9 / 17
第1章
織田家の毒見役 三話
しおりを挟む
今宵の夕げから早速始まる任務のため、光秀様に言われた部屋へと向かう。
(それにしても、広い城だな)
織田家の権力を象徴するような荘厳な造りに感嘆しながら歩いていると、
(わっ!)
―ドンッ!
曲がり角で勢いよく飛び出してきた女性とぶつかってしまった。
「すみません!」
頭を下げようとして、自分の腰刀が女性の帯に引っ掛かっていることに気づく。
(あ……)
外そうとしてもなかなか外れず焦った様子。するとその女性は私の腕を掴む。
「こっちじゃ」
(え…)
女性は私の腕を引き、近くにあった納戸の中へと入っていく。
「あ、あの……」
「静かに!」
キッと睨みつけられ口をつぐむと、女性は納戸の外を警戒するように見やる。
「ちょっと追われていてな」
「あなたは」
「お市じゃ」
「信長様の妹の……どうしてあなたが追われているんですか?」
お市様は帯から刀を外しながら、困惑した面持ちで話しだす。
「嫁ぐことが決まった途端、明けても暮れても花嫁修業ばかりで退屈だから、逃げ出してきなのじゃ」
その途端、納戸の向こうからバタバタと複数の足音とともに声が響いてくる。
「お市様ぁ!お市様はどちらですかー?」
「……」
大きなため息をついたお市様は、ようやく刀が外れた帯を整えながら、しげしげと私の顔を見入る。
「見ない顔じゃな。兄上の新しい家臣か?」
間近で見つめられ、その美しさに固唾をのんでしまう。
(信長様の妹君のお市様は天下一の美女だって聞いたことがあったけど……本当になんてきれいなんだろう……)
「はい、本日よりお仕えすることになりました、伊吹と申します。」
「伊吹……おぬしの言葉の訛り、聞き覚えがある。もしや京の出?」
「はい。家族は京で小料理屋をやっています。」
「なるほど!やはり京か!」
「あの、京になにか……?」
「京はいいところだと聞いている!わらわが嫁ぐ近江国にも近い。正直な話この度の結婚にはあまり気がすすまないが、京の近くに嫁げるということだけは楽しみでな!」
「なるほど……」
「おぬしの小料理屋はどんな店だ?」
お市様は興味津々といった様子で目を輝かせ訊いてくる。
「あっ、はい。小さな店ですが、必勝飯という縁起のいい丼が評判で……」
「必勝飯?なんだそれは」
「うちあわび、勝栗、昆布が入った丼です。敵に打ち、勝ち、喜ぶといった意味が込められているんです」
「美味しそうな料理だ……食べてみたい。わらわは美味しいものに目がない」
「あ!でしたら是非、お市様に南蛮菓子を召し上がっていただきたいです!」
「なにゆえ小料理屋に南蛮菓子があるのだ…」
「よく店に来ていた南蛮人から作り方を教えてもらったんです」
「品書きには載せられませんが日本の菓子にはない芳醇な香りとまろやかさがあって……初めて食べたときはもう私、感動してしまって!」
「どうすれば南蛮菓子を食べられる?」
(それにしても、広い城だな)
織田家の権力を象徴するような荘厳な造りに感嘆しながら歩いていると、
(わっ!)
―ドンッ!
曲がり角で勢いよく飛び出してきた女性とぶつかってしまった。
「すみません!」
頭を下げようとして、自分の腰刀が女性の帯に引っ掛かっていることに気づく。
(あ……)
外そうとしてもなかなか外れず焦った様子。するとその女性は私の腕を掴む。
「こっちじゃ」
(え…)
女性は私の腕を引き、近くにあった納戸の中へと入っていく。
「あ、あの……」
「静かに!」
キッと睨みつけられ口をつぐむと、女性は納戸の外を警戒するように見やる。
「ちょっと追われていてな」
「あなたは」
「お市じゃ」
「信長様の妹の……どうしてあなたが追われているんですか?」
お市様は帯から刀を外しながら、困惑した面持ちで話しだす。
「嫁ぐことが決まった途端、明けても暮れても花嫁修業ばかりで退屈だから、逃げ出してきなのじゃ」
その途端、納戸の向こうからバタバタと複数の足音とともに声が響いてくる。
「お市様ぁ!お市様はどちらですかー?」
「……」
大きなため息をついたお市様は、ようやく刀が外れた帯を整えながら、しげしげと私の顔を見入る。
「見ない顔じゃな。兄上の新しい家臣か?」
間近で見つめられ、その美しさに固唾をのんでしまう。
(信長様の妹君のお市様は天下一の美女だって聞いたことがあったけど……本当になんてきれいなんだろう……)
「はい、本日よりお仕えすることになりました、伊吹と申します。」
「伊吹……おぬしの言葉の訛り、聞き覚えがある。もしや京の出?」
「はい。家族は京で小料理屋をやっています。」
「なるほど!やはり京か!」
「あの、京になにか……?」
「京はいいところだと聞いている!わらわが嫁ぐ近江国にも近い。正直な話この度の結婚にはあまり気がすすまないが、京の近くに嫁げるということだけは楽しみでな!」
「なるほど……」
「おぬしの小料理屋はどんな店だ?」
お市様は興味津々といった様子で目を輝かせ訊いてくる。
「あっ、はい。小さな店ですが、必勝飯という縁起のいい丼が評判で……」
「必勝飯?なんだそれは」
「うちあわび、勝栗、昆布が入った丼です。敵に打ち、勝ち、喜ぶといった意味が込められているんです」
「美味しそうな料理だ……食べてみたい。わらわは美味しいものに目がない」
「あ!でしたら是非、お市様に南蛮菓子を召し上がっていただきたいです!」
「なにゆえ小料理屋に南蛮菓子があるのだ…」
「よく店に来ていた南蛮人から作り方を教えてもらったんです」
「品書きには載せられませんが日本の菓子にはない芳醇な香りとまろやかさがあって……初めて食べたときはもう私、感動してしまって!」
「どうすれば南蛮菓子を食べられる?」
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
【時代小説】 黄昏夫婦
蔵屋
歴史・時代
江戸時代、東北地方の秋田藩は貧かった。
そんな中、真面目なひとりの武士がいた。同僚からは馬鹿にされていたが真面目な男であった。俸禄は低く貧しい。娘二人と実母との4人暮らし。
秋田藩での仕事は勘定方である。
仕事が終わると真っ直ぐ帰宅する。
ただひたすら日中は城中では勘定方の仕事をまじめにして、帰宅すれば論語を読んで知識を習得する。
そんな毎日であった。彼の名前は立花清左衛門。年齢は35歳。
娘は二人いて、一人はとめ15歳。もう一人は梅、8歳。
さて|黄昏《たそがれ》は、一日のうち日没直後、雲のない西の空に夕焼けの名残りの「赤さ」が残る時間帯のことを言う。「|黄昏時《たそがれどき)」。 「黄昏れる《たそがれる》」という動詞形もある。
「たそがれ」は、江戸時代になるまでは「たそかれ」といい、「たそかれどき」の略でよく知られていた。夕暮れの人の顔の識別がつかない暗さになると誰かれとなく、「そこにいるのは誰ですか」「誰そ彼(誰ですかあなたは)」とたずねる頃合いという意味で日常会話でよく使われた。
今回の私の小説のテーマはこの黄昏である。
この風習は広く日本で行われている。
「おはようさんです」「これからですか」「お晩でございます。いまお帰りですか」と尋ねられれば相手も答えざるを得ず、互いに誰であるかチェックすることでヨソ者を排除する意図があったとされている。
「たそかれ」という言葉は『万葉集』に
誰そ彼と われをな問ひそ 九月の 露に濡れつつ 君待つわれそ」
— 『万葉集』第10巻2240番
と登場するが、これは文字通り「誰ですかあなたは」という意味である。
「平安時代には『うつほ物語』に「たそかれどき」の用例が現れ、さらに『源氏物語』に
「寄りてこそ それかとも見め たそかれに ほのぼの見つる 夕顔の花」
— 『源氏物語』「夕顔」光源氏
と、現在のように「たそかれ」で時間帯を表す用例が現れる。
なおこの歌は、帖と登場人物の名「夕顔」の由来になった夕顔の歌への返歌である。
またこの言葉の比喩として、「最盛期は過ぎたが、多少は余力があり、滅亡するにはまだ早い状態」をという語句の用い方をする。
漢語「|黄昏《コウコン》」は日没後のまだ完全に暗くなっていない時刻を指す。「初昏」とも呼んでいた。十二時辰では「戌時」(午後7時から9時)に相当する。
「たそがれ」の動詞化の用法。日暮れの薄暗くなり始めるころを指して「空が黄昏れる」や、人生の盛りを過ぎ衰えるさまを表現して「黄昏た人」などのように使用されることがある。
この物語はフィクションです。登場人物、団体等実際に同じであっても一切関係ありません。
それでは、小説「黄昏夫婦」をお楽しみ下さい。
読者の皆様の何かにお役に立てれば幸いです。
作家 蔵屋日唱
日露戦争の真実
蔵屋
歴史・時代
私の先祖は日露戦争の奉天の戦いで若くして戦死しました。
日本政府の定めた徴兵制で戦地に行ったのでした。
日露戦争が始まったのは明治37年(1904)2月6日でした。
帝政ロシアは清国の領土だった中国東北部を事実上占領下に置き、さらに朝鮮半島、日本海に勢力を伸ばそうとしていました。
日本はこれに対抗し開戦に至ったのです。
ほぼ同時に、日本連合艦隊はロシア軍の拠点港である旅順に向かい、ロシア軍の旅順艦隊の殲滅を目指すことになりました。
ロシア軍はヨーロッパに配備していたバルチック艦隊を日本に派遣するべく準備を開始したのです。
深い入り江に守られた旅順沿岸に設置された強力な砲台のため日本の連合艦隊は、陸軍に陸上からの旅順艦隊攻撃を要請したのでした。
この物語の始まりです。
『神知りて 人の幸せ 祈るのみ
神の伝えし 愛善の道』
この短歌は私が今年元旦に詠んだ歌である。
作家 蔵屋日唱
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる