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西の地で

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だが、安心している真治と奈央とは違い、周囲の異変に眉をひそめたのは内藤。


尻を掻きながら、スンスンと鼻を鳴らして耳を澄ました。


「おかしい……さっきと声の質が違う。それにこの匂い……」


やけにシリアスな表情をしているが、内藤と出会ってからおかしな言動ばかりだからか、その言葉も何か別の意味があるのかと思ってしまうのは当然だった。


「何がですか? 人が戦ってる声は聞こえますし、匂いって?」


真治がそう尋ねると、内藤は道の先を目を凝らして見た。


「見ろ、よく見なければ気付かないが、道路に血痕がある。左右のビルの壁にも何かが飛び散った形跡があるのがわかるだろう?」


「私達よりも先にここを通って、戦った人がいるんじゃない?  その可能性だってあるわけでしょ?」


「おぐりんの言い分も一理あるが……何か嫌な予感がするな」


侵攻のプロ、内藤でさえそう言ってしまうほど、この先は危険な可能性があるのかと、侵攻初心者の二人は道の先を見て考え込んでいたが、数秒後に聞こえた悲鳴に事態は一変した。


「きゃ、きゃあああああああっ! なんでこんな所に! 誰か……誰か!」


道の先から聞こえた、明らかに若そうな女性の声に、真っ先に走り出したのは内藤。


条件反射とも言うべき反応速度で、二人をその場に置き去りにするほどの速度で走って行ったのだ。
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