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怒りの二宮金次郎像

三十二冊目

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少し離れた場所で、まだ腰を抜かしているアンナが、この状況をどう理解すれば良いかわからないといった様子で視線を泳がせていた。


「な、なに一人で喋ってるのあいつ。私は……どうすればいいのよ。何がどうなったらこんな……うぷっ!」


なるべく見ないようにしていたが、チラリとコウセイの遺体を見てしまい、胃から何かが込み上げてくる感覚に涙が浮かぶ。


「Aはキミ達から酷いいじめを受けていた。あの日だってそうだ。Aは殴られるか、この像の上に登るかを迫られ、登って……そして落下して死んだんだ。その時から、全員の未来が狂い始めたんだよ」


隣にいたカミキがポツリポツリと話し出したのを聞いて、目を見開いて不思議そうな表情を向けた。


キョウスケと同じく、カミキが一体何を言っているのかわからない。


そんな記憶はないし、もしもそれが事実だとしたらどうして忘れているのかがわからないから。


「い、意味わかんないんだけど。今の話だと、落ちたのはAの勝手でしょ?  私達には関係が……」


「そうなる原因を作ったのに、関係ないなんて言えるのかい?  キミ達にとっては記憶にも残っていないどうでもいい人間かもしれない。だけどAも必死に生きていたんだ。僕だって、普通に生きたかったんだ」


そう言ったカミキの視線は冷たく、刺すような鋭いものだった。


「Aとは僕のことだよ。キミ達に追い詰められて殺されたのは僕だ」
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