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迫撃砲隊、混乱ッ!
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「衛生兵を呼んでくれ!」
C組の迫撃砲隊は騒然としていた。
思いもよらぬ方向からの狙撃もさることながら、狙撃によって支持架部のネジが飛び不運にも近くにいた隊員に当たってしまったのだ。
顔を押さえてうずくまる隊員を塹壕に引き込む者。迎撃体制をとる者。双眼鏡で敵を捜す者。それらの混乱を統制しようとする者。
そんな中に彼女は駆けつけた。
「けが人は、けが人はどこですか!?」
「ここじゃねぇよ!」
「けが人はここですか?」
「もっとあっちだ!」
「は、はいぃ~…」
誰もが慌ただしく優木の言葉を軽くあしらっては各々の役割に戻っていった。
「はわわ…。けが人はどこでしょう…早くしないと…!」
しかし優木が駆けつけた所は実際にけが人の出た隊の反対側であった。
結局優木は横に広く伸びた迫撃砲隊の端から端まで駆け回ることになった。
「どっちから撃ってきやがった!?」
「9時方向の丘の上から!」
「警戒しろ!迫の状態はどうだ?怪我の様子は?」
「支持架損傷、砲身異状なし!」「頭部に裂傷、緊急包帯で止血中!」
混乱した迫撃砲隊は次第に落ち着きつつあった。
「支持架は直せるか?」「やってみる!」
「迫撃砲をやられた。射撃不能。丘の上に砲撃してくれ」
『了解』
冷静さを取り戻した分隊長の元、部隊が態勢を立て直し始めた頃、
「す、すみませ~ん!けが人は、こちら、ですか~?」
息を切らして走ってくる人影があった。
衛生の証である赤十字腕章をつけた優木だ。
「おお!こっちだ、こっち!」
分隊長は未だ遠い優木に手を振って合図を送った。
遠目に見ても分かるほど表情に安堵を浮かべた優木はよほど焦って来たのだろう、肩で息をしていた。
それでもなお、息が整わぬうちに優木は走り始めた。
たゆっ、たゆっ
「「「……」」」
けが人の、クラスメイトの為を思って駆け寄る優木の姿に皆が見惚れる。
たゆん、たゆん
「「「……」」」
誰かの為に必死に頑張る姿には目を奪われるものがある。
たゆんっ、たゆんっ
「「「……」」」
次第に大きくなる優木の姿と揺れに全員の目が釘付けになっていた。
「「「…(どぱっ)」」」
「おい!鼻血出てる、てか噴き出してるぞ!なんて量だ!」
数名が鼻を押さえて前かがみに倒れたところで、優木が異変に気付いた。
「はわっ!鼻血ですか!?倒れちゃう程なんて…熱中症かもしれませんっ!」
さらなる傷病者の発生に焦った優木だったが、不運にも気持ちに足がついてこなかった。
「はあっ、はあっ…きゃぁ!」
足がもつれて倒れた先に砲撃の為に半装填を済ませた隊員がいた。
どっ…
…ガボン!
ぶつかった衝撃で手から離れた砲弾は砲身の中に滑り落ちて、撃針と雷管の衝突によって起爆し、勢いよく飛んでいく。丘の頂上を狙っていた迫撃砲は優木が倒れ込んだことで狙いがずれ、丘の麓に着弾した。
────────────────────
「そろそろ見えてくるけぇ、気ぃ引き締めろ」
少し時を遡り、西尾らはC組迫撃砲隊の横、本田が狙撃を行った丘の麓から近づいていた。
見通しの悪い雑木林を警戒しながら迫る。
ガサッ…パキッ…
張り詰めた空気の中に草を掻き分け、枯れ枝を踏み折る音だけがしていた。
不意にポチが立ち止まる。
「近い…。なんだか騒がしいであります。非常事態でも起きたかのようでありますよ」
五感の鋭いポチが耳をそばだてた。
風下から接近したのが功を奏し、ポチの能力を遺憾なく発揮できる最高のロケーションといえた。
「混乱しとるんか。絶好のチャンスじゃのぉ」
西尾がニヤリと笑う。間もなく木々の合間からC組の様子が見えてきた。
茂みに潜って双眼鏡を覗いた西尾らは異様な光景に眼を見開いた。
C組が揃ってこちらに背を向けているのだ。しかも先程と打って変わって静寂に満ちている。
西尾は訝しんだ。双眼鏡を収めながら考える。
「(皆そろってよそ向いとる。これはタダ事じゃないが…。警戒に穴があるのも事実。罠か、好機か…)」
C組の様相に西尾は逡巡した。ここで判断を間違えれば部隊に全滅を招きかねない。
ふとタマを見た。小さな手で9mm機関拳銃の太い握把を握り締めていた。
反対側のポチを見た。目を光らせ、唇を舐める。
振り返ると仲間が引き締まった表情でそこにいた。
誰ひとりとして気の引けた者はいなかった。全員が真っ直ぐ前を見据えていた。
西尾は自分の気持ちを見つめた。
──ワシは、戦いたい
背中がざわつき、血が滾り始めるのを感じた。無意識に口角が上がる。
「やっぱり小賢しいのは性に合わんのぉ」
ひとりごちてゆっくりと立ち上がる。皆がそれにならう。
一人一人から爆発せんばかりの闘志を感じた。
「存分に暴れちゃろうや。…全員、突げ──」
ボンッ!
しかしそれは1つの爆発音に遮られた。
咄嗟に爆発の聞こえた方向を伺う。
再びC組が動き始めた様だったが、ポチとタマは上空を見上げていた。
…ぴゅぅぅぅううう
その風切音が聞こえていたのは2人だけだった。
音の正体に気付き、警告した時には既に手遅れであった。
「「砲撃であります!伏せろ!!」」
ボシュッ!
砲弾は吸い込まれる様に真っ直ぐ西尾らの真上に落下し、時限信管によって空中で炸裂した。
そして余すことなく麻酔ガスが覆い、ガスが晴れる頃には立っている者はいなかった。
C組の迫撃砲隊は騒然としていた。
思いもよらぬ方向からの狙撃もさることながら、狙撃によって支持架部のネジが飛び不運にも近くにいた隊員に当たってしまったのだ。
顔を押さえてうずくまる隊員を塹壕に引き込む者。迎撃体制をとる者。双眼鏡で敵を捜す者。それらの混乱を統制しようとする者。
そんな中に彼女は駆けつけた。
「けが人は、けが人はどこですか!?」
「ここじゃねぇよ!」
「けが人はここですか?」
「もっとあっちだ!」
「は、はいぃ~…」
誰もが慌ただしく優木の言葉を軽くあしらっては各々の役割に戻っていった。
「はわわ…。けが人はどこでしょう…早くしないと…!」
しかし優木が駆けつけた所は実際にけが人の出た隊の反対側であった。
結局優木は横に広く伸びた迫撃砲隊の端から端まで駆け回ることになった。
「どっちから撃ってきやがった!?」
「9時方向の丘の上から!」
「警戒しろ!迫の状態はどうだ?怪我の様子は?」
「支持架損傷、砲身異状なし!」「頭部に裂傷、緊急包帯で止血中!」
混乱した迫撃砲隊は次第に落ち着きつつあった。
「支持架は直せるか?」「やってみる!」
「迫撃砲をやられた。射撃不能。丘の上に砲撃してくれ」
『了解』
冷静さを取り戻した分隊長の元、部隊が態勢を立て直し始めた頃、
「す、すみませ~ん!けが人は、こちら、ですか~?」
息を切らして走ってくる人影があった。
衛生の証である赤十字腕章をつけた優木だ。
「おお!こっちだ、こっち!」
分隊長は未だ遠い優木に手を振って合図を送った。
遠目に見ても分かるほど表情に安堵を浮かべた優木はよほど焦って来たのだろう、肩で息をしていた。
それでもなお、息が整わぬうちに優木は走り始めた。
たゆっ、たゆっ
「「「……」」」
けが人の、クラスメイトの為を思って駆け寄る優木の姿に皆が見惚れる。
たゆん、たゆん
「「「……」」」
誰かの為に必死に頑張る姿には目を奪われるものがある。
たゆんっ、たゆんっ
「「「……」」」
次第に大きくなる優木の姿と揺れに全員の目が釘付けになっていた。
「「「…(どぱっ)」」」
「おい!鼻血出てる、てか噴き出してるぞ!なんて量だ!」
数名が鼻を押さえて前かがみに倒れたところで、優木が異変に気付いた。
「はわっ!鼻血ですか!?倒れちゃう程なんて…熱中症かもしれませんっ!」
さらなる傷病者の発生に焦った優木だったが、不運にも気持ちに足がついてこなかった。
「はあっ、はあっ…きゃぁ!」
足がもつれて倒れた先に砲撃の為に半装填を済ませた隊員がいた。
どっ…
…ガボン!
ぶつかった衝撃で手から離れた砲弾は砲身の中に滑り落ちて、撃針と雷管の衝突によって起爆し、勢いよく飛んでいく。丘の頂上を狙っていた迫撃砲は優木が倒れ込んだことで狙いがずれ、丘の麓に着弾した。
────────────────────
「そろそろ見えてくるけぇ、気ぃ引き締めろ」
少し時を遡り、西尾らはC組迫撃砲隊の横、本田が狙撃を行った丘の麓から近づいていた。
見通しの悪い雑木林を警戒しながら迫る。
ガサッ…パキッ…
張り詰めた空気の中に草を掻き分け、枯れ枝を踏み折る音だけがしていた。
不意にポチが立ち止まる。
「近い…。なんだか騒がしいであります。非常事態でも起きたかのようでありますよ」
五感の鋭いポチが耳をそばだてた。
風下から接近したのが功を奏し、ポチの能力を遺憾なく発揮できる最高のロケーションといえた。
「混乱しとるんか。絶好のチャンスじゃのぉ」
西尾がニヤリと笑う。間もなく木々の合間からC組の様子が見えてきた。
茂みに潜って双眼鏡を覗いた西尾らは異様な光景に眼を見開いた。
C組が揃ってこちらに背を向けているのだ。しかも先程と打って変わって静寂に満ちている。
西尾は訝しんだ。双眼鏡を収めながら考える。
「(皆そろってよそ向いとる。これはタダ事じゃないが…。警戒に穴があるのも事実。罠か、好機か…)」
C組の様相に西尾は逡巡した。ここで判断を間違えれば部隊に全滅を招きかねない。
ふとタマを見た。小さな手で9mm機関拳銃の太い握把を握り締めていた。
反対側のポチを見た。目を光らせ、唇を舐める。
振り返ると仲間が引き締まった表情でそこにいた。
誰ひとりとして気の引けた者はいなかった。全員が真っ直ぐ前を見据えていた。
西尾は自分の気持ちを見つめた。
──ワシは、戦いたい
背中がざわつき、血が滾り始めるのを感じた。無意識に口角が上がる。
「やっぱり小賢しいのは性に合わんのぉ」
ひとりごちてゆっくりと立ち上がる。皆がそれにならう。
一人一人から爆発せんばかりの闘志を感じた。
「存分に暴れちゃろうや。…全員、突げ──」
ボンッ!
しかしそれは1つの爆発音に遮られた。
咄嗟に爆発の聞こえた方向を伺う。
再びC組が動き始めた様だったが、ポチとタマは上空を見上げていた。
…ぴゅぅぅぅううう
その風切音が聞こえていたのは2人だけだった。
音の正体に気付き、警告した時には既に手遅れであった。
「「砲撃であります!伏せろ!!」」
ボシュッ!
砲弾は吸い込まれる様に真っ直ぐ西尾らの真上に落下し、時限信管によって空中で炸裂した。
そして余すことなく麻酔ガスが覆い、ガスが晴れる頃には立っている者はいなかった。
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