異世界ほのぼの同級生の旅行記～魔弓使いと魔法使い～

序章 - 同級生と妖精の隠れ宿 -

10.

　
「あー……、それなりに人数がいるみたいな話だったし、全員が集まると酷いことになりそうね」
「今でも、順調に集まり続けているだろうからな～。お正月に、初詣の流れで福袋の売り出しに付き合わされたわけだが、大変だったな？」
「だったねぇ……」

　会話しながら光景を思い浮かべたようで、二人して嫌そうな顔を見せ合う。
　クリスマスの直後に『合格祈願をするぞ！』とクラスメイトから初詣の集合時間を伝えられた虎太郎は、最後の気分転換だと買い食いやお年玉消費まで駆り出された。そして、近隣の住民が集うショッピングセンターの初売りバーゲンセールは、とても熱狂的だった。
　きっと似たような雰囲気となっているに違いない妖精商会へ突入する勇気は、今の彼等には湧いてきそうにない。
　ちなみに、神社前にて女子グループと遭遇、風花と初詣デートしているかのような雰囲気を作り出していたことで、周りの男性陣から睨まれていたことを虎太郎は知らない。そして、女性陣からニヨニヨと眺められていたことも当然知らない。

「それに買い物関係については、実は優遇されていて何とかなるんだ、俺は！」

　気分を変えて、自慢したいことがある様子で虎太郎がへへんと胸を張った。
　こう言っておけば、彼女なら乗ってくれるという信頼もある。

「何よ、それぇ……」
「まぁ、その辺りの確認なんかもしておきたいから、このまま屋上へ上がった方が今は都合良いんだと思ってくれ」
「ふーん、そうなの。虎太郎君は何やら訳ありだから、お任せして良さそうってことね」
「ああ、そのまま落ち着けるようなら、風花には話しておくよ」

　信頼しているという虎太郎の視線を受け取り、軽やかに風花が階段を上っていく。
　ちなみに、エレベーター前の茶番にて一度離されていた右手と左手は、歩き始めた瞬間にどちらともなく重ね合っていた。急発進の風花から置いて行かれないように、慌てて虎太郎が歩を進めたのはそのためである。
　しかし、自然な風に繋がれたようで、どこかぎこちない。そんな慣れていない様子を茶化す友人達が、この場にいないことが悔やまれる。
　ちなみに因みに、この混雑を避けるという選択によって、このあと屋上へ顔を出した友人とあっさり合流できたのだから、欲望を優先した虎太郎の大勝利なのである。

『あっとぅ、どうも先程在庫の説明をしたからか、我先に妖精商会へ押し寄せようとしているみたいですが、態度が悪かったり迷惑を掛けたりするとブラックリスト入りして売買禁止になることがありますからね～。それからー、まだ妖精商会の販売品と交換するための対価や、お手持ちの金銭などについて説明していきますから、皆さん落ち着いて行動して下さいね～』

　そんな放送のあと、性能が上位互換された両耳に捉えていた階下の怒声が、虎太郎には幾分控え目となった気がした。


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「ねぇ、本当に外へ出て大丈夫なの？　いきなり魔物から襲われたりしない？」

　階段を登り切った風花が、南向きの大きな窓ガラスへ恐る恐るという感じに進み、ただ広いだけの屋上を眺める。

「さっきの放送で伝えられた魔除けの効果とは違うんだけどさ、説明が始まった時間から考えると、あと二十分くらいはぐるりと三百六十度、建物全体が物理的に遮断されている。だから、向こう側から何かが進入してくることはないはずなんだ」
「確かに、何かいるようには見えないけど……」
「まぁ、物理的にと言われたけど、見ての通り透明だから全然見えないもんなー」
「むぅ……、虎太郎君の言うことを信じるなら、この空の部分にも境目があるのね」

　虎太郎が窓枠に右手を置いて空を見上げる格好になると、それに続くように風花も左手を置いて視線を上げた。
　だが、そこに何かを遮っているような物体は見当たらない。東から西へ視線を動かした彼女には、綺麗な青空が広がっていることだけが分かった。
　青空にぽつんと、羽ばたいていない小鳥でも寛いでいれば信憑性はぐっと高まったかもしれない。

「風花と合う前に、ショッピングセンターの外側、森の中にめっちゃスライムっぽいヤツがいてさー、ジャンプして空中で跳ね返されていたところは見たから、進入不可の境界があることは間違いないぞ」