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“冷血の魔女”
白い魔女と、藤沢光介
しおりを挟む何故私はこの男、藤沢光介に熱くなるのか。
記憶の断片――ユキ。
ユキの父親が、こいつと重なっている……のか。
ユキは誰だ。
分からない。
少しづつ色が灯っていく。
もっと教えてくれ。この記憶の“意味”を。
「ダメだシルフィア!熱くなるな!
まだ話は終わってないんだ。俺に任せてくれ。もうちょっと、もうちょっとなんだ。」
深紅の怒りを爆発させたシルフィアを制止する。
……まぁ、その怒り。まじで分かっけどな。こんなヤツと話すだけ無駄だって思ってんだろうけどさ。
「任せてもらったんだ。最後まで話させてよ。」
「チッ……。まぁいい。」
シルフィアは再び壁にもたれた。
深紅の激情が薄まっていく。
「藤沢!罪はまだあるはずだ。ここにいる意味はお前しか分からない!勝手に自己完結してハイ死にましたー。じゃシルフィアはまだ扉を開けられない!話せ!」
かつやっちょは真剣だった。
普段おちゃらけているが、ちゃんと真を見定めている。
「YouTuber。お前もまた熱くなっている。他人の事でそうなれる理由が分からない。……まぁいい。どうせ天国地獄どっちに行くか、みたいな事だろう。
俺はアル中を治療し、退院した。家族にとっての悪夢はそれからだ。恐怖の父親が帰ってくるのだからな。
妻も、海斗も、真由も、俺を避けた。……当たり前だ。……孤独だった。俺がそうしたんだ。
だから俺はやはり。……あぁ、本当に恥ずかしいがやってしまった。今度はオンラインカジノ。家族のお金は使えない、迷惑を掛けられない。闇金負債を抱えた。……3000万。
自分の責任だ。」
「何も言えねぇぞ藤沢。そりゃさぞ逃げるしか出来ねぇ人生だな。あんたは救われねぇ。罪にしか辿り着かねぇだろ、そりゃ。」
かつやっちょの藤沢を見る目も変わる。
「いや、それは違う。」
「何?」
「3000万だぞ。流石に死を覚悟した。
……それよりも私は妻と子供に愛想をつかされてしまっていた事にようやく気がついたんだ。
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必死で全て返済したんだ。家族には借金も、治療も、迷惑を掛けないように言わなかった。いや、今更家族に伝えても信用されないから。
……だが、妻は子供を心配した。妻は俺の両親に洗いざらい伝え勘当された。」
「奥さんもか?」
「あぁ、妻にも責任はある、と。ウチは厳格な家系でな。そこで妻は離婚を決意した。話し合いには子供は参加しなかった。
ギャンブル依存は解決した、お金の問題は解決したと、そこで初めて伝えたが信じて貰えなかった。
……精一杯謝罪したさ。ここまで連れ添ってくれたのだからな。」
藤沢の目に悲しみの色が灯る。
かつやっちょには怒りの色。
「なんでそれを初めから言わねぇんだ!バカか!迷惑かける!?ふざけんな!ちゃんと治療してた姿見せていればなんとかなったかもしれねぇだろ!!」
「無理だ。アル中時代に離婚は決意していたらしい。お金の問題だ。妻にはきちんとお金を入れていたから直ぐに離婚は言えない。
私もそれは分かっていた。
……そして、妻と子供は出て行った。全て私の責任だ。」
「馬鹿野郎!!!」
かつやっちょは拳を握ったまま、歯を食いしばる。殴れば終わりだと分かっている。
それでも――殴らなきゃ、伝わらねぇ。
「てめぇ、それでも父親か!!」
鈍い音。
藤沢の頬が、静かに赤く染まった
「てめぇ。いい歳こいて!勝手に自己完結してんじゃねーよ!!何が私の責任だ~、だ!
ほんもんのクソッタレだ!死んだ事だけは褒めてやんよ!……くそっ!」
かつやっちょが一呼吸置く。
シルフィアは目をひらく。ゆっくりと。
「海斗と真由には一言も謝ってねーじゃねーかああああああああああああああああああ!!」
この日1番の怒号。叫び。
叫び過ぎて一瞬声が裏返る。
「な!?……な、なんだと!?」
ハッとした。
そうだ。俺は、海斗と真由に謝ってない。
妻はわざと俺と子供達を引き離した、のか。
自分と、妻の事ばかり考えていた。妻はいつも家族皆んなの事を考えていた。
それが妻の復讐だったとでも……。
そんな。そんな。そんな事が……。
「それから、自ら命を捨てたんだな。……チッ。殴って悪かった。すまねえ。」
「いや、馬鹿な……。そんな。そんな事。」
藤沢にはかつやっちょの謝罪は聞こえていない。
子供達への思いに支配されている。倒れ込み、四つん這いになる。
「は!!……早く!……海斗、真由……。」
シルフィアにとってもこれは予想外の結末だ。
――改心していた。
直ぐに扉を開き“その先”へ送り届けようと思った。
だか、かつやっちょの熱が全てを変えた。シルフィアにはない、熱。
かつての仲間、勇者イヴァンの熱感そのもの。
シルフィアの裂けるような深紅の赤に対し、彼らの持つそれらは全てを受け止める青。
シルフィアはゆっくり目を閉じた。
「藤沢光介。」シルフィアが静かに呼んだ。
「そ、そんな。海斗……真由……。」
「――藤沢光介。」
シルフィアの声が空気を震わせた。冷たく、どこまでも冷たい中に、温もり。
「貴様が背負うのは、贖えぬ“生”そのものだ。逃げるたび、後悔が増える。それがお前の地獄だ。」
白い空間が歪み、軋む。
「謝罪なき者に死は甘え。
ならば――生きて償え。」
「は、はい!」ビクッと返答する。
もう先程までの詐欺師の姿は見当たらない。
「最期に貴様に問う。
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シルフィアは問う。
「この愚かで最低な男をどうするか、お前が決めろ。」
「あぁ。」
悔しいが、死して初めて本当に大事な事に気がついた彼を許さない訳にはいかない。
「戻してくれ。……シルフィア。本当にこいつは戻れるんだよな?」
「分からない。私は扉を開ける。それだけだ。」
「藤沢、お前を“死ぬ前”かどうかわからんが。とにかく生前へ戻す。
……だから約束してくれ!海斗くんと真由ちゃんに真正面からぶつかるんだ。ちゃんと謝るんだ!!そしてまた糞野郎の詐欺師野郎になるなら!俺がお前を地獄に連れてってやる!!いいな!」
「かつや……ちょ。済まない、済まない!ありがとう……ございます。う、う。」
藤沢の目に涙が流れた。
「かつやっちょ。お前がこの男を導いた。その重責を背負えるか?」
鋭さを増す、深緑の左目が大きく開く。
「あぁ、大丈夫だ。お前ばっかりに任せちゃいられねぇだろ。
何せ相棒だからな!」
「馬鹿者。……扉を開ける。」
魔女が手をかざすと、白い光に包まれ扉が現れた。
藤沢は扉に手を掛けた。
……シルフィアの声が冷たく響く。
「生きて償え。それが、お前の刑だ。」
一転、かつやっちょの声は温かかった。
「……でもな、藤沢。刑ってのは“終わらせるため”にあるんだ。その先に、ちゃんと帰る場所がある。
だからよ。帰れ。海斗と真由のもとへ。」
「魔女、YouTuber。済まなかった。子供達に会ってくる。……ダメならまたここに来ても、いいか?」
「断る。」
「もう来んな。」
藤沢が扉に入ると、またも白い光に包まれ消えていった。
……ごきげんよう。シルフィアは心の声で呟いた。
……白い部屋は静寂と純粋な白を取り戻した。
「なあシルフィアよ。」
かつやっちょは振り向く。
「なんだ。」
「お前、すげーな。……こんな重圧。千里ちゃん送る時どう感じてた?」
「……忘れた。」
「魔女って忘れっぽいんだな。」
「黙れ“口は災いの元”。」
「ひどっ。
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一緒に寝る?」
「貴様を枕にしよう。」
「ひどっ。」
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