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第二部
67話 忌まわしい記憶の真相
私がザリアスに脅された挙句に彼に抱かれたというこの忌々しい記憶。
それこそがザリアスの魔法の真髄だったのだ。
「ったく、てめぇみたいな奴が随分とレアなザ・ワンをよくも習得したもんだぜ。【思考共有】なんて御伽話にしか聞いたこともねぇ魔法だったってのによ」
ルーフェンの言う通り、ザリアスの魔法もザ・ワンと呼ばれる魔法なだけあって、相当に稀有なものらしい。
「ルーフェン殿。やはりこの【思考共有】という魔法は非常に危険だ」
シュバルツ様は鬼の形相でザリアスを睨みつけながらそう言った。
「ああ。姉様なんかころりと騙されちまってるもんな。その魔法によって書き換えられた偽物の記憶によぉ」
ルーフェンの言う通り、私はすっかり騙されて、踊らされてしまっていた。
このザリアスという醜悪な男に抱かれてしまったという偽物の記憶に!
「なあ、そうだろうザリアス?」
「……く」
ルーフェンは憎々しげにザリアスへと歩み寄った。
「【思考共有】は相手の記憶を読み取るだけじゃねえ。自分の架空に作り上げた記憶すらも相手に植え付けるっつー強力な催眠系魔法だ。リフィル姉様はその催眠魔法に掛けられて、てめぇに辱められたっつー醜悪な記憶を姉様に植え込んだ」
ルーフェンの説明通り、私はザリアスの作った記憶を私の記憶と勘違いさせられ、騙されていた。
今ならハッキリとわかる。
私はこの男なんかに抱かれていないし、自らよがってなんかもいない。
「精神系魔法は魔力が少ない者ほど強烈に、かつ強力に作用しやすい。今の姉様はシュバルツ兄様に施した【女神の祝福】のせいで魔力がほぼない状態だ。そんな姉様には精神系魔法がガッツリ効いちまう。ザリアス、てめぇはその事をよーく把握していたんだろ?」
「な、何故貴様が……その事を、その魔法の事を知っている!?」
「知っているさ。全部、てめぇの口から聞いたからなあ?」
「な、なんだと!?」
「俺が扱える上位魔法のひとつに【臆病者の護身術】ってのがある。魔法の種類に詳しいてめぇなら聞いた事ぐれぇあんだろ?」
「そ、そうか。それで僕とリフィルの会話を盗み聞いていたんだな……」
「そういう事だ」
ルーフェンの扱うその魔法【臆病者の護身術】は、その効力範囲内の微かな物音すらも術者の聴覚の奥底にまで届かせるようにしてしまうもので、私の事を案じたルーフェンが密かにその魔法を展開しておいてくれたのだ。
それにより私がザリアスによって脅迫されている事、そして私の魔法の事を私たちの会話を聞いて知ったのである。
ルーフェンが全て知っていてくれたからこそ、私は助けられた。
そして――。
「私もその事を聞いて、ルーフェン殿の頼みがあったからこそあのような演技をし、リフィルさんを辱めてしまったが、そうでもなければ私が世界で一番愛しているリフィルさんを裏切るはずがない。彼女と別れるなど、ありえないッ! 今でも怒りで自分がどうにかなりそうだ……ッ!」
シュバルツ様が先の舞踏会にて、公衆の面前で私に離婚を突き付けたアレは全てルーフェンの策略だった。
何故あのような事をしてもらったのかと言うと。
「全てはてめぇのアルベスタの仲間を吊し上げる為の罠だったとはいえ、姉様には随分と辛い思いをさせちまった」
ルーフェンは全てを知っていた。
それを私はあのシュバルツ様に離婚を突きつけられた舞踏会の後に教えてもらった。
ザリアスが初めてフレスベルグ邸にやってきたあの日。
彼は密かにシュバルツ様にも【思考共有】の魔法をかけていた。
シュバルツ様に植え付けた偽物の記憶は、私がシュバルツ様を裏切り、ザリアスに愛情を向けていると錯覚させるような幻想。
シュバルツ様はその幻想に踊らされているフリをしなければならなかった。
何故なら、それこそがルーフェンの狙いだったのである。
「ザリアス。てめぇの本当の狙いはエリシオンを崩す算段だ。それをドレイアムに命じられた。ってこのジルベールさんが全部吐いてくれたぜ」
ルーフェンがザリアスの手駒としてジルベールが操られている事を知ったのも、【臆病者の護身術】を展開しておいたフレスベルグ邸の敷地内で、ザリアスとジルベールが密かに会話していた内容から知り得たのである。
「おかげでドレイアムはやっぱりビスマルク国王陛下に忠誠を誓ってなんかいなかったってのはわかった。そんでもってアルベスタの貴族どもを密かに王宮主催の舞踏会に参加させて内情を探らせていたんだろ?」
「……ぐっ」
「昨日の舞踏会でリフィル姉様に対してシュバルツ兄様があんなひでぇ事をしたのも、全部てめぇに操られているフリをさせたかったからだ。ああなるところまでがザリアス、てめぇの算段だったんだからな!」
アルベスタの貴族たちはドレイアムを始め、私の魔法の事をすでに知っている。
私がザリアスに触れられたあの日に、全ての情報を抜き取られてしまったからだ。
私の力によってシュバルツ様が驚異的に進化した事を知ったザリアスはドレイアムにその事を報告。
エリシオン最大の英傑シュバルツ・フレスベルグは、ルヴァイクにとって驚異的な存在である事は例の英傑選で十分に知られている。
それを崩す為に、私と引き剥がそうとしたのだ。
「ザリアス。てめぇは兄貴のダリアスよりも吐き気を催す悪だ。てめぇはエリシオンを内からぶっ壊す為に、マクシムス家に戻ったフリをしてルヴァイクに忠誠を誓ってんだろ? ジルベールさんが全部白状したぜ」
「ジルベール、貴様……っ!」
「妾の子だって事でマクシムス家にも恨みを持ってたてめぇは、ギリアム侯爵にも復讐したかったんだろう? 都合よく兄の代替品みたいに呼び戻された腹いせにな。だからエリシオンを崩す為にこんな手の込んだ事をした」
「……」
ルーフェンの問い詰めに、とうとうザリアスは黙り込む。
「リフィル姉様にそんな魔法があった事には驚かされたが、その事を俺はすぐに国王陛下に話した。それによってシュバルツ兄様が目覚ましく強くなった事、だからこそダリアスが落ちぶれた事も全てな。聡明なビスマルク国王陛下はそれを聞いて尚更、兄様と姉様の愛の深さに感銘したさ。だから、虚偽の魔力でもなんでもねぇんだよ」
いつの間にか陛下ともパイプを持っていたルーフェンはすでに全ての真実を陛下に伝えていてくれた。
そしてその事によるシュバルツ様へのお咎めが何かあるのかまでも。
無論、そんな事はあるわけもなかった。
私がただひとり、怯えていただけなのである。
「そんなわけでてめぇがリフィル姉様を脅すネタなんざ何にもねぇんだよ。この大馬鹿野郎がッ!」
「……く、くそ」
ザリアスは悔しそうな表情でルーフェンを睨み付けた。
「さあ、観念するんだな。いくら馬鹿なてめぇでも俺とシュバルツ兄様を相手にできると思えるほど馬鹿じゃねえだろ?」
醜悪な男、ザリアスに騙されかけた私はようやくホッと胸を撫で下ろす。
「ふ、ふふ……それで勝ったつもりか、ルーフェン・アルカード」
「あん?」
「僕がなんの考えもなくこの精霊の森にリフィルを呼びつけたと思ったのか?」
「……何が言いてえんだよ?」
「リフィル! お前は最大の禁忌を犯した! 魔法の制約を僕という存在に知られ、そして周知された! 魔法の理を崩した者には大精霊から罰せられる事を知らないようだな!」
確かに私の魔法は決して他人に知られてはいけないものとされ、それが制約となっていた。
魔法の制約を破る者には等しく天罰が与えられるというのはこの世界の常識だ。
そしてそれは精霊の住まう場所ならより強力に発動する。
「そうでしょう!? 大精霊テロメア様ァアーッ!」
ザリアスはそれを見越していたのである。
ザリアスの呼び声に森の中がざわめく。
空気が急激に冷え込む。
大精霊テロメア様を呼び出す時、森の中でその御名前を高らかに叫ぶだけでいい。
この森全体にテロメア様はいらっしゃるからだ。
そうして呼び出された時、精霊界とこの世界を繋ぐ為に異界の門を開こうとし、異界の冷気が舞い降りる。
まさにテロメア様が降臨されるのである。
「くくく……愚かなのはお前たちだルーフェン・アルカード! テロメア様は禁忌を犯したリフィルを生かしはしないぞ!」
それこそがザリアスの魔法の真髄だったのだ。
「ったく、てめぇみたいな奴が随分とレアなザ・ワンをよくも習得したもんだぜ。【思考共有】なんて御伽話にしか聞いたこともねぇ魔法だったってのによ」
ルーフェンの言う通り、ザリアスの魔法もザ・ワンと呼ばれる魔法なだけあって、相当に稀有なものらしい。
「ルーフェン殿。やはりこの【思考共有】という魔法は非常に危険だ」
シュバルツ様は鬼の形相でザリアスを睨みつけながらそう言った。
「ああ。姉様なんかころりと騙されちまってるもんな。その魔法によって書き換えられた偽物の記憶によぉ」
ルーフェンの言う通り、私はすっかり騙されて、踊らされてしまっていた。
このザリアスという醜悪な男に抱かれてしまったという偽物の記憶に!
「なあ、そうだろうザリアス?」
「……く」
ルーフェンは憎々しげにザリアスへと歩み寄った。
「【思考共有】は相手の記憶を読み取るだけじゃねえ。自分の架空に作り上げた記憶すらも相手に植え付けるっつー強力な催眠系魔法だ。リフィル姉様はその催眠魔法に掛けられて、てめぇに辱められたっつー醜悪な記憶を姉様に植え込んだ」
ルーフェンの説明通り、私はザリアスの作った記憶を私の記憶と勘違いさせられ、騙されていた。
今ならハッキリとわかる。
私はこの男なんかに抱かれていないし、自らよがってなんかもいない。
「精神系魔法は魔力が少ない者ほど強烈に、かつ強力に作用しやすい。今の姉様はシュバルツ兄様に施した【女神の祝福】のせいで魔力がほぼない状態だ。そんな姉様には精神系魔法がガッツリ効いちまう。ザリアス、てめぇはその事をよーく把握していたんだろ?」
「な、何故貴様が……その事を、その魔法の事を知っている!?」
「知っているさ。全部、てめぇの口から聞いたからなあ?」
「な、なんだと!?」
「俺が扱える上位魔法のひとつに【臆病者の護身術】ってのがある。魔法の種類に詳しいてめぇなら聞いた事ぐれぇあんだろ?」
「そ、そうか。それで僕とリフィルの会話を盗み聞いていたんだな……」
「そういう事だ」
ルーフェンの扱うその魔法【臆病者の護身術】は、その効力範囲内の微かな物音すらも術者の聴覚の奥底にまで届かせるようにしてしまうもので、私の事を案じたルーフェンが密かにその魔法を展開しておいてくれたのだ。
それにより私がザリアスによって脅迫されている事、そして私の魔法の事を私たちの会話を聞いて知ったのである。
ルーフェンが全て知っていてくれたからこそ、私は助けられた。
そして――。
「私もその事を聞いて、ルーフェン殿の頼みがあったからこそあのような演技をし、リフィルさんを辱めてしまったが、そうでもなければ私が世界で一番愛しているリフィルさんを裏切るはずがない。彼女と別れるなど、ありえないッ! 今でも怒りで自分がどうにかなりそうだ……ッ!」
シュバルツ様が先の舞踏会にて、公衆の面前で私に離婚を突き付けたアレは全てルーフェンの策略だった。
何故あのような事をしてもらったのかと言うと。
「全てはてめぇのアルベスタの仲間を吊し上げる為の罠だったとはいえ、姉様には随分と辛い思いをさせちまった」
ルーフェンは全てを知っていた。
それを私はあのシュバルツ様に離婚を突きつけられた舞踏会の後に教えてもらった。
ザリアスが初めてフレスベルグ邸にやってきたあの日。
彼は密かにシュバルツ様にも【思考共有】の魔法をかけていた。
シュバルツ様に植え付けた偽物の記憶は、私がシュバルツ様を裏切り、ザリアスに愛情を向けていると錯覚させるような幻想。
シュバルツ様はその幻想に踊らされているフリをしなければならなかった。
何故なら、それこそがルーフェンの狙いだったのである。
「ザリアス。てめぇの本当の狙いはエリシオンを崩す算段だ。それをドレイアムに命じられた。ってこのジルベールさんが全部吐いてくれたぜ」
ルーフェンがザリアスの手駒としてジルベールが操られている事を知ったのも、【臆病者の護身術】を展開しておいたフレスベルグ邸の敷地内で、ザリアスとジルベールが密かに会話していた内容から知り得たのである。
「おかげでドレイアムはやっぱりビスマルク国王陛下に忠誠を誓ってなんかいなかったってのはわかった。そんでもってアルベスタの貴族どもを密かに王宮主催の舞踏会に参加させて内情を探らせていたんだろ?」
「……ぐっ」
「昨日の舞踏会でリフィル姉様に対してシュバルツ兄様があんなひでぇ事をしたのも、全部てめぇに操られているフリをさせたかったからだ。ああなるところまでがザリアス、てめぇの算段だったんだからな!」
アルベスタの貴族たちはドレイアムを始め、私の魔法の事をすでに知っている。
私がザリアスに触れられたあの日に、全ての情報を抜き取られてしまったからだ。
私の力によってシュバルツ様が驚異的に進化した事を知ったザリアスはドレイアムにその事を報告。
エリシオン最大の英傑シュバルツ・フレスベルグは、ルヴァイクにとって驚異的な存在である事は例の英傑選で十分に知られている。
それを崩す為に、私と引き剥がそうとしたのだ。
「ザリアス。てめぇは兄貴のダリアスよりも吐き気を催す悪だ。てめぇはエリシオンを内からぶっ壊す為に、マクシムス家に戻ったフリをしてルヴァイクに忠誠を誓ってんだろ? ジルベールさんが全部白状したぜ」
「ジルベール、貴様……っ!」
「妾の子だって事でマクシムス家にも恨みを持ってたてめぇは、ギリアム侯爵にも復讐したかったんだろう? 都合よく兄の代替品みたいに呼び戻された腹いせにな。だからエリシオンを崩す為にこんな手の込んだ事をした」
「……」
ルーフェンの問い詰めに、とうとうザリアスは黙り込む。
「リフィル姉様にそんな魔法があった事には驚かされたが、その事を俺はすぐに国王陛下に話した。それによってシュバルツ兄様が目覚ましく強くなった事、だからこそダリアスが落ちぶれた事も全てな。聡明なビスマルク国王陛下はそれを聞いて尚更、兄様と姉様の愛の深さに感銘したさ。だから、虚偽の魔力でもなんでもねぇんだよ」
いつの間にか陛下ともパイプを持っていたルーフェンはすでに全ての真実を陛下に伝えていてくれた。
そしてその事によるシュバルツ様へのお咎めが何かあるのかまでも。
無論、そんな事はあるわけもなかった。
私がただひとり、怯えていただけなのである。
「そんなわけでてめぇがリフィル姉様を脅すネタなんざ何にもねぇんだよ。この大馬鹿野郎がッ!」
「……く、くそ」
ザリアスは悔しそうな表情でルーフェンを睨み付けた。
「さあ、観念するんだな。いくら馬鹿なてめぇでも俺とシュバルツ兄様を相手にできると思えるほど馬鹿じゃねえだろ?」
醜悪な男、ザリアスに騙されかけた私はようやくホッと胸を撫で下ろす。
「ふ、ふふ……それで勝ったつもりか、ルーフェン・アルカード」
「あん?」
「僕がなんの考えもなくこの精霊の森にリフィルを呼びつけたと思ったのか?」
「……何が言いてえんだよ?」
「リフィル! お前は最大の禁忌を犯した! 魔法の制約を僕という存在に知られ、そして周知された! 魔法の理を崩した者には大精霊から罰せられる事を知らないようだな!」
確かに私の魔法は決して他人に知られてはいけないものとされ、それが制約となっていた。
魔法の制約を破る者には等しく天罰が与えられるというのはこの世界の常識だ。
そしてそれは精霊の住まう場所ならより強力に発動する。
「そうでしょう!? 大精霊テロメア様ァアーッ!」
ザリアスはそれを見越していたのである。
ザリアスの呼び声に森の中がざわめく。
空気が急激に冷え込む。
大精霊テロメア様を呼び出す時、森の中でその御名前を高らかに叫ぶだけでいい。
この森全体にテロメア様はいらっしゃるからだ。
そうして呼び出された時、精霊界とこの世界を繋ぐ為に異界の門を開こうとし、異界の冷気が舞い降りる。
まさにテロメア様が降臨されるのである。
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