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第二部
59話 思考共有【リアライズ】
「お、ちゃあんと来てくれたんだねリフィル。良かったー」
指定された王宮3階バルコニーにて。
私はシュバルツ様に適当な嘘を吐いて単身、先程の無礼な男の前へとやってきた。
「……どういう事か、説明してくださいます? それと初対面のお方から呼び捨てされるのは、あまり好ましくないのですけれど?」
私はできるだけ舐められないようにと、距離を取りながらも平静さを装ってそう告げる。
「初対面、ねえ。……っくっくっく」
銀髪の彼は下卑た笑みを浮かべる。
一体彼は何者で、私の何を知っているのかしら……。
でも私の中で警鐘が鳴り響いている。
この男は……危険だ、と。
「まぁいいか。キミには少しお願いがあってここに呼び出したんだけど、わかるかな?」
「わ、わかるわけありませんわ! そもそもあなたは一体どこの誰なのです!?」
「そうだよねえ。それじゃあ単刀直入に言おうか」
彼は不適な笑みを浮かべたまま、私の方へと歩み寄る。
私はじりじりとあとずさるが、背後の壁にぶつかり、気づけば逃がさないと言わんばかりに彼の腕は壁に伸ばされ、身体を囲われていた。
「リフィル、キミさ、僕と付き合おうよ」
「はい?」
「ブスだのなんだのって噂に聞いていたんだけど、想像以上にキミが綺麗でさ、正直僕、驚いたんだよね」
口の軽い男……!
確かに顔は整っているし、今のこの状況はいわゆる壁ドン的な感じにもなっているけれど、私はこんなのに欠片もトキメクような事なんてない。
何故なら私の愛する人はこの世界でただひとりの――。
「シュバルツだけを愛する必要はないんだよ?」
「なッ……」
「あんなやつ、どこが面白いんだ? ツラだけは多少いいみたいだけど、なんの才能もないだろう。会話も堅っ苦しくて面白くなさそうだしさ」
「あなたなんかに彼の良さはわかりませんわッ」
「まあ、それもそうか。で、話は戻るけど、どう? 僕と付き合おうよ。キミがシュバルツと別れられないって言うなら、身体だけの愛人関係でもいいよ? 僕こう見えて女性を喜ばせるの得意なんだ」
「ふざけないでッ!」
私は思わずカッとなって平手打ちを彼へと振るった。
「おっと、手癖が悪いねえ」
が、彼にはすんなりとその腕を掴まれてしまった。
「は、離してッ!」
「それはキミ次第だなあ。どう? 僕と愛人関係始めない?」
「絶対にぜぇーったいに、断りですわよ!」
「へえ? でもそうなるとキミの魔法でシュバルツが不正に出世したって悪評がこの王都中に轟く事になるけど、いいのかな?」
「べ、別に不正でもなんでも……! 彼は彼の実力で今の地位にいるのです! それに何のことを仰っているのかさっぱりわかりませんわ!」
「他人の魔力、魔法によってその功績を偽る行為は立派な犯罪行為なんだよリフィル。知らないのかい?」
「だ、だからさっきからあなたは何をッ」
「【魔力提供】。キミの唯一にして得意だった魔法、だよねえ?」
やはりこの男、知っているんですのね。
でも何故バレてしまったの!?
「何故バレたのって思ってるね。それが僕の魔法だからだよ。キミだけが『ザ・ワン』に選ばれていただなんて思い込みは傲慢にして強欲で勘違いも甚だしいというものさ」
ザ・ワン……?
って何ですの!?
「わからないかあ。キミのお兄様のルーフェンくんならきっと知ってる事だよ。魔法体系に詳しいみたいだしね」
この人、ルーフェンの事まで……!
「あ、あなたがさっきから何を言いたいのかさっぱり理解できないんですけれど!?」
「僕はね、触れた相手の記憶を読み取れるんだ。その触れている時間が長ければ長いほどより正確にね」
そういう魔法、って事!?
だからこの男、先程から私の事を……!
「本来他者にその存在をわからせる事すら禁忌とされる上位魔法【魔力提供】は、会得した者にしか理解できないし、理解されない。それを他者が知り得る方法は僕が知る限り二つ」
こ、この人はやっぱり私の魔法の事を知って……!
「一つは精霊と唯一対等に会話する事が許された全世界に三名しかいないとされる聖教の最高責任者、大司教が直接現在全世界に存在している想いの結晶、つまり『魔法』の存在を精霊から教えてもらう方法」
聖教のトップは確かに全ての魔法を知る事ができるとは聞いていたけれど、本当なのね。
「けれどそれはあくまで大司教だけが知る事ができる。大司教は精霊との会話内容をみだらに漏らす事は許されないし、できない。つまり大司教から何かを知る術はない」
それではもうひとつの方法とは一体なに?
「もうひとつの方法は、上位魔法【思考共有】を会得した者がその対象に直接触れて記憶を読み取った場合だ」
聞いた事もない魔法。
けれど、この世に存在する上位魔法はハッキリ言って未知数。想いの数だけ魔法は生まれるというし、誰も知らない魔法が突如生まれる事も決して不思議ではない。
実際に私の【魔力提供】が想いの結晶から生まれたのだから。
「……じゃああなたがそれを扱えると言うんですの?」
「その通り。まさに【思考共有】は僕だけの『ザ・ワン』だ」
「さ、さっきからあなたの言ってるそれ! ザ・ワンとは何の事なんですの!?」
「ザ・ワンについては自分で調べなよ。それよりもさ、そんなわけだから僕にはキミの秘密、全部わかっちゃってるワケ」
「……っく」
私はさっきから何度もこの男の手を振り解こうと必死にもがいているけれど、彼の力は強くて、全く逃げられそうにない。
「どう? キミの秘密を漏らされたくなければ、僕と身体の関係始める? それか、シュバルツと別れて僕と付き合う? 今のキミに選べる選択肢はその二つだけだよ」
「そ、そんな事、選べるわけがありませんわッ! 私はシュバルツ様を、シュバルツ様だけを愛しています! そんなのを選ぶくらいならここで自害する事だって厭わない……ッ」
「んー、じゃあこうしようか」
「な、何を……!?」
銀髪の男は私の頭の上に手を置くと、少しの間、瞳を閉じた。
今なら逃げられるかも、と思った直後。
私は急激な眠気に襲われた。
「既成事実を作ってしまえば、キミも考え直さないわけにはいかないよね」
一体……彼は私に……何を……?
「おやすみリフィル。次に目覚めた時、キミは必ず僕を選ぶ事になる。この僕、ザリアス・マクシムスの事をね」
マクシ……ムス……。
まさ……か……。
彼の名だけをようやく知って、私の意識はそこで途絶えた。
指定された王宮3階バルコニーにて。
私はシュバルツ様に適当な嘘を吐いて単身、先程の無礼な男の前へとやってきた。
「……どういう事か、説明してくださいます? それと初対面のお方から呼び捨てされるのは、あまり好ましくないのですけれど?」
私はできるだけ舐められないようにと、距離を取りながらも平静さを装ってそう告げる。
「初対面、ねえ。……っくっくっく」
銀髪の彼は下卑た笑みを浮かべる。
一体彼は何者で、私の何を知っているのかしら……。
でも私の中で警鐘が鳴り響いている。
この男は……危険だ、と。
「まぁいいか。キミには少しお願いがあってここに呼び出したんだけど、わかるかな?」
「わ、わかるわけありませんわ! そもそもあなたは一体どこの誰なのです!?」
「そうだよねえ。それじゃあ単刀直入に言おうか」
彼は不適な笑みを浮かべたまま、私の方へと歩み寄る。
私はじりじりとあとずさるが、背後の壁にぶつかり、気づけば逃がさないと言わんばかりに彼の腕は壁に伸ばされ、身体を囲われていた。
「リフィル、キミさ、僕と付き合おうよ」
「はい?」
「ブスだのなんだのって噂に聞いていたんだけど、想像以上にキミが綺麗でさ、正直僕、驚いたんだよね」
口の軽い男……!
確かに顔は整っているし、今のこの状況はいわゆる壁ドン的な感じにもなっているけれど、私はこんなのに欠片もトキメクような事なんてない。
何故なら私の愛する人はこの世界でただひとりの――。
「シュバルツだけを愛する必要はないんだよ?」
「なッ……」
「あんなやつ、どこが面白いんだ? ツラだけは多少いいみたいだけど、なんの才能もないだろう。会話も堅っ苦しくて面白くなさそうだしさ」
「あなたなんかに彼の良さはわかりませんわッ」
「まあ、それもそうか。で、話は戻るけど、どう? 僕と付き合おうよ。キミがシュバルツと別れられないって言うなら、身体だけの愛人関係でもいいよ? 僕こう見えて女性を喜ばせるの得意なんだ」
「ふざけないでッ!」
私は思わずカッとなって平手打ちを彼へと振るった。
「おっと、手癖が悪いねえ」
が、彼にはすんなりとその腕を掴まれてしまった。
「は、離してッ!」
「それはキミ次第だなあ。どう? 僕と愛人関係始めない?」
「絶対にぜぇーったいに、断りですわよ!」
「へえ? でもそうなるとキミの魔法でシュバルツが不正に出世したって悪評がこの王都中に轟く事になるけど、いいのかな?」
「べ、別に不正でもなんでも……! 彼は彼の実力で今の地位にいるのです! それに何のことを仰っているのかさっぱりわかりませんわ!」
「他人の魔力、魔法によってその功績を偽る行為は立派な犯罪行為なんだよリフィル。知らないのかい?」
「だ、だからさっきからあなたは何をッ」
「【魔力提供】。キミの唯一にして得意だった魔法、だよねえ?」
やはりこの男、知っているんですのね。
でも何故バレてしまったの!?
「何故バレたのって思ってるね。それが僕の魔法だからだよ。キミだけが『ザ・ワン』に選ばれていただなんて思い込みは傲慢にして強欲で勘違いも甚だしいというものさ」
ザ・ワン……?
って何ですの!?
「わからないかあ。キミのお兄様のルーフェンくんならきっと知ってる事だよ。魔法体系に詳しいみたいだしね」
この人、ルーフェンの事まで……!
「あ、あなたがさっきから何を言いたいのかさっぱり理解できないんですけれど!?」
「僕はね、触れた相手の記憶を読み取れるんだ。その触れている時間が長ければ長いほどより正確にね」
そういう魔法、って事!?
だからこの男、先程から私の事を……!
「本来他者にその存在をわからせる事すら禁忌とされる上位魔法【魔力提供】は、会得した者にしか理解できないし、理解されない。それを他者が知り得る方法は僕が知る限り二つ」
こ、この人はやっぱり私の魔法の事を知って……!
「一つは精霊と唯一対等に会話する事が許された全世界に三名しかいないとされる聖教の最高責任者、大司教が直接現在全世界に存在している想いの結晶、つまり『魔法』の存在を精霊から教えてもらう方法」
聖教のトップは確かに全ての魔法を知る事ができるとは聞いていたけれど、本当なのね。
「けれどそれはあくまで大司教だけが知る事ができる。大司教は精霊との会話内容をみだらに漏らす事は許されないし、できない。つまり大司教から何かを知る術はない」
それではもうひとつの方法とは一体なに?
「もうひとつの方法は、上位魔法【思考共有】を会得した者がその対象に直接触れて記憶を読み取った場合だ」
聞いた事もない魔法。
けれど、この世に存在する上位魔法はハッキリ言って未知数。想いの数だけ魔法は生まれるというし、誰も知らない魔法が突如生まれる事も決して不思議ではない。
実際に私の【魔力提供】が想いの結晶から生まれたのだから。
「……じゃああなたがそれを扱えると言うんですの?」
「その通り。まさに【思考共有】は僕だけの『ザ・ワン』だ」
「さ、さっきからあなたの言ってるそれ! ザ・ワンとは何の事なんですの!?」
「ザ・ワンについては自分で調べなよ。それよりもさ、そんなわけだから僕にはキミの秘密、全部わかっちゃってるワケ」
「……っく」
私はさっきから何度もこの男の手を振り解こうと必死にもがいているけれど、彼の力は強くて、全く逃げられそうにない。
「どう? キミの秘密を漏らされたくなければ、僕と身体の関係始める? それか、シュバルツと別れて僕と付き合う? 今のキミに選べる選択肢はその二つだけだよ」
「そ、そんな事、選べるわけがありませんわッ! 私はシュバルツ様を、シュバルツ様だけを愛しています! そんなのを選ぶくらいならここで自害する事だって厭わない……ッ」
「んー、じゃあこうしようか」
「な、何を……!?」
銀髪の男は私の頭の上に手を置くと、少しの間、瞳を閉じた。
今なら逃げられるかも、と思った直後。
私は急激な眠気に襲われた。
「既成事実を作ってしまえば、キミも考え直さないわけにはいかないよね」
一体……彼は私に……何を……?
「おやすみリフィル。次に目覚めた時、キミは必ず僕を選ぶ事になる。この僕、ザリアス・マクシムスの事をね」
マクシ……ムス……。
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