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厳しい優しさ

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「うう……ん……」


悩み続ける真治の後ろで、少し苦しそうに理沙が唸る。


なるほど。開幕戦で負傷して、理沙を回復させる為に仲間達がここに運んだのかと理解出来る。


逃げ込んだ所を南軍の誰かに見られたか、中にいた人と遭遇して戦闘になったのだろう。


その物音が、このマンションの前を歩いていた真治に聞こえたのだろう。室内を見回してみれば、物が乱雑に散らかっているし、先に斬り捨てた女性のものでない血痕もある。


それにしても、なぜ会いたくなかった人に会うのか。


顔も見たくないという意味ではなく、この街で会いたくないという意味だ。


元の世界では、理沙がいたから真治はいじめられていても耐えられたといえよう。


だが今はどうだ、


東軍と南軍。敵同士で出会うなど、誰が望んでいるというのか。


「う……ん。あ……あれ? 真治がいる。あはっ、夢だったんだ。良かった」


目を覚ました理沙が、嬉しそうな声を出して真治の背中に手を当てた。


夢を見ていたのだろう。そして、この街での出来事も夢だと思っていたに違いない。


「夢って……殺し合いをする夢?」


背中に当てられた手を握り、腕の光を見せた。


理沙は青、真治は赤。


二人の腕の色の違いが、それぞれの立場の違いを示しているようで、真治は切なくなった。
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