27 / 58
第27話 うねりの行く先は
しおりを挟む
「とにかく、南へ行こう。この土地はもうダメだ」
「戦争で勝ち続けている王子様の処までたどりつけば、雨の降る土地がもらえる・・・」
「兵隊にとられた息子に会えるかも・・・」
王国でも特に酷い干魃に襲われた村から、たった十数人が港を目指して歩き出した流れは、小さなせせらぎが合流して小川となり、小川が合流して大河へと成長するように、あれよあれよという間に、数千とも数万ともわからない巨大な人の流れへと変わりました。
「あの人の流れは何だい?」
「知らないのかい?王様が土地をくれるんだってさ」
「へえ!そいつはいいね!こんなカラカラに干上がった土地を耕してもどうしようもない!いっそついて行ってみるか」
その変化があまりに急で激しかったために、領地を統治する貴族も、街道を監視する衛兵達も事態を把握したのは、土地を捨て去った農民達の巨大な群れが眼前に顕れ、領地を隔てる柵や、街道の関所など、全ての施設を津波のようになぎ倒していってからだったのです。
「い、いったいこの人の波はなんなのだ・・・」
「わかりません・・・なにが起きているんでしょう・・・」
「隊長、とめますか?」
「バカやろう、とめるったって、これだけの人数を俺たちだけでどうやって止めるんだよ・・・」
不幸中の幸いであったことに、貴族も衛兵も人の数の多さに圧倒され手元の武器を発砲することを忘れたために王国人同士で血が流されることはありませんでした。
若い男達は根こそぎ兵士として連れて行かれてしまったために、暴力に訴える者達が農民の中に少なかったことも結果として流血沙汰の回避につながったのかもしれません。
もし、農民達の群れに錯乱した貴族や衛兵が一発でも銃弾を浴びせてしまっていたら、それを切っ掛けに王国は内乱と革命の渦へと転落していったかもしれません。
革命は多くの血と財産を破壊し、結果として農民も貴族も全ての国民を不幸にします。
その夜の王国は、まことに運が良かったのです。
とはいえ、大勢の農民の移動はまことに由々しき事態です。
世界を征した王国の内に、大量の難民が出現したということだからです。
古来より、国民を食べさせることができなかった政体が長続きした事例はありません。
その意味で、王国の存続に明白な危険信号が表れたのだ、ということも言えます。
「陛下!貴族達が面会を求めています!」
「大臣!いったい何がおきているのか!説明しろ!」
ようやく事態の重大さを把握した王国首脳部は大混乱に陥っていました。
領地から領民が流出した大勢の貴族達が個別に王宮へ請願に押し掛けていたからです。
◇ ◇ ◇ ◇
「土地神さまー、具合はいかがですかー」
「問題ナイ」
海賊船を改装して泥炭を運ぼう計画(命名は聖女様)は順調に滑り出しました。
船を引っ張る力に耐えられるロープをなうのだけは苦労しましたが、空の船はとても軽く土地神様のお力であれば問題なく川を遡上できたからです。
聖女様とあたしは太い縄が結ばれた運搬船の先端に陣取て、聖女様はお水を舳先からかけ続け、あたしは聖女様に特製お肉とチーズたっぷりのサンドイッチと紅茶を給仕しています。
「聖女様、紅茶のおかわりはいかがですか」
「そうね。いただこうかしら」
聖女様の片手は常に水を注ぐためにふさがっておりますから、空いた片方の手でサンドイッチをつまみ、また持ち替えて紅茶を飲むという大変に器用な真似をなさっておられます。
やや呆れつつも感嘆して眺めておりますと
「サンドイッチはこうやって食べるのが正しいのよ」
と、やや言い訳がましく急いで残りのサンドイッチを飲み込まれました。
土地神様が力強く川岸を踏みしめてグイグイと力強く船を引っ張ってくれているのを左舷に見つつ、聖女様の手のひらからトクトクとこぼれ落ちる水音は耳に優しく、川面をわたる涼やかな風と合わせて、まるで王国の景勝地へ行楽に来たかのように感じられます。
聖女様も同じように感じられたのでしょう。
「穏やかですね」
「そうですね。新しく海賊も来ませんし」
「それは、私のリリアが、あれだけあっさり返り討ちにしたんですもの。怖れをなして、しばらくは来ないでしょう」
「・・・ここの来た海賊は、たぶん生き残りはいないと思いますが」
「羊飼いさんが様子を見ていたでしょう?きっと今頃は地元に戻って部族の人達に大げさに話を吹聴していますよ。神殿には守護者がいる!とか評判になるのもすぐですよ」
「それはちょっと恥ずかしいです・・・」
先日の海賊達は地元の乱暴者が群れた程度の素人の寄せ集めに過ぎませんでしたし、明らかに油断がありました。
訓練された王国の軍人が装甲魔導蒸気機関推進式船にでも乗り組んで遠距離から大砲を打ちかけてきたら、手元のボルト式小銃《アクションライフル》だけでは撃退できなかったでしょう。
「そんな状況を何とかできる人間はいません」
「そうでしょうけれども、あたしは聖女様の侍女ですから」
「リリアは真面目ですね」
他愛ない話をしているうちに、ようやく先日見つけた泥炭の池が見えてきました。
「さて!リリア、ここは頑張らないといけませんよ!」
「はい!聖女様!」
事前に手順は決めてあります。
最初に土地を整地して泥炭を積み上げる場所を造成します。
船の輸送力に限界があるので出来るだけ泥炭の良い部分だけを選んで可能ならば水分を飛ばして軽くしてから積み込みたいからです。
そうして、泥炭を掘って掘って掘りまくって、なるべく沢山の泥炭を持ち帰るのです!
ピラミッドの地下の大きな歯車の柱を動かすことができたなら、土地神様もきっと喜んでくれるに違いありません!
「戦争で勝ち続けている王子様の処までたどりつけば、雨の降る土地がもらえる・・・」
「兵隊にとられた息子に会えるかも・・・」
王国でも特に酷い干魃に襲われた村から、たった十数人が港を目指して歩き出した流れは、小さなせせらぎが合流して小川となり、小川が合流して大河へと成長するように、あれよあれよという間に、数千とも数万ともわからない巨大な人の流れへと変わりました。
「あの人の流れは何だい?」
「知らないのかい?王様が土地をくれるんだってさ」
「へえ!そいつはいいね!こんなカラカラに干上がった土地を耕してもどうしようもない!いっそついて行ってみるか」
その変化があまりに急で激しかったために、領地を統治する貴族も、街道を監視する衛兵達も事態を把握したのは、土地を捨て去った農民達の巨大な群れが眼前に顕れ、領地を隔てる柵や、街道の関所など、全ての施設を津波のようになぎ倒していってからだったのです。
「い、いったいこの人の波はなんなのだ・・・」
「わかりません・・・なにが起きているんでしょう・・・」
「隊長、とめますか?」
「バカやろう、とめるったって、これだけの人数を俺たちだけでどうやって止めるんだよ・・・」
不幸中の幸いであったことに、貴族も衛兵も人の数の多さに圧倒され手元の武器を発砲することを忘れたために王国人同士で血が流されることはありませんでした。
若い男達は根こそぎ兵士として連れて行かれてしまったために、暴力に訴える者達が農民の中に少なかったことも結果として流血沙汰の回避につながったのかもしれません。
もし、農民達の群れに錯乱した貴族や衛兵が一発でも銃弾を浴びせてしまっていたら、それを切っ掛けに王国は内乱と革命の渦へと転落していったかもしれません。
革命は多くの血と財産を破壊し、結果として農民も貴族も全ての国民を不幸にします。
その夜の王国は、まことに運が良かったのです。
とはいえ、大勢の農民の移動はまことに由々しき事態です。
世界を征した王国の内に、大量の難民が出現したということだからです。
古来より、国民を食べさせることができなかった政体が長続きした事例はありません。
その意味で、王国の存続に明白な危険信号が表れたのだ、ということも言えます。
「陛下!貴族達が面会を求めています!」
「大臣!いったい何がおきているのか!説明しろ!」
ようやく事態の重大さを把握した王国首脳部は大混乱に陥っていました。
領地から領民が流出した大勢の貴族達が個別に王宮へ請願に押し掛けていたからです。
◇ ◇ ◇ ◇
「土地神さまー、具合はいかがですかー」
「問題ナイ」
海賊船を改装して泥炭を運ぼう計画(命名は聖女様)は順調に滑り出しました。
船を引っ張る力に耐えられるロープをなうのだけは苦労しましたが、空の船はとても軽く土地神様のお力であれば問題なく川を遡上できたからです。
聖女様とあたしは太い縄が結ばれた運搬船の先端に陣取て、聖女様はお水を舳先からかけ続け、あたしは聖女様に特製お肉とチーズたっぷりのサンドイッチと紅茶を給仕しています。
「聖女様、紅茶のおかわりはいかがですか」
「そうね。いただこうかしら」
聖女様の片手は常に水を注ぐためにふさがっておりますから、空いた片方の手でサンドイッチをつまみ、また持ち替えて紅茶を飲むという大変に器用な真似をなさっておられます。
やや呆れつつも感嘆して眺めておりますと
「サンドイッチはこうやって食べるのが正しいのよ」
と、やや言い訳がましく急いで残りのサンドイッチを飲み込まれました。
土地神様が力強く川岸を踏みしめてグイグイと力強く船を引っ張ってくれているのを左舷に見つつ、聖女様の手のひらからトクトクとこぼれ落ちる水音は耳に優しく、川面をわたる涼やかな風と合わせて、まるで王国の景勝地へ行楽に来たかのように感じられます。
聖女様も同じように感じられたのでしょう。
「穏やかですね」
「そうですね。新しく海賊も来ませんし」
「それは、私のリリアが、あれだけあっさり返り討ちにしたんですもの。怖れをなして、しばらくは来ないでしょう」
「・・・ここの来た海賊は、たぶん生き残りはいないと思いますが」
「羊飼いさんが様子を見ていたでしょう?きっと今頃は地元に戻って部族の人達に大げさに話を吹聴していますよ。神殿には守護者がいる!とか評判になるのもすぐですよ」
「それはちょっと恥ずかしいです・・・」
先日の海賊達は地元の乱暴者が群れた程度の素人の寄せ集めに過ぎませんでしたし、明らかに油断がありました。
訓練された王国の軍人が装甲魔導蒸気機関推進式船にでも乗り組んで遠距離から大砲を打ちかけてきたら、手元のボルト式小銃《アクションライフル》だけでは撃退できなかったでしょう。
「そんな状況を何とかできる人間はいません」
「そうでしょうけれども、あたしは聖女様の侍女ですから」
「リリアは真面目ですね」
他愛ない話をしているうちに、ようやく先日見つけた泥炭の池が見えてきました。
「さて!リリア、ここは頑張らないといけませんよ!」
「はい!聖女様!」
事前に手順は決めてあります。
最初に土地を整地して泥炭を積み上げる場所を造成します。
船の輸送力に限界があるので出来るだけ泥炭の良い部分だけを選んで可能ならば水分を飛ばして軽くしてから積み込みたいからです。
そうして、泥炭を掘って掘って掘りまくって、なるべく沢山の泥炭を持ち帰るのです!
ピラミッドの地下の大きな歯車の柱を動かすことができたなら、土地神様もきっと喜んでくれるに違いありません!
0
あなたにおすすめの小説
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
英雄一家は国を去る【一話完結】
青緑 ネトロア
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。
- - - - - - - - - - - - -
ただいま後日談の加筆を計画中です。
2025/06/22
身代わりで呪いの公爵に嫁ぎましたが、聖女の力で浄化したら離縁どころか国一番の溺愛妻になりました〜実家が泣きついてももう遅い〜
しょくぱん
恋愛
「お前のような無能は、死神の生贄にでもなっていろ」
魔力なしの無能と蔑まれ、家族に虐げられてきた伯爵令嬢レティシア。 彼女に命じられたのは、近づく者すべてを病ませるという『呪いの公爵』アレクシスへの身代わり結婚だった。
鉄格子の馬車で運ばれ、たどり着いたのは瘴気に満ちた死の城。 恐ろしい怪物のような男に殺される――。 そう覚悟していたレティシアだったが、目の前の光景に絶望よりも先に別の感情が湧き上がる。
(な、何これ……汚すぎるわ! 雑巾とブラシはどこ!?)
実は、彼女が「無能」と言われていたのは、その力が『洗浄』と『浄化』に特化した特殊な聖女の魔力だったから。
レティシアが掃除をすれば、呪いの瘴気は消え去り、枯れた大地には花が咲き、不気味だった公爵城はまたたく間にピカピカの聖域に塗り替えられていく。 さらには、呪いで苦しんでいたアレクシスの素顔は、見惚れるほどの美青年で――。
「レティシア、君は一体何者なんだ……? 体が、こんなに軽いのは初めてだ」
冷酷だったはずの公爵様から、まさかの執着と溺愛。 さらには、呪いが解けたことで領地は国一番の豊かさを取り戻していく。
一方で、レティシアを捨てた実家は、彼女の『浄化』を失ったことで災厄に見舞われ、今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくるが……。
「私は今、お城の掃除と旦那様のお世話で忙しいんです。お引き取りくださいませ」
これは、掃除を愛する薄幸令嬢が、その愛と魔力で死神公爵を救い、最高に幸せな居場所を手に入れるまでのお話。
「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……
聖女の力を隠して塩対応していたら追放されたので冒険者になろうと思います
登龍乃月
ファンタジー
「フィリア! お前のような卑怯な女はいらん! 即刻国から出てゆくがいい!」
「え? いいんですか?」
聖女候補の一人である私、フィリアは王国の皇太子の嫁候補の一人でもあった。
聖女となった者が皇太子の妻となる。
そんな話が持ち上がり、私が嫁兼聖女候補に入ったと知らされた時は絶望だった。
皇太子はデブだし臭いし歯磨きもしない見てくれ最悪のニキビ顔、性格は傲慢でわがまま厚顔無恥の最悪を極める、そのくせプライド高いナルシスト。
私の一番嫌いなタイプだった。
ある日聖女の力に目覚めてしまった私、しかし皇太子の嫁になるなんて死んでも嫌だったので一生懸命その力を隠し、皇太子から嫌われるよう塩対応を続けていた。
そんなある日、冤罪をかけられた私はなんと国外追放。
やった!
これで最悪な責務から解放された!
隣の国に流れ着いた私はたまたま出会った冒険者バルトにスカウトされ、冒険者として新たな人生のスタートを切る事になった。
そして真の聖女たるフィリアが消えたことにより、彼女が無自覚に張っていた退魔の結界が消え、皇太子や城に様々な災厄が降りかかっていくのであった。
2025/9/29
追記開始しました。毎日更新は難しいですが気長にお待ちください。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる