主従の契り

しおビスケット

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第2章

情けと甘さ 4話

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「これも実に美味だ…吉乃は甘味を作る天才だな」
お市様がこうして顔をほころばせる光景は、ここ最近、幾度も見ることがある。
八つ時に信長様へ甘味をお運びする以外は、お市様とともに南蛮の菓子を囲み、取り留めのない話をすることが日常となっているからだ。
「私はお市様にお甘味作りを教えるために、ここにいるんですよ?なのに自分は食べてばかりで」
「まだ試食段階じゃ」
「じっくりと吉乃がつくった甘味を試食したうえで、どれを学ぶか決めようと思っておる」
「それはもう耳にたこができるほど聞きました!初日に厨房でちょっとだけ粉に触っただけで、それからまったく作ってないじゃないですか」
「甘味はつくるより、食するほうがずっと幸せな気分になれるからな~」
そういって、お市様はうっとりとした面持ちで甘味を頬張る。
「それじゃ花嫁修業になりませんって!」
「もう私を責めるでな~い!」
2人、顔を見合わせて笑う。
お市様に冗談を言ったりしながら作った甘味でお茶会をする時間が、最近の私にとって楽しみの一つとなっている。そういうわけで、私が仰せつかったお市様の料理修行は、なかなか捗りそうにない状況だった。
「それより吉乃、兄上は今も機嫌よく毎日甘味を食しているのか?」
「えっ?…ああ、まあ。確かにご機嫌みたいですね。木登りするくらい…」
「木登り?」
「昨日、甘味を届けに行ったら、なぜか木の上でぼんやりされていて…」
すると、お市様はげんなりとため息をつく。
「兄上の振る舞いには時々ついていけない」
「…ははは」
「皆は陰で兄上のことをだと言うておる」
(…やっぱり、みんな変な人だと思ってるのか)
手作りの甘味を届けるのが日課になっているものの、信長様がまともに部屋にいることはほとんどなく、いつも思いがけない場所でその姿を見つけるのが当たり前となっていった。

そして今日もまた甘味を届けに信長様のところへ向かうと、やはり部屋に姿はなく、木の上から声が響いている。
「俺はここだ、伊吹」
見上げると、木のかなり上のほうの幹に跨った信長様が悠々とこちらを見下ろしている。
(またこんなところにいる。服もだらしないし…)
「あの、信長様、…毎日木に登って、何をさなっているんですか?」
「…」
「あ、いえ…その…」
「知りたいか」
「えーと…」
「お前も来い」
(えっ!木なんか登ったことないのに…どうしよう…)
「…申し訳ありません。高いところはあまり…」
「男のくせに怖いのか?」
信長様はニヤッと笑い、そう言った。
(…そうだった!こんなこと言ったら女だってバレる。女だとばれてしまっては、まずい)
「い、いいえ、怖くなどありません。今からそちらへまいります!」
覚悟を決め、私は木登りを始めた。
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