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怒りの二宮金次郎像

三十一冊目

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「カミキ?  お前何言ってんだ?  俺達がAにそんなことをしたって?  そんなのまるでいじめじゃねえか。そんな記憶は……」


そこまで言って、キョウスケは眉をひそめた。


そんな記憶はない。確かにないのだが、そもそもAの記憶がないのだからやっていないとも言えないことに、言い知れぬ不気味さを感じることになった。


もしも、このカミキの言う通りに自分達がAをいじめていたとしたらどうだ?


お調子者のAが勝手に二宮金次郎像に登ったという記憶が、ガラリとイメージを変えるのではないか。


「Aの最期はこうだった。クラスメイトの同じ半の人達にいじめられていたAは、二宮金次郎像の上に登って、30秒片足立ち出来れば殴るのはやめてやると、コウセイくんに言われて、仕方なくやったんだ。ミハネちゃんがスマホで撮影をしていてね。そして、Aは見事に30秒間の片足立ちを成功させた。だけどね、像の首が折れてしまって……落下したAは、二宮金次郎像に頭部を打ち付け、回転して地面に激突。死亡したんだ」


淡々と語るカミキは物悲しそうに、悔しそうに二宮金次郎像の方を見詰めた。


もしもこの言葉が本当なら、事故なんかじゃない。自分達がAを追い詰めて、殺したようなものだ。


記憶にないカミキの言葉が、キョウスケの心を徐々に蝕んでいるのを感じていた。
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