追放令嬢、ルビイの小さな魔石店 〜婚約破棄され、身内にも見捨てられた元伯爵令嬢は王子に溺愛される〜

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01 ルビイの小さな魔石店

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 魔石師ませきし、という名の職人、職業が在る。

 魔石師とは、石に魔力を込めて様々な効果を付与させる極めて特殊な技だ。

 王都ニルヴィアに住む伯爵貴族フランシス一族の血筋は、代々その特殊な技を持つ家系であった。

 魔石を作るには、魔力付与という特異な力が必要で、それはその力を持つ血族にしか発現しない。

 もちろんフランシス一族以外にも魔石師はいるが、その数は極めて少ない。王都ニルヴィアの魔石師と言ったらフランシス家以外にはなかった。

 魔石には様々な力がある。

 光を放たせたり、持つ者の身体能力や魔力を増幅したり、悪しき者を滅したり、太陽光の代わりにお洗濯物を乾かしてみたり、水を生み出したり、害虫を駆除してみたり。

 冒険者や兵士、剣士たち御用達の物から、生活便利グッズまでと、とにかく幅広く魔石という物はこの世界のあらゆる面で役に立つ物だった。
 
 なので必然的に魔石師は敬われ、同時に莫大な富を得ていた。

 ニルヴァーナ王国の陛下は、その力を貴族だけではなく王族、王家にも反映させようと考え、つまりはフランシス家の令嬢であったルフィーリアが殿下の婚約者として任命された。

 だがフランシス家が中々すぐにそれを承諾しなかった理由がひとつある。

 それはルフィーリアしかフランシス家の跡継ぎがいなかった事。

 ルフィーリアを手離す事はフランシス家の繁栄を終わらせてしまう事になってしまう為、いくら能無しの娘とはいえ中々エメルド伯爵は陛下の申し出を受けずにいたのだ。

 そんな中、ルフィーリアはフランシス家一族でもハズレの令嬢と言われ続けてきた。

 魔石師の家系だからと言って全員が優秀な魔石師になれるとは限らない。生まれ持った才能の差があるのは当然。

 ルフィーリアには魔石を作る力がほぼ無かったのである。

 だが、間違いなくフランシス家の血を引いてはいるので、第一王子であるガウェインはルフィーリアと結婚するつもりでいた。

 だが後に殿下はそれよりも優秀な妹の存在を知る。

 そう、カタリナだ。

 カタリナは、ルフィーリアが生まれて二年後にエメルド・フランシスとフランシス家に仕える侍女との間に出来た不貞の子であった。

 エメルドはその侍女が孕んだ事を知ると、フランシス家からは追い出したのだが、数年後になってエメルドはルフィーリアよりも二つ歳の下の娘を養子として貰い受けたといって強引に家族の一員にした。

 カタリナは自らの不幸さを水増しする為に、ガウェインには両親は事故死した、と伝えたそうだが、実際の父はエメルドで、母は追放された侍女だ。

 その際にどんな話し合いがあったのかはルフィーリアにはわからない。

 ただ、今より七年前のルフィーリアが8歳の誕生日に、カタリナという異母姉妹が急遽出来たのである。

 カタリナは優秀だった。

 ルフィーリアにはできない魔石精製をいとも簡単にやって見せた。

 ルフィーリアはそれを見て、なんとなくカタリナを養子に引き受けた父の思惑を悟る。

 そして数年後。自分を王家の婚約者へと差し出したのは、能無しの自分を追い出すていの良い口実だったのだと、ルフィーリアは後々理解した。

 そして時は過ぎ。

 ルフィーリアは自分の為にも、フランシス家の為にも、厳しい父に認められる為にも、頑張って第一王子であるガウェインに気に入られようと努力した。

 それが、殿下の目論見とカタリナの策略によって見事霧散したのである。

 しかしその後のシルヴァとの出会いが、ルフィーリアの運命を大きく変えたのだった――。



        ●○●○●



 ――そして時は流れる。ルフィーリアが婚約破棄され、更にフランシス家からも勘当されてから、数ヶ月ほど。

「ありがとうございましたぁッ!」

 ニルヴァーナ王国の隣国、ラズリア公国。

 オルブライト商会が全体の商業を取り仕切り、商業都市であり港町でもあるここラダリニアという町の片隅。

『ルビイの生活おうえん魔石店』

 と、可愛らしい文字が手書きで書かれた看板をその屋根に掲げた小さなお店。

 そこで数ヶ月前とは比べ物にならないほど、元気でハツラツとした明るい少女の声が響く。

「あら? もう在庫が無くなっちゃいましたわ。今日はこれで店仕舞いですわね。さてっと、売上売上~」

 楽しそうに金銭の管理をしている、一見町娘の装いをしたその少女は、数ヶ月前ガウェイン殿下に婚約破棄を申し渡され、更には実親からも追い出されてしまった元伯爵令嬢のルフィーリアであった。

「やあ、お疲れ様」

 カランカラン、と店の出入り口にあるドアベルが音を鳴らす。

 店に現れたのは仮面を付けて顔を隠している男。

「あ、シルヴァ様! 今日はもうノルマ分は達成し終えましたわぁ」

 それはオルブライト商会の頭目、シルヴァ・オルブライトその人だった。

 彼曰く、オルブライト商会のボスが素顔を晒してあれこれと動き回るのは色々問題があるらしく、普段はこうやって面をつけているのだそうだ。

 シルヴァが入店してきた事で、店の入り口にクローズの札を掛け忘れたのを思い出し、ルフィーリアこと、ルビイは慌てて店の外に出て札を掛け直す。

「そうか。うん、お店の方はとても順調そうだね」

「はいッ! これも全部シルヴァ様のおかげですわ!」

「キミが私との契約を結んでからもう三ヶ月ほど経ったかな。キミの才能はさすがというべきか、やはり私の目に狂いはなかったな。オマケに商才まであったのには驚かされたがね」

「何を言ってるんですか。これもひとえにシルヴァ様が行くあての無い私を拾ってくれたからですのよ? 本当にありがとうございますわ!」

 ニコッと実に嬉しそうな笑顔でルビイがそう言うと、シルヴァは少しだけ顔を赤らめ、

「……コホン、今日も元気そうで何よりだ」

 と、彼女から目を逸らした。

 ルビイがシルヴァに拾われたあの日。

 シルヴァはルビイに商売をしないかと誘った。

 シルヴァ曰く、石を光らせるその力は商売になると彼女に告げたのである。

 ルビイにとって、ただの石ころを光らせるのは些細な遊び程度にしか思っていなかったので、シルヴァの話を半信半疑で聞いていたが、彼のある言葉に惹かれたのである。

 それは、

「第一王子に目に物を見せてやらないか」

 という言葉。

 元貴族令嬢とはいえルビイだって普通の女の子だ。

 いくら異母姉妹の策略のせいだからと言っても、将来を誓ったはずの相手があれほど簡単に手のひらを返してきて、面白いはずがない。

 復讐、とまではいかなくともひと泡吹かせたい気持ちくらいはあった。

 だからこそ、このシルヴァという男の話を聞いてみる気になったのだ。

 シルヴァには王宮内部に深い関係のある知人がおり、その知人から、ガウェイン第一王子殿下がつい先程フランシス家の娘を婚約破棄したと連絡を受けたのだそうだ。

 そして、

「個人的な事でガウェイン第一王子殿下を痛い目に合わせてやりたいから協力し合わないか?」

 と、シルヴァに誘われたのである。

 結果、彼と出会い、ルビイは自分の才能が実は類い稀なるものなのだという事にも初めて気付かされたのであった。

「私、知りませんでした。石が発光するだけでこんなにもお金になるだなんて」

「ははは。ルビイらしいね」

 ルビイは実は魔石師としての才能が充分にあった。

 ただ本人も周りもその事に気づかなかった。気づけない理由があった。

 とにかくルビイには魔石師として、優れた才能があるのは事実。

 それを見抜いたシルヴァは行くあての無い彼女の才能を活かそうと、この町でオルブライト商会が有する小さな空き家を貸し与え、商売を始めさせたのである。

「……そろそろ頃合いかもしれんな」

 シルヴァが不敵な笑みを浮かべて呟く。

「シルヴァ様。本当にもうじきガウェイン殿下はここにやってくるのでしょうか?」

「うん、間違いなく来る。優秀な魔石師の噂を聞きつければ必ず。その後はキミのやられた恨みつらみを倍返ししてやると良い。私としてもキミがされた事は到底許し難い。さぞ、あの時は悔しい思いをしただろう?」

「それはまあ……。けれど今はこうしてシルヴァ様のおかげで楽しく暮らせていますし、それに……」

「それに?」

「な、なんでもありませんわ!」

 ルビイはシルヴァへと密かに想いを寄せていた。

 彼に拾ってもらった恩もあるが、それ以外にもここ数ヶ月、彼と共に過ごす内に彼の人柄に惹かれていたのである。

 見た目や風貌の格好良さも去ることながら、人を思いやるその気持ちに惹かれていたのだ。

 ただ、もうルビイは恋に怯えていた。

 人を好きになる事に怯えていた、というのが正解か。ガウェイン殿下に酷い裏切られ方をしてから傷付くのが怖くなっていた。だから、ルビイのこの密かな想いは当然シルヴァには知られていない。

 それにルビイは知られなくても良いと思っている。

 シルヴァはこうして毎日様子を見に来てくれる。そしてこの小さな魔石店で自分と取り留めも無い話をしてくれる。

 それだけで今は充分に満たされていたのだから。

 だから今は、近いうちにやってくるであろう憎き相手に、毅然と立ち向かい過去と決別する為の心構えだけしておけば良いのだ。

「全くもって、殿下は愚かな選択をしたものだ。ルビイほどの逸材を捨てるなどとは、ね」

 シルヴァは店内の売り物では無い飾り用の小石をひとつ手に取りながら、呟く。

 全てはシルヴァの思惑通りに進んでいる。

 ルビイを捨てた王子も、追い出した国も、娘を捨てた親も。

 その全てを見返し、報復するであろう見通しは、遠くない未来に――。

 

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