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ベホマ②
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最強の回復呪文を紹介する前に、まずはこの焼肉屋で一緒に働く従業員を紹介する必要がある。
と言うのも、何を隠そう最強の回復呪文はこの焼肉屋で働く従業員の中にいるのだ。
店長。歳は当時二十八歳。仕事終わりに毎日必ず行くほどキャバクラが好きだが、酒が飲めない為オレンジジュースしか頼まない。店にとっては迷惑な客であろう。パチンコが大好きで、よく仕事中に抜け出して行っていたらしい。
加藤さん。副店長。身体が縦にも横にもでかく、声もでかい。「卵かけご飯はやっぱり醤油より塩だ。」「早くマリファナ解禁にならねえかなあ。」「好きな女の糞ならバクバク食える。」などと、数々の名言を残したジャンキーだ。
陳君。中国人の大学生。仕事中につまみ食いを良くしていた彼は、「オマエモクエ。ウマイゾコレ。」と、まるで自分の食べ物かの様に勧めてきたが、それはけして優しさではなく、共犯者を作りたいが為の罠だ。ちなみに、陳君に誘われて、何故か一緒に、陳君の大学でバスケをしに行った事があるのだが、周り全員が知らない中国人の、完璧アウェイな中でやるバスケは地獄でしかなかった。
枝さん。会社員。小遣い稼ぎでバイトをしていたのだが、後にサラリーマンを辞め、夢だった格闘家に転身。その後買った株が化け、格闘家から投資家へ。億ションを買い、現在は何店舗もの居酒屋を経営している成功者で勝ち組。つい先日も、上野に寿司屋をオープンし、勢いはまだまだ止まらない。ちなみに、億ションを買った理由は、「このマンションにデリヘルを呼んで口説き落としたい。」と発言は屑だがどこかカッコいい。
荻さん。荻さんもまた成功者で、バイトを辞めた後自分で居酒屋を開き、今や、連日お客さんが絶えない人気店に成長。しかし、現在四十を向かえる歳になろうである彼は今だに独り者で、当時、バイトに愛車のドラッグスターで来ていたワイルドさとは正反対の貧弱な見た目と性格だ。
杉さん。当時三十六歳で一番の年長者。歳の割には若く見え、その言動や行動も若い。たまに開かれる飲み会には積極的に参加し、バイトの女の子を口説いては、毎回振られる。役者を志していて、「高倉健に俺はなる」が口癖だが、劇団に入る事やオーディションを受けるなどは面倒でしない。当然、現在テレビや映画で見かけることはない。誰も連絡がつかないらしく、生きているか死んでいるかすらも分からない。控えめに言っても屑。
なべちゃん。生粋のゲイ。本人曰く俺のことはタイプではないらしい。その明るさから人望は厚く、誰もがなべちゃんの事が大好きだった。残念ながら先日、風呂場で酒を飲んで泥酔して溺死をしたのだが、なべちゃんらしい死に方で、皆その死を悲しんだ。
祐也。三十歳と歳上だったが、何故かタメ口で話していた当時十八歳の生意気な俺を、いつも笑って許してくれてた。後に知った事だったが、フリーターだと思っていたら、実はホストクラブの運営側の人間で、ホストクラブの会社で焼肉屋を出す事になったので、勉強の為バイトをしていた。「お前には才能があるし、まだ若いから、今は色々な事を思いっきりやれ。」と、いつも励ましてくれた。
と、箇条書きではあるが人物の紹介をしていった訳だが、この中の一人が現在に至るまで、俺の最強の回復呪文となっていたのだ。つまり、平たく言えば恩人な訳である。
おそらく大半の人は「枝さんや荻さんみたいに、成功したい。」「それを生きる目標として、つまり回復呪文にして日々を頑張ろう。」と思うだろう。
もしくは、祐也の言葉が胸を打ち、「辛い時はその言葉を思い出し、今も頑張れている。」などと思うかもしれない。
だが、そのどれもが俺の回復呪文ではないのだ。
結論を言おう。俺の最強の回復呪文とは、杉さんなのだ。
ただ、誤解がない様に言っておかないといけないのは、俺は杉さんの事を尊敬もしてないし、何か心を動かされる事を言われた訳でもない。杉さんみたいになりたいなどと、一度たりとも思った事がない。
そう、これなのだ。
「俺は杉さんの様になりたくない。」
これが最強の回復呪文の原動力となっているのだ。
例えば、幼少時代から野球をやっていて、ある日テレビでイチローを見たとする。偉大な功績や、その人間性に誰もが「イチローの様になりたい。」と思うだろう。
だが、自分が他の誰かの様になるには、並大抵の努力じゃ無理だ。その本人以上に努力し、数々の苦痛、苦節を乗り越えないといけない。たしかに、それを乗り越えて目指している人間の様に、それ以上の人間に成長し、成功した人も数多くいる。素直にそれは凄いと思う。
だが、俺はそんなの無理なのだ。
誰かの様になりたくてする努力など絶対にできない。
俺は俺だ。誰かの様になんかなりたくない。
俺として世間に俺という人間を認知させたいのだ。
イチローを見るよりも、杉さんの様な、俺より屑か俺と同等の屑を見ると、「絶対にこうはなりたくない」と頑張れる。
辛い時、杉さんの事を思い出すと、「この現状は杉さんよりはましだ。」と安心する。
杉さんは俺の最強の回復呪文なのだ。
焼肉屋でのバイト以降、杉さんとは会う事はないのだが、これまでも何度も杉さんには助けられて来た。
杉さんが居てくれたから、なんとか生き延びてきた。本当に感謝しているし、俺の命の恩人だ。
ありがとう杉さん。どうか、いつまでもそのままでいてくれ。
さて、最強の回復呪文を紹介した訳だが、現在俺は二十九歳を迎えた。
そんな中、当時の杉さんの年齢に近付くにつれて俺は、「もしかしたらあの時の杉さんよりも屑なのではないか。」と、日々不安が押し寄せてくる。
最強の回復呪文とは、実は即死呪文、あるいは呪いだったのだ。
そんな事、当時はまだ気付かず、俺は束の間の平穏な日々を満喫していたのだ。
と言うのも、何を隠そう最強の回復呪文はこの焼肉屋で働く従業員の中にいるのだ。
店長。歳は当時二十八歳。仕事終わりに毎日必ず行くほどキャバクラが好きだが、酒が飲めない為オレンジジュースしか頼まない。店にとっては迷惑な客であろう。パチンコが大好きで、よく仕事中に抜け出して行っていたらしい。
加藤さん。副店長。身体が縦にも横にもでかく、声もでかい。「卵かけご飯はやっぱり醤油より塩だ。」「早くマリファナ解禁にならねえかなあ。」「好きな女の糞ならバクバク食える。」などと、数々の名言を残したジャンキーだ。
陳君。中国人の大学生。仕事中につまみ食いを良くしていた彼は、「オマエモクエ。ウマイゾコレ。」と、まるで自分の食べ物かの様に勧めてきたが、それはけして優しさではなく、共犯者を作りたいが為の罠だ。ちなみに、陳君に誘われて、何故か一緒に、陳君の大学でバスケをしに行った事があるのだが、周り全員が知らない中国人の、完璧アウェイな中でやるバスケは地獄でしかなかった。
枝さん。会社員。小遣い稼ぎでバイトをしていたのだが、後にサラリーマンを辞め、夢だった格闘家に転身。その後買った株が化け、格闘家から投資家へ。億ションを買い、現在は何店舗もの居酒屋を経営している成功者で勝ち組。つい先日も、上野に寿司屋をオープンし、勢いはまだまだ止まらない。ちなみに、億ションを買った理由は、「このマンションにデリヘルを呼んで口説き落としたい。」と発言は屑だがどこかカッコいい。
荻さん。荻さんもまた成功者で、バイトを辞めた後自分で居酒屋を開き、今や、連日お客さんが絶えない人気店に成長。しかし、現在四十を向かえる歳になろうである彼は今だに独り者で、当時、バイトに愛車のドラッグスターで来ていたワイルドさとは正反対の貧弱な見た目と性格だ。
杉さん。当時三十六歳で一番の年長者。歳の割には若く見え、その言動や行動も若い。たまに開かれる飲み会には積極的に参加し、バイトの女の子を口説いては、毎回振られる。役者を志していて、「高倉健に俺はなる」が口癖だが、劇団に入る事やオーディションを受けるなどは面倒でしない。当然、現在テレビや映画で見かけることはない。誰も連絡がつかないらしく、生きているか死んでいるかすらも分からない。控えめに言っても屑。
なべちゃん。生粋のゲイ。本人曰く俺のことはタイプではないらしい。その明るさから人望は厚く、誰もがなべちゃんの事が大好きだった。残念ながら先日、風呂場で酒を飲んで泥酔して溺死をしたのだが、なべちゃんらしい死に方で、皆その死を悲しんだ。
祐也。三十歳と歳上だったが、何故かタメ口で話していた当時十八歳の生意気な俺を、いつも笑って許してくれてた。後に知った事だったが、フリーターだと思っていたら、実はホストクラブの運営側の人間で、ホストクラブの会社で焼肉屋を出す事になったので、勉強の為バイトをしていた。「お前には才能があるし、まだ若いから、今は色々な事を思いっきりやれ。」と、いつも励ましてくれた。
と、箇条書きではあるが人物の紹介をしていった訳だが、この中の一人が現在に至るまで、俺の最強の回復呪文となっていたのだ。つまり、平たく言えば恩人な訳である。
おそらく大半の人は「枝さんや荻さんみたいに、成功したい。」「それを生きる目標として、つまり回復呪文にして日々を頑張ろう。」と思うだろう。
もしくは、祐也の言葉が胸を打ち、「辛い時はその言葉を思い出し、今も頑張れている。」などと思うかもしれない。
だが、そのどれもが俺の回復呪文ではないのだ。
結論を言おう。俺の最強の回復呪文とは、杉さんなのだ。
ただ、誤解がない様に言っておかないといけないのは、俺は杉さんの事を尊敬もしてないし、何か心を動かされる事を言われた訳でもない。杉さんみたいになりたいなどと、一度たりとも思った事がない。
そう、これなのだ。
「俺は杉さんの様になりたくない。」
これが最強の回復呪文の原動力となっているのだ。
例えば、幼少時代から野球をやっていて、ある日テレビでイチローを見たとする。偉大な功績や、その人間性に誰もが「イチローの様になりたい。」と思うだろう。
だが、自分が他の誰かの様になるには、並大抵の努力じゃ無理だ。その本人以上に努力し、数々の苦痛、苦節を乗り越えないといけない。たしかに、それを乗り越えて目指している人間の様に、それ以上の人間に成長し、成功した人も数多くいる。素直にそれは凄いと思う。
だが、俺はそんなの無理なのだ。
誰かの様になりたくてする努力など絶対にできない。
俺は俺だ。誰かの様になんかなりたくない。
俺として世間に俺という人間を認知させたいのだ。
イチローを見るよりも、杉さんの様な、俺より屑か俺と同等の屑を見ると、「絶対にこうはなりたくない」と頑張れる。
辛い時、杉さんの事を思い出すと、「この現状は杉さんよりはましだ。」と安心する。
杉さんは俺の最強の回復呪文なのだ。
焼肉屋でのバイト以降、杉さんとは会う事はないのだが、これまでも何度も杉さんには助けられて来た。
杉さんが居てくれたから、なんとか生き延びてきた。本当に感謝しているし、俺の命の恩人だ。
ありがとう杉さん。どうか、いつまでもそのままでいてくれ。
さて、最強の回復呪文を紹介した訳だが、現在俺は二十九歳を迎えた。
そんな中、当時の杉さんの年齢に近付くにつれて俺は、「もしかしたらあの時の杉さんよりも屑なのではないか。」と、日々不安が押し寄せてくる。
最強の回復呪文とは、実は即死呪文、あるいは呪いだったのだ。
そんな事、当時はまだ気付かず、俺は束の間の平穏な日々を満喫していたのだ。
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