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第二部
66話 逆転劇
「久しぶりに来ましたわ」
鬱蒼とした森は、日の光ですらほとんど遮断してしまうのに、その中は魔力の光に満ち溢れた神秘的な場所。
それが精霊の森。
大精霊テロメア様がおわす森である。
精霊の森はテロメア様への参拝客が道に迷わないようにする為のいくつかの目印がある。
その目印たる石像を目指した私はすぐに目的の人物を見つけた。
「やあ、リフィル。予定通り来てくれたね」
舞踏会の翌日にこの場所へ来て欲しいとザリアスに命じられ、私は言う通りにした。
「舞踏会でシュバルツ様に離婚を突きつけられましたわ。それも大勢の目の前で」
「そうだったの。それは辛かったね。でもこれでキミの魔法は以前の通り、元通りさ。ザ・ワンはその効力をキミに戻しただろう」
「……」
私は黙ってザリアスを睨み付ける。
「ついでにキミはもうこれでフリーだろう? 僕と一緒にならないか? シュバルツにも愛想を尽かされて、あんな公衆の面前で恥をかかされたキミを助けられるのはもう全ての事情を知る僕しかいないんだからさ」
「あなたが私を助ける?」
「そうさ。リフィル、キミの身体にも教えてあげただろう? 僕ならキミの身体も心も満足してあげられる」
「そんなの嘘よ」
「嘘なんかじゃない。それは体験したキミが一番記憶に残ってるだろう?」
そう。
私が絶望してしまう原因となったあの忌まわしい記憶。
このザリアスとかいう醜悪な男に身体を預けてしまったという記憶。
それが私の一番の弱みだった。
「……でもそんな事はありませんでしたわ」
「なに?」
「ザリアス。私はあなたと寝た記憶なんてありませんもの」
「何を今更。別にキミが勝手にそう言い訳して自分に嘘を吐くのは構わない。けれどあの日に起きた事は揺るぎない事実だ。それはリフィル、キミが一番よくわかっているだろう?」
「ええ。私があなたによってみだらな格好にさせられ、眠らされていたという事実だけはよくわかっておりますわ」
「何を馬鹿な事を。激しく愛し合ったあの夜も忘れたと? っは! 嘘を吐いて自分の心を守ったところでもうシュバルツは帰って来ない。彼には完全に見限られたんだからね!」
そうなるように仕向けたのは全てこの男。
そんな事、そんな簡単な事わかりきっていたのに。
あのシュバルツ様が、私の事を何があっても守ると言ってくれたあの言葉を、裏切るはずがないとわかっていたのに。
私は一体何を怯えていたの。
「私が、誰を見限るだと?」
これまでに私が聞いた事もないような低く恐ろしいその声を震わせて、私の背後から現れたのは。
「シュ、シュバルツ!? なんで貴様がここに……!?」
「なんで? だと? そんな事決まっている」
シュバルツ様がそこまで言うと、私の前に立って、剣を抜いた。
「悪を……貴様を処刑する為だ、ザリアス・マクシムスッ!」
シュバルツ様は怒声を響かせた。
「何故ここにシュバルツが……。くそ、リフィル、お前まさかシュバルツに全て話したのか!?」
「ええ、お話ししました。あなたにされた事を全部」
「くそ……リフィル、貴様。僕の命令を無視してただで済むと思っているのか!?」
「思っていますわ。私にはシュバルツ様がおりますもの」
「……く、くく。愚かな……よく聞けシュバルツ! そのリフィルの言葉が本当なら、お前はとんだ淫乱売女に騙されていたという事だ! いいか!? その女はなぁ、この僕に股を開いてるんだよ! お前というパートナーがいながら僕に散々に抱かれてよがってるんだよ! だから、今日までリフィルは僕に逆らえもしなかったのさッ!」
「……ほう?」
「こうなればリフィルの【魔力提供】は一旦諦めて全部暴露してやるよ! リフィルは、無能なお前の為にこれまで尽くして来てやったんだ! だがお前があまりに無能すぎて、僕に抱かれる事を選んだんだよ! はははッ!」
「……世迷いごとを」
「迷いごとを言っていると思い込みたければそう思えッ! 何を言おうとリフィルは僕に抱かれ、そして喜びを覚えている! それは何故かわかるか!? シュバルツ、貴様の粗末なソレではリフィルを満足させられやしないからだよ! はーっはっはっはッ!」
下衆の言葉に私はギリっと奥歯を噛んだ。
けれどシュバルツ様は眉ひとつ動かさない。
「言いたい事はそれだけか?」
「いいや、まだだね! シュバルツ、貴様の栄光は所詮まがいものだ! 貴様は無能の癖に大きく勘違いしている愚か者なんだよ! 僕はこれから貴様の虚偽の魔力について王都中に吹聴してきてやる! 陛下の耳に入れば貴様もおしまいだよ!」
「ザリアス。貴様の言っている事で唯一その通りだと思っているのは、そこだけだ。私は大きく勘違いをしていた。リフィルさんの愛の力で支えられて来たとは思っていたが、実際に彼女にそんな力があって助けられていた事までは知らなかった。貴様のおかげでその事だけは知る事ができた」
「何を余裕ぶっている!? 貴様の魔力はまがいものなんだ。私と私の仲間が貴様の事を王都中に言いふらせばどうなるかわかって……」
「どうにもならねーよバーカ」
ザリアスの言葉を嘲るようにそう言ったのは、森の中の木々の隙間から現れたルーフェンであった。
「き、貴様はルーフェン……! 何故貴様もここに……!」
「何故? そんなの決まってる。コイツをとっ捕まえる為だよ」
そういうとルーフェンは縄でぐるぐる巻きにされた一人の男を蹴り飛ばした。
「うぐぁ!」
ドサっとその場に倒されたのは、私をここまで運んでくれた御者のジルベールだ。
「ジルベール!?」
「も、申し訳ございませんザリアスぼっちゃま……」
ジルベールはフレスベルグ家に古くから仕えていたにもかかわらず、今回の一件で私たちの事を売った裏切り者だったのである。
「失望したぜ。ジルベールさんにゃあリフィル姉様が結婚した後、何度も世話になったってのによ」
ルーフェンは心底がっかりしたように、ジルベールを見下す。
「だがまぁ、ジルベールさんもザリアスに脅されてたんだけどな」
ルーフェンの言葉に私もすぐピンと来た。
「それではジルベールも私と同様に【思考共有】で記憶を書き換えられていたの?」
「ああ、その通りだぜ姉様」
鬱蒼とした森は、日の光ですらほとんど遮断してしまうのに、その中は魔力の光に満ち溢れた神秘的な場所。
それが精霊の森。
大精霊テロメア様がおわす森である。
精霊の森はテロメア様への参拝客が道に迷わないようにする為のいくつかの目印がある。
その目印たる石像を目指した私はすぐに目的の人物を見つけた。
「やあ、リフィル。予定通り来てくれたね」
舞踏会の翌日にこの場所へ来て欲しいとザリアスに命じられ、私は言う通りにした。
「舞踏会でシュバルツ様に離婚を突きつけられましたわ。それも大勢の目の前で」
「そうだったの。それは辛かったね。でもこれでキミの魔法は以前の通り、元通りさ。ザ・ワンはその効力をキミに戻しただろう」
「……」
私は黙ってザリアスを睨み付ける。
「ついでにキミはもうこれでフリーだろう? 僕と一緒にならないか? シュバルツにも愛想を尽かされて、あんな公衆の面前で恥をかかされたキミを助けられるのはもう全ての事情を知る僕しかいないんだからさ」
「あなたが私を助ける?」
「そうさ。リフィル、キミの身体にも教えてあげただろう? 僕ならキミの身体も心も満足してあげられる」
「そんなの嘘よ」
「嘘なんかじゃない。それは体験したキミが一番記憶に残ってるだろう?」
そう。
私が絶望してしまう原因となったあの忌まわしい記憶。
このザリアスとかいう醜悪な男に身体を預けてしまったという記憶。
それが私の一番の弱みだった。
「……でもそんな事はありませんでしたわ」
「なに?」
「ザリアス。私はあなたと寝た記憶なんてありませんもの」
「何を今更。別にキミが勝手にそう言い訳して自分に嘘を吐くのは構わない。けれどあの日に起きた事は揺るぎない事実だ。それはリフィル、キミが一番よくわかっているだろう?」
「ええ。私があなたによってみだらな格好にさせられ、眠らされていたという事実だけはよくわかっておりますわ」
「何を馬鹿な事を。激しく愛し合ったあの夜も忘れたと? っは! 嘘を吐いて自分の心を守ったところでもうシュバルツは帰って来ない。彼には完全に見限られたんだからね!」
そうなるように仕向けたのは全てこの男。
そんな事、そんな簡単な事わかりきっていたのに。
あのシュバルツ様が、私の事を何があっても守ると言ってくれたあの言葉を、裏切るはずがないとわかっていたのに。
私は一体何を怯えていたの。
「私が、誰を見限るだと?」
これまでに私が聞いた事もないような低く恐ろしいその声を震わせて、私の背後から現れたのは。
「シュ、シュバルツ!? なんで貴様がここに……!?」
「なんで? だと? そんな事決まっている」
シュバルツ様がそこまで言うと、私の前に立って、剣を抜いた。
「悪を……貴様を処刑する為だ、ザリアス・マクシムスッ!」
シュバルツ様は怒声を響かせた。
「何故ここにシュバルツが……。くそ、リフィル、お前まさかシュバルツに全て話したのか!?」
「ええ、お話ししました。あなたにされた事を全部」
「くそ……リフィル、貴様。僕の命令を無視してただで済むと思っているのか!?」
「思っていますわ。私にはシュバルツ様がおりますもの」
「……く、くく。愚かな……よく聞けシュバルツ! そのリフィルの言葉が本当なら、お前はとんだ淫乱売女に騙されていたという事だ! いいか!? その女はなぁ、この僕に股を開いてるんだよ! お前というパートナーがいながら僕に散々に抱かれてよがってるんだよ! だから、今日までリフィルは僕に逆らえもしなかったのさッ!」
「……ほう?」
「こうなればリフィルの【魔力提供】は一旦諦めて全部暴露してやるよ! リフィルは、無能なお前の為にこれまで尽くして来てやったんだ! だがお前があまりに無能すぎて、僕に抱かれる事を選んだんだよ! はははッ!」
「……世迷いごとを」
「迷いごとを言っていると思い込みたければそう思えッ! 何を言おうとリフィルは僕に抱かれ、そして喜びを覚えている! それは何故かわかるか!? シュバルツ、貴様の粗末なソレではリフィルを満足させられやしないからだよ! はーっはっはっはッ!」
下衆の言葉に私はギリっと奥歯を噛んだ。
けれどシュバルツ様は眉ひとつ動かさない。
「言いたい事はそれだけか?」
「いいや、まだだね! シュバルツ、貴様の栄光は所詮まがいものだ! 貴様は無能の癖に大きく勘違いしている愚か者なんだよ! 僕はこれから貴様の虚偽の魔力について王都中に吹聴してきてやる! 陛下の耳に入れば貴様もおしまいだよ!」
「ザリアス。貴様の言っている事で唯一その通りだと思っているのは、そこだけだ。私は大きく勘違いをしていた。リフィルさんの愛の力で支えられて来たとは思っていたが、実際に彼女にそんな力があって助けられていた事までは知らなかった。貴様のおかげでその事だけは知る事ができた」
「何を余裕ぶっている!? 貴様の魔力はまがいものなんだ。私と私の仲間が貴様の事を王都中に言いふらせばどうなるかわかって……」
「どうにもならねーよバーカ」
ザリアスの言葉を嘲るようにそう言ったのは、森の中の木々の隙間から現れたルーフェンであった。
「き、貴様はルーフェン……! 何故貴様もここに……!」
「何故? そんなの決まってる。コイツをとっ捕まえる為だよ」
そういうとルーフェンは縄でぐるぐる巻きにされた一人の男を蹴り飛ばした。
「うぐぁ!」
ドサっとその場に倒されたのは、私をここまで運んでくれた御者のジルベールだ。
「ジルベール!?」
「も、申し訳ございませんザリアスぼっちゃま……」
ジルベールはフレスベルグ家に古くから仕えていたにもかかわらず、今回の一件で私たちの事を売った裏切り者だったのである。
「失望したぜ。ジルベールさんにゃあリフィル姉様が結婚した後、何度も世話になったってのによ」
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「だがまぁ、ジルベールさんもザリアスに脅されてたんだけどな」
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