生きるか死ぬかを問われれば、やがて光は雪へと還る。

藤寝子

文字の大きさ
3 / 15
“冷血の魔女”

白い魔女とYouTuber

しおりを挟む

 
 ――――……ザザ
 

 ノイズが走る。 

 まただ。…今度は微かな声。

「……ユキちゃん。さぁ、こっちにおいで。」

 その声を私は聞いた事がある。
 いつの記憶だ。懐かしく、暖かい。
 あぁ、心地がいい。溶けていくようだ。

 

 シルフィアの記憶は、淡く白い光に包まれた。

 

 ゆっくりと目を覚ます。
 そこには下心丸出しの下品な男の顔が飛び込んできた。至近距離で。

「うわっ!!な、なんだ貴様!何をしていた!」シルフィアは飛び退く。
 一瞬、空気が止まる。

 そして。

「おはよう!気持ちよく寝てたから君の寝顔を堪能させてもらったぜ!女神の寝起きドッキリ!……というか魔女でも寝るんだね。」

「気色悪い。我に近づくな。もう一度死ね。」

「うわー!最悪!あんたやっぱり冷血過ぎぃ!」
 
 かつやっちょは相変わらずの喧騒を撒き散らしながら静寂の白い部屋に生々しい存在を示していた。
 下肢は消え失せ、宙に浮いている。
 まるで霊体だ。

 本来ならば、あの瞬間に死するべきだった。私はこの愚かな男を“間違って”閉じ込めた。もう元には戻せないらしい。
 ……最悪だ。いろんな意味で。
「済まなかった。」

「は?なんて?……済まなかった?“冷血の魔女”様が俺に?済まなかったって!?世界初!女神の謝罪やんけ!」

「……もういい。気にしていないならな。」
 シルフィアの頬が少し赤らむ。

「あんたにも人間らしい気持ちあるんだな。……気にしてないというか。あんたみたいな美女と一緒なんてそこはもう天国!!」
 満面の笑みで人差し指を天に指した。

「はー。」
 ため息。
 
「……ところで、貴様ユー、なんとか。それは一体なんだ?何故お尻に瓶を突き刺した?何の儀式だ?魔術には存在し得ない行為だ。」
 シルフィアは腕を組み、真剣な顔で首を傾げた。

「ぷっ!ぶあっはっはっは!!」
 かつやっちょは腹を抱えて笑い転げた。空中をグルグル回りながら。 
「はぁはぁ。ウケる。ただのネタだよ。大バズ狙いの。そして波に乗って世界中に届けるのさ!!」

「なんだと!?魔力の波を世界中に!?お前、大魔術師だったのか!私にもそんな事は出来ない!」

「異世界転生って何処で引き返せばいいの?シルフィア姉さん?……まぁ。そうね。現代魔術!秘技・TikTokの舞!俺が踊れば世界がバズる!アルゴリズムの神も泣いて喜ぶ!」

「テ、テク?なんだそれは!」
 点になった目と眉間のしわが、透き通る真っ白い肌をより強調させた。

「圧倒的に説明がダルいぞ。」

「くそ。貴様の言葉は何一つ理解出来ない!」

「そうか。残念だ。でも……もういいよ!大丈夫!ここに美女がいる。そして美男子がいる。それでいいんだよ!いいじゃないか!」

「まったく。貴様は底抜けに馬鹿だな。ふっ。」
 不意に口角が上がる。

「あ!」
 かつやっちょはシルフィアの顔を指さした。

「なんだ?」

「今笑ったじゃん!」

「私だって笑う時くらいあるだろう!……くっ!変か!?冷血の魔女が笑うなんておかしな事なのか!?」
 シルフィアの顔はもう真っ赤だ。

「はっは~ん。さてはあんたツンデレだな。よーし、それじゃかつやっちょ様が“冷血の魔女笑い殺してみた!”だ!」

「はー。」
 ため息。
 
「……かつやっちょ。」

「ん?」

「ありがとう。」


 ――――暫くの沈黙が流れる。
 白い部屋の中に、初めて色が灯った気がした。

  
 お互い気になる事はたくさんあった。だが、互いの文化や経歴はあまりにも違い過ぎる。
 異世界からやってきた者という事だけは容易に想像できた。

 シルフィアは壁にもたれて座り込み、自らの手のひらを開いたり閉じたりした。何かを試すように。
 
 かつやっちょが唐突に口を開く。

「ところでシルフィア。あんた、どうやって死んだん?」
 
「死んでいない。……はずだ。」
 
「はず?」

 いや、私は死んだのかもしれない。
 災厄の魔女は死に戻りを扉と形容し、ここに来る事を“最後の扉”と言った。まさに6666回目の死だ。だが死に戻りしている訳じゃない。
 いや、死んだと思いたくないだけか。 
「気がつけばここにいた。」
 
「俺は派手にやったぜ。ほら、炎上商法の末路。」
 
「……燃やされたのか?」
 
「いや、ネットの方でな!」
 
「ネット……?蜘蛛の巣の魔法か?」
 
「違う違う!あーもう説明むずっ!でもまぁ、こっちの世界も似たようなもんだな。糸に絡まったら抜け出せねぇ。」
 
「……お前も苦しんでいたのか。」

「いろいろあんだよ。まぁ、恐らくあんたの人生にはこれっぽっちも及ばないだろうけどさ。」
 かつやっちょはシルフィアの緑色の目をじっと見つめ、意を決して聞いた。
「聞かせろよあんたの人生。……凄い経験重ねてきたんだろ?2つ名があるくらいだ。この部屋には時間も空腹もうんこも何もない。無限だ。話し尽くしても何も変わらないさ。……さぁ、語ろうぜ。」

「そうか。……こんな私の話で良ければな。退屈はしない筈だ。ただ、苦しいぞ?」

「はっ!もう死んでるっての。」

「……私には記憶がなかった。15歳より前の。気がついたら立っていた。」

「そんな事ある!?」

「分からない。が、あったという事だ。」


 

 ――そして、2人はお互いの人生を語り始めた。

 
 
 笑い、悲しみ、喜び、怒り。
 
 固く結ばれた紐がするすると解けるように、シルフィアの表情は熱を取り戻していった。

 そして。

 語りつくしたであろう頃。
 2人の間は、静かな白が満たしていた。
 

 瞬間、シルフィアの脳内に“誰か”の“苦痛”が流れ込んできた。

  
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

国王像にヒゲを生やしただけで無人島に送られました!

忍絵 奉公
ファンタジー
国王像にヒゲを一本描いただけ。それだけの理由で青年リオは「国家反逆罪」というとんでもなくくだらない冤罪を着せられ、島流しにされてしまう。だが護送中の船は嵐に遭遇し、辿り着いたのは地図にも載らない完全な無人島だった。 生存能力ゼロ、知識ゼロのポンコツ状態で始まったサバイバル生活は、なぜか喋るカニや歪む空間など、次第におかしな方向へ転がり始める。 やがてリオは、 一番偉い悪魔、四大神獣、そして偉そうな神様たちが軽く喧嘩しながらバーベキューをしている場所に辿り着く。 しかも、国王像ヒゲ事件は――実は宇宙規模の因果の一部だったと知らされる。

《完結》悪役聖女

ヴァンドール
ファンタジー
聖女になり、王妃となるため十年間も教育を受けて来たのに蓋を開ければ妹が聖女の力を持っていて私はには聖女の力が無かった。そのため祖国を追放されて隣国へと旅立ったがそこで……

悪役令嬢の去った後、残された物は

たぬまる
恋愛
公爵令嬢シルビアが誕生パーティーで断罪され追放される。 シルビアは喜び去って行き 残された者達に不幸が降り注ぐ 気分転換に短編を書いてみました。

天才王子、引き篭もる……いや、引き篭もれない

戯言の遊び
ファンタジー
平穏に暮らしたいだけなのに、なぜ問題が山積みなんだ……!?」 辺境に飛ばされた“元サラリーマン王子”、引き篭もるつもりが領地再生の英雄に――! 現代日本で社畜生活を送っていた青年・レオンは、ある日突然、 中世ヨーロッパ風の王国「リステリア」の第五王子として転生する。 怠惰で引き篭もり体質なレオンは、父王により“国の厄介払い”として 荒れ果てた辺境〈グレイア領〉の領主を任される。 だが、現代知識と合理的な発想で領内を改革していくうちに、 貧困の村は活気を取り戻し――気づけば人々からこう呼ばれていた。 『良領主様』――いや、『天才王子』と。 領民想いのメイド・ミリア、少女リィナ、そして個性派冒険者たちと共に、 引き篭もり王子のスローライフ(予定)は、今日もなぜか忙しい! 「平穏に暮らしたいだけなのに、なぜ問題が山積みなんだ……!?」 社畜転生王子、引き篭もりたいのに領地がどんどん発展していく! ――働きたくないけど、働かざるを得ない異世界領主譚! こちらは、以前使っていたプロットを再構成して投稿しています 是非、通学や通勤のお供に、夜眠る前のお供に、ゆるりとお楽しみ下さい

婚約破棄? 私、この国の守護神ですが。

國樹田 樹
恋愛
王宮の舞踏会場にて婚約破棄を宣言された公爵令嬢・メリザンド=デラクロワ。 声高に断罪を叫ぶ王太子を前に、彼女は余裕の笑みを湛えていた。 愚かな男―――否、愚かな人間に、女神は鉄槌を下す。 古の盟約に縛られた一人の『女性』を巡る、悲恋と未来のお話。 よくある感じのざまぁ物語です。 ふんわり設定。ゆるーくお読みください。

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

レベル1の地図士は、世界の裏側を知ってしまった

あめとおと
ファンタジー
異世界に転移した主人公が得たスキルは【地図作成】。 戦闘能力ゼロ、初期レベル1。 冒険者ギルドでは「外れスキル」と笑われ、 新人向けの雑用クエストしか回ってこない。 しかしそのスキルは、 ダンジョンの隠し通路、未踏破エリア、消えた古代文明の痕跡まで“地図に表示する” という、とんでもない能力だった。 生き残るために始めた地味な探索が、 やがて世界の秘密と、国家すら動かす大冒険へ――。 これは、 戦えない主人公が“冒険そのもの”で成り上がる物語。 同作品を「小説家になろう」で先行配信してます。

処理中です...