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第一部
23話 溢れ出る気持ち
「……その、すまなかったリフィルさん。取り乱した」
数刻ほどして。
恥も外聞もなく泣き尽くしたシュバルツ様は、ようやく冷静さを取り戻し、顔を私から背けてそう謝った。
「私の弟、フェイズは先程言った通り10歳で高位魔導師の肩書きを授かったその年。ちょうど一年前にフェイズは南部の戦争で、命を落とした」
「……ッ」
私は何も言えなかった。
家族を失う悲しみは、きっと失ってしまった本人にしかわからないからだ。
「私にもっと……力があれば、フェイズを死なせずに済んだかもしれない。そう思う日々が続いた。それからは自分の弱さを毎日呪っていたよ……。そして今日、またキミを失いかけて……絶望感に苛まされていたんだ」
だからシュバルツ様は勝てないとわかっていても、私を守る為にあれほど多勢に無勢な状況であっても一歩も引かなかったんですのね。
「本当に……弱い男ですまない……」
「ううん、私の方こそごめんなさい。シュバルツ様の弟様の事……全然知りもしないで、勘違いした事ばかり言って……」
「いや、キミは全く悪くない。私が……弱いのが全ての責任なのだ。本当にすまない……」
すっかり自信を無くしてしまったのか、シュバルツ様は私に背を向けて、肩を落としている。
「……え? リ、リフィル、さん!?」
私はそんな彼の背中にそっと身体を寄せた。
「シュバルツ様、聞いてください。私の気持ち、考えを」
「リ、リフィルさんの……?」
「私もシュバルツ様と同じでした。幼い頃から自分に自信なんかなくて、誇れるところなんかひとつもなくて。それでも夢だけは一丁前に大きくて」
素敵な旦那様と華やかに晴れやかに愛を語り合いながら過ごしたい、なんて甘い夢。
私はそんな事ばかりを夢見てた。
「その癖、何も才能はないし、できないんです。だからこそ選んだ魔法がありました」
「え? 魔法? リフィルさん、魔法は……」
「私は実はひとつだけ、魔法を使う事ができますの。これは誰も知らない秘密。シュバルツ様にしかお話した事がありません」
それもそのはず。
私は怖かったのだ。
この魔法を覚えたばかりの頃、何度か誤って魔法について話そうとした時、呼吸も時間も止められてしまうような感覚を覚えさせられ、そのまま死んでしまうのではないかという恐怖を味わわされていた。
おそらくその恐怖自体も他言不可の制約によるものなのだろう。それを体験してから、そもそも自分の魔法に関する事を話す事すらやめていた。
「それは私が臆病な人間だからです。勇気がないからです。だから、私は今まで魔法は一般魔法でさえ覚えられない無能を演じてきました」
無能だ、能無しだ、と罵られている方が楽だったのだ。
そのくらい、この魔法の制約による他言不可の効力は大きかった。
「でも……初めて貴方にだけは、きちんとお話したいと思いましたの」
「リフィルさん……」
私はドクン、ドクン、と迫る恐怖心に抗い、思い切って話を切り出してみるッ!
「シュバルツ様。私ができる魔法、それは――」
瞬間。
ズゥゥゥゥゥンッ、と世界が色を失くす。
時間が止まる。そして呼吸も。
全てが白と黒のモノクロに切り替わって、キィイィイイィンという嫌な耳鳴りがする。
心が締め付けられる。
久しいこの感覚。
恐ろしいこの感覚。
私が私でなくなるような。
怖い。このままずっと意識だけ置き去りにして、この不気味な世界に取り残されてしまいそう。
長い。前と違う。
いつまでこんな状態なのか。
禁忌を犯そうとすると、取り返しがつかなくなるのだろうか。
そう思った直後。
「リフィルさん!? リフィルさん!?」
シュバルツ様の声が近くで響く。
どうやら元に戻ったようだ。
「シュバ……ルツ様……?」
「良かった、気がついたんだね。大丈夫かい!?」
「わた……くし、何が……?」
「いきなり意識を失って倒れたから慌てて抱き止めたんだ。呼びかけても反応がなくて……でも、良かった……」
やはり禁忌を犯そうとすると無理やり意識を奪いにくるようだ。
しかも言おうとする決意が強ければ強いほどに、反動も大きいのだと理解した。
「ごめんなさい、シュバルツ様……」
「いや、無事ならいいんだ。私が疲れさせてしまったかもしれないな……」
そう言って彼は私から手を離そうとしたので、逆に私が彼の首元へと手を回して抱きつき返す。
「え? リ、リフィル、さん?」
「シュバルツ様……もう少しだけ、このままで……」
怖かった。
あの感覚。
やはり抗えるものではない。
でも、それでも少しだけ。ほんの少しだけシュバルツ様にしお伝えする事ができた。
「シュバルツ様。私の言葉、どこまで聞いていたんですの?」
「キミも実は魔法が使える、と言ってたところまでだが……それがどうかしたのかい?」
そこまでは伝えても良い、という事なんだなと判断する。
でもこれ以上は無理みたいだ。
「そう、なんですの。ただそれは人に言えるようなシロモノではなくて……えっと……」
なんて言おうか悩んだ。
そして、閃いた。
彼を信じて。
「シュバルツ様。私のチカラは愛の深さに関係しているのですわ」
「あ、愛の深さ?」
「はい。真に愛する人と共に必ず幸せになる魔法。それが私の魔法、なのです」
言えた。これなら禁忌に触れてない。
「私は幸せになりたかったんですわ。もちろん家族との幸せも大事ですけれど、そうではなくて、心から愛する人と結ばれて幸せになりたいという欲求。それを叶えてほしいと精霊様に頼みました」
「その結果、キミが得たのは愛する人と必ず幸せになれる魔法……そんな魔法が……」
「あったんです。でもそんな事、恥ずかしくて誰にも言えませんでしたし、この魔法はそのチカラが目に見えないんですわ」
「む、むう……」
「聞いてください、シュバルツ様」
私は抱きついていた顔だけを少し離し、彼の瞳をジッと見据えた。
シュバルツ様は少しだけ、頬を赤らめているような気がする。
「私が真に愛しているのは……貴方です。シュバルツ・フレスベルグ様。貴方を心からお慕い申し上げております」
「……ッ!」
シュバルツ様は目を見開いて私の目を見る。
「貴方の優しさが好きです。貴方の芯の強さが好きです。貴方の笑顔が好きです。貴方の思いやりが好きです。貴方のひたむきさが好きです。貴方の可愛らしい一面も好きです。髪型も、顔も、姿形も。その全てが大好きです。だから、私の思い、ここで受け取られなくても構わない。私は今、全てを伝えたい」
私は言葉を紡ぎ続ける。
今言わなければきっと、駄目な気がするからッ!
「シュバルツ様。私は、貴方の事を世界で一番心からお慕い申し上げております」
数刻ほどして。
恥も外聞もなく泣き尽くしたシュバルツ様は、ようやく冷静さを取り戻し、顔を私から背けてそう謝った。
「私の弟、フェイズは先程言った通り10歳で高位魔導師の肩書きを授かったその年。ちょうど一年前にフェイズは南部の戦争で、命を落とした」
「……ッ」
私は何も言えなかった。
家族を失う悲しみは、きっと失ってしまった本人にしかわからないからだ。
「私にもっと……力があれば、フェイズを死なせずに済んだかもしれない。そう思う日々が続いた。それからは自分の弱さを毎日呪っていたよ……。そして今日、またキミを失いかけて……絶望感に苛まされていたんだ」
だからシュバルツ様は勝てないとわかっていても、私を守る為にあれほど多勢に無勢な状況であっても一歩も引かなかったんですのね。
「本当に……弱い男ですまない……」
「ううん、私の方こそごめんなさい。シュバルツ様の弟様の事……全然知りもしないで、勘違いした事ばかり言って……」
「いや、キミは全く悪くない。私が……弱いのが全ての責任なのだ。本当にすまない……」
すっかり自信を無くしてしまったのか、シュバルツ様は私に背を向けて、肩を落としている。
「……え? リ、リフィル、さん!?」
私はそんな彼の背中にそっと身体を寄せた。
「シュバルツ様、聞いてください。私の気持ち、考えを」
「リ、リフィルさんの……?」
「私もシュバルツ様と同じでした。幼い頃から自分に自信なんかなくて、誇れるところなんかひとつもなくて。それでも夢だけは一丁前に大きくて」
素敵な旦那様と華やかに晴れやかに愛を語り合いながら過ごしたい、なんて甘い夢。
私はそんな事ばかりを夢見てた。
「その癖、何も才能はないし、できないんです。だからこそ選んだ魔法がありました」
「え? 魔法? リフィルさん、魔法は……」
「私は実はひとつだけ、魔法を使う事ができますの。これは誰も知らない秘密。シュバルツ様にしかお話した事がありません」
それもそのはず。
私は怖かったのだ。
この魔法を覚えたばかりの頃、何度か誤って魔法について話そうとした時、呼吸も時間も止められてしまうような感覚を覚えさせられ、そのまま死んでしまうのではないかという恐怖を味わわされていた。
おそらくその恐怖自体も他言不可の制約によるものなのだろう。それを体験してから、そもそも自分の魔法に関する事を話す事すらやめていた。
「それは私が臆病な人間だからです。勇気がないからです。だから、私は今まで魔法は一般魔法でさえ覚えられない無能を演じてきました」
無能だ、能無しだ、と罵られている方が楽だったのだ。
そのくらい、この魔法の制約による他言不可の効力は大きかった。
「でも……初めて貴方にだけは、きちんとお話したいと思いましたの」
「リフィルさん……」
私はドクン、ドクン、と迫る恐怖心に抗い、思い切って話を切り出してみるッ!
「シュバルツ様。私ができる魔法、それは――」
瞬間。
ズゥゥゥゥゥンッ、と世界が色を失くす。
時間が止まる。そして呼吸も。
全てが白と黒のモノクロに切り替わって、キィイィイイィンという嫌な耳鳴りがする。
心が締め付けられる。
久しいこの感覚。
恐ろしいこの感覚。
私が私でなくなるような。
怖い。このままずっと意識だけ置き去りにして、この不気味な世界に取り残されてしまいそう。
長い。前と違う。
いつまでこんな状態なのか。
禁忌を犯そうとすると、取り返しがつかなくなるのだろうか。
そう思った直後。
「リフィルさん!? リフィルさん!?」
シュバルツ様の声が近くで響く。
どうやら元に戻ったようだ。
「シュバ……ルツ様……?」
「良かった、気がついたんだね。大丈夫かい!?」
「わた……くし、何が……?」
「いきなり意識を失って倒れたから慌てて抱き止めたんだ。呼びかけても反応がなくて……でも、良かった……」
やはり禁忌を犯そうとすると無理やり意識を奪いにくるようだ。
しかも言おうとする決意が強ければ強いほどに、反動も大きいのだと理解した。
「ごめんなさい、シュバルツ様……」
「いや、無事ならいいんだ。私が疲れさせてしまったかもしれないな……」
そう言って彼は私から手を離そうとしたので、逆に私が彼の首元へと手を回して抱きつき返す。
「え? リ、リフィル、さん?」
「シュバルツ様……もう少しだけ、このままで……」
怖かった。
あの感覚。
やはり抗えるものではない。
でも、それでも少しだけ。ほんの少しだけシュバルツ様にしお伝えする事ができた。
「シュバルツ様。私の言葉、どこまで聞いていたんですの?」
「キミも実は魔法が使える、と言ってたところまでだが……それがどうかしたのかい?」
そこまでは伝えても良い、という事なんだなと判断する。
でもこれ以上は無理みたいだ。
「そう、なんですの。ただそれは人に言えるようなシロモノではなくて……えっと……」
なんて言おうか悩んだ。
そして、閃いた。
彼を信じて。
「シュバルツ様。私のチカラは愛の深さに関係しているのですわ」
「あ、愛の深さ?」
「はい。真に愛する人と共に必ず幸せになる魔法。それが私の魔法、なのです」
言えた。これなら禁忌に触れてない。
「私は幸せになりたかったんですわ。もちろん家族との幸せも大事ですけれど、そうではなくて、心から愛する人と結ばれて幸せになりたいという欲求。それを叶えてほしいと精霊様に頼みました」
「その結果、キミが得たのは愛する人と必ず幸せになれる魔法……そんな魔法が……」
「あったんです。でもそんな事、恥ずかしくて誰にも言えませんでしたし、この魔法はそのチカラが目に見えないんですわ」
「む、むう……」
「聞いてください、シュバルツ様」
私は抱きついていた顔だけを少し離し、彼の瞳をジッと見据えた。
シュバルツ様は少しだけ、頬を赤らめているような気がする。
「私が真に愛しているのは……貴方です。シュバルツ・フレスベルグ様。貴方を心からお慕い申し上げております」
「……ッ!」
シュバルツ様は目を見開いて私の目を見る。
「貴方の優しさが好きです。貴方の芯の強さが好きです。貴方の笑顔が好きです。貴方の思いやりが好きです。貴方のひたむきさが好きです。貴方の可愛らしい一面も好きです。髪型も、顔も、姿形も。その全てが大好きです。だから、私の思い、ここで受け取られなくても構わない。私は今、全てを伝えたい」
私は言葉を紡ぎ続ける。
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