ぽっちゃり少年と旅するご近所の神様

とっぷパン

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一章 ”アルバス王国と騒乱” の段

3話~アルバス王国の変容

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 背後に迫る邪気を姉上にお任せして私はヒューマニアン達を護衛しながら城壁内へとひた走る。幾何かもしない内に背後で強烈な霊力の奔流が駆け抜けたかと思うと、襲い来る数多くの邪気が気配はあっという間に消え去ってしまった。姉上の御言葉に背くようで申し訳ないが、怖いもの見たさの欲求には逆らえずに瞬きする間に後ろを見た。

「――っ!? 何と、これ程までとは……」

 目に飛び込んできた光景に目を見開き、しかして決して歩を止める事無く私は結界の出力を最大まで高めヒューマニアン達を焔の熱から守る。私の全力を通り越して伝わる熱波の熱さに冷や汗がでるも、足腰を踏ん張らせて両掌から霊力を更に流し込んで強化を図った。

 正直言って姉上の申された通り見なければ良かったと、後悔と畏怖と尊敬の念を抱く気持ちを以って今更ながらに思う。

 蒼焔に揺らめく大地に混じりて姉上の姿が陽炎の如く浮かび上がる。小柄な御身体に似合わず何とも豪快な力の奔流が大地を駆け巡る中にあって尚泰然とする様は美しく、それでいて膨大な霊力を操る力も私とは雲泥の差。五大龍帝などと持て囃された時代も最早霞み行く記憶の中でしか分からない程だが、以前の姿、立場で全盛期だった頃の私が幾ら勝負を挑もうとも恐らく一瞬で蒼焔にて焼かれてしまうだろう。其れ位には力に差がある。

「皆の者、走れ! 立ち止まって居る暇は無いぞ!」

 滅せられても尚湧き出す邪気の集団を悉く焼滅させていく姉上。私が今生の生を全うする為に住処にしていた洞穴での戦いの際、主様達の会話を聞いていたら姉上は”尻尾一本ぶんで十分じゃ”と仰られていた。今も綺麗な金色の体毛に覆われる尻尾を御尻の上ら辺から生やして、大規模な霊力攻撃を雨季の雨粒の如く降らせては邪気を滅している。

 ”尻尾一本”……か。

 古く生きた生き物は私の様な龍や竜と違い、年齢や力によって尻尾が増えていくと聞いた覚えがある。実際、他の龍帝が配下に居た者共にも二本だったり三本だったりと、複数の尻尾を生やし力もそれなりに強い者が居った。その中でも一番の強者だったのは――そうそう、土龍帝の配下に居った五本の尻尾を持つハル・ウッドウルフの長老だった。私達五大龍帝の次に古き世から生きる者で、力自体は主である土龍帝に近い所まできていた。

 そう、”近しい所”。尻尾が五本もあって一番力の弱い龍帝と近しい力しか持てないのである。

 それがどうだ。言葉の感じからすると姉上も複数の尻尾を持つ強者であると推察できるが、尻尾が一本で軽く龍帝を超える力を持っているのだ。幾ら性質の違いで邪気に特化した効果を持つ霊力とは言え、それは私達が今まで扱ってきた魔力と威力事態は等しく破壊に通じるモノ。勿論、それ以外も魔力、霊力共に通じるモノがあるのも事実だが……。私が目指す高みは一体どれ程のものかと、今は改めて少しの後悔とそれを上回る高揚感に己が拳を握る。私が姉上と同じ道を辿れるかは分からないし、その道を上りきれるかも分からない。
 だが、道があると分かった以上は只管に突き進むまで。主様より頂いた命、私の思うが儘に生きねばせっかくの恩も返せぬと言うものだ!

 そう思ってヒューマニアン達に更なる鼓舞を掛け、王都への道を急がせる中私は一瞬見た。陽炎に踊る姉上の姿が美しく壮麗な九つの尾を持つ女の姿へと変わるのを――

「――ふふ、成る程。目指す高みは尚また遠し、か……面白い!」

 今は主様の背さえ見えること叶わぬ身なれど、やはり目標は定めねば話にもならんからな。主様は主様で、姉上は姉上でそれぞれ特性をお持ちの御様子。破壊に重きを置いたのが姉上ならば、主様は浄化と回復に重きを置いている。勿論、御二方ともどちらか極端に偏っている訳では無く、そもそもの平均値が高い上で更に特化している分野がある方で。元々それなりの年月を生きていらした姉上は兎も角として、主様が明らかに人の限界を超えているのには頭を一回転どころか何回捻っても理解は及ばないが、現実としてそうなのだから飲み込む他はあるまい。

「それ、城門まであと少しだぞ! 全神経を足に集中させて走る事だけ考えよ!」

 自然と弾む声に周りを走る者共に不思議がられるが、私の頬は緩む事をやめない様だ。

 岩場を抜ける所で前方から飛び出してきた邪気共を霊拳で粉砕。浄化に関してはまだ私の及ぶ所ではないので姉上に丸投げ、私は護衛に専念するとして駆ける。次々と湧き出る虫の如き邪気共を捻り、千切り、粉砕する行為が出来る事に嬉しさを覚え。龍帝のままでは出来なかった事が主様と言う降って湧いた――いや、穴から出てきた幸運によって叶えられ。それが龍帝という”世界の束縛”から逃れられた私には嬉しくて堪らない今、主様の為に生きると誓ったあの時から日々ある思いが強くなっている。

「見えた! 王都の城門が見えたぞ!」

「衛兵に合図を送れ! 我らが駆け込むと同時に城門を閉める様に伝えろ!」

「九ちゃん様は如何なさるのでしょうか!?」

「姉上は城門程度で押し留める事ができる方ではない。如何様にも王都へと入って私達の前に御越し下さるだろうさ!」

 そうだ、私はまだまだ強くなれる。そして、その暁は――……ふふふ。これ以上は主様に直に伝えねば、な!










 城壁内へと志乃達が駆け込むのを尻目に、幾らでも湧き出してくる彼奴等きゃつらを一気に殲滅すべく妾は尻尾を二つに増す。初見ではたかが数百の邪気など尻尾一本で十分じゃと思うておったが、あいや予想とは得てして外れるものよな。今では数千にも届く頭数が雁首揃えて妾に向かって来よるわ。

「揃いも揃うて雑魚ばかりじゃの……。ふむ、大体が獣か人の変化した固体か」

 じゃが、雑魚とて一匹でも逃せば志乃を除けばヒューマニアン達には脅威であろうから、ここで綺麗すっぱり浄化してしまうのが得策じゃろうて。
 久方ぶりに生やす二本目の尻尾が妾の霊力を更に一桁底上げし、それに乗じて妾の肉体にも多少の変化が現れ始める。若々しく瑞々しい少女の身体が少しだけ成長し、芽から蕾へと変わる過渡期の幼さと女子の色香が同居する年代へと変貌を遂げた。すってんと何の起伏も見られないような胸もなだらかではあるが小山を作り、小さき手は白魚の如くしなやかで艶を含み、腰周りもふっくらとして括れが出来、かも鹿の如く健脚は更に艶と色気を振りまく。
 妾の本来の姿はもっとも~っと色気と艶と美しさが同居して融合しておるのじゃが、奏の字に命の息吹を貰うた時を境に新たな生の出発点として今現在の姿に落ち着いた訳じゃ。しかして、力の象徴である尻尾も普段の生活では無用の長物。それと共に力を収める器である肉体も小さくて済むのじゃが、力を上げると器も大きくないとの、後々で霊力を鎮める苦労も軽い方が良いとの考えもありこの様な変化を好んでして居るんじゃ。

「――さて、妾自慢の蒼焔舞踊にて邪気の御霊を鎮め、己があるべき道へと誘い行くべき場所へと返して進ぜようぞ」

 雲霞の如き様相を呈する邪気共を見据えて懐から扇を取り出す。ぱんっと小気味の良い音で扇を開けば霊力の波が空を揺らし、妾の清らかな霊力によって近くに居った邪気が瞬く間に浄化される。さっと扇を返して面を隠せば、霊力で作り出した特殊な狐面が妾の顔に備え付けられておる。白地に紅で縁取られた狐面の覗き穴から妖しき視線で邪気を見回し、邪気の出所を見定めるべく魂魄の乱れを払い邪気の流れを見る。
 これだけの量じゃ、作為的な匂いが葫餃子を食べた翌朝のゲップの如くぷんぷんしよる。そも、龍帝が騒動の決め手なのはわかるが、こうも妾達を狙って来よると明確な悪意と底意が透けて見えよるわ。ま、一種の業じゃろうの……。

「”――舞いを以て、穢れを祓い誘えば。御霊の輝き天地へ昇らん……” 蒼焔舞踊、祓い!」

 仰いだ扇から身体に満ち満ちる霊力が蒼焔となりて吹き荒れる。妾の身体に纏えば艶やかに空を舞い、邪気に飛ばせば穢れを祓いて焼滅。残りは綺麗な御霊となりて妾の手元へと運び、最終的な浄化――つまりは奏の字と共に執り行う浄化の儀までに結界で囲い封結とあい成す。

「集まれ、邪気に穢れし数多の御霊よ。”空より結ぶは霊思の界、揺蕩う御霊を集めて囲え” 結界術式肆ノ形、霊思封結界」

 印を結ぶと同時に言霊により結界術式上位封印術”封結界”を張る。先に奏の字が張っておった初級結界術の霊思結界とは性質も硬さも強度も数段上の術式じゃ。御霊は真凄まじき力を内包しておるが、その反面酷く柔かく脆い存在じゃからして、この様に直ぐに祓えん時は強固な封印術で保護してやる必要がある。
 無論、妾も単独で御霊送りの儀を執り行う事は出来るが、やはり本職である奏の字に比べればまだまだ拙い業で補助に周った方が儀式も上手くいく。強制的に黄泉送りに処しても良いが……一応は別の世界じゃからして、やはり此方の神々の顔も立てんとの。冥界を司る神が誰かは知らんが、後々面倒な話を言われても面倒臭いとの思惑もあるがの――ぬふふふ。

 蒼焔が舐めた所から片っ端も逃さずに御霊を祓い浄める。祓われた御霊を集めて封結界に封じ、扇を閉じて地面を叩く。叩いた所から霊波が伝わり土地そのものを浄化して祓いと成す。

「――蒼焔舞踊、終ノ幕”封”」

 仕上げに口に含んだ霊力を優しく御霊へと吹き掛ければ妾の舞は終劇じゃ。辺り一面焼け野原じゃが、そもそも岩肌しかない所なので少しばかり煤けた位じゃの。焔の熱自体は殆ど抑えてあるからこその事象じゃが、本来であればこの地中の石英が溶け出してガラス細工みたいに輝き艶を含んだ大地になりよる。した所で大した支障がある訳も無いが……、やはりあるがままの自然を保つ事にこそ意味があるからの。大地の穢れは自然を破壊し動物も滅し、それに伴って人もまた滅する。妾や奏の字はあくまでも異邦の民よ、おいそれと生態系にかかわる訳にもいかぬ。

「さて、妾も――王都へと行くかの」

 戦闘の終幕と共に尻尾を戻して元の姿に戻る。封結界を一時的に袖下へと仕舞い、カランコロンと下駄を鳴らして王都への道を行く。戦果も過ぎ去れば空何処までも青く、森林を切り開いて作られた巨大な城門の先にはヒューマニアン達の都が、そして更なる混乱の渦が大きな口を開けて妾達を待ち受けて居るようじゃった。

「ううむ、奏の字は飯時までには着くかのう? あぁ~、久方ぶりに食べたもんじゃからまだ舌に恍惚な味が残って居る……。うぅ~、焼き肉焼き肉~!」

 あ~腹減ったのう。

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