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“冷血の魔女”
白い魔女とYouTuber
しおりを挟む――――……ザザ
ノイズが走る。
まただ。…今度は微かな声。
「……ユキちゃん。さぁ、こっちにおいで。」
その声を私は聞いた事がある。
いつの記憶だ。懐かしく、暖かい。
あぁ、心地がいい。溶けていくようだ。
シルフィアの記憶は、淡く白い光に包まれた。
ゆっくりと目を覚ます。
そこには下心丸出しの下品な男の顔が飛び込んできた。至近距離で。
「うわっ!!な、なんだ貴様!何をしていた!」シルフィアは飛び退く。
一瞬、空気が止まる。
そして。
「おはよう!気持ちよく寝てたから君の寝顔を堪能させてもらったぜ!女神の寝起きドッキリ!……というか魔女でも寝るんだね。」
「気色悪い。我に近づくな。もう一度死ね。」
「うわー!最悪!あんたやっぱり冷血過ぎぃ!」
かつやっちょは相変わらずの喧騒を撒き散らしながら静寂の白い部屋に生々しい存在を示していた。
下肢は消え失せ、宙に浮いている。
まるで霊体だ。
本来ならば、あの瞬間に死するべきだった。私はこの愚かな男を“間違って”閉じ込めた。もう元には戻せないらしい。
……最悪だ。いろんな意味で。
「済まなかった。」
「は?なんて?……済まなかった?“冷血の魔女”様が俺に?済まなかったって!?世界初!女神の謝罪やんけ!」
「……もういい。気にしていないならな。」
シルフィアの頬が少し赤らむ。
「あんたにも人間らしい気持ちあるんだな。……気にしてないというか。あんたみたいな美女と一緒なんてそこはもう天国!!」
満面の笑みで人差し指を天に指した。
「はー。」
ため息。
「……ところで、貴様ユー、なんとか。それは一体なんだ?何故お尻に瓶を突き刺した?何の儀式だ?魔術には存在し得ない行為だ。」
シルフィアは腕を組み、真剣な顔で首を傾げた。
「ぷっ!ぶあっはっはっは!!」
かつやっちょは腹を抱えて笑い転げた。空中をグルグル回りながら。
「はぁはぁ。ウケる。ただのネタだよ。大バズ狙いの。そして波に乗って世界中に届けるのさ!!」
「なんだと!?魔力の波を世界中に!?お前、大魔術師だったのか!私にもそんな事は出来ない!」
「異世界転生って何処で引き返せばいいの?シルフィア姉さん?……まぁ。そうね。現代魔術!秘技・TikTokの舞!俺が踊れば世界がバズる!アルゴリズムの神も泣いて喜ぶ!」
「テ、テク?なんだそれは!」
点になった目と眉間のしわが、透き通る真っ白い肌をより強調させた。
「圧倒的に説明がダルいぞ。」
「くそ。貴様の言葉は何一つ理解出来ない!」
「そうか。残念だ。でも……もういいよ!大丈夫!ここに美女がいる。そして美男子がいる。それでいいんだよ!いいじゃないか!」
「まったく。貴様は底抜けに馬鹿だな。ふっ。」
不意に口角が上がる。
「あ!」
かつやっちょはシルフィアの顔を指さした。
「なんだ?」
「今笑ったじゃん!」
「私だって笑う時くらいあるだろう!……くっ!変か!?冷血の魔女が笑うなんておかしな事なのか!?」
シルフィアの顔はもう真っ赤だ。
「はっは~ん。さてはあんたツンデレだな。よーし、それじゃかつやっちょ様が“冷血の魔女笑い殺してみた!”だ!」
「はー。」
ため息。
「……かつやっちょ。」
「ん?」
「ありがとう。」
――――暫くの沈黙が流れる。
白い部屋の中に、初めて色が灯った気がした。
お互い気になる事はたくさんあった。だが、互いの文化や経歴はあまりにも違い過ぎる。
異世界からやってきた者という事だけは容易に想像できた。
シルフィアは壁にもたれて座り込み、自らの手のひらを開いたり閉じたりした。何かを試すように。
かつやっちょが唐突に口を開く。
「ところでシルフィア。あんた、どうやって死んだん?」
「死んでいない。……はずだ。」
「はず?」
いや、私は死んだのかもしれない。
災厄の魔女は死に戻りを扉と形容し、ここに来る事を“最後の扉”と言った。まさに6666回目の死だ。だが死に戻りしている訳じゃない。
いや、死んだと思いたくないだけか。
「気がつけばここにいた。」
「俺は派手にやったぜ。ほら、炎上商法の末路。」
「……燃やされたのか?」
「いや、ネットの方でな!」
「ネット……?蜘蛛の巣の魔法か?」
「違う違う!あーもう説明むずっ!でもまぁ、こっちの世界も似たようなもんだな。糸に絡まったら抜け出せねぇ。」
「……お前も苦しんでいたのか。」
「いろいろあんだよ。まぁ、恐らくあんたの人生にはこれっぽっちも及ばないだろうけどさ。」
かつやっちょはシルフィアの緑色の目をじっと見つめ、意を決して聞いた。
「聞かせろよあんたの人生。……凄い経験重ねてきたんだろ?2つ名があるくらいだ。この部屋には時間も空腹もうんこも何もない。無限だ。話し尽くしても何も変わらないさ。……さぁ、語ろうぜ。」
「そうか。……こんな私の話で良ければな。退屈はしない筈だ。ただ、苦しいぞ?」
「はっ!もう死んでるっての。」
「……私には記憶がなかった。15歳より前の。気がついたら立っていた。」
「そんな事ある!?」
「分からない。が、あったという事だ。」
――そして、2人はお互いの人生を語り始めた。
笑い、悲しみ、喜び、怒り。
固く結ばれた紐がするすると解けるように、シルフィアの表情は熱を取り戻していった。
そして。
語りつくしたであろう頃。
2人の間は、静かな白が満たしていた。
瞬間、シルフィアの脳内に“誰か”の“苦痛”が流れ込んできた。
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