き出して来そうなので、ジェミニさんに話題を振ってみようか。
「ところでジェミニさん。この村で買い物できる品物で服飾品って種類がありますかね? 志乃さん――ああ、雲龍帝さんの新しい名前なんですけど、これだけの美人なんだから出来ればそれなりに着飾って欲しいと思っておりまして。旅衣装とは別にで構いませんので、良いお店を紹介して頂けないかな~って」
「志乃である。主様の意向に従ってくれると私も嬉しいぞ」
志乃さんの名前を伝えるのを忘れていたので一緒に教えて、午前中の買い物を服飾品に絞ってたずねて見る。近衛兵の立場でも普段は王都にいるであろうジェミニさんなら、女性に纏わる”あれやこれや”を揃えられる様々なお店を知っている事であろう事を見越しての質問。勿論返ってきた答えは昨夜と同じく胸を張っての御返答。眼鏡を陽光でキラリと光らせて知的要素が三割増の彼女なら、中々に良い店を知っていそうである。
「任せてください、奏慈殿。特使団が紅一点、昨夜の雪辱を果たして見せましょう……!」
ふんすっふんすっ! と綺麗な小鼻から漏れ出るジェット鼻息。良い感じに蒸気がタービンを回して出発進行――って、さすがに女性を表現するにしても失礼が過ぎるね。騎士の鎧から開放された胸元の小山が瑞々しい弾力で彼女自身の拳を跳ね返す様を傍目に、苦笑いを深めるフォルカさんとカリムさん。
と、まあ。やる気を全開にしてくれているのだからしっかりと頼らせて頂きましょうか。
「奏の字、御代わりじゃ!」
「クルアッ!」
はいはい、御代わりね……僕ももうちょっと食べようかな?
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