追放令嬢、ルビイの小さな魔石店 〜婚約破棄され、身内にも見捨てられた元伯爵令嬢は王子に溺愛される〜

ごどめ

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プロローグ 容赦なき追放

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 数日後にはデビュタントを控え、オートクチュールのドレスの準備も整ったとある日。

 ルフィーリアは婚約者である第一王子殿下に呼び出された。

「……単刀直入に言おう。ルフィーリア、キミとの婚約は今、ここで正式に破棄させてもらう事とする」

 王宮、謁見の間にて。

 現在臨時の出向にて国王両陛下が不在の中、陛下の代理をしている第一王子のガウェインに、ルフィーリア・フランシスは、多くの面前でそう告げられた。

 周囲には第二、第三王子殿下、更には近衛兵長と数人の侍女たちがその様子を黙したまま見つめていた。

 突然呼び出され、とんだ辱めを受けさせられているルフィーリアだが、それよりもその事実が受け入れられなかった。周りなどまるで視界に入らず、目の前が真っ暗になりかけ、その場で倒れそうになった。そのくらい彼女にはショックだったのである。

「で、殿下。それは……何故……?」

「私とキミの婚約には意味があった。それはキミが優秀な魔石師ませきしの令嬢だったからだ。だが、実際はキミにその才能はない。そうだろう?」

「……仰る通りです。ですが殿下たちもそれはご理解して頂いた上での婚約だったのでは?」

 ルフィーリアがそこまで食い下がると、続きを話し出したのは隣にいた女性。

「ルフィーリアお姉様……そこまでして次期王妃の座を狙おうとしていたのですか? なんという狡猾さなの」

 まるでルフィーリアを世紀の大悪人かのような物言いでそう告げてきたのは、義理の妹であるカタリナ。

「ルフィーリア、よく聞け」

 再びガウェインが語り始める。

「我が国では魔道具の流通が大きな国益となり支えられているのは知っておろう?」

「は、はい。だからこそフランシス家の長女であるこの私が殿下の婚約者として任命されました。しかし殿下は私の事を政略結婚なだけではなく、心から私の事を愛しているとも仰ってくださったではないですか」

「そうだ。キミがまともな人格者であったならばな」

「そ、それはどういう……」

「わからぬのか!? 私の隣にいる可憐で哀れな女性を見て、自分の胸に手を当てて考えてみよ!」

 殿下にそう言われたルフィーリアは、カタリナを見やる。

 そこには不敵な笑みでルフィーリアを見下ろす、小悪魔のような女性がいた。

 それ以外、ルフィーリアには何が何だかさっぱりわからない。

「両親が事故死したカタリナにとって叔父であり、キミのお父上でもあるエメルド殿が彼女を引き取り養子にされたのが、そんなにも気に入らなかったのか?」

 ルフィーリアが黙りこくっていると、痺れを切らした殿下が語り出した。

「才能の無い自分を棚に上げ、養子であるカタリナを散々に虐め抜き、更にはカタリナに魔石造りを命じ、その手柄を全て横取りしお父上に報告していたらしいな?」

 ルフィーリアには殿下の言っている意味がわからなかった。

 ルフィーリアにはカタリナを虐めた記憶も無いし、命じて魔石造りをさせた事も無いし、その手柄を父に報告した事も当然無い。

 カタリナを見ると、ニヤニヤとルフィーリアを細い目で蔑むように見下している。

 そこでようやく気付いたのである。

(ああ、嵌められたんだ)

 と。

「キミは魔石師としての才能は無かった。だが、それでもフランシス家の血筋は確かに受け継いでいるし、私との間に出来る子は魔石師の力を持つ可能性は充分に高かった。加えて、真実を知るまでのキミはとてもお淑やかで他人思いの可愛らしい娘だと思ったからこそ、私も王である我が父も、キミを婚約者として認めたのだ」

 ルフィーリアも政略結婚とはいえ、王家に嫁入りできるのならと喜んで彼との婚約を引き受けたのだ。

 そして才能の無い自分は少しでも殿下に嫌われないようにと日々王宮で頑張ってきた。

 というのに。

「だが、さすがにこれまでキミが隠していたその行動内容は聞くに耐えないッ!」

「落ち着いてください、ガウェイン殿下ッ」

 声を荒げるガウェインを宥めたのは、隣にいるカタリナ。

「お姉様はきっと……きっと、悔しかったのです。才能の無い自分が、私の才能に脅かされ、そしていつか自分がフランシス家に居所を無くして追いやられてしまうであろう事が。でも、私は殿下さえ真実を知ってくださっていれば、もうそれ以上は望みませぬ……うぅ……」

「ああ……辛い思い出が蘇ってしまったんだね、カタリナ。すまない。でも安心して欲しい。あのような悪女には私が直々にその罰を突きつけてやるからな」

 殿下はめそめそと泣き真似をするカタリナの肩を抱きながら、そう言い放った。

「で、殿下……それは全てカタリナの虚言です……私は何も……」

「ええいッ! 悪女の言う事などもはや聞きたくも無いッ! 衛兵、この女を即刻王宮からつまみ出せッ! そしてこの者を二度と我が王宮に足を踏み入れさせるなと、フランシス家に通達せよッ!」

「「ッは!」」

「待って……待ってください殿下! 私は本当に……ッ!」

 ルフィーリアは言い訳をしたかったが、すぐに察した。

 先日までとは違い、明らかに下劣なモノを見るかのようなその目。

 今のガウェイン殿下のその目を見て、察したのだ。ここには自分の居場所などもうないのだ、と。

 こうしてルフィーリアは、身に覚えの無い理由で婚約破棄され、ニルヴァーナ王宮から追放されてしまったのだった。

「……さようなら、愛しのお姉様」



        ●○●○●



 ルフィーリアの悲劇はそれだけに留まらなかった。

「え……お、お父様、今なんと……?」

「頭と性格だけではなく耳まで悪くなったのか。ルフィーリア、お前の居場所などもう何処にも無いのだと言っているのだ」

 厳格で礼儀を重んじるルフィーリアの父、エメルド・フランシス伯爵は憤怒をその顔に表し、突き放した態度でルフィーリアにそう言い放つ。

「わ、私は何故勘当なのですか!?」

「私は貴様のような娘が私の血を引いているのかと思うと、虫唾が走る! 貴様のような奴とはもう話したくも無い!」

 そう言うとエメルドは、降りしきる雨の中、ルフィーリアを玄関から先へは一歩も入れる事なく、フランシス家の屋敷の中へと戻って行ってしまった。

「お、お母様! これは一体どういう事なのですか!?」

 最後の希望である彼女の実母、ディアに涙ながらに訴えるも、

「……ルフィーリア。貴女がしでかした事は軽くないという事よ。お父様からは止められたけれど、さすがに無一文は可哀想すぎるわ。だから、これは私から貴女への最後の餞別よ」

 そう言ってディアは小さな巾着袋をルフィーリアに強引に手渡す。

「ごめんなさいルフィーリア。貴女はもうこの町にはいない方が良いわ。だから……もう会う事もないでしょう」

 絶望に打ちひしがれながら、ルフィーリアは雨で凍える身体を縮こませ、フランシス家の玄関前で一人、泣きじゃくったのだった。



        ●○●○●
 


「はあ……」

 ルフィーリアは孤独のまま、夜の王都を行くあても無くとぼとぼと歩いていた。

 わけもわからず突然の地獄に堕とされた。愛する人も帰る家も失い、涙も枯れ尽くしたが、同時に先程まで降りしきっていた雨も止んでくれた事だけは幸いだった。

 おかげで夜道は出てきた月明かりに照らされ見やすい。

 ふと思い出したかのように母から貰った巾着袋を開けてみる。

 中には僅かばかりの金銭と、あてつけのようにいくつかの宝石が入っていた。

「……ひぐッ」

 その宝石を見て、また涙が溢れた。

 全ては我が家系の力のせいだと呪わずにはいられなかった。

 そんな事を思いながらしばらく途方に暮れていると、気づけば見た事もない場所に自分がいる事に気づく。

 この王都ニルヴィアはニルヴァーナ王国でも最も大きな城塞都市だ。

 いくら生まれが地元でも、見知らぬ場所はごまんとある。

 そしてルフィーリアが今いる場所は、よく父や母から治安が悪いから近づいてはいけないと言われている地下水路付近の通りだった。

「……?」

 ルフィーリアはそこで奇妙な老人を見る。

 地下水路への入り口付近でうろうろしている不思議な人物。その容姿はみすぼらしく、髪もボサボサでどう見てもホームレスのようなご老人だ。

 少し観察していると、どうやら灯籠を落としてしまい、灯りが無くて困っているように見受けた。

 なのでルフィーリアは、その辺に落ちている小粒の適当な石をひとつ拾い、それに魔力を込めた。

 そして、

「おじいさん、この石を差し上げますわ」

 困っている老人に手渡した。

「こ、これは魔光石まこうせき……!? こんな貴重な物を貰って良いのですかな?」

「いいんですの。そんなのただ光を放つだけですもの。でも、おじいさん、明かりが無くて困っていたんでしょう?」

「うむ。この迷路のような暗黒の地下水路を通る用事があったのだが、滑った拍子に灯籠を落としてしまってのう。でも魔光石があるなら道に迷う事もなかろう。ありがとう、お嬢さん」

「それなら良かったですわ」

「お嬢さん、お名前を聞いても?」

「ル……」

 ルフィーリアは名を名乗るのを躊躇った。

 何故なら厳格なる父に先程勘当される時に、

「二度とこの王都で私が付けたその名もフランシスの姓も名乗るな! 気分が悪いッ!」

 と申し渡されていたからである。

「……私はルビイ、ですわ」

「ルビイさんか。お嬢さんはやはり……」

 老人はジロジロとしばらくルフィーリアを見ていたが、結局その場ではそれ以上何も語らず、それからもう一度だけお礼を告げて、魔光石の光を頼りに地下水路へと潜って行った。

(何をしているのかしら、私は……)

 全く関係のない赤の他人を助ける前に、今夜の自分の寝床すら無い事を思い出し、再び途方に暮れた。

 そんな時である。

「……ねえキミ、さっきのは一体なんだい?」

 不意に背後からそう声を掛けられ、振り返る。

 そこにいたのは、月明かりに照らされたブラウンの髪と瞳をした、端正な顔立ちした若い男性。歳の頃はルフィーリアと同じ15、6だろうか。

 どこか気品さを感じさせるが、その服装はどちらかと言うと貴族というよりは商人、といった表現の方がよく合いそうな格好であった。
 
「貴方は……?」

「キミはやはり……!」

 ブラウンの髪の男はルフィーリアを見て一瞬だけハッとしたような顔をしたが、すぐに平静さを装い、

「私はシルヴァ。シルヴァ……オルブライト。隣国、ラズリア公国のとある港町でオルブライト商会という小さな商会の頭目を任されてる者だ」

「は、はあ……?」

 ルフィーリアは商売人の事には疎い。なので、隣国のオルブライト商会と言われてもさっぱりだった。

「先程のご老人と話している声が聞こえた。キミの名はルビイさんと言うんだろう?」

「え、ええ……」

「ルビイさん、深夜に女性が独りふらつくのは常識的に考えて危険だ。もし良ければ今夜は私の宿に来ないかい?」

 唐突のお誘いに軽いナンパだと思ったルフィーリアは、瞬時にこのシルヴァという男を警戒する。

 だが、次の一言で彼の話を聞いてみる事にしたのだ。



「そして、私と共に、ガウェイン第一王子殿下に目に物を見せてやらないか?」


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