「聖女よ!お前を追放する!理由は雨女だから!」 ~ 水の聖女と蒸気の鉄人 ~

ダイスケ

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第12話 土地神様の隠されたちから

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 王国が政治的な危機を迎えている一方で、砂漠の果てに追放されたあたし達は、土地神様といたって平和で快適な毎日を送っておりました。

「土地神さまー、この岩をどけてもらっていいですかー?」

「理解シタ」

 ちょっとした畑を作る上で邪魔になっていた大きな岩も、土地神様のお力にかかれば何てことありません。
 本来であれば、竜が何頭も縄をかけて引っ張らないと動かないような障害も、チョイチョイと退かせてもらえます。

「はー。土地神様って、ほんと力持ちですねー」

「問題ナイ」

 土地神様がすごいのは、力だけじゃありません。
 畑を耕すのも、ものすごく得意なのです!

「畑の土も、お願いします」

「理解シタ」

 大きな岩を退かせて整地した畑に土地神様が腕の先っぽをつっこんでブルブルすると、畑の中の小石も砕けてしまうのです!
 おかげで畑の土はお城の絨毯のようにフカフカです。

 この畑は、聖女様のお力でときどき氾濫するようになった川の泥、つまりは上流から流れてきた黒い土を使っています。
 聖女様によれば、黒い土は大地の力が強いそうです。

 おかげで、先に開いた別の畑にはカラス麦がすくすくと育ってきています。
 カラス麦は、元々が雑草のように自然に生えているものですから、川沿いに生えているところを見つけて畑に植え替えたのです。

 ちなみに、カラス麦を見つけたのは聖女様です。
 散歩している際に「あれを植えましょう」と仰るので土ごと持ってきたのです。

 都会育ちのあたしからすると、カラス麦というと家畜の餌の印象しかないのですが、聖女様の仰るには収量のわりに手間をかけずに済むので、広い耕地を楽に整備できれば十分に割が合う、のだそうです。

「少シ離レテ」

「はい」

 土地神様が耕した土に向かって6本指の先からシューっと熱い蒸気を吹き付けます。
 こうすることで、土の中の悪い虫や何かを殺しているそうです。
 同じように畝の脇にに吹き付けると雑草も一網打尽になります。

「土地神様、ほんとうにスゴいですね!ひょっとして土地神様は農業の神様だったんですか?」

「可能性ハアル。記憶領域ハ再生中」

「早く昔のことが思い出せるといいですね」

 下から見上げた土地神様の顔は、少しだけ寂しそうに見えました。

 ◇  ◇  ◇  ◇

 あの夜、土地神様が幾千年ぶりに修道院で一晩を明かしてから。
 残念ながら完全に記憶が戻ったりはしませんでしたが、それでも多くの面で機能を取り戻したようです。

 それでまでは、どちらかと言えば寡黙で受け身な「いかにも神様」然とした印象だったのですが、夜が明けると土地神様は「神殿ノ周囲ヲ整備スル。協力ヲ依頼シタイ」と仰られたのです。

「はい、お任せください」

「軒を借りているのはあたし達ですから、協力するのは当然です!」

 胸を叩いてみせたものの、しょせんは女の細腕が2人分あるだけ。
 主な仕事は土地神様のサポートです。

 具体的には、土地神様のエネルギー源となる水と薪を用意すること。
 それと土地神様と修道院の掃除です。

 そうして始めた最初の仕事は。

「マズハ畑ヲ作ル」

 そう言われて、聖女様とあたしは困惑しました。
 元は岩と砂の砂漠で畑を作ることが可能とは、とても思えなかったからです。

「砂漠蟲を増やしてはどうでしょう?先日は卵を産んでましたし」

 蟲車を引っ張るために連れてきた2蟲立ての砂漠蟲達は連日の雨で水を含んだ若草を嬉しそうに食べ続け、すっかり太るだけでなく卵まで産んでいます。砂漠蟲は乾燥地帯では運搬や食料源としても有用な家蟲ですから増やせば高く売れるはずです。

 なぜ産卵に気がついたかといえば、どうも砂漠蟲の卵は雨に濡らしてはいけないらしく、図々しくも掃除済みの修道院の部屋の一室を巣にしていやがったからです!

「蟲ヲ食ベルノカ」

「・・・?はい、食べますよ。卵も栄養ありますし」

「・・・ソウカ。人ハ逞シイナ」

「なんでしょう。褒められた気がしません」

 土地に合ったものを食べる。それができるから王国人は世界を征することが出来たのです。
 もっとも、隣国に言わせると「連中は塩と酢《ピネガー》があればテーブルでも食う意地汚い民族だ」とか。
「カエル美味しい」と言っている連中に言われたくありません。

 話がそれました。

 聖女様を交えて、今後の食料計画について話し合います。
 ご飯は大事です!

「岩塩と紅茶には、まだ余裕がありますね。雛《ひよこ》豆や小麦は少し減ってきました」

「豆は植えたら育つかもしれないわね。小麦はちょっと2人では手入れが難しいかも」

 パンを食べるには小麦が必要ですが、ちょっと難しそうです。
 今後の課題です。

「砂漠トカゲを見なくなったのは寂しいですね。貴重なお肉だったのですが・・・」

「雨で隠れているのかもしれないわね」

「鳥は小さくて食べ応えがないんですよね・・・弾丸《たま》も勿体ないですし」

 お肉をどう調達するか。ちょうど良い大きさの蟲かトカゲが来てくれるといいのですが、これも保留。
 畑を開いたら害獣が来るかもしれませんので、それをしとめるのも良いでしょう。

「塊芋《かいいも》はどう?あれを植えましょうか」

「いいですね!暑さが心配ですが覆いをすればいけるかもしれません。茹でて塩をふって食べると美味しいんですよね!」

「神殿では出されなかったわね。一度、食べてみたいと思っていたの」

「美味しいんですよ!」

 塊芋は王国下層民の主食です!安くてお腹一杯になって栽培も簡単!
 聖女様のような貴い身分の方はお食べにならないなんて勿体ない!

「塊芋を食べたことがないなんて人生の損ですよ!ね!?」

「・・・ソウダナ」

 せっかく盛り上げようと話題を振ったのに、土地神様はお話にのってきませんでした。
 不思議なことに、鉄の塊の土地神様からなま温かい視線を向けられた気がしたものです。

 その夜、なぜか土地神様が塊芋を蒸気で「シューッ」と蒸してくれました。
 岩塩をたくさんかけて食べました。
 美味しかったです。
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