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狂い始める歯車

system_0618

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「理沙は何も心配しなくて良いよ。この怪我だってすぐに治せるから」


短剣で背中を刺されて、無事であるはずはないのだが、それでも理沙を心配させまいと強がって見せる。


右手を理沙の背中からズボンのポケットに移動させ、PBMを取り出した真治は回復をする為に画面に触れた。


通常回復と瞬間回復のどちらにすべきかなどと考えるまでもない。


即死ではなかったといえ、それなりに傷は深く、激痛が心臓の動きに合わせて傷口の周囲に走る。


だが、それを癒してくれるように、身体の前面に理沙の温もりを感じていた。


「本当にごめんね……真治は、私に選択肢を与えてくれたのに……私が東軍に戻るって言ったから……」


「俺が悪かったんだ……理沙を守ってやるって言えなかったから。だから……俺の方こそごめん」


小さな頃から、ずっと一緒にいた理沙。


物心ついた頃から好きで。だけど、その想いを伝えることが出来なくて気付けば高校生になっていた。


前に会った時に、初めて交わしたキス。


これほどまでに好きだというのに、この街のシステムと自分自身の弱さが、二人が一緒にいることを許さなかった。


でも、もうそれもない。


理沙を守ると強く誓って、PBMの画面に触れた時だった。



「し、真治!」



突然の言葉と共に、理沙に右側に突き飛ばされ、真治は床に倒れてしまったのだ。
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