追放令嬢、ルビイの小さな魔石店 〜婚約破棄され、身内にも見捨てられた元伯爵令嬢は王子に溺愛される〜

ごどめ

文字の大きさ
3 / 22

02 もう遅いですよ?

しおりを挟む
「なに? それはどこの魔石師ませきしだ?」

 訝しげな表情をしながらニルヴァーナ王国の第一王子殿下であるガウェインは、彼の元へと報告に訪れた一人の衛兵に尋ねる。

 衛兵は殿下の問いに答えると、それは吉報だと声高らかにし、

「隣国だと? ラズリア公国にそのような魔石師がいるなどとは聞いた事がないな……。まあ良い。お前とあと数名の少数精鋭だけでその魔石店へすぐ向かうぞ!」

 そう言いながら、急いで外出支度を整える。

「魔石師として高名なフランシス家ですら宝石にしか魔力付与はできん。その話が事実であり、そんな逸材が本当にいるのなら、必ず私がその娘を貰い受ける」

 ガウェインは自分に大層な自信を持っていた。

 自分の地位と顔で落とせない女などいないと自負していた。

「確かにその魔石屋には若い娘がいましたが、殿下の今の婚約者であるカタリナ様はどうなさるのですか?」

 彼専属の衛兵がそう尋ねると、

「その娘はただの町娘であろう? それならば私の側室として妾で置いてやるとでも言えば良いだけだ。現に今の婚約者であるカタリナはそういう点に実に柔軟だ」

「なるほど、カタリナ様公認なのですね」

「うむ。実によくできた女よ」

「それにその魔石屋の女は美しいのであろう? それなら私が遠慮なく抱いてやろうではないか」

「ガウェイン様になら、おそらく喜んでその女も身体を差し出す事でしょう」

「当然だ。そしてそんな娘が私のものになれば……次期国王の座は、確実に私のものだ」

 不敵な笑みを浮かべ、彼はマントを翻した。



        ●○●○●



 魔石師の基本。

 それは『宝石の類いにしか魔力を付与できない』というのが、常識だ。

 ダイヤモンドに始まりルビーやエメラルド、サファイア、トパーズ、モルガナイト、アクアマリン、ヘリオドール、ガーネット、ゴシュナイト、トルマリン、スピネル、ジルコン、アレキサンドライト……。

 世には豊富な宝石の種類があり、その宝石によって付与できる魔力が違ったり、付与された後、魔石となった効力も大きく違ったりする。

 その宝石に魔力を付与できる者を魔石師と呼ぶ。

 何故宝石にしか魔力は付与できないのか、何故宝石の種類によって付与できる魔力が違うのか、などは長年魔石師の家系で研究され続けてきた。

 その根本的な理屈に辿り着けた者は今でもいなかったが、ある程度の基本のような知識は多くの者が得ることができた。

 例えば光を放つ魔石の

 対応する宝石はほとんどの宝石。魔力付与も比較的簡単で、、魔石師の魔力を注ぐ事で出来上がる。

 光を放つ魔石は総じて魔光石などと呼ばれ、魔力を注いだ魔石師の能力次第で光の強さや発光可能時間が変化する。

 精製にはおよそ、どんな新米魔石師でも問題なく作れるのである。

 ルビイにはそれができなかった。

 ルビイがそれをやろうとしても、宝石がすぐに音を立てて壊れてしまうからだ。

 何度フランシス家で魔石を作ろうとしても、ルビイにはできなかった。どんな宝石もルビイが魔力を注ぐと壊れてしまう。

 宝石は高価で希少だ。

 金を腐るほど持て余しているフランシス家といえど、根本的に流通の少ない希少な宝石をルビイの為に延々壊され続けてはたまったものではない。

 エメルド伯爵はとある日より、ルビイの事を欠陥品だと決めつけ、魔石作りをやめさせたのである。

 ルビイはそれが悔しくて、隠れて何度か魔石作りに励んだが、やはり上手くいかない。

 そして壊れた宝石を見られてはこっぴどく叱られる。

「お前は二度と魔石を作るな!」

 と、父のエメルド伯爵にこんこんとお説教をされ、それからルビイは魔石作りをしなくなった。

 ルビイには歳の近い友人もいない。

 何故なら魔石師の娘には不埒な者が寄ってきやすいが為、一般の魔法学院には通わせてもらえず、家庭教師から勉強は教わり、遊ぶ事と言えば屋敷の庭周りでできる事だけだった。

 ルビイは一人遊びをしていた時、ただの石ころに術式の紋様も用意せず、魔力を注入してみた。

 本来、術式を介さなければ宝石に魔力を流し込む事はできない。なので、当然石ころにも魔力が流れるはずがないとルビイは思っていたので遊び半分で試しただけだった。

 しかし、ただの石ころはこれまでの宝石とは違い、割れる事なく魔力を吸い込み、そして眩い光を放った。

 ルビイが初めて魔光石を作った瞬間だ。

 彼女はそれを、ただの石ころで、術式も無しに、たったの数秒で作り上げたのだ。

 けれどルビイにはこれが凄い事だとは思わなかったし、そもそもこれが魔石だとは思わなかった。

 何故なら父たちから教わった魔石とは『宝石に魔力が注がれ、特殊な力が備わった物』を指す物であり、ただの石ころが光を放ったところでそれに魔石としての価値など、あるはずがないと思い込んでいたからである。

 ただの石ころに魔力を注いで光を放たせるなんて、異常な事だとルビイでもわかった。

 幼かったルビイは、きっとこれはまたイケナイ事なのだと思い、見つかれば怒られてしまうだろうと考え、この事を誰にも言わず、また見せなかったのである。

 ただの石ころを魔石にできるという事が、どれだけ世の市場を、ことわりを、常識を覆してしまうかなど、知る由もなく――。


 
        ●○●○●



 ガウェイン第一王子殿下が自信満々の愉悦に浸っていたその数時間後。

 朝、馬車で発てばニルヴァーナ王国から一日はかからないくらいで隣国のラズリア公国、港町のラダリニアへ夜には到着する。

 そして目的の魔石師の店に着いた時。

 打って変わって今、彼はその場では顔を青ざめさせていた。

「な、何故キ、キミが……!?!?」

 ガウェインが狼狽するのも無理はない。

 何故なら、彼の目的の魔石店にいた女性は、彼の元婚約者だったのだから。

 そしてその隣にいたのは、奇妙な仮面を付けて顔を隠した青年。

 その青年にこう言われた。

「ガウェイン殿下。貴方がこのルビイ……いや、ルフィーリアに手酷い仕打ちをした事は充分に彼女から聞き及んでいる。よって、彼女も私も貴公と協力し合うつもりは一切ない」

「……ぐ。き、貴様は何者だ!? 妙な面を付けて顔も晒さずに私を愚弄するつもりか!? 不敬であるぞ!?」

「これは申し遅れた、私はシルヴァ。このラダリニアの町の商業を取りまとめるオルブライト商会の頭目だ」

「しょ、商会のボスだと? さては貴様がルフィーリアをたぶらかしたのだな!?」

「たぶらかす? 何を馬鹿な」

 シルヴァはガウェインの言葉を鼻で笑った。

「ル、ルフィーリア! 聞いてくれ! 私はようやく真実の愛に気付いたのだ! だからもう一度私と……」

 必死に取り繕おうとするガウェインに対し、

「ですが殿下は私の妹、カタリナとすでにご婚約されているとお聞きしておりますが?」

 ルビイは毅然と問い詰める。

「そ、それはそうだが、彼女とはどうも相性が良くないのだ。今ならわかる、ルフィーリア、キミが私の最愛の女性なのだと!」

「ですが殿下、私は貴方に悪女と呼ばれ、王宮に二度と入るなと言われ、更にはフランシス家からも追放されました。今更戻れるとでも?」

「聞いてくれ、アレは誤解だったのだ。全てカタリナの虚言だった! 私も騙されていたのだ! キミが気に入らないなら今すぐカタリナとの婚約も破棄し、キミとやり直したい」

 何を自分勝手な……と、激しく思ったルビイは、ますますこのガウェインに怒りを覚えた。

「……申し訳ありません殿下。私はこの国で、この町で暮らすと決めたのです。今の生活が楽しいのです。今更やり直したい、なんて虫が良すぎます。遅すぎますわ」

「安心してくれ! 私の力があれば今のキミよりもっと楽しくて贅沢な暮らしができるッ! だからまた私と婚約し直そうルフィーリア! 私なら必ずキミを幸せにしてみせよう!」

 殿下の必死な懇願に苛つきと同時に、笑いまで込み上げそうだったが、

「殿下。貴方の言う真実の愛とやらが希少価値の高い魔力付与のできる魔石師の事だと言うのなら、私の知る真実の愛とは程遠いです。そんな方と幸せになれるとは到底思えませんので、どうかお引き取りを。そして二度と私の前にその醜悪な顔を見せないでくださいませ」

 こう答えると、

「うぐッ……く……」

 ガウェインはルビイの圧に押し負けて、一度は黙り込んだ。

 しかし諦めずにその後もしつこく何度も食い下がってきたが、結局ルビイは彼を冷たくあしらい続け、そしてついにはガウェインらは手ぶらで帰るハメとなった。

 去り際には不敬罪だなんだとぶつぶつ何かを言っていたガウェインだったが、ルビイもシルヴァも、もはや彼には構わず無視を決め込んで、彼を見送った。

 そんな様子を見て、

「よく言った、ルビイ。奴はキミを婚約破棄した事を実に後悔しただろうな」

 シルヴァは仮面越しに彼女へと笑顔を向けたのだった。

「……っはい!」



 ルビイは笑顔で涙を一粒だけ零した。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

『婚約破棄されましたが、孤児院を作ったら国が変わりました』

ふわふわ
恋愛
了解です。 では、アルファポリス掲載向け・最適化済みの内容紹介を書きます。 (本命タイトル①を前提にしていますが、他タイトルにも流用可能です) --- 内容紹介 婚約破棄を告げられたとき、 ノエリアは怒りもしなければ、悲しみもしなかった。 それは政略結婚。 家同士の都合で決まり、家同士の都合で終わる話。 貴族の娘として当然の義務が、一つ消えただけだった。 ――だから、その後の人生は自由に生きることにした。 捨て猫を拾い、 行き倒れの孤児の少女を保護し、 「収容するだけではない」孤児院を作る。 教育を施し、働く力を与え、 やがて孤児たちは領地を支える人材へと育っていく。 しかしその制度は、 貴族社会の“当たり前”を静かに壊していった。 反発、批判、正論という名の圧力。 それでもノエリアは感情を振り回さず、 ただ淡々と線を引き、責任を果たし続ける。 ざまぁは叫ばれない。 断罪も復讐もない。 あるのは、 「選ばれなかった令嬢」が選び続けた生き方と、 彼女がいなくても回り続ける世界。 これは、 恋愛よりも生き方を選んだ一人の令嬢が、 静かに国を変えていく物語。 --- 併せておすすめタグ(参考) 婚約破棄 女主人公 貴族令嬢 孤児院 内政 知的ヒロイン スローざまぁ 日常系 猫

[完]本好き元地味令嬢〜婚約破棄に浮かれていたら王太子妃になりました〜

桐生桜月姫
恋愛
 シャーロット侯爵令嬢は地味で大人しいが、勉強・魔法がパーフェクトでいつも1番、それが婚約破棄されるまでの彼女の周りからの評価だった。  だが、婚約破棄されて現れた本来の彼女は輝かんばかりの銀髪にアメジストの瞳を持つ超絶美人な行動過激派だった⁉︎  本が大好きな彼女は婚約破棄後に国立図書館の司書になるがそこで待っていたのは幼馴染である王太子からの溺愛⁉︎ 〜これはシャーロットの婚約破棄から始まる波瀾万丈の人生を綴った物語である〜 夕方6時に毎日予約更新です。 1話あたり超短いです。 毎日ちょこちょこ読みたい人向けです。

『冷酷な悪役令嬢』と婚約破棄されましたが、追放先の辺境で領地経営を始めたら、いつの間にか伝説の女領主になっていました。

黒崎隼人
ファンタジー
「君のような冷たい女とは、もう一緒にいられない」 政略結婚した王太子に、そう告げられ一方的に離婚された悪役令嬢クラリス。聖女を新たな妃に迎えたいがための、理不尽な追放劇だった。 だが、彼女は涙ひとつ見せない。その胸に宿るのは、屈辱と、そして確固たる決意。 「結構ですわ。ならば見せてあげましょう。あなた方が捨てた女の、本当の価値を」 追放された先は、父亡き後の荒れ果てた辺境領地。腐敗した役人、飢える民、乾いた大地。絶望的な状況から、彼女の真の物語は始まる。 経営学、剣術、リーダーシップ――完璧すぎると疎まれたその才能のすべてを武器に、クラリスは民のため、己の誇りのために立ち上がる。 これは、悪役令嬢の汚名を着せられた一人の女性が、自らの手で運命を切り拓き、やがて伝説の“改革者”と呼ばれるまでの、華麗なる逆転の物語。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

【完結】前提が間違っています

蛇姫
恋愛
【転生悪役令嬢】は乙女ゲームをしたことがなかった 【転生ヒロイン】は乙女ゲームと同じ世界だと思っていた 【転生辺境伯爵令嬢】は乙女ゲームを熟知していた 彼女たちそれぞれの視点で紡ぐ物語 ※不定期更新です。長編になりそうな予感しかしないので念の為に変更いたしました。【完結】と明記されない限り気が付けば増えています。尚、話の内容が気に入らないと何度でも書き直す悪癖がございます。 ご注意ください 読んでくださって誠に有難うございます。

転生した子供部屋悪役令嬢は、悠々快適溺愛ライフを満喫したい!

木風
恋愛
婚約者に裏切られ、成金伯爵令嬢の仕掛けに嵌められた私は、あっけなく「悪役令嬢」として婚約を破棄された。 胸に広がるのは、悔しさと戸惑いと、まるで物語の中に迷い込んだような不思議な感覚。 けれど、この身に宿るのは、かつて過労に倒れた29歳の女医の記憶。 勉強も社交も面倒で、ただ静かに部屋に籠もっていたかったのに…… 『神に愛された強運チート』という名の不思議な加護が、私を思いもよらぬ未来へと連れ出していく。 子供部屋の安らぎを夢見たはずが、待っていたのは次期国王……王太子殿下のまなざし。 逃れられない運命と、抗いようのない溺愛に、私の物語は静かに色を変えていく。 時に笑い、時に泣き、時に振り回されながらも、私は今日を生きている。 これは、婚約破棄から始まる、転生令嬢のちぐはぐで胸の騒がしい物語。 ※本作は「小説家になろう」「アルファポリス」にて同時掲載しております。 表紙イラストは、Wednesday (Xアカウント:@wednesday1029)さんに描いていただきました。 ※イラストは描き下ろし作品です。無断転載・無断使用・AI学習等は一切禁止しております。 ©︎子供部屋悪役令嬢 / 木風 Wednesday

〘完結〛ずっと引きこもってた悪役令嬢が出てきた

桜井ことり
恋愛
そもそものはじまりは、 婚約破棄から逃げてきた悪役令嬢が 部屋に閉じこもってしまう話からです。 自分と向き合った悪役令嬢は聖女(優しさの理想)として生まれ変わります。 ※爽快恋愛コメディで、本来ならそうはならない描写もあります。

処理中です...