【連載版】婚約破棄? 私が能無しのブスだから? ありがとうございます。これで無駄なサービスは終了致しました。

ごどめ

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第一部

34話 英傑選(えいけつせん)

「え、えいけつ……せん、ですの?」

「そう。リフィルさんは聞いた事はあるかな?」

「いえ……」

「それなら少し説明させて欲しい」

 そう言ってシュバルツ様はその英傑選えいけつせんというものについて説明をしてくれた。

 英傑選えいけつせんとは、読んで字の如く、英傑を選抜する為の大会である。

 その内容とは、一定の剣術技量か魔力をクリアしている者たちだけを対象とし集め、国王から課された試練をこなして行くエリシオン王国、王都における一大イベントである。

 この英傑選えいけつせんは、近年エリシオン国王陛下によって独自に設立されたイベントであり、その一番の目的は南部にあるルヴァイク共和国との戦争における優秀な戦士を発掘する為であった。

 男女問わず、この英傑選えいけつせんにて上位三位に入り込んだり、特別優秀な成績を残した者には、王から大量の金貨と優れた武具を授与されるだけにあらず、栄誉ある『英傑』の称号を贈られるのだ。

 金貨や高級武具も去る事ながら、その『英傑』の称号は全ての国民を魅了した。

 何故ならその称号を持つ者は、生涯において国から様々な支援をされるだけでなく、その者の家系も誉れ高く名を馳せる為、『英傑』の称号を得た一族はこのエリシオン王国において、絶対の幸せが保障されると言っても過言ではないからである。

「英傑選はいつも数年に一度しか開かれない。去年開かれたばかりだから今年はないと思っていたのだが、何故だか今年も開催される事になったのだ」

「シュバルツ様はその大会に出たいのですか?」

「うむ。もし、英傑の称号を得る事が叶えば、父上と母上を安心させてあげられるのだ」

「お父様とお母様を?」

 シュバルツ様はこくん、と頷き、

「父上と母上は私と同じくただでさえ優秀とは言い難い魔力適性値であり、元平民の出だという事もあって貴族間では昔からずっと肩身の狭い思いをしてきたのだ。しかし弟のフェイズが実に優れた成績を残し、父上も母上もフェイズに期待していた分、命を落とした時のショックは相当でな……。それでも父上と母上は私まで落ち込まないようにと気丈に振る舞ってくれている」

「そう、だったのですのね……」

「きっとフェイズではなく私が代わりに死んでいたら、まだ父上も母上も幸せになれたのかもしれない」

「そんな事! そんな事は絶対ありませんわッ! だって私はシュバルツ様がいなかったら……私はッ!」

「……ありがとう、リフィルさん。でも、私は不出来な兄だけがのうのうと意味もなく生き続けている事に、ずっと我慢がならなかったんだ。幾度となく自死を考えた。成長が望めないこんな能無し男の存在など、なんの意味があるのか、と」

「そんなッ! そんな事ありませんわッ! シュバルツ様はとてもたくさん優れているところがありますもの!」

「はは。リフィルさんは優しいな。でも、私はこれまでなんの自信も持てなかったんだ。正直、キミに出会えていなかったら、いつ死んでも良いとこの命を雑に扱っていた気もするんだ」

 そんな事は絶対にない!

 人の良し悪しは能力なんかで決まらないもの。

 シュバルツ様にはシュバルツ様にしかない、素晴らしさが満ち溢れている。

 けれどこのお方には……きっとそれが気づけず、そしてその周りからの想いも届かないんですわ……。

「だが」

 そうか。やっとわかった。

 シュバルツ様は今、生まれ変わろうとしている。

 いえ、生まれ変わりたいんですのね。

「今はリフィルさんの力と、ルーフェン殿に戴いた魔鉱石の濃縮核のおかげでこの体内から満ち溢れんばかりの魔力を感じる。力があると、これほどに自分に自信が持てるのだと、思わされざるを得ない」

「そうですわ。今のシュバルツ様はきっと、誰にも負けないくらい凄く強いですわッ! もしかすると、賢者様以上かもしれませんわッ!」

「ははは、さすがにそこまで大袈裟なほど強くはなってないと思うけれど、それでも今は多少、自分を誇れそうな気がするんだ。だからこの力を何に使えばいいのか、この二日ほどでじっくり考えてみたんだ」

「もしかしてそれが英傑選、ですの?」

「うむ。この力の第一優先はもちろんリフィルさんの為にある。リフィルさんを守り、癒し、幸せにする為に使いたい」

「シュバルツ様……」

「しかしそれに加えて、私はこれまで不出来な兄だった私を、一度も侮蔑する事なく育ててくれた父上と母上に恩返しもしたいのだ」

 シュバルツ様らしい考え方ですわ。

 これがおそらくダリアス様であったなら、おそらく自分の力を誇示する為だけに使ったでしょう。

 しかしシュバルツ様は違う。

 全て他者の為だけに使おうと考えている。

 だからこそ、私はそんな彼を好きになったんですわ。

「だからその、リフィルさん。許してもらえるだろうか? 私のこの力はきっと、先日言っていたキミの『真に愛する人と共に必ず幸せになる魔法』の効果だと思っている。だからそのキミからもらった愛の力を、勝手に私の両親の為に使うような無礼をしても良いものかと……」

 この人は、どこまでも繊細なんだ。

 きっとフェイズ様を亡くしてしまってから、ずっとこうだったのかもしれない。

 だからきっと、なりふり構わずに弱い者を助けて自分への贖罪としていたのかもしれない。

 私はそんな彼の手を取って、目を見据える。

「シュバルツ様。私は全てを貴方に捧げるとお話しました。その言葉に僅かにも嘘はございませんわ。私の力はもうシュバルツ様の物なんですの。いえ、もう私の存在、生きる価値、意味、その全てがシュバルツ様の物なんですの」

「リ、リフィル……さん」

「シュバルツ様、愛しております。だから、どうかそのお力、ご自分の思うように使われてください。それこそが私の一番の望みなのですから」

「……あり、がとう」

 彼はそう言って一筋の涙を零す。

 能力のない、不遇な扱いを受けた者にしかわからない痛み、苦しみ。

 それが私たちにはよくわかる。

 きっと私たちだからわかりあえる。

 だから、私はこの人と何があろうとも共に歩むと決めたんだ。

「シュバルツ様。ただしひとつだけお願いがありますわ」

「な、なんだい?」

「絶対に、私より早く死ぬ事だけは許しません。それだけは必ず守ってくださいますか?」

「リフィル、さん……」

「私はもう、貴方のいない世界など考えられません。だからもし、貴方が命を落とすような事があれば、私もすぐに後を追います。私に生きて欲しいなら、シュバルツ様が死んではいけません。それを……守ってくださいますか?」

 彼は私の頬に優しく手を触れて、


「もちろんだ。天寿を全うするまで、必ずキミの横で守り抜く盾となろう」


  そう言って、私に微笑んでくれたのだった。
 

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