主従の契り

しおビスケット

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第2章

危険な菓子係 3話

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「あの端にいる男は駄目だ。殺しておけ。」
(えっ⁉)
どうやら、信長様の言った『あいつ』とは、地侍たちの頭領を指している様子。光秀様が事を収めている間、頭領らしきその男が他の地侍に険しい表情で何か命令していたのを、信長様は察知していたようだ。
「…殺すのですか?」
「ああ。今すぐにだ」
「御屋形様、それは少し早すぎるかと」
「早いだと?」
「今殺すと、他の地侍たちの反発と混乱を招きかねません」
「いいから殺せと言っている」
2人の間で押し問答が続くのを、私を含めた家臣たちが息をつめて見守る。
「信長様。どうかこの場はお抑え下さい。責任はこの光秀に」
「貴様、そこまで言ってしくじったらただではおかんぞ…」
信長様は不承不承といった風にうなずくと、荒々しく馬に跨る。
(…よかった。誰も死なずにすんだ)
家臣たちも信長様に続いて馬に跨るなか、秀吉様がそっと私に耳打ちをしてくる。
「光秀さんがいたからよかったけど、あのまま光秀さんが助けてくれなかったら、君、今頃死んでたよ。信長様への言動はもっと注意しなきゃ」
(…やっぱり、危なかったんだ)
昨日と今日だけで、光秀様に救われた場面は数多くあった。
「光秀様、あの、…色々とありがとうございました」
馬に跨りながら、他に聞こえないくらいの声で後ろを振り向きお礼を伝えると、光秀様はため息をつく。
「あなたという人は…怖いものはないのか?」
「…怖くはないです」
(本当は、怖いけど…)
私は家臣として織田家に仕えてる身である以上、何かを怖がるなどあってはならないと思いそう述べたが、光秀様から返ってきた言葉は、思いのほか辛辣だった。
「それならば…家臣、失格ですね」
「え?」
「怖いという感情がない人間に、武士は務まりません。何かを恐れる感情にこそ、人間が持つ弱さ、優しさ、いたわりが現れる。そういう感情を併せ持たない人間は、人を支える資格もなく、また、人の上に立つ資格もない」
光秀様からの言葉を真摯に受け止めつつ、慣れない馬の揺れに耐えているうち、城下町へと戻ってくる。

馬から降り侍屋敷につくと、光秀様からこう告げられた。
「お市様の教育係となったあなたには、今日から個室を使ってもらう」
(ひょっとして、私が女だと知って、気を遣ってくれたとか…?)
光秀様に案内された部屋は、犬千代との共同部屋よりも狭く殺風景だったけれども、ひと通りの生活必需品は取り揃えられていた。
(とにかく…今は、休みたい…)
昨日から怒涛のごとく押し寄せてきた出来事に体も心もクタクタになっていた私は、薄い褥の上で、泥のように眠るのだった。
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