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厳しい優しさ

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足音を立てないようにゆっくりと廊下を歩く。


道路に面した部屋は四部屋。微かな物音でも聞き取る為に、意識を耳に集中させる。


恵梨香や吹雪くらい強ければ、もしかしたら人の気配を感じることも出来るかもしれないが、今の真治には無理な話だ。


全てのドアから、人が飛び出して来ないかと警戒しながら歩いて、奥から二つ目の部屋の前に差し掛かった時だった。


その部屋の中から、囁くような声が聞こえたのは。


「ここか。何だって南軍のマンションの部屋に……」


そう思いはしたが、恵梨香や吹雪も南軍で休んでいると考えたら、あまり不思議なことではないのかもしれない。


中に一体何人いるのか。


ドアノブに手を掛けてゆっくりと回してみるが、鍵が掛かっているようで開かない。


「……知宏? 違う、誰!?」


ドアノブを回すその微かな音に気付いたのか、女性の声が中から聞こえた。


状況としては最悪だった。ドアを開けるのに手間取れば相手に戦う準備をされてしまうだろう。このまま退くか、押し入るか。


「やれるか!?」


それを考える間もなく、真治は日本刀をドアと壁の僅かな隙間に滑り込ませた。そしてドアのデッドボルトを切断して開けると、部屋の中に侵入したのだった。


驚いた様子でこちらを見ているのは女性一人だけ。


侵入者の姿を捉えた女性の行動は早かった。三日月のような形の武器を構えて、女性は素早く真治に襲い掛かったのだ。
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