20 / 27
1章 悪しき化け物は花火と化して咲いて散る
20話 僕は今日も元気です
しおりを挟む昼休み開始のチャイムがなった。
僕は担任に呼ばれたので職員室に向かっている。
とにかく蒸し暑い。
エアコンの効いた教室から一歩も出たくないものだ。
7月も中半で、みんな夏休みを指折り数えている。
呼ばれた理由は事故の件と、母さんの件についてだろう。
先生も僕の対応で大変だ。
「火鳥君」
「先輩」
先輩と廊下で出会った。
あれから先輩とは学校で見かければよく話すようになった。
もちろんバイト先でも。
「聞きましたよ。次の日曜日、麻衣のお墓参りにいくんですよね?」
「はい。牛丸さんが用意してくれていたお墓が完成したようなので行くつもりです」
「ご一緒していいですか?ひとりで迷い家に行くのはどうも……」
「もちろんですよ」
長い間、天狗と仲違いしていたので気まずいのだろう。
墓参りがきっかけで完全に打ち解けてくれればいいのだけど。
「氷花は?」
「先輩に僕の護衛を任せて、今日も街の散策です」
「彼女にもやれやれですね」
妖狐は僕が先輩と同じ学校だと知ったことで、学校がある日は護衛を先輩に任せ始めた。
店長に頼んで、午前中のアルバイトをさせてやろうかな……。
鞍馬山に母さんの墓が完成したので、日曜日に墓参りへ僕と妖狐と先輩の3人で行くことになった。
――――――
日曜日。
マンションと迷い家はすでに繋げられており、互いに出入りが自由になっている。
たまにあかなめが掃除に来てくれているので助かっている。
9時に先輩がマンションまで来てくれて、そこから3人で迷い家に出向いた。
久しぶりの迷い家に先輩は楽しそうに見えた。
先輩の部屋が当時から何も変わっていないことに気が付き、喜んでいる。
客間で天狗と会って、4人で少し話をした。
右手の鳳凰も現れて、天狗との数百年ぶりの対面を果たした。
「鳳凰……話は聞いてはいたが……また会えるとは……あの時はすまなかったぁ」
天狗は周りが退くぐらい僕の右手を見つめながら泣き始めた。
「馬鹿者、泣く出ない。照れるではないか」
冷静を装う鳳凰もすごく嬉しそうに再開を喜んでいた。
募る話もあるだろうけど、今日はそこそこにしてもらい墓参りへ向かうことにした。
迷い家から山に出ることは初めてのことだ。
正直、位置関係は全くわかっていない。
でも歩きやすい山道になっていた。
案内役には豆腐小僧が就いてくれた。
しばらく道なりに歩くと、たくさんの墓石が見えた。
「ここだよ。煉のお母さんのお墓は」
「ありがとう」
人間が普段用意するようなお墓ではなく大きな岩を墓石に見立てて置いているのだけど、綺麗に磨かれていて作り手の心が籠っていることがわかる綺麗なお墓だ。
母さんが味わった恐怖や呪をすべて排除して、このお墓を用意してくれたらしい。
「こっちで父さんとおもしろ可笑しく過ごしているから、煉もそっちでおもしろ可笑しく過ごしてね」
そんな言葉が母さんから出るのも、みんなのおかげだろう。
僕は眼鏡を外して墓を眺める。
墓からは何も伝わってこない。母さんの姿も見えない。
「さとりの眼なら、墓で眠る母さんが見えると思っていた」
妖狐は背中にそっと手を置いた。
「そんなもんさ。今は向こうでゆっくりしてるんだよ」
「……はい」
「気持ちは伝わっているさ」
僕たちは3人で母さんを弔った。
その後、迷い家に戻り3人で昼食をすませた。
「みんなこれからどうされるのですか?」
「僕、今から行きたいところがあるんです」
「へぇ、朧車に連れ行ってもらえばいいじゃないか」
「いえ、それが詳しい場所わかってなくて……」
「なんだいそりゃ」
妖狐と先輩は暇だから、一緒に付いてくるといった。
そこは電車とバスを乗り継いで、マンションから2時間ほどの場所。
自動車が運転できれば、もっとスムーズに来ることができる場所。
目的地はこの辺り、ということを天狗に聞いてやって来た。
正式な場所はわからないけど、来たら何とかなるかなって感じで思っていた。
16時現在、僕たちは鞍馬山とほとんど同じような山の中にいる。
しかし考えが甘かった。
この夏の暑さの中、目的地のはっきりしない山の中に来るものではなかった。
妖狐と先輩はなぜかピクニック気分で楽しそうなのが救いだけど……。
「あれっ!いま、人が通りませんでした」
「えっ?」
「確かに通ったね。こんな場所にわたし達以外がいるなんてね」
「どこにいました?」
妖狐と先輩は、人影のあとをつける様に歩き始めた。
しばらくすると、夏草が茂る中では見落としそうな苔だらけの塊を見つけた。
「なんだいこれは?」
「そうですね。苔を落とさないとわかりませんが……石?……お墓ですかね?」
僕は慌ててみんなの前にたった。
一目でわかった。
苔に包まれているものが墓だと。
急いで苔を落とす。
妖狐と先輩も手伝ってくれた。
こんなことになるなら掃除道具くらい持ってくるんだった。
夕日が照らすその場所は、街並みが見下ろせる良い場所だ。
戦いの最中、さとりとの交換条件。
さとりの眼の使い方を教える代わりに、さとりの頼み事を聞くという約束。
それがこの墓参りだ。
場所は天狗に聞けばわかると言われていた。
どういった墓なのかも天狗から聞いてきた。
一人で来るつもりだったので、詳しく二人には説明していなかった。
しかし、ここは人がなかなか立ち寄りそうにない場所だ。
付いてきてもらって良かったと思う。
「あの人影、この場所を知らせるために出てきたんだろうね」
「えぇ、ちいさな女の子でしたね。ずっと一人で寂しかったのでしょう」
眼鏡を外して墓を見つめている。
何も見えないけど、無意識に左目から涙が流れた。
「火鳥くん?」
「どうした。何か感知したのかい?」
あの時代のあの3日間にさとりが見た景色、それを頭の中へ通り過ぎた風のように見せてくれた気がした。
「いえ、さとりが……」
「さとりが?」
「ありがとうって」
――――――
山を下りるころには、日は完全に落ちていた。
「日曜日にわたしと火鳥くんが居ないので、お店は大変でしょうね」
「何とかするから心配するなって言ってくれてましたけど……」
「まぁ夏休みにはわたし達が頑張って、土蜘蛛にOFFをあげようではありませんか!」
「そうですね」
来た時と同様、電車とバスを乗り継ぎ地元に戻って、駅で先輩とは別れた。
先輩は何かお土産を買っていた。
住み着いている家のおばあさんへのお土産らしい。
人間と化け物が仲良くできるパターンもしっかりとあるじゃないか。
みんなもこうであればいいのに。
「この先に、なにやらおいしそうな物を売っている店を見つけたんだ。今日の晩御飯にいいんじゃないか?」
「たぶん、おじさんとおばさんがご飯を用意してくれてるんじゃないかな……」
「そうかぁ残念だねぇ。それなら土産に持ち帰るっていうのはどうだい?」
「……」
押しに負けて、買ってしまった。
何が晩御飯にいいだよ。
これドーナツだし。
ジャンクフード好きの狐なんて聞いたことが無い。
マンションまで15分ほど歩く中。
「発情鬼はこれからどうしていこうって考えているんだい?」
「これから?」
「あぁ、これから人間の生活を送るのか、こっち側に完全に身を寄せていくのかってことさ」
最近ずっとそのことは考えていた。
正直答えはでていないが、先輩や店長が僕の中では良い道しるべになってくれている。
人として生きていけるのではないかと……。
「今は、人間として生きていこうと考えています」
「そうかい。それならそれでいいんだよ」
「はい」
「でも、いつかその生活が辛くなってくる時が来るかもしれないよ」
長く生きていくことの辛さをいっているのか、それとも出会いや別れのことをいっているのだろうか?
短期間でいろいろ失い過ぎた僕は、いまはもう何も失いたくない。
「でも、その時には氷花さんがそばにいてくれるんですよね」
「はぁ?」
「ねっ」
「やれやれ……本当に人間の16歳なんて赤子みたいなものだねぇ」
妖狐は少し呆れた顔を見せた。
そして。
「わたしが放っておいても大丈夫って思える男に早くなりなよ」
「せめて発情鬼って呼び名からは進化したいと思います」
「何年先になるやらだ」
何気ない、それでも楽しい会話をしながら僕たちは帰路に着いた。
――――――
父さん、母さん。
そちらの暮らしはどう?
楽しんでる?
僕はといえば、夏休みに予定がなくので毎日アルバイトに励んでいます。
生活面ではおじさんもおばさんにも本当に良くしてもらっていて、子供がいないから俺たちを親と思ってくれていい。なんて言ってくれたんだ。
嘘でも嬉しかった。
一人ではないって思えたから。
ご飯もいつも用意してもらっていて、夏休み中にはおじさん宅へ引っ越して一緒に住まないか?って言われるんだ。
同じマンション内だから引っ越すってのも大げさだけどね。
お世話になろうと思ってる。
母さんが昔仲良かった咲ちゃんだけど、今は僕の学校とアルバイト先の先輩をやってます。
何も知らない人が聞けば、本当に意味がわからない話だろうけど、すごくお世話になってるんだ。
先輩が母さんに会いたいって言ってたよ。
父さんには意味のわからない話だろうけど、僕は普通の人間ではなくなってしまってさ。
今後の人生に悩んでいます。
進路とか就職先とかの悩みではないよ。
人間として生きていくか、化け物として生きていくかって悩み。
結婚とか、子供とかどうなるのかも不安なんだよね。
結婚相手は人間なのか、化け物なのか……の問題もあるし。
化け物でも氷花さんや先輩くらいのひとならいいんだけどさ(笑)
あと、結構長いこと生きていられるみたいだから、そっちに行くのは随分先になりそうです。
僕っていま、生き物の心が読めて右手が発火するすごい奴になってます。
そのせいもあって、化け物と戦ったりしているんだよね。
心配するかもしれないけど、今の僕ってケガしてもすぐ治るし、事故にあってもすぐに回復するから心配無用です。
何百年後になるかわからないけど、そっちに行くからそれまで仲良く暮らしておいてよ。
それじゃ!
息子より
――――――
突然、手紙風な物を書いてみた。
渡す相手もいないのに。
でもお墓に向かって言うのも恥ずかしいし、文字に起こすことで読んで貰っている気分になる。
「気持ちは伝わっているさ」
それですよね、氷花さん。
僕はいままでとは違った人生を歩むことになった。
父さんや母さんが望んでいた人生ではないだろう。
だけど、すごい仲間たちと出会えたんだ。
そんなみんなとこれからおもしろ可笑しく生きていくよ。
父さん、母さん。
返信は不要です(笑)
僕は今日も元気です。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
『ミッドナイトマート 〜異世界コンビニ、ただいま営業中〜』
KAORUwithAI
ファンタジー
深夜0時——街角の小さなコンビニ「ミッドナイトマート」は、異世界と繋がる扉を開く。
日中は普通の客でにぎわう店も、深夜を回ると鎧を着た騎士、魔族の姫、ドラゴンの化身、空飛ぶ商人など、“この世界の住人ではない者たち”が静かにレジへと並び始める。
アルバイト店員・斉藤レンは、バイト先が異世界と繋がっていることに戸惑いながらも、今日もレジに立つ。
「袋いりますか?」「ポイントカードお持ちですか?」——そう、それは異世界相手でも変わらない日常業務。
貯まるのは「ミッドナイトポイントカード(通称ナイポ)」。
集まるのは、どこか訳ありで、ちょっと不器用な異世界の住人たち。
そして、商品一つひとつに込められる、ささやかで温かな物語。
これは、世界の境界を越えて心を繋ぐ、コンビニ接客ファンタジー。
今夜は、どんなお客様が来店されるのでしょう?
※異世界食堂や異世界居酒屋「のぶ」とは
似て非なる物として見て下さい
はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~
さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。
キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。
弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。
偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。
二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。
現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。
はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!
ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います
とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。
食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。
もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。
ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。
ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる