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襲い来る野獣

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左腕がズキンと痛む。


横に並んで顔を覗かれていた時に攻撃を加えられていたのだろう。


殺すことに集中し過ぎて、攻撃を受けたことに真治は気付いていなかった。


そのあまりにも早く、見えない攻撃に、痛みを感じさせない攻撃をしてくるとまで考えてしまう。


「お前が……本物の津堂か? 恵梨香さんを返せ!」


「お前は何度も同じことを囀っているな。あの女を返せと言う要求に対して返事はノーだ。そして俺が津堂かと言う問いに対しては答えよう。俺は津堂燕飛。東軍のブッチャーなどと言われているが……好きに思え」


ただ当たり前に、敵が目の前にいると言うのに、緊張した様子もなくリラックスした様子で。


殺気を……全く感じない。


今まで出会った人間でもポーンでも、対峙した時は飲み込まれるかと思うほどの殺気を放っているというのにだ。


だが、それが逆に怖い。


何も感じない空気の中で、人を殺すのを、呼吸をするかのように自然に行えるということなのだろう。


そんな根っからの殺人鬼を相手にしようというのだ。


相手は同じ人間なのだからどうにかなるはずだと、気持ちだけでも負けないように奮い立たせる。


今まで戦ったやつらを思い出せ、自分に合った戦い方で隙を突くんだと、真治は津堂を睨み付けた。
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