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第二部
62話 望まぬ来客
「……そんな! それは本当なのかルーフェン殿?」
「ああ。考えたくはない可能性だったんだが、念の為聞き込みをしてみたらそういう目撃情報をついさっき仲間の奴から手に入れちまった」
――声が聞こえてしまっていた。
フレスベルグ邸の私の部屋の隣は今現在、物置き部屋となっているのだが、実はフレスベルグ家の2階の壁はそれほど分厚くなく、隣部屋の物音や声は割と筒抜けやすい。
更に言えば隣の物置き部屋はあまり使われない部屋の為、シュバルツ様も油断したのだろう。
私に気をつかって隣部屋に移動したものの、ルーフェンとシュバルツ様の会話する声が壁伝いにハッキリと聞こえてしまっているのである。
「まさかリフィル姉様がマクシムス家に捕らわれていた、なんてな」
「一体どういう事なのだ!? ダリアスの奴はマクシムス家から追放されたのだろう!?」
「ちょ、シュバルツ兄様落ち着けって。もう少し声を抑えて」
「あ、ああ……すまないルーフェン殿」
「えっとな、俺の仲間の奴が見たのはマクシムス家の屋敷からリフィル姉様が出て来たって事と、その少し後に銀髪の謎の男が出て来たって情報だ。しかしダリアスは銀髪じゃねえ。一体誰なんだか……」
「銀髪の……まさか!」
「ん? シュバルツ兄様知ってんのか?」
「まさか……帰って来ていたのか、ザリアス」
「帰って来た? ザリアス? 一体何の事だ?」
「ザリアス・マクシムス。ダリアスのひとつ歳下で腹違いのマクシムス家の次男だ。随分前に聞いた話では、確かお父上であるギリアム殿の妾の子らしいが、不貞の子だと言う事でその妾の女性の家で育てられていたらしい」
「ほお……となると考えられるのは後継者か」
「おそらくそうだルーフェン殿。ダリアスがエリシオンから追放され居場所を無くした後、マクシムス家には子供がいなくなってしまった。それでザリアスを引き取ったのかもしれん」
「シュバルツ兄様はそのザリアスって奴に会った事があんのか?」
「いや、無い。以前セシリアから少し噂話程度に聞き及んだ程度だ。セシリア曰く、ダリアスよりも男前だという話だった」
「へえ。しかしそうなるとそのザリアスって奴がリフィル姉様を攫ったのか? 一体何の為に……」
「わからん……。だがしかし、そうなら何故リフィルさんはその事を我々に話してくれないのだろうか」
「……こんな事シュバルツ兄様に言うのは憚られるんだが、俺は正直、リフィル姉様がそいつに乱暴されたんだと思った。だが、医者の話じゃ乱暴にされた形跡はないと言っていた」
「私も医者のそれを聞いて安心した。リフィルさんの身体に何かあったなら私はとても冷静ではいられない」
「そう、だな」
「……何か含みがありそうだ。ルーフェン殿、一体どう考えておられるのだ?」
「姉様はもしかして……いやいや、んな事あるわけがねえ。悪いシュバルツ兄様。俺の考えすぎだ」
「……」
二人の会話はそこで終わった。
私がマクシムス家から出て来たのを知られている。
ザリアスに拉致されていた事も。
どうしよう。
彼らになんて言えばいいの?
いえ、そもそも私はどうしてこんなにも怯えているの?
今はもう【魔力提供】は使えない。
私の魔法は【女神の祝福】になって、それをシュバルツ様に施したのだから、別に【魔力提供】の事を言いふらされたところで、なんの証拠もないというのに。
でも、証拠は無くてもそんな噂が立つのは好ましい事ではないし、ダリアスが一度は優秀な魔力を持ちながらも落ちぶれてしまったという王都では特に有名なその経緯もあるから、やはり下手な事を言いふらされるわけにはいかない。
やっぱりこの事は隠し通さなくちゃ駄目だ。
なんとかしてあのザリアスの機嫌を損ねないように……。
……。
損ねないように?
え、待って。
私は今、何を思ったの?
まさか私は今、ザリアスの機嫌を損ねないように彼に抱かれ続けようとでも考えたの!?
「馬鹿馬鹿馬鹿! 私は何を!」
自分で自分が嫌になりそうだった。
もう何も考えたく無い。
そう思って私は再びベッドに横になって瞳を閉じた。
●○●○●
それから。
気づけば室内は暗闇に包まれていた。
いつの間にかまた深く眠ってしまったみたい。
少しだけ空腹感も覚えた。
フレスベルグ邸のメイドさんに言って、何か軽い物をお願いしようと思って部屋を出ようとした時。
「リフィルお嬢様」
ちょうど扉の向こうから声がした。
「何かしら?」
「ちょうどお目覚めでしたか。リフィルお嬢様にお客様がいらしております」
私に……?
「実は数刻ほど前からいらしていて、応接間にてシュバルツおぼっちゃまとルーフェン様がそのお客様のお相手をなさっております。リフィルお嬢様がお目覚めになったら呼んできて欲しいと言われておりまして」
「そう。わかりましたわ、すぐ参ります」
ざわつく胸をギュッと抑えて、私は侍女に案内されて1階にある応接間へと向かう。
そしてそこで私を待ち受けていた者は――。
「リフィルさん」
「リフィル姉様」
みんなが私を見た。
私はシュバルツ様とお義父様、お義母様、それにルーフェンがソファーに腰掛けているその対面側にいる客人に目をやる。
「やあ、リフィル」
そこにいたのはあの銀髪の男。
ザリアス・マクシムスだった。
「ああ。考えたくはない可能性だったんだが、念の為聞き込みをしてみたらそういう目撃情報をついさっき仲間の奴から手に入れちまった」
――声が聞こえてしまっていた。
フレスベルグ邸の私の部屋の隣は今現在、物置き部屋となっているのだが、実はフレスベルグ家の2階の壁はそれほど分厚くなく、隣部屋の物音や声は割と筒抜けやすい。
更に言えば隣の物置き部屋はあまり使われない部屋の為、シュバルツ様も油断したのだろう。
私に気をつかって隣部屋に移動したものの、ルーフェンとシュバルツ様の会話する声が壁伝いにハッキリと聞こえてしまっているのである。
「まさかリフィル姉様がマクシムス家に捕らわれていた、なんてな」
「一体どういう事なのだ!? ダリアスの奴はマクシムス家から追放されたのだろう!?」
「ちょ、シュバルツ兄様落ち着けって。もう少し声を抑えて」
「あ、ああ……すまないルーフェン殿」
「えっとな、俺の仲間の奴が見たのはマクシムス家の屋敷からリフィル姉様が出て来たって事と、その少し後に銀髪の謎の男が出て来たって情報だ。しかしダリアスは銀髪じゃねえ。一体誰なんだか……」
「銀髪の……まさか!」
「ん? シュバルツ兄様知ってんのか?」
「まさか……帰って来ていたのか、ザリアス」
「帰って来た? ザリアス? 一体何の事だ?」
「ザリアス・マクシムス。ダリアスのひとつ歳下で腹違いのマクシムス家の次男だ。随分前に聞いた話では、確かお父上であるギリアム殿の妾の子らしいが、不貞の子だと言う事でその妾の女性の家で育てられていたらしい」
「ほお……となると考えられるのは後継者か」
「おそらくそうだルーフェン殿。ダリアスがエリシオンから追放され居場所を無くした後、マクシムス家には子供がいなくなってしまった。それでザリアスを引き取ったのかもしれん」
「シュバルツ兄様はそのザリアスって奴に会った事があんのか?」
「いや、無い。以前セシリアから少し噂話程度に聞き及んだ程度だ。セシリア曰く、ダリアスよりも男前だという話だった」
「へえ。しかしそうなるとそのザリアスって奴がリフィル姉様を攫ったのか? 一体何の為に……」
「わからん……。だがしかし、そうなら何故リフィルさんはその事を我々に話してくれないのだろうか」
「……こんな事シュバルツ兄様に言うのは憚られるんだが、俺は正直、リフィル姉様がそいつに乱暴されたんだと思った。だが、医者の話じゃ乱暴にされた形跡はないと言っていた」
「私も医者のそれを聞いて安心した。リフィルさんの身体に何かあったなら私はとても冷静ではいられない」
「そう、だな」
「……何か含みがありそうだ。ルーフェン殿、一体どう考えておられるのだ?」
「姉様はもしかして……いやいや、んな事あるわけがねえ。悪いシュバルツ兄様。俺の考えすぎだ」
「……」
二人の会話はそこで終わった。
私がマクシムス家から出て来たのを知られている。
ザリアスに拉致されていた事も。
どうしよう。
彼らになんて言えばいいの?
いえ、そもそも私はどうしてこんなにも怯えているの?
今はもう【魔力提供】は使えない。
私の魔法は【女神の祝福】になって、それをシュバルツ様に施したのだから、別に【魔力提供】の事を言いふらされたところで、なんの証拠もないというのに。
でも、証拠は無くてもそんな噂が立つのは好ましい事ではないし、ダリアスが一度は優秀な魔力を持ちながらも落ちぶれてしまったという王都では特に有名なその経緯もあるから、やはり下手な事を言いふらされるわけにはいかない。
やっぱりこの事は隠し通さなくちゃ駄目だ。
なんとかしてあのザリアスの機嫌を損ねないように……。
……。
損ねないように?
え、待って。
私は今、何を思ったの?
まさか私は今、ザリアスの機嫌を損ねないように彼に抱かれ続けようとでも考えたの!?
「馬鹿馬鹿馬鹿! 私は何を!」
自分で自分が嫌になりそうだった。
もう何も考えたく無い。
そう思って私は再びベッドに横になって瞳を閉じた。
●○●○●
それから。
気づけば室内は暗闇に包まれていた。
いつの間にかまた深く眠ってしまったみたい。
少しだけ空腹感も覚えた。
フレスベルグ邸のメイドさんに言って、何か軽い物をお願いしようと思って部屋を出ようとした時。
「リフィルお嬢様」
ちょうど扉の向こうから声がした。
「何かしら?」
「ちょうどお目覚めでしたか。リフィルお嬢様にお客様がいらしております」
私に……?
「実は数刻ほど前からいらしていて、応接間にてシュバルツおぼっちゃまとルーフェン様がそのお客様のお相手をなさっております。リフィルお嬢様がお目覚めになったら呼んできて欲しいと言われておりまして」
「そう。わかりましたわ、すぐ参ります」
ざわつく胸をギュッと抑えて、私は侍女に案内されて1階にある応接間へと向かう。
そしてそこで私を待ち受けていた者は――。
「リフィルさん」
「リフィル姉様」
みんなが私を見た。
私はシュバルツ様とお義父様、お義母様、それにルーフェンがソファーに腰掛けているその対面側にいる客人に目をやる。
「やあ、リフィル」
そこにいたのはあの銀髪の男。
ザリアス・マクシムスだった。
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