ぽっちゃり少年と旅するご近所の神様

とっぷパン

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一章 ”アルバス王国と騒乱” の段

7話~九ちゃん御一行の入城

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 ついに辿り着いたはヒューマニアンの都、アルバス王国首都・グラティエム。宿屋での休息もそこそこに城へと走り込んだ伝令兵によって、既にフォルカ達の生存と帰還は告げられておる。恐らくではあるが、門番や衛兵共の驚愕した面から察するにじゃ、フォルカ王太子一行は戦死扱いされておる可能性があるのう……。

「フォルカ王太子殿下の御帰還である、門を開けいっ!」

「……っ!? は、はいっ!」

 今までのこやつ等の状況を鑑みれば無理も無かろう結論ではあるが、今少し喜ばしそうにすればよい物をの。幾らなんでも面に出すぎじゃて、あれで己が存在を隠し通せると考えておる辺りは頭が足らん邪気よな。まず羽虫が一匹と……。

「ドルゲよ、今走り去った衛兵は何処の所属じゃ?」

「……確か、王都西近辺にある土地を治める伯爵位。名はムマンド・セルゲンス伯爵だったかと聞き覚えがありますのう。わしが一線を退いてから位を陛下から授けられた、云わば新参者の伯爵ですわい」

 成る程のう……新参者の伯爵か。国へと浸透するには今一つな爵位じゃの……。

 ちなみに、このドルゲは引退して家督を譲ったとかぬかして居ったが、国王から特別に”公爵”の位を賜っておるとの事。これでは何が老兵か分かったものじゃないがの、一応はこやつ一代限りの公爵。跡目のグラッシュフィルム侯爵は息子が継いで居るそうじゃ。

「姉上、先の兵士は……」

「所詮使いっぱしりじゃの。お主も覚えておいて損は無かろうよ」

 ちらりと門番の詰め所から走り去った兵士の方を見て妾に確認を取る志乃。如何やら細かい邪気の気配と見分け方も徐々に身に付けつつある様で、妾も奏の字と出会う千年前だったら嗅ぎ分けもつかない程の残り香を感じ取ったようじゃの。

 そうこうして居る合間にどでかい城門が歯車の回る音共に軋みを上げて開き、妾達を待ち受けるかの如くその口を開いた。未だに城門に使われておる材木から霊力を感じるところからして、さぞ古い古木を材料に鉄で装甲を施した一品じゃな。それにこの蝶番から伝わる魔力の流れからして、城門自体に魔力を流す事によって強度が上がる仕組みの様じゃの。戦禍においては篭城で真価を発揮するが、下手を打ち内乱でも起こされれば一網打尽にされ兼ねんか……正に一長一短じゃ。
 門が最後まで開ききると同時に左右へ城内の兵士がずらりと並び、王太子の帰還を示す槍旗を手に持ちて出迎えた。都市全体でも巨大な物じゃったが、城内においても中々に荘厳な様式じゃの。右手に見えるのは所謂”シャトー”と呼ばれる王族や貴族の住む邸宅が其々庭付き畑付きで並んでおる。小さな街を形成しておる様じゃが、地元から王都へと参上した際に仮の居として与えられる家と見ればよいかのう。幾らなんでも貴族の住まいとしては些か小さいし、大体一軒に付き一haヘクタールも無い様な土地じゃ。所謂貴族街と言った所かのう。

「漸く帰って来れましたが……フォルカ様、私共にとってはこれからが大事で御座います。アルフェルカ様の安否も気にはなりますが、くれぐれも隙を御見せになられ無い様」

「分かっている……分かってはいるが、先ずは父上に報告をし謁見願うのが先決か。志乃様との謁見が済めば我らに仇名す輩も自然と動き出す他あるまい……。その際には公式な謁見の場ではなく、裏で父上にお出まし願う事になろう」

「でしょうな。陛下に際しては雲龍帝様の消失は相当な苦痛を与える結果になる事ですからな。真実として雲龍帝様が志乃様と成り、尚且つ次代の龍帝様もご健在であると分かれば何とか持ち堪えて下さるでしょう。後は姫巫女様の安否ですが……こればかりは事の次第が片付いてからでなければ身動きが取れますまい」

 国王が邪気に取り込まれて居らねば良いがの……。
 そこは直に目にせねば判断が出来んが、最悪の展開としては城内での戦闘になる場合も考慮して置かねばならんのう。そうなると、大規模戦術を得意とする妾には些か不利な条件よの~。城ごと吹き飛ばしても良いとなればいつでもやらかしてやるがのう。流石にそれでは忍びないし、悪戯に大勢の命を諸共に散らす破目になりよるからして邪気の手助けをしてしまう。それは避けたい所じゃな。

 貴族街を尻目に石畳と芝生の荘厳な道に歩を進めば、次いで目玉に飛び込んで来よるは庭園かのう? 高さが二十五尺はある女像の持つ瓶から勢いのある清水が流れ落ち、女像の台座下にある池にはトチカガミに似た水草が生え彩りを加えておる。トチカガミは白い花を咲かせよるが、こ奴は赤・白・黄色と青に紫と中々に忙しない。綺麗と言っては綺麗じゃが、些か侘や寂を知らん者が手入れをして居るようじゃ。……そもそも侘寂の概念が存在するかは知らんがの。
 さて、余所見をしとる間に城の方から迎えが来た様子じゃ。一人は背の高い柳の様なひょろりとした不健康な面構えの男、今一人は反対に豚の如くと言っては豚に失礼じゃろうがそれ位に肥えておるが優しげな面の男。どちらも見た限りは邪気に侵されておる御霊ではないの。

「王太子殿下! 良くぞご無事でお戻りになられました……! このダムデム、殿下が出奔あそばした時には目の前が暗くなり国の終わりが来たと思いましたぞ」

「……右に同じく」

 ――立っておるのは完全に左じゃがの。
 薄気味悪い面構えをしてる割には小気味の良いボケをかましよる小僧はさて置き、如何やら此方の味方であろう二人が合流となった訳じゃ。二人の魔力を探れば意外や意外、肥えておる方の――”でぶでぶ”? が魔力の質も量も高く多いのう。王太子であるフォルカや将軍であるドルゲ、それに近衛であるジェミニよりも魔力の総量自体は上回っておる。行方知れずに居る姫巫女とやらが今一つ分からんが、それを覗けば今現在感じ取れる中では王国内一の魔力量と質かの~。

「――それで殿下、此方の御二方は?」

「うむ、それについては私の部屋に入ってから仔細を話そう。何処で誰に聞かれているかも知れん場所で話すには少々込み入った話だ」

「畏まりました。ではこのままお供いたします――ホーネミ、君も共に来るのだ」

 でぶでぶの言葉に一礼して後ろに付き従う薄気味悪い小僧――もとい、ホーネミ。会話から察するにでぶでぶとは部下と上司の関係の様じゃ、もしくは師弟かの。石畳の廊下の先に続く道には待ち構えるは吹き抜けのテラスと緩い螺旋の階段、その頭上には巨大なシャンデリラが魔力の明かりをゆらゆらと輝かせておる。夢物語にでも出てきそうな風景に暫し心を弾ませて居れば、いつの間にやらテラスの踊り場には小汚――もとい、余り趣味の宜しくないギンぎら銀のマントを羽織っておる小僧と数名の手下どもが湧いて居った。

「……ヒヒ。これはこれは殿下、伝説の龍帝様をお探しの旅よりの御帰還恐悦に御座います」

「……バルゲン副次官か、出迎えご苦労」

「はは、殿下御帰還の知らせにより既に国王他大臣諸侯は謁見の間に集まっておいでに御座いますれば、このままご報告を賜りますよう御願い申し上げます」

 副次官とやらの言に一つ頷いて歩き出すフォルカ達。当然妾もそれに続く訳じゃが……こ奴は少しばかり臭うの~、ぷんぷんじゃ。妾や志乃を嘗めまわす様に見る視線の悍ましいさも然る事ながら、特に妾を見やる目の気色悪い事と言ったら最早例えようも無い。何じゃこ奴ら、揃いも揃って幼女趣味の変態の一派かのう?
 そのまま一瞥もくれる事無く足早に歩き去ろうとするフォルカ。他の者達もあまり副次官に良い心情は持って居らなんだ様じゃ。

「う~むむ、久方ぶりに背筋が総毛立ったわ……! 見やれ、妾の金色ふわふわぷりてぃ尾っぽがこれこの通りぞ……何ぞ王国ではあの様な変態共を飼っておるのか?」

「これが……怖気という物ですか。……全身に粟が立ちますな、姉上」

 ぶわっと広がった尻尾を出して見せれば、お返しとばかりに粟立った肌を見せるべく袖をめくる志乃。日夜問わず走り抜けた影響もあってか若干日に焼けて健康的な肌が、幼女趣味の変態共に舐め回す様に見られた所為で小さな粟粒の如く肌が立って居った。人外の妾達をこうも気色悪がらせるとは、ある意味天晴れな変態っぷりよ。

「王国の民としては誠に申し上げにくいのですが、今のバルゲンと申す者は官の中でも序列が二位になる者でして。一応は優秀な人材なのですが、……如何せんあの気色悪さから城の中では非常に稀な派閥を形成して居ります次第で」

「成程、変態派閥か……」

「変態派閥です……!」

 女子三人で顔を突き合わせて確認を取れば、間違まごう事無き変態である事が確定した訳じゃ。うむ、婦女子が余り変態、変態と連呼する物でも無し。フォルカやドルゲも苦笑いが深まる一方故に、この話題はこれで終いじゃの。
 テラスの先には二畳程の大きさでこげ茶色の木戸があり、戸の前に二名の衛士とその前に帯剣した衛士が四名妾達を出迎えるべく待機しているのが見えるのう。鎧も儀礼用の綺麗な銀を基調とした美しい鋼の装備、帯剣して居る剣も鞘に納まっているが刀身より若干の魔力が感じられる一品じゃ。ただ突っ立っているだけでも僅かな重心の運びや視線の動かし方、それに装備まで他の衛士とは違うとなればこ奴らは恐らく近衛じゃろう。

「王太子殿下、御帰還誠に喜ばしい限りで御座います」

「うむ、出迎えご苦労。父上や側近達は既に揃って居るな?」

「はい。皆様方一堂に会して王太子殿下の御報告を御待ちに御座います。ささ、どうぞ中へと御進み下さいませ」

 見慣れぬ妾達に一瞥をくれた後、中へと招き入れる為に一応の身体検査と武具の確認と預かりを行う衛士達。各々の洗練された動きから長くこの勤めを行ってきた事が伺えるのう。興味は無いが、面も皆中々にイケてる面子じゃ。先程の奴等とは大違いで一種の清涼感すら感じるわい。

 妾と志乃の二人は特と見せる様な武具もありゃせんからして、ジェミニによる触診だけで通る事が出来た。フォルカとドルゲの二人は軟腰に差した剣と、ムキムキ背中に背負ったでかい出刃包丁を預けて居る。でぶでぶとホーネミの二人は……懐から魔法石の嵌った杖を取り出して預けよった。あんな棒っ切れが何の役に立つのかは今一不明じゃが、ヒューマニアンにとっては魔法を行使する際の触媒となるのであろう。
 一応の確認として舞扇は良いのかと尋ねた所、何やら衛士の一人が虫眼鏡の如き鑑定器具で鑑定し確認をした後に返し大丈夫ですとの事。ま、初めから何が仕込んである様な扇は持ち合わせて居らん故、素材を用意した者と拵えた者が高天原の神々と言うだけで極普通の舞扇じゃしの。当然の結果と言えばそうじゃ。

 門扉に付いて居るこんこんを鳴らして確認を取れば、室内から低い男子おのこ特有の声で以って入れと返ってきよる。さてさて、謁見の間に通じる門扉が開かればアルバス王国の中枢である国王との対面じゃ!

 ――ところで、茶菓子は出るのかのう?



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