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A組の戦況、であります!
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周藤隊に新たな仲間が3人増えた頃、防衛線の内側では小規模な戦闘が続いていた。
そんなA組側──
「快進撃であります!」「神風の如しであります!」
随分と小柄な2人がはしゃいでいた。ぱっと見では小学生のようだ。
瞬く間に防衛線を崩したA組は幾つもの分隊に分かれ、溶け込み、C組のパトロールとゲリラ戦をしつつ陣地の確保工作を行おうとしていた。
「その調子じゃポチ、タマ。しかし流石に消耗しとるのぉ」
広島弁の男はMINIMIを片手に部隊を見渡した。
ポチと呼ばれた男子とタマと呼ばれた女子の他には89式小銃や64式小銃、鉄帽まで新旧まちまちないかにも寄せ集めといった面々だ。
元々は部隊毎に装備も揃い、率いる上官もいたのだが戦死したり、戦闘の中ではぐれたりして残った者が再び集まって部隊の体を成しているのである。
「西尾士長、バイクの音が聞こえるであります!」
するすると木に登ったタマが広島弁の男──西尾に言った。
部隊に緊張感が走る。味方にバイク部隊は編成されていなかったはずだからだ。
「近付いてくるであります…」
全員がいつでも撃てるように銃を構えた。タマも樹上で9mm機関拳銃を構える。
ザザザ…
高速で迫る音が西尾の耳に届いた時、
「にゃっ!?」
タマがバランスを崩したかのように飛び降りた。
刹那──
バァン!
発砲音がして空中のタマを弾いた。
どすっ
受身も取れずにタマは背中から落ちる。
「おのれよくも!」
飛び出そうとするポチを西尾は襟を掴んで止めた。
「落ち着け、空中のタマを狙撃するなんてタダモンじゃねぇ」
その言葉にポチはぐるる…と唸って衝動を堪える。
「ごほっ!ごほっ!待って…本、田…士長で、けほっ、ありまし、た…はぁ、はぁ」
地面にうずくまったタマが咳き込みながら上体を起こした。
再び部隊に緊張感が走る。
「誰、じゃと…?」
「はっ、本田士長で、あります…!」
まだ肩で息をしているタマの報告を聞くや否や、西尾は近くに生えていた太めのツタを木から解き一旦岩の上を通すと、獣道を跨いで反対側の木に弛ませて括った。
簡易的なワイヤートラップである。
ブォン!
獣道を巧みに駆けてきた男はバイクに乗ったまま銃を構えて飛び出してきた。
すかさず西尾が手元の浮いたツタを踏みつけると岩を支点に地面に垂れたツタが張り、バイクの前輪を絡め取った。
後輪を跳ね上げて倒れたバイクに乗っていた男──本田は銃を構えた姿勢のまま放物線を描いて地面にくしゃりと落ちた。
「いってて…。何すんねん、ワレェ!…あ?西尾か、お前なんでこんなトコおんねん」
本田は怪訝な顔をした。
「なんでもなんもお前が狙うとったんわワシらじゃ。タマに当てよってからに…」
西尾は相棒の生還を喜びはしゃぐポチとタマを振り返った。つられて本田もタマを見る。
「木ぃの上におったんはタマやったんか。バレバレやぞ」
「本田士長もご自慢のパンチパーマが枯葉まみれでありますよ」
「くせ毛や!」
タマは悪びれない本田をからかう程には回復したようだった。
そこで西尾は気になっていた事を訊いた。
「で、なんで本田はバイクなんかもっとるん?仲間は?」
「そんなん奪ったに決まっとるやんけ。あいつら遅いさかい置いてきた」
さも当然かの様に言い放った本田に西尾はどう反応して良いか分からなかった。
「はぁ…。じゃけどまぁ丁度ええ。これから敵の迫撃砲を叩きに行くけぇ、援護せぇ」
「嫌や」
「は?」
「俺はもっと大物を狙う」
そう言って本田は走り去っていった。
「ったく…。あいつはほんに協調性のないやっちゃな」
西尾はため息を吐いて髪を後ろに撫でつけた頭を掻いた。
「それが本田士長であります」
「我らのみで十分であります」
2人の慰めの言葉に苦笑いして西尾は地図を広げた。
「情報によると迫撃砲は敵本陣から少し前に出とるらしいけん、このまま真っ直ぐ進めば当たるのぅ」
寄せ集め銀輪部隊はポチとタマを先頭に再び進み始めた。
────────────────────
一方本田はC組本陣深くに回り込もうとしていた。
しかしバイクの音に寄ってきたC組パトロールに進路を狭められ、いつしか正面側に追い込まれてしまっていた。
「くそっ!なんやねん鬱陶しい」
ズダン!ダン!
照準眼鏡を取り付けた64式小銃の引き金を立て続けに引く。
弾は狙い違わず命中し、本田を捜すパトロール2人はあっけなく倒れた。
「どないしよかな~。このままやとバレてまうし…」
逃げ道を探して辺りを見回した本田は少し離れた所に集団がいるのを見つけた。
「ん?あれか…西尾が言うとった迫撃砲は。エラそうな奴は、おらんな。興味無いわ、迫だけ壊しといたろ」
それは本田にとってちょっとしたゲームの様な感覚だった。500m先の武器に当てられるかというゲーム。
銃と体をバイクに委託して安定させるとスコープを覗き込んだ。ゆっくりと深呼吸を繰り返すと次第に心臓の鼓動すらも遠のく。そのまま自然に息を吐いて体の微細な揺れを全て取り去った。
遊びを殺した引き金を更にゆっくりと絞り込む。
…ダン!
7.62mm弾の強い衝撃で銃が跳ね、床尾板が本田の肩を叩く。本田はスコープから目を離さずにそれを抑え込んだ。
弾は迫撃砲の支持架部に当たり、迫撃砲を弾き倒す。
「よっしゃよっしゃ!」
本田は満足そうにバイクを起こして走り去った。
そんなA組側──
「快進撃であります!」「神風の如しであります!」
随分と小柄な2人がはしゃいでいた。ぱっと見では小学生のようだ。
瞬く間に防衛線を崩したA組は幾つもの分隊に分かれ、溶け込み、C組のパトロールとゲリラ戦をしつつ陣地の確保工作を行おうとしていた。
「その調子じゃポチ、タマ。しかし流石に消耗しとるのぉ」
広島弁の男はMINIMIを片手に部隊を見渡した。
ポチと呼ばれた男子とタマと呼ばれた女子の他には89式小銃や64式小銃、鉄帽まで新旧まちまちないかにも寄せ集めといった面々だ。
元々は部隊毎に装備も揃い、率いる上官もいたのだが戦死したり、戦闘の中ではぐれたりして残った者が再び集まって部隊の体を成しているのである。
「西尾士長、バイクの音が聞こえるであります!」
するすると木に登ったタマが広島弁の男──西尾に言った。
部隊に緊張感が走る。味方にバイク部隊は編成されていなかったはずだからだ。
「近付いてくるであります…」
全員がいつでも撃てるように銃を構えた。タマも樹上で9mm機関拳銃を構える。
ザザザ…
高速で迫る音が西尾の耳に届いた時、
「にゃっ!?」
タマがバランスを崩したかのように飛び降りた。
刹那──
バァン!
発砲音がして空中のタマを弾いた。
どすっ
受身も取れずにタマは背中から落ちる。
「おのれよくも!」
飛び出そうとするポチを西尾は襟を掴んで止めた。
「落ち着け、空中のタマを狙撃するなんてタダモンじゃねぇ」
その言葉にポチはぐるる…と唸って衝動を堪える。
「ごほっ!ごほっ!待って…本、田…士長で、けほっ、ありまし、た…はぁ、はぁ」
地面にうずくまったタマが咳き込みながら上体を起こした。
再び部隊に緊張感が走る。
「誰、じゃと…?」
「はっ、本田士長で、あります…!」
まだ肩で息をしているタマの報告を聞くや否や、西尾は近くに生えていた太めのツタを木から解き一旦岩の上を通すと、獣道を跨いで反対側の木に弛ませて括った。
簡易的なワイヤートラップである。
ブォン!
獣道を巧みに駆けてきた男はバイクに乗ったまま銃を構えて飛び出してきた。
すかさず西尾が手元の浮いたツタを踏みつけると岩を支点に地面に垂れたツタが張り、バイクの前輪を絡め取った。
後輪を跳ね上げて倒れたバイクに乗っていた男──本田は銃を構えた姿勢のまま放物線を描いて地面にくしゃりと落ちた。
「いってて…。何すんねん、ワレェ!…あ?西尾か、お前なんでこんなトコおんねん」
本田は怪訝な顔をした。
「なんでもなんもお前が狙うとったんわワシらじゃ。タマに当てよってからに…」
西尾は相棒の生還を喜びはしゃぐポチとタマを振り返った。つられて本田もタマを見る。
「木ぃの上におったんはタマやったんか。バレバレやぞ」
「本田士長もご自慢のパンチパーマが枯葉まみれでありますよ」
「くせ毛や!」
タマは悪びれない本田をからかう程には回復したようだった。
そこで西尾は気になっていた事を訊いた。
「で、なんで本田はバイクなんかもっとるん?仲間は?」
「そんなん奪ったに決まっとるやんけ。あいつら遅いさかい置いてきた」
さも当然かの様に言い放った本田に西尾はどう反応して良いか分からなかった。
「はぁ…。じゃけどまぁ丁度ええ。これから敵の迫撃砲を叩きに行くけぇ、援護せぇ」
「嫌や」
「は?」
「俺はもっと大物を狙う」
そう言って本田は走り去っていった。
「ったく…。あいつはほんに協調性のないやっちゃな」
西尾はため息を吐いて髪を後ろに撫でつけた頭を掻いた。
「それが本田士長であります」
「我らのみで十分であります」
2人の慰めの言葉に苦笑いして西尾は地図を広げた。
「情報によると迫撃砲は敵本陣から少し前に出とるらしいけん、このまま真っ直ぐ進めば当たるのぅ」
寄せ集め銀輪部隊はポチとタマを先頭に再び進み始めた。
────────────────────
一方本田はC組本陣深くに回り込もうとしていた。
しかしバイクの音に寄ってきたC組パトロールに進路を狭められ、いつしか正面側に追い込まれてしまっていた。
「くそっ!なんやねん鬱陶しい」
ズダン!ダン!
照準眼鏡を取り付けた64式小銃の引き金を立て続けに引く。
弾は狙い違わず命中し、本田を捜すパトロール2人はあっけなく倒れた。
「どないしよかな~。このままやとバレてまうし…」
逃げ道を探して辺りを見回した本田は少し離れた所に集団がいるのを見つけた。
「ん?あれか…西尾が言うとった迫撃砲は。エラそうな奴は、おらんな。興味無いわ、迫だけ壊しといたろ」
それは本田にとってちょっとしたゲームの様な感覚だった。500m先の武器に当てられるかというゲーム。
銃と体をバイクに委託して安定させるとスコープを覗き込んだ。ゆっくりと深呼吸を繰り返すと次第に心臓の鼓動すらも遠のく。そのまま自然に息を吐いて体の微細な揺れを全て取り去った。
遊びを殺した引き金を更にゆっくりと絞り込む。
…ダン!
7.62mm弾の強い衝撃で銃が跳ね、床尾板が本田の肩を叩く。本田はスコープから目を離さずにそれを抑え込んだ。
弾は迫撃砲の支持架部に当たり、迫撃砲を弾き倒す。
「よっしゃよっしゃ!」
本田は満足そうにバイクを起こして走り去った。
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