生きるか死ぬかを問われれば、やがて光は雪へと還る。

藤寝子

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“白い部屋”

白い部屋と紫の部屋

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 ――――あの情景。

 


 結局、すべては分からないままだ。ベルドナなら知っているのだろう。
 だが、災厄の魔女と再び相まみえる日は、もう来ない。

 彼女が最後に放った言葉は「ごきげんよう」。
 それは……死者に向ける別れの挨拶だ。

 ガイアの推測が正しいのなら、白い部屋はユキの記憶を、私たちに“見せようとした”のかもしれない。

 私自身が塗りつぶした白。
 空虚と無。その中で、ユキは“生きたかった”。それだけが、何度も頭をよぎる。
 ……ユキは、その後、どうなったのだろう。

 怖い。

 まだ、私には向き合う覚悟がない。

「かつやっちょ。分かったことがある。」

 白い部屋の中央。シルフィアは考え込むかつやっちょの肩を叩いた。

「んー? なに? ……ついに俺に惚れた?」

「馬鹿者。サキュバスが女を襲うくらい有り得ない。」

「ひどっ。」

「ユキの記憶を見ても、私の記憶は戻らない。
 ユキは私かもしれないが、私はユキではない。」

「まー……記憶ないからね。ガイアの考えだし。」

 かつやっちょは両手を広げ、ガイアの真似をした。

「恐らく、あの記憶には続きがある。ユキはまだ死んでいない。
 絶望した理由は、他にある。」

「記憶を塗りつぶしたくなるほどの絶望……か。
 なあシルフィア、本当にユキはお前なのか? どうにも性格違いすぎるけど。」

「……なんだと?」

 眉がピクリと動いた。

「ちょ、ちょっと待って!
 悪い意味じゃなくて!
 ……ただ、ユキって子の記憶を見せられてるだけなんじゃないかって。
 千里ちゃんも藤沢もガイアも、記憶が流れ込んだだろ?
 じゃあここにユキ本人が来る可能性もある。緑色の目繋がりで、ベルドナの仕業とかさ。」

 ――――“災厄の魔女”ベルドナ。

 シルフィアの転生の始まりと終わりには、いつも彼女がいた。

「……それはない。ユキの記憶の断片は、最初から私の中にあった。
 母の顔は黒く塗りつぶされていたが……。
 ベルドナがどれだけ神に近くとも、記憶を弄ることはできない。」

「そっか。
 じゃあ。ユキが異世界転生して、シルフィアになった。
 それが一番しっくりくるな。」

「あぁ。だが、分からないことはまだ多い。……またユキの記憶に入れれば………………。」

 語尾が揺れた。空気が一瞬、冷たくなる。

「どうした?」

「……済まない。少し……怖いんだ。」

 胸を押さえる。声が震えた。

「おぉ……無敵のシルフィア様にも恐怖が!?
 狼男に色仕掛けして殺された女が、今さら?」

「馬鹿!思い出させるな!あれは黒歴史だ!」

 顔を真っ赤にして叫ぶシルフィア。
 一気に部屋の温度が戻った。

「ははっ。シルフィアが怖いって言うなら、俺が側にいてやるよ。」

「かつやっちょ……。」

「惚れた?」

「狼男が狩人に惚れるくらい有り得ない。」

「ひどっ。」

「それはそうと……ユキは、ずっと“何か”を見ていた。
 私たちには見えないものを。
 無機質で、冷たい……ユキではない誰かのような眼で。」

 シルフィアの緑の瞳が微かに光った。
 以前よりも、色が濃い。

「あぁ、それは俺も思った。
 もしかして、俺たちはユキの“眼”だったのかもな。」

「眼……?」

「メタ的考察だよ。」

「メタ?メタルテキコーサとは何だ。中級魔族メタルスライムの親戚か。」

「……いやもう、ツッコミ疲れた。」

「すまない。分からないことばかりだ。」
 シルフィアは柔らかく笑った。
 その笑顔が、なぜか寂しかった。
「またお前を不安にさせてしまうな。」

「馬鹿言え。不安なのはお前のほうだろ。
 ……俺の不安は、この笑顔をスクショできないことだよ。」

「……?」

「ま、向き合う時はいつか来る。その時まで――冷血の魔女でいろよ。
 “答えろ、生きるか死ぬか”。俺は好きだぜその言葉。」

「馬鹿者。」

 その瞬間――。

 シルフィアの頭に、誰かの苦しみが流れ込む。
 彼女は頭を押さえ、膝をついた。

「シルフィア!? どうした!?」

「……かつ、やっちょ。頭が……痛い。誰かの……深い、憎悪が、溢れて……。」

「おい、やめろ、無理すんな!」

「……すまな……い。」

 シルフィアは崩れ落ちた。
 
 白い部屋が、紫に染まっていく。

「……来るのか。
 とんでもねぇやつが。」

 
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