半分本当にあった怖い話

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本当はなかった怖い話

こっくりさん

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──こっくりさん。
 それは簡易的な降霊術によって呼び出された低級の動物霊の総称で『狐狗狸さん』と書くそうな。
 誰もが知っているこっくりさん。
 呼び出すにあたってルールがあるのもご存知ですよね?

 文字を書いた紙と十円玉を用意するだけで気になることを教えてくれるこっくりさん。
 便利ですねぇ。コスパが良すぎませんかね。

 それらは低級霊ですよ?

────────────────────
 私の教室ではこっくりさんが流行っていた。
 休み時間のたびに、どこかで「こっくりさん、こっくりさん」とやっていた。
 結局最後までやりきることなく次の授業が始まり、そのまま自然解散となるのが常。途中で止めてはならないなんてルールも知ってはいるが特に呪いなんてのも起こらなかったので、みんな遊び半分でやっていたのだった。

 そんなある日、クラスメイトの一人が学校に来なくなった。
 理由を尋ねても先生は「風邪をこじらせた」の一点張り。しかも不可解なことにこっくりさんをすることを禁止し始めた。

 数日後、学校に来なくなったクラスメイト─Mさん─ のプリントが溜まり、日直だった私が届けることになった。
 正直風邪を疑っていた私は「ついでに様子でもみて、もっと重い病気なら皆でお見舞に、仮病なら文句の1つでも言ってやろう」と思い、二つ返事で引き受けた。

 しかし、目論見は失敗に終わった。部屋に入れてもらえなかったのだ。
 Mさんの母親も「風邪がうつるから」と玄関先でプリントを受け取り、ドアを閉めた。
 ありがとうと微笑んだ顔には明らかに心労の色が見てとれた。
 門を出た時、ふと2階を見上げた。

 Mさんはそこにいた。

 まさか一目見られるとは思っていなかったので、驚いた。そしてマスクもせず、しゃんと立った姿に眉をひそめた。
(やっぱり仮病じゃないの……)
 思いきって大声で言ってやろうと向き直った時、彼女の異変に気づいた。

 2階から静かにこちらを見下ろす彼女の目は、いつものパッチリした二重が消え、細くつり上がっていて、程よく日に焼けていた肌は口回りから首にかけて白粉おしろいでもしたように真っ白になっていた。
 その姿はまるで……
「……キツネ」
 無意識にぽそりと口にして一歩後ずさった。
 彼女の瞳の奥に潜む得体の知れない何かと目を合わせている気がして、半ば逃げるように帰路についた。
 後ろから「ぐるる……」と愉快げに喉をならす音が聞こえた気がした。

────────────────────
 それから一ヶ月が経った。
 その日も私は日直だった。
 Mさんは未だ学校には来ていない。
 クラスの皆もMさんのいない状況に慣れてきていた。
 その日私はクラスメイトの宿題忘れに付き合っていて、学級日誌を提出する頃にはすっかりいつもより遅い時間になっていた。
 日は大きく西に傾き、校舎を濃いオレンジに染めている。
「あーあ、早く帰ろう」
 先生にも早く帰るように言われた。いつもならとっくに家で宿題をやっている時間だ。
 早足で教室に向かう。既に教室の照明は落としてあり、誰もいないはずだ。

 自分の教室がある階にととっと駆け上がったとき、足元を白い影がしゅるりとすり抜け教室のある方に消えていった。
「……猫?」
 学校に白猫が迷い込んだのかもしれない。だとすれば、せめて一撫でしたいとその影を追っていった。
 角を曲がったとき猫にしては太い尻尾が私の教室に入っていったのが見えた。
 私は音をたてないように、そーっと教室を覗いた。

 まず目に入ったのは、白く太い尻尾。ゆらり、ゆらり、と揺れる。
 身体は痩せこけて尻尾と太さが変わらないほどだ。
 こちらに背を向け、机の上に座っているのは……
「狐……?」
 猫だと思っていたのは狐だった。それも真っ白な。夕陽で赤く染まる教室にぼんやりと浮かび上がって見える。
 それだけではない。教室のあちこちで狸や犬や猫なんかの動物がうろつき、佇んでいる。
 どの動物も薄ぼんやりとして、どこかはっきりとしていない。

 不意に獣臭さが鼻をつく。
 いつの間にか足元に鼠が音もなくたむろし、這い回っていた。
「ひっ……」
 驚いて上ずった声が漏れる。その声に白狐の耳がピクリと反応する。
 流石に動物では、いや生き物ではないことに気づいていた。
 首だけで振り返った白狐は見るからに年老いていたが、その顔に浮かぶ残虐な笑みは死して尚生き生きとして見える。
 私の身体が強ばって動けないのを知ってか、ゆったりと身体の向きを変えながら立ち上がる白狐。
 細い目をにんまりと歪めて、机の上から廊下にしゃがむ私に向かって歩み寄ってくる。中空に見えないスロープでもあるかのようだった。
  私は動けずに、白狐の瞳から目が離せなかった。
 その瞳になぜか既視感を感じたからだ。
 目の前が、頭の中が白狐の瞳で一杯になる。
 その時、頭のどこかでスパークが散った。
「Mさん……?」
 あの日、2階の窓から見下ろすMさんの瞳だ。彼女の中にいた得体の知れない何かはこの狐だ。その証拠に白狐が座っていたのはMさんの机だった。 
 もしかしてMさんは……。
 恐怖で身体がビクッと跳ねた。
 その衝撃で硬直が解ける。白狐はもう手の届く所まで来ていた。
 私は後ろに崩れるように倒れ、そのまま身をよじって起き上がり、一目散に逃げた。
 道行く人も、動物も、広告や看板でさえもあのニヤニヤとした目でこちらを見る。
 私は家に帰ると真っ直ぐに自分の部屋に駆け込んで鍵をかけた。
 大好きだった男性アイドルユニットのポスターも引き裂くように剥がし、鏡も全てしまうか裏返した。カーテンも全て閉めて、頭から毛布をかぶる。

 あれはきっとこっくりさんで呼び出したまま還さなかった動物霊達に違いない。
 それらが逢ヶ魔時に見えた。見えてしまった。
 きっとMさんもあの光景を見たに違いない。あんなものを見たら学校に行けなくなるのも当然だ。

────────────────────
 私が部屋に引きこもってから約1ヶ月が経つ。
 時折担任の先生が訪ねてくるが、目を見るのが怖くて会っていない。
 部屋の外からは『またですか』とか『これで二人目……』とか親と話し合う声が聞こえる。
 クラスメイトも来てくれた。
 学校に置いてきたカバンと配られたのだろうプリントを持ってきたらしいクラスメイトは、玄関で母親に帰らされすごすごと門を出ていった。
 申し訳ない気持ちで窓から見下ろしていると、不意に振り返ったクラスメイトと目が合った。
 病気というわけでもないので、せめて笑って送り返そうと微笑みかけた。
 するとクラスメイトは一瞬驚き、そして心配そうな顔をした。しかしそれはすぐに怪訝な表情に上書きされる。恐怖さえ感じている様な引きつった表情だった。
 そのままクラスメイトは足早に去ってしまった。
 なんとも酷いものだ。

 私はまだ学校に行けていない。
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