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狂い始める歯車

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予想だにしなかった出来事に、半ばパニックで慌てて上体を起こした真治は理沙の方を見た。


まさか、「それでも、やっぱり真治を殺す」とでも言うのかと不安になった真治の目に映った物は。


悲しそうな表情を浮かべて腕を伸ばす理沙の姿。


スローモーションのように、理沙がゆっくりと動いていていて、その唇が小さく動く。




逃げて。




次の瞬間、理沙の身体が床に叩き付けられた。


血しぶきが辺りに飛び散り、身体は上半身と下半身で分断されて。


痛みがあったのか、それとも一瞬だったから、それすら感じなかったかはわからない。


わかったことはひとつだけ。



「チッ!! そのまま抱き締めてたら、恋人同士で仲良く死ねたのにさ!!」



香月が金棒を振り下ろして、理沙を殺したのだということだ。


そして真治の心に、また理沙を守ってやれなかったという想いが深く刻まれたのだった。


それを理解したのは、飛び散った理沙の血が顔で弾けてから。


守ると言った直後に理沙に守られるとは、なんと情けないことだろうか。


次に会った時に、どんな顔をして理沙の前に出れば良いんだと悔やむ。


怒りと悲しみに襲われながら立ち上がった真治は、いつまで経っても理沙の身体が光の粒に変化しないことに首を傾げた。
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