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一章 ”アルバス王国と騒乱” の段
4話~ぽっちゃり少年と龍帝の探し”者”
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「ふんふん、成程……こっちだね」
「クア? クルルルィ?」
所は変わって僕たちぽっちゃり少年&龍帝コンビは、ある人の魔力を探知しながら一路王都へと急いでいた。ある人ってのは勿論、この騒動の鍵となる人物で先のお知らせで大事が不明なアルバス王国王女――
「しかし、兵士の方々の監視を抜けて姫巫女さんを消すなんて……。こりゃあ、王国内部も一枚岩じゃなさそうだね~。それも比較的高い位置に穢れに染まった邪気が潜んでいそうな感じっと」
――アルフェルカ・D・アルバスさんだ。王太子であるフォルカさんの妹君であり、アルバス王国内で崇められている宗教の長を務める姫巫女の役にある王女さんらしい。兵士の方によると、五大宗派のある龍帝教会は長が其々五名居るらしく。彼女はその中で雲龍帝さんを代々信仰対象として崇める一派を束ねる大司教、それの歴代最年少で就任した巫女との事。先代は彼女のお母さんで現・国王第二王妃、現在は引退して後継人役として日々娘さんを補佐している方と言ってた。引退した理由は公に明かされてはいないが、世間では力の強いアルフェルカさんを担ぐ事で院政を敷いているのではないか? 等と言う誤解が広まっているらしい……。
カリル村の正門から真っ直ぐ西に進んで現在は小川が流れる山の中。綺麗な清水が流れているので小休止として一人と一匹は早速喉を潤す事に。
「うん! この水は清らかな大地の霊力が含まれているから美味しいね!」
「クウ~ア!」
ぷはっ! と青春の一ページの如く爽やかな絵図らで同時に水面から口を離す。爽やかでミネラルに満ちた水はするすると喉を通り抜けて僕らに満足感を齎し、尚且つ若干ではあるが霊力の回復もしてくれた。
ちなみに、マルグ換金店で出会ったご一家のマルグさんとロロットさんは、以前司教の立場で活動していた御人らしいよ。ジェミニさんがお店で見せられたブローチは、司教に就任した者に授けられる証なんだって。ロロットさんは母親に英才教育と称して五歳から王都の大教会に預けられて修練に励み、十二になる頃には司祭に抜擢されて二十で司教へと上り詰めたこれまた天才であると。
いや、実に大したもんだよ。神社と神々に関わる人生を送る僕も、流石にそんな若年で神主になる術はないからね。現代日本の制度では出来ない、異世界ならではの教養と言えようかね? 実際、修道院や修道学校に通っても司祭になる術はほぼ無い。神社関係でも専門の学校で先生の信任を得てから都道府県の神社庁へと申請を送り、そこで認可を受けなければ神主になる事は出来ないんだ。
「さてさて、ここいらで一番異質な魔力は――……ふ~ん? 南に一つとその周りを囲む様に二十、か。成る程納得、真ん中の一際異質な魔力が王女さんかな」
どっこいしょっと立ち上がり、龍帝さんに一応の確認を取ってから目的地へと急ぐ。場所を目視すべく背丈のある大きな木を駆け上がれば、何とか僕の体重でも支えられる枝を発見。御猿さんの様な手さばきで枝を伝えば――――
「ほっほう! これは中々に絶景だね!」
「クルルルゥ~クルァ!」
カルルの森とはまた違った木々が立ち並ぶ中に、先程の小川を源流とした川がゆるりと森を縫うかの如く流れている。川はそのまま崖の方へと突き進みぷつりと消えた大地の端から下の河川へと続いている様だ。
微かな水の粒子が空へと昇り、お天道様の光を照り返して油絵の具で描いたかの様な虹の架け橋を真っ青な大空へと描いていた。
旅立ちから此の方天気の良い日が続き、滝など見たことも無い龍帝さんは大いにはしゃいでお目眼を煌びやかな宝石にして見入っている。実に楽しそうだね~。
「方角としてはあの滝つぼ、その何処かに空間がありそうだ……」
「クルル? クァア、クウウ~アッ!」
「そうだね、反応から察するに滝つぼの奥に洞窟があってそこに大きな魔力の渦を感じられる。でも、どこか淀んだ魔力の波動が辺りにいる小さな精霊さんへ悲しみの情を訴えかけているみたいな反応があるね」
誰かが捕らえられているのは間違いないが、王女さんであるかどうかは分からない今。しかして、このまま見過ごすなんて選択肢は最初から無いのであって、だとしたらば僕が単身突入した後に後方支援として龍帝さんと合流ってのが最良だろう。
何故一緒に行かないのか? と言う疑問には一応バックアップの為と答えておこうか。二人して突撃して両方やられたんじゃ何の意味もないし、龍帝さんならば並みの邪気が襲い掛かってきた所で捕まる事も早々無い身体能力を有している。ならば、周囲の警戒をしてもらって必要とあらば戦闘にも参加して貰う運びとした方が僕も遣り易いって訳。
じゃあ、張り切って言ってみようか!
枝から飛び降りて先ず向かうのは周囲を円状に囲む邪気の掃討戦。邪気の総量的には八体で満遍なく雑魚が配置されている様だ。あ、僕から見たら雑魚であって、普通の一般ヒューマニアンの方には死が付き纏う敵だったりするからね。そこは間違えちゃいけない。
で、早速滝壺の上に陣取っている邪気の背後まで近づいて来た訳だけど……此処からは一応”穏行の印”を結んで手早く片付けてしまおうと思う。
穏行の印は言霊を用いない手だけで結べる印で、一度結べば約二分程度の間周りに一切の音を発しなくなる効果を持つ。効果範囲は扱う術者身体を中心として半径二メートル、身体の大きい人なら効果範囲はもっと大きくなるね。
ただ、此処まで簡単な印術だと当然利点ばかりじゃない。人生には酸いも甘いも等しくある様に、穏行の印にも欠点がある。実はこの術、術者にも周りの音を一切感じさせないと言う凄い欠点が存在するんだ。簡単に説明すると。自身の周りを結界で完全に遮断し、周りに音を漏らさないと言う術の構造にある。しかも、遮断するのは空気や振動も含まれているので確実に酸欠や背後から近寄ってきた敵にも気付きにくくなる。結構諸刃の太刀の側面が強い術なんだよね~。
(だけども……短期決戦ならこれぐらいの緊張感は維持していたいしね。凪風 奏慈、参ります!)
川の左右に陣取る二対の人型邪気を一息に殲滅するべく、先ずは右の奴から手刀で胴体と首を泣き別れ。即座に霊視で捉えた御霊がある胸部を貫き手で貫き、邪気の体内で霊力を放出させ内部から浄化する。
(奇襲するみたいで悪いけどこっちも余裕がある訳じゃないから、御免!)
音が一切漏れない影響が利点として働き、反対側にいる邪気には物音一つ聞こえていない。先程と変わらず微動だにしない邪気目掛けて右手の中に霊力で以って棒手裏剣を作り出し投擲、それと同時に霊力を足に溜めて川幅二十メートルはあろう場所を跳ぶ。
『グギャッ!?』
刺さった棒手裏剣に痛みを感じた邪気が敵意を籠めた目で僕の方を振り向くが時既に遅し。目前に迫る僕の霊拳で胸部から上を消し飛ばされる破目に相成りましたとさ。
(御霊を回収、浄化も大丈夫……お次は)
塵と相果てた邪気を尻目に掃討戦は続く。次の狙いは滝壺横の木々に隠れる鳥型の邪気。恐らくこいつは偵察が主な目的の邪気だろうが、穏行の印を行使している僕を感知できるほど知能も能力も無いみたいだ。上で散った邪気も上手く感知できていない所から察するに、感知半径は現在地から滝壺ままでの距離で大凡五十メートル以下の球体上と見れば良さそう。物は試しだ、先に霊力の飛礫を飛ばして反応を見てみようか。
手の中に霊力で作り出した丸大豆っぽい小さな粒を三つほど握り一発投げつける。位置的には僕が居る位置から直で投げつけると僕の存在がばれてしまうので、斜め向かいの感知半径ギリギリであろう場所に放ってある。
『……ギィ?』
よ~しよしよし、ばっちり釣られてくれた……!
飛礫が飛んでいった方向を向いたのを機に滝上から跳び降り、奴の感知範囲内に入りつつも反応速度よりも速く接近し胴を真っ二つにして粉砕する。警戒の声を上げる間も無く塵となった邪気から御霊を取り出し、浄化してから先の二つと合わせて結界で囲う。これは封結界と言う結界なんだけど、簡単に言えば御霊を安全に保管して置く為に編み出された結界術なんだ。いままで僕に色んな依頼があったけど、この術はかなりの割合で重宝して御世話になってきたもんさ。
さて、そんな事をしてる合間にも穏行の印の効果は残り三十秒と少し。残り時間でも一体ほど倒しておきたいから引き続き続行。残りの半分は龍帝さんと協力して一気に殲滅戦と行きますかね。
彼は僕と九ちゃんの力を取り込んだ御蔭か、この世界の生物としては霊力の質を兼ね備えた攻撃ができる数少ない竜さんとして生まれた。元・雲龍帝であった志乃さんも、若い頃は邪気に対してそれなりの対抗手段を持ちえていたみたいだし、全てが全てに霊力を扱う術の無い生物だけじゃないみたいだね。
滝壺の反対側に位置する茂みに邪気が一体、それから後は滝壺を中心とした円周上ニ時方向から順に四時、八時、十時と時計回りに四体って所だね。其々が外を見張っているようで、中に進入した僕に対してはまだ気付いていない御様子……。
上空で待機している龍帝さんに手信号で合図を送り、それと同時に一旦穏行の印による隠密行動時間を解除。後はばれても良い算段で思い切り霊力を練り上げて両の手を二時と十時方向へ突き出し、上で霊力のブレスを練り上げている龍帝さんと同時攻撃を仕掛けるべく機会を窺う。
「……ま、当然気付かれちゃうよね――――準備は良いかい、龍帝さん!」
「クルルルルアァァァッ!!」
二箇所から発せられる膨大な力の本流に邪気の本能が危険を察したのだろう。直ぐ様僕らへと転身し敵対勢力を排除せんと襲い掛かる邪気共。人型一に鳥型ニ、取りは……川魚? 何とも色取り取りな邪気の御一行へ向けて、其々の両手と口から霊力が今解き放たれる。
『ガアァァァ!』
『ギョポぉウ!』
茂みから飛び出した拳だけ異様に肥大した人型が大きく腕をしならせて振りかぶり、川下から遡って来た魚型はこれまた大きな背鰭で僕を切り裂こうと迫り。空では二体の鳥型の邪気が鋭い爪で以って龍帝さんを切り裂き、注射針よりも鋭く筍の様に太い嘴で貫かんと迫り来る。
『ガアァッ!!』
『ギョオォォッ!!』
『…………っ!』
『…………キィ!』
ブレスの溜めに動作を制限しているから迎撃も儘ならないけど……!
「敢えて受ける!!」
「クッルルルルアァッ!!」
岩塊が激突したかの様な音と鞭で打たれた様な破裂音が僕に、空では強力な鋼同士がぶつかったかの様な金属音が鳴り響く。顔面を魚の鰭で叩かれ胴体に拳を受け、ちょこっとの衝撃をぽっちゃりお腹に感じるが痛みも無ければ傷も無し。叩かれた頬がかなり魚臭いのと、鼻が曲がるような腐敗臭をぽっちゃりお腹を包む服から感じるのを除けば被害らしい物は欠片も無い。
そして、それは――
「クウゥゥゥアッ!!」
空の龍帝さんも同じだった様だね!
嘴と爪の同時攻撃を弾き砕いた皮膚。流石に龍の帝を称するだけあって、肌の張りも桁外れって訳だ。世の奥様方も羨むもっちり素肌だね。
「――おっと、そうは烏賊のチャンチャン焼き。逃がしはしないよ!」
攻撃が通らなかった事に即反応して逃げ出そうとした魚型、その尾鰭をむんずと掴んで一本背負い。放心している人型に思い切り叩きつけ、纏まった所で左右に溜めている霊力を拍手を打ち合わせる事で融合。混ざり合った霊力の塊は大きく渦を巻きながら合わせ掌から具現化し、それを右腕へ纏わせれば出来上がり。
「霊鋼破砕の拳……おいたをする子は寝んねしなぁぁぁぁ!」
鋼の如き硬度としなやかさを備えた霊力の拳、邪気に対しては一撃で敵を破砕する目的で編み出された戦闘術の一つである。
振りかぶった拳を以って邪気二体を諸共に打ち砕く。断末魔の悲鳴を受ける間も無く邪気の肉体は弾け跳び浄化されて消え去る。残るは綺麗な御霊が二つ、一つは人を基に作られた邪気だった。もしかしたらフォルカさん達の御仲間がやられた結果、邪気の穢れを受けて変異した者かもしれないね……。他は獣が変異した邪気みたいだし、彼らは此処で御霊送りで送ってしまっても良いかも知れない。
「クルアァッ!!」
『グベァ!?』
『ギィア!?』
空に向かって巨大な閃光が奔りぬけ、霊力の奔流が大気を揺らして邪気は滅ぶ。塵と相果てた邪気の羽がひらひらと空を舞い、光となって空へ消える。今のが彼のブレス攻撃、差し詰め”霊光の吐息”といった所だろう。中々に高威力、もし成体の状態であったのならここら一面は灰燼に帰していたと見て良い程の業だ。幸い先に教育をしておいた御蔭が、大気を突き抜けるまでには彼自身がブレスを霧散させた様でなにより。
下手したら星を貫き核を破壊しかねないからね、ほんと良かった……。
御霊を回収した龍帝さんが戻って来たので早速受け取る。一応これで全ての邪気を祓い御霊を回収、封結界で囲っておけば邪気に穢される事も無いし御霊送りも後で済むからね。今は洞窟の中に居るであろう変わった魔力の持ち主を助ければ完了さ。
「龍帝さん、今から滝壺の洞窟に入るから辺りの警戒を頼むよ」
「クウ~ア!」
それじゃあ、御伽噺の王子様よろしく助けに行きますか……!
「クア? クルルルィ?」
所は変わって僕たちぽっちゃり少年&龍帝コンビは、ある人の魔力を探知しながら一路王都へと急いでいた。ある人ってのは勿論、この騒動の鍵となる人物で先のお知らせで大事が不明なアルバス王国王女――
「しかし、兵士の方々の監視を抜けて姫巫女さんを消すなんて……。こりゃあ、王国内部も一枚岩じゃなさそうだね~。それも比較的高い位置に穢れに染まった邪気が潜んでいそうな感じっと」
――アルフェルカ・D・アルバスさんだ。王太子であるフォルカさんの妹君であり、アルバス王国内で崇められている宗教の長を務める姫巫女の役にある王女さんらしい。兵士の方によると、五大宗派のある龍帝教会は長が其々五名居るらしく。彼女はその中で雲龍帝さんを代々信仰対象として崇める一派を束ねる大司教、それの歴代最年少で就任した巫女との事。先代は彼女のお母さんで現・国王第二王妃、現在は引退して後継人役として日々娘さんを補佐している方と言ってた。引退した理由は公に明かされてはいないが、世間では力の強いアルフェルカさんを担ぐ事で院政を敷いているのではないか? 等と言う誤解が広まっているらしい……。
カリル村の正門から真っ直ぐ西に進んで現在は小川が流れる山の中。綺麗な清水が流れているので小休止として一人と一匹は早速喉を潤す事に。
「うん! この水は清らかな大地の霊力が含まれているから美味しいね!」
「クウ~ア!」
ぷはっ! と青春の一ページの如く爽やかな絵図らで同時に水面から口を離す。爽やかでミネラルに満ちた水はするすると喉を通り抜けて僕らに満足感を齎し、尚且つ若干ではあるが霊力の回復もしてくれた。
ちなみに、マルグ換金店で出会ったご一家のマルグさんとロロットさんは、以前司教の立場で活動していた御人らしいよ。ジェミニさんがお店で見せられたブローチは、司教に就任した者に授けられる証なんだって。ロロットさんは母親に英才教育と称して五歳から王都の大教会に預けられて修練に励み、十二になる頃には司祭に抜擢されて二十で司教へと上り詰めたこれまた天才であると。
いや、実に大したもんだよ。神社と神々に関わる人生を送る僕も、流石にそんな若年で神主になる術はないからね。現代日本の制度では出来ない、異世界ならではの教養と言えようかね? 実際、修道院や修道学校に通っても司祭になる術はほぼ無い。神社関係でも専門の学校で先生の信任を得てから都道府県の神社庁へと申請を送り、そこで認可を受けなければ神主になる事は出来ないんだ。
「さてさて、ここいらで一番異質な魔力は――……ふ~ん? 南に一つとその周りを囲む様に二十、か。成る程納得、真ん中の一際異質な魔力が王女さんかな」
どっこいしょっと立ち上がり、龍帝さんに一応の確認を取ってから目的地へと急ぐ。場所を目視すべく背丈のある大きな木を駆け上がれば、何とか僕の体重でも支えられる枝を発見。御猿さんの様な手さばきで枝を伝えば――――
「ほっほう! これは中々に絶景だね!」
「クルルルゥ~クルァ!」
カルルの森とはまた違った木々が立ち並ぶ中に、先程の小川を源流とした川がゆるりと森を縫うかの如く流れている。川はそのまま崖の方へと突き進みぷつりと消えた大地の端から下の河川へと続いている様だ。
微かな水の粒子が空へと昇り、お天道様の光を照り返して油絵の具で描いたかの様な虹の架け橋を真っ青な大空へと描いていた。
旅立ちから此の方天気の良い日が続き、滝など見たことも無い龍帝さんは大いにはしゃいでお目眼を煌びやかな宝石にして見入っている。実に楽しそうだね~。
「方角としてはあの滝つぼ、その何処かに空間がありそうだ……」
「クルル? クァア、クウウ~アッ!」
「そうだね、反応から察するに滝つぼの奥に洞窟があってそこに大きな魔力の渦を感じられる。でも、どこか淀んだ魔力の波動が辺りにいる小さな精霊さんへ悲しみの情を訴えかけているみたいな反応があるね」
誰かが捕らえられているのは間違いないが、王女さんであるかどうかは分からない今。しかして、このまま見過ごすなんて選択肢は最初から無いのであって、だとしたらば僕が単身突入した後に後方支援として龍帝さんと合流ってのが最良だろう。
何故一緒に行かないのか? と言う疑問には一応バックアップの為と答えておこうか。二人して突撃して両方やられたんじゃ何の意味もないし、龍帝さんならば並みの邪気が襲い掛かってきた所で捕まる事も早々無い身体能力を有している。ならば、周囲の警戒をしてもらって必要とあらば戦闘にも参加して貰う運びとした方が僕も遣り易いって訳。
じゃあ、張り切って言ってみようか!
枝から飛び降りて先ず向かうのは周囲を円状に囲む邪気の掃討戦。邪気の総量的には八体で満遍なく雑魚が配置されている様だ。あ、僕から見たら雑魚であって、普通の一般ヒューマニアンの方には死が付き纏う敵だったりするからね。そこは間違えちゃいけない。
で、早速滝壺の上に陣取っている邪気の背後まで近づいて来た訳だけど……此処からは一応”穏行の印”を結んで手早く片付けてしまおうと思う。
穏行の印は言霊を用いない手だけで結べる印で、一度結べば約二分程度の間周りに一切の音を発しなくなる効果を持つ。効果範囲は扱う術者身体を中心として半径二メートル、身体の大きい人なら効果範囲はもっと大きくなるね。
ただ、此処まで簡単な印術だと当然利点ばかりじゃない。人生には酸いも甘いも等しくある様に、穏行の印にも欠点がある。実はこの術、術者にも周りの音を一切感じさせないと言う凄い欠点が存在するんだ。簡単に説明すると。自身の周りを結界で完全に遮断し、周りに音を漏らさないと言う術の構造にある。しかも、遮断するのは空気や振動も含まれているので確実に酸欠や背後から近寄ってきた敵にも気付きにくくなる。結構諸刃の太刀の側面が強い術なんだよね~。
(だけども……短期決戦ならこれぐらいの緊張感は維持していたいしね。凪風 奏慈、参ります!)
川の左右に陣取る二対の人型邪気を一息に殲滅するべく、先ずは右の奴から手刀で胴体と首を泣き別れ。即座に霊視で捉えた御霊がある胸部を貫き手で貫き、邪気の体内で霊力を放出させ内部から浄化する。
(奇襲するみたいで悪いけどこっちも余裕がある訳じゃないから、御免!)
音が一切漏れない影響が利点として働き、反対側にいる邪気には物音一つ聞こえていない。先程と変わらず微動だにしない邪気目掛けて右手の中に霊力で以って棒手裏剣を作り出し投擲、それと同時に霊力を足に溜めて川幅二十メートルはあろう場所を跳ぶ。
『グギャッ!?』
刺さった棒手裏剣に痛みを感じた邪気が敵意を籠めた目で僕の方を振り向くが時既に遅し。目前に迫る僕の霊拳で胸部から上を消し飛ばされる破目に相成りましたとさ。
(御霊を回収、浄化も大丈夫……お次は)
塵と相果てた邪気を尻目に掃討戦は続く。次の狙いは滝壺横の木々に隠れる鳥型の邪気。恐らくこいつは偵察が主な目的の邪気だろうが、穏行の印を行使している僕を感知できるほど知能も能力も無いみたいだ。上で散った邪気も上手く感知できていない所から察するに、感知半径は現在地から滝壺ままでの距離で大凡五十メートル以下の球体上と見れば良さそう。物は試しだ、先に霊力の飛礫を飛ばして反応を見てみようか。
手の中に霊力で作り出した丸大豆っぽい小さな粒を三つほど握り一発投げつける。位置的には僕が居る位置から直で投げつけると僕の存在がばれてしまうので、斜め向かいの感知半径ギリギリであろう場所に放ってある。
『……ギィ?』
よ~しよしよし、ばっちり釣られてくれた……!
飛礫が飛んでいった方向を向いたのを機に滝上から跳び降り、奴の感知範囲内に入りつつも反応速度よりも速く接近し胴を真っ二つにして粉砕する。警戒の声を上げる間も無く塵となった邪気から御霊を取り出し、浄化してから先の二つと合わせて結界で囲う。これは封結界と言う結界なんだけど、簡単に言えば御霊を安全に保管して置く為に編み出された結界術なんだ。いままで僕に色んな依頼があったけど、この術はかなりの割合で重宝して御世話になってきたもんさ。
さて、そんな事をしてる合間にも穏行の印の効果は残り三十秒と少し。残り時間でも一体ほど倒しておきたいから引き続き続行。残りの半分は龍帝さんと協力して一気に殲滅戦と行きますかね。
彼は僕と九ちゃんの力を取り込んだ御蔭か、この世界の生物としては霊力の質を兼ね備えた攻撃ができる数少ない竜さんとして生まれた。元・雲龍帝であった志乃さんも、若い頃は邪気に対してそれなりの対抗手段を持ちえていたみたいだし、全てが全てに霊力を扱う術の無い生物だけじゃないみたいだね。
滝壺の反対側に位置する茂みに邪気が一体、それから後は滝壺を中心とした円周上ニ時方向から順に四時、八時、十時と時計回りに四体って所だね。其々が外を見張っているようで、中に進入した僕に対してはまだ気付いていない御様子……。
上空で待機している龍帝さんに手信号で合図を送り、それと同時に一旦穏行の印による隠密行動時間を解除。後はばれても良い算段で思い切り霊力を練り上げて両の手を二時と十時方向へ突き出し、上で霊力のブレスを練り上げている龍帝さんと同時攻撃を仕掛けるべく機会を窺う。
「……ま、当然気付かれちゃうよね――――準備は良いかい、龍帝さん!」
「クルルルルアァァァッ!!」
二箇所から発せられる膨大な力の本流に邪気の本能が危険を察したのだろう。直ぐ様僕らへと転身し敵対勢力を排除せんと襲い掛かる邪気共。人型一に鳥型ニ、取りは……川魚? 何とも色取り取りな邪気の御一行へ向けて、其々の両手と口から霊力が今解き放たれる。
『ガアァァァ!』
『ギョポぉウ!』
茂みから飛び出した拳だけ異様に肥大した人型が大きく腕をしならせて振りかぶり、川下から遡って来た魚型はこれまた大きな背鰭で僕を切り裂こうと迫り。空では二体の鳥型の邪気が鋭い爪で以って龍帝さんを切り裂き、注射針よりも鋭く筍の様に太い嘴で貫かんと迫り来る。
『ガアァッ!!』
『ギョオォォッ!!』
『…………っ!』
『…………キィ!』
ブレスの溜めに動作を制限しているから迎撃も儘ならないけど……!
「敢えて受ける!!」
「クッルルルルアァッ!!」
岩塊が激突したかの様な音と鞭で打たれた様な破裂音が僕に、空では強力な鋼同士がぶつかったかの様な金属音が鳴り響く。顔面を魚の鰭で叩かれ胴体に拳を受け、ちょこっとの衝撃をぽっちゃりお腹に感じるが痛みも無ければ傷も無し。叩かれた頬がかなり魚臭いのと、鼻が曲がるような腐敗臭をぽっちゃりお腹を包む服から感じるのを除けば被害らしい物は欠片も無い。
そして、それは――
「クウゥゥゥアッ!!」
空の龍帝さんも同じだった様だね!
嘴と爪の同時攻撃を弾き砕いた皮膚。流石に龍の帝を称するだけあって、肌の張りも桁外れって訳だ。世の奥様方も羨むもっちり素肌だね。
「――おっと、そうは烏賊のチャンチャン焼き。逃がしはしないよ!」
攻撃が通らなかった事に即反応して逃げ出そうとした魚型、その尾鰭をむんずと掴んで一本背負い。放心している人型に思い切り叩きつけ、纏まった所で左右に溜めている霊力を拍手を打ち合わせる事で融合。混ざり合った霊力の塊は大きく渦を巻きながら合わせ掌から具現化し、それを右腕へ纏わせれば出来上がり。
「霊鋼破砕の拳……おいたをする子は寝んねしなぁぁぁぁ!」
鋼の如き硬度としなやかさを備えた霊力の拳、邪気に対しては一撃で敵を破砕する目的で編み出された戦闘術の一つである。
振りかぶった拳を以って邪気二体を諸共に打ち砕く。断末魔の悲鳴を受ける間も無く邪気の肉体は弾け跳び浄化されて消え去る。残るは綺麗な御霊が二つ、一つは人を基に作られた邪気だった。もしかしたらフォルカさん達の御仲間がやられた結果、邪気の穢れを受けて変異した者かもしれないね……。他は獣が変異した邪気みたいだし、彼らは此処で御霊送りで送ってしまっても良いかも知れない。
「クルアァッ!!」
『グベァ!?』
『ギィア!?』
空に向かって巨大な閃光が奔りぬけ、霊力の奔流が大気を揺らして邪気は滅ぶ。塵と相果てた邪気の羽がひらひらと空を舞い、光となって空へ消える。今のが彼のブレス攻撃、差し詰め”霊光の吐息”といった所だろう。中々に高威力、もし成体の状態であったのならここら一面は灰燼に帰していたと見て良い程の業だ。幸い先に教育をしておいた御蔭が、大気を突き抜けるまでには彼自身がブレスを霧散させた様でなにより。
下手したら星を貫き核を破壊しかねないからね、ほんと良かった……。
御霊を回収した龍帝さんが戻って来たので早速受け取る。一応これで全ての邪気を祓い御霊を回収、封結界で囲っておけば邪気に穢される事も無いし御霊送りも後で済むからね。今は洞窟の中に居るであろう変わった魔力の持ち主を助ければ完了さ。
「龍帝さん、今から滝壺の洞窟に入るから辺りの警戒を頼むよ」
「クウ~ア!」
それじゃあ、御伽噺の王子様よろしく助けに行きますか……!
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いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
異世界転生してしまった。どうせ死ぬのに。
あんど もあ
ファンタジー
好きな人と結婚して初めてのクリスマスに事故で亡くなった私。異世界に転生したけど、どうせ死ぬなら幸せになんてなりたくない。そう思って生きてきたのだけど……。
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