【連載版】婚約破棄? 私が能無しのブスだから? ありがとうございます。これで無駄なサービスは終了致しました。

ごどめ

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第一部

40話 大きな影

 ――第一試練が始まってしばらくの刻が流れた。

 開始時、真上にあったお日様が斜めに傾いた頃、大砂時計はタイムリミットまであと少しの砂量となっていた。

「シュバルツ様……まだお戻りになられない……」

 私たちはずっと彼の帰りを王都の外壁付近で見守っていた。

 すでに結構な人数の選手が、第一試練開始地点である王都の大正門前に戻ってきている。

 それなのにシュバルツ様は中々戻られない。

 もしや何かあったのでは……。

 と、懸念していると。

「「おおおぉぉぉーッ!」」

 と、大きな歓声が響き渡る。

「はっはっは! 帰還が遅くなってしまったが、これを見よッ!」

 そう言って大正門前で声を荒げているのはダリアス様。

 担いできた大袋を乱暴にドサっと置き袋を開くと、その中には大量の魔物のコアが煽れんばかりに詰め込まれていた。

「魔物を駆除するより、これを持ち帰る方が難しい試練であったわッ! はーはっはっは!」

 そんな風に高らかに笑うダリアス様に、選手らもギャラリーも皆注目していた。

 確かにあの量を持ち帰ったのは、ダリアス様しかいない。

「凄いですわぁ、ダリアス様ぁーーーッ! 皆様見て! あの方が私の婚約者のダリアス様ですわぁ!」

 大きな声で嬉しそうに自慢しているセシリアのキンキン声が耳に響く。

「おいおいセシリア。私たちはもう夫婦であろう?」

「あ、そうでしたわ! 先日、私たちは晴れて結ばれましたぁー! 私は無事結ばれましたのぉー! だから私の事は、侯爵夫人とお呼びになってくださいましねーーッ!」

 まるで私へのあてつけのように、セシリアが声高らかに叫ぶ。

 しかしものすごくどうでも良い。

 心の底から興味がない。

 そんな事よりも私は……。

「シュバルツ様……どうかご無事で……」

 愛する彼の無事だけを祈った。

「やべぇな。もう砂時計の砂が無くなるぞ」

 ルーフェンも焦りの表情を見せる。

 シュバルツ様……これではもう、近くの森からこの場所へと走って戻るまでの時間すら間に合わない……。

「んーん? なんだぁ? 周りを見回しても随分帰っていない者がおるなあ? 特に田舎貴族のブス娘なんぞに惚れた頭の悪い能無し伯爵令息のお姿が見えんなあー!?」

 ダリアス様がわざとらしく声を張る。

「はーっはっはっは! 英傑の称号を取る、などと分不相応な事を抜かしておきながら、魔物にでも食われてしまったのではないか!? この時間になっても戻らんところを見ると本当にそうかもしれんなあ!?」

 そんなはずがないッ!

 と、私は強く思ったが、実際は心臓がはち切れそうなほどに彼の身を案じている。

 お願い神様。

 シュバルツ様をどうか無事に戻らせて……。

 英傑なんて称号、取らなくても良い。

 彼さえ無事なら……。

 私はギュッと瞳を閉じてそう祈りを捧げた瞬間。

「……ん? なんだこれは?」

 ダリアス様が近くの地面を見て、何かを呟いた。

 アレは……なんだろう? 淡い光?

「……っへ。なるほどな。シュバルツ兄様、そういう事かよ」

 隣でルーフェンが笑う。

「ル、ルーフェンあれは……?」

「姉様、ありゃあルーラが使う魔法だよ」

「え? 【空間転移トランスポート】のこと?」

「そうだ。その転移先に現れる魔法陣さ」

「それが一体……?」

 次の瞬間。

 ブォンッ! という低音と共にその魔法陣にシュバルツ様が突如現れたのである。

 それと同時に、

「タイムアーップ! ここまでだ!」

 英傑選の進行役である騎士が声をあげた。

「うむ、時間ジャストだ」

 シュバルツ様は私の方を見て、グッと親指を立てて合図をした。

 そんな彼の足元には、ダリアス様が持ってきた袋の更に二倍ほどの大きさの袋が、五袋も転がっていたのである。

「これは結果を見るまでもねえ。シュバルツ兄様がダントツの一位だぜ」

 ルーフェンがまるで自分の事のように嬉しそうに言った。

 私は何よりも彼が無傷で帰ってきてくれた事が最も嬉しかったけれど。



        ●○●○●



 第一試練が終わり上位三十六名が決定した後、少しのインターバルを挟んですぐに第二試練が開始される予定だ。

 これまでの英傑選なら、一つの試練ごとに一日休みを挟むのだが、今年は連続で行なってしまうのだとか。

 噂によれば、それほどまでに陛下は南部との戦争を危惧して、一日も早く戦力を整えたいのだそうだ。

 私としてはシュバルツ様のお身体の具合だけがひたすらに心配である。

「くっくっく。それにしても、さっきのダリアスのクソマヌケなツラ、たまんねーなあ! アレは一生記憶に残る顔だったぜッ!」

 王都内にある食堂で私たちはシュバルツ様を囲み、彼を激励すると共に、雑談を交わしていた。

「本当ですッ! ルーラもあんな気持ちの良いざまぁは久しぶりですッ! ざまぁざまぁ!」

「こ、こらルーラ。貴族の娘ともあろう人がそんなにはしたなく騒ぐんじゃありませんわよ」

「でもリフィル姉様もシュバルツ兄様も、さっきのダリアスとセシリアの顔見てざまぁねぇ、って思いましたですよね!?」

 ルーラの言葉通り、正直思った。

 何故なら先程のダリアス様は、隣に現れたシュバルツ様に腰を抜かして倒れた後、悔しそうな顔をして何も言わずに背を向け、隠れるように他選手の中へと紛れて行ったからである。

 そして近くで騒いでいたセシリアも気付けばいなくなっていたのだった。

「まあ、ダリアスの事など放っておこう。それより私は少々気になる事がある」

 シュバルツ様は神妙な面持ちで呟いた。

「もしかしてルヴァイク共和国の話か?」

「うむ。実は先程、魔物を討伐する為に森へと赴いた時、大変な魔物と遭遇した」

「大変な魔物?」

「混合生物であるマンティコアだ」

「マ、マンティコアだと!? シュバルツ兄様、そいつぁマジか!?」

 シュバルツ様はこくんと頷き、

「マンティコアは魔界にしか生息しないと言われる、魔界で生み出された凶悪な混合生物だ。あんな魔物にもし出くわしたら、相当な実力者以外は皆殺しにされる」

 私も聞いた事がある。

 マンティコアと言えば伝説級の魔物とも言われ、こちらの世界に現れるには、強力な召喚師の力が無ければまず不可能だ。

 つまり、それはルヴァイク共和国が呼び出した魔物である可能性が非常に高いのである。

「それでシュバルツ兄様、マンティコアはどうしたんだ!? 逃げたのか!?」

「安心してくれルーフェン殿。私が確実に倒した」

「なッ!? た、倒しただと? あのマンティコアをか!?」

「うむ」

「確かマンティコアには強力な魔法耐性があったはず。いくらシュバルツ兄様の魔力が桁違いに上がったと言っても、そう易々と倒せる相手じゃねえ! 一体どうやったんだ!?」

「ふふ、ルーフェン殿。私は少し自己流で上位魔法を特殊に扱うすべを最近見つけてな。それもひとえにルーフェン殿との先日の手合わせの賜物さ。なに、また後で披露するよ」

「……っへ、半端ねえぜ兄様はよぉ。おそらくマンティコアなんざに出くわしたら、この俺だって一筋縄じゃ行かねえってのにな。俺はシュバルツ兄様の魔力がとんでもねぇ事になってるから派手にやりすぎねぇようにって注意しといたけど、むしろそのおかげでなんとかなっちまったんだな」

 ルーフェンでも苦戦する魔物をシュバルツ様はいとも簡単に……。

 一体どうやったのだろう。

 私が彼に与えているのは魔力の底上げだけのはずだと思っていたけれど。

「ルーラならイケますですよ! マンティコアなら!」

「まあそうかもな。相性ってのはある。俺には苦手な相手でもルーラならイケるかもな」

 そう言ってルーラとルーフェンは笑っていた。

「ダリアスなんて、マンティコアにやられちゃえば良かったのにですッ!」

「ははは。ルーラさん、そう言うな。あんな奴でも死んでしまえば悲しむ者もいるだろう」

「むー! シュバルツ兄様な大人すぎですッ! そう思いませんか、リフィル姉様ぁ!?」

「え? ええ、そうですわね……」

 確かにシュバルツ様は凄く大人だ。

 でも今はそんな事など、なんだか些細な事のように思える。

 なんだろう、この胸騒ぎは。



 ダリアス様たちの事なんかよりも、何かもっと大きな不安を感じざるを得ないのであった。



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