【連載版】婚約破棄? 私が能無しのブスだから? ありがとうございます。これで無駄なサービスは終了致しました。

ごどめ

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第一部

26話 許せない

「ふざけないでッ!!」

 理性より本能で、私の体と声はもう動いていた。

 セシリアたちだけでなく、突然の私の行動にシュバルツ様も開いた方が塞がらずにいる。

「誰が……誰が能無し男ですって!?」

 深夜の路地裏で私は泣きながら、顔を真っ赤にして怒鳴り上げていた。

「ふざけた事言わないでくださいッ! シュバルツ様ほど素晴らしい殿方なんて、他にいませんわッ!!」

「あ、貴女、リフィル!? それにシュバルツも!? なんですの二人揃ってこんな所で? 盗み聞きが趣味なんて、相変わらず品のない! 田舎貴族のやりそうな事ですわね!」

 セシリアがこき下ろすように私たちへと言い放つ。

「シュバルツ、貴方もこんな女にうつつを抜かしている暇があったら、少しは魔法のお勉強でもなされたら? そんなだからダリアス様に何ひとつ勝てないんですのよ?」

「……関係ない」

 シュバルツ様は瞳を細め、セシリアを睨む。

「ふん。そんなんじゃあ亡くなった弟さんだって浮かばれませんわねえ。出来損ないの兄が、田舎の出来損ないブサイク令嬢と遊んでいるだけじゃあ、ねえ? うふふふふ」

 セシリアがその言葉を吐いた瞬間。

「貴女なんかーッ!」

「きゃあッ!」

 私は気がつけばセシリアのドレスを掴んで、彼女の顔を引っ叩いていた。

「貴女なんかッ! 貴女なんかぁーッ!!」

 私は悔しくて、悔しくて、涙を流しながらセシリアのドレスを引っ張り、彼女の顔を何度も引っ叩いた。

「いたいッ! いたッ! ちょ、や、やめなさい……よッ! こ、この……は、離しなさいッ!」

「キャッ!」

 セシリアも負けじと抵抗し、私の事を殴り出した。

「調子に……乗るんじゃありませんわよッ! このぉッ!」

 セシリアは痛みに逆上し、その両手にに薄い炎の膜のようなものを宿して私の顔や服を叩いた。

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」

 ジュっと、焼けるような音がすると同時に、私の買ったばかりの薄い黄色いドレスはあちこちが焼け焦げ、叩かれた私の頬も酷い火傷をしたかのようにジンジンと痛み出す。

「あはははッ! どう!? 私の【炎熱の御手フレアハンド】のお味は!? 恋心よりも熱く燃え上がりましてよ!」

「やめろッ! セシリアーッ!!」

 その様子を見かねたシュバルツ様が、セシリアの腕を掴み、彼女を突き飛ばして私から離した。

「大丈夫か!? リフィルさん!?」

 倒れ込む私にシュバルツ様が心配そうに覗き込む。

「ふぐ……ひっく……シュバルツ様は……能無しなんかじゃ……ぐす……ひっ……ひっく……」

 頬の痛みと悔しさに泣き崩れながら私が言うと、

「セシリアッ! 貴様、何をしている!? 攻撃魔法を罪の無い人へ向けて使うのは重犯罪な事くらい知っているであろう!?」

 シュバルツ様は立ち上がって叫んだ。

「ふん! 知るもんですか。だいたいそのブスが最初に私を叩いたんですのよ? 正当防衛ですわ」

「正当防衛なわけがあろうものか! 魔法で人を傷つける行為を省みないというのなら、例え昔馴染みであろうと私は容赦はせんぞッ!」

「な、なんですの!? 私が悪いって言うんですの!? それなら皆さんに聞きましょう! ねえ? 皆さん! 私は自分の身を守っただけですわよね!?」

 セシリアの問い掛けに対し、

「「そうですわ! セシリアさんは悪くないですわッ」」

 彼女の取り巻きたちは声を揃えてそう言った。

「貴様……ダリアス共々、見下げ果てたクズに成り下がったようだな……ッ」

 シュバルツ様は、ギリギリっと奥歯を噛み締めながらセシリアを睨め付ける。

「昔馴染みの女だからとこれまで散々に貴様の悪事を見逃してきたが、もう容赦できんッ! 私の大切なリフィルさんをこんな目に合わせた報い、受けてもらうぞッ!」

 そう言ってシュバルツ様は、腰のロングソードを抜刀し、セシリアへと切っ先を向けた。

「あーあ、シュバルツ……貴方こそ大変な事をしてしまいましたわね? あろうことか淑女に向かっての抜刀。加えてその命をも脅かすかのような言動。この状況、誰がどう見ても100%貴方の方が犯罪者確定ですわ。ねえ、皆さん!?」

「「そうですわ!!」」

 シュバルツ様はそんなセシリアの煽り言葉など聞く耳持たず、今にも本気で彼女へと斬りかかろうとしている。

 駄目だ……それだけは。

 彼を犯罪者なんかにしてしまっては。

「リ、リフィルさん……!?」

 私は左手で痛む自身の顔を押さえながら、彼の袖を引っ張った。

「駄目……ですわ。それは……」

「……っく! しかし私はもう我慢ならぬ! 私の事だけならばいざ知らず、リフィルさんへの数々の嫌がらせ、暴言、そして暴力ッ! セシリアだけは許せないッ!!」

 シュバルツ様の体の震えを感じる。

 彼の心の奥底から湧き出ているその怒りが、私の為に生まれているのだとわかり、それだけで私は充分だった。

「許せない、ですって? それは私のセリフですわ。シュバルツ、どうして貴方はいつもいつも私の邪魔ばかりして、気分を害するんですの?」

「何をぬけぬけと……ッ!」

「リフィルなんて女を庇って、何が楽しいんですの? 【宝石変換ジュエルコンバータ】すらもできやしない、出来損ないの女なんかを」

「そんなもので人の価値は決まらんッ!!」

「いいえ、決まりますわ。この世は弱肉強食。お金と力がある者だけが幸せになれるんですの。だから、私は次期侯爵だけに留まらないであろう富豪貴族であるダリアス様を選んだ。彼と私なら絶対に世界で一番幸せになれますものッ!」

 セシリアが高らかに笑う。

 まるでシュバルツ様を煽るように。

「それにしてもどうでしたの? リフィルさん。見知らぬ男どもに慰み者にされた気分は?」

 セシリアが私を見下して言った。

「女の悦びを味わえましたかしら? 有象無象の男たち相手に、ねえ? おーほっほっほッ!」

 これでハッキリした。やはりダリアス様とセシリアが、野盗どもを送り込んできたのだ。

「貴女なんてあの穢らわしい男どもに一生性奴隷として飼われてしまえば良かったんですわ。それをダリアス様も心から願っておりましたわよ?」

 彼女の目は、本気でそれを願っていた。

 信じられなかった。

 人が人に対して、ここまで恐ろしく冷たくなれるなんて。

「うんうん、なるほどな。って事はやっぱりお前とダリアスがドノヴァンたちに命じたんだな?」

「ええ、そうですわッ!」

「でもいいのか? そんな風に自白しちまって」

「関係ありませんわね。なんの証拠もありませんもの!」

「ふーん? でもその声と言葉、全部覚えたぞ?」

「は……え?」

 さっきからセシリアと話していたのは私でも、シュバルツ様でもない。

「だ、誰ですの!?」

 セシリアが辺りをキョロキョロと見回すと、

「よお、こっちこっち」

 その声は、私たちの上空。空中から発せられていた。

「リフィル姉様ーッ!」

「ル、ルーフェン!? それにルーラも!?」


 ルーフェンがルーラをおぶるような格好で、宙に漂っていたのである。


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