寺嶋くんは祓いたい

野良猫のらん

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第十三話 おはよう、よく眠れた?

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 城ケ崎は不思議な夢を見た。

 城ケ崎は夢の中でも寺嶋と手を繋いでいた。自分も彼も、子供の姿をしていた。

 気がつくと、城ケ崎と手を繋いでいるのが母に変わっていた。カールした金髪が綺麗な、自慢の母。夢の中の城ケ崎は、上機嫌で母と手を繋いで歩いていた。

 ふと、母が急に立ち止まった。
 
 振り向くと、母が片手に人形を持っていた。金髪碧眼の、母にそっくりな人形だ。
 母は城ケ崎の手を放し、代わりに両手で人形を差し出した。
 母と手を繋いだままでいられないことを悲しく思いながらも、夢の中の城ケ崎は人形を受け取り、大事に人形を抱き締めたのだった……。


「レイ、おはよう。よく眠れたか?」

 目を開けると、寺嶋が城ケ崎の顔を覗き込むように見下ろしていた。
 もう手は握っていないが、まだ温もりが残っているような気がした。

「ああ、そうか。ソウが泊まってくれたんだったな」

 昨晩のことを思い出し、不思議な夢の残滓が、朝起きてすぐに想い人に会えた喜びに上書きされていく。

 だって目の前の彼は、なんと髪を下ろしているのだ。
 髪を結んでいない彼の姿は、初めて見た。やはりミディアムヘアの女子くらいの長さはある。――なんだか、こう……艶っぽい。

「ソウ、おはよう!」

 城ケ崎は満面の笑みになって、大きな声で朝の挨拶をした。

「あはは、いつも通りでよかった。おはよう、レイ」

 彼の笑顔を目の前にして、心が高揚する。
 彼は笑顔でいるのが一番だと感じた。――うーん、キスしたくなるくらい可愛い!

「ところで、こんな夢を見たんだが……」

 城ケ崎は起き上がって布団を畳みながら、先ほど見ていた夢の内容を寺嶋に話した。なんだか妙に頭に残る、不思議な夢だったからだ。

「それだ!」

 話を聞き終わった彼は、なんだか興奮した様子で「閃いた」のジェスチャーをした。

「それだ、それだよ! 考えてみれば、護符よりも強力にレイを守ってくれるものがあるじゃないか!」
 
「強力にボクを守ってくれるもの?」

「市松人形だ」

 彼の言葉を聞いて、父の部屋にある金髪碧眼の市松人形を思い出した。

「あの市松人形は、レイのお母さんを模したものなんだろう? 人の形をしたものは念が籠りやすいから、悪霊が憑きやすい。裏を返せば、良い念も籠りやすいということだ。レイのお母さんはレイの守護霊と考えていいから、そのお母さんと同じ姿をした人形には、レイを守る念が籠っていると思う」

「ええと待ってくれ、守護霊というのはなんだ。いや、一度ソウから説明を聞いたな……」

 寺嶋が転校してきた初日に、幽霊について説明を受けた時に守護霊というものについても軽く説明された気がする、と記憶を手繰り寄せる。

「災難に遭わないように守ってくれる幽霊のことだよ」
 
「ああ、そうだった。……それはつまり、母が常にボクを守っているということか?」

「うん。きっとレイの見た夢は、人形があれば守ってあげられるよって、お母さんが伝えに来たんだ」

「伝えに……」

 夢の意味を聞いて、目の奥が熱くなった。
 母の愛に包み込まれているのを、肌で感じたような気がした。

「なるほど。なら、人形が傍にあればいいんだな?」
「その通り。念持仏ねんじぶつ用の箱とかに入れれば、外出先でも安全だ」

 念持仏が何かわからなかったので、寺嶋に説明してもらった。簡単に言うと持ち歩き用の仏像ということだった。博識だなと城ケ崎は感心した。

「そういうことならば、まずは父に許可をもらわないとな。あの人形は父のものだ」

「そうか、レイのお父さんのなのか。でも、なんて言って持ち出しの許可をもらうんだ? きっとすごく大事なものなんだろう?」

「素直に事情を全て話すさ。ボクの安全のためならば、父はわかってくれるはずだ」

 城ケ崎の言葉を聞いた寺嶋は、唖然としたように口を大きく開いた。

「いや、それは……レイには悪いけれど、信じてもらえるはずがないよ。レイがおかしくなっちゃったんだって思われるのが関の山だ。真剣に説明しただけで信じてもらえるなら、俺は『タタリくん』なんて呼ばれてない」

 タタリくんという単語を口にした寺嶋は、かつての痛みを今まさに感じているかのように顔を歪めていた。
 その痛みは見逃してはならないものだ、と直感が囁いた。

「ソウ、キミは……まさか、いじめを受けていたのか? 助けようとした相手に、恩を仇で返されたということか? それで転校してきたのか?」

「違う!」

 彼は叫ぶように言い返した。
 それが何より雄弁な答えに感じられた。

「いじめなんて、そんな大げさなものじゃない。ただ、避けられたり……揶揄われたりするようになっただけだ」

 それは立派ないじめじゃないかと、城ケ崎は衝撃を受ける。
 城ケ崎は、衝動のままに彼を抱き締めた。

「すまない、そんなこと少しも知らなくて……! 今まで辛かっただろう!」

 彼がこれまでに受けてきた痛みを思うと、涙が出そうだった。

「ボクの知っているソウは、他人を助けるために行動できる誇り高い人だ。常に自分のためじゃなくて、他人のためを考えている。そんな人が、そんな人が虐げられていいはずがない!」

 城ケ崎は頬に濡れた感覚を覚えて、実際に涙が出ている自分に気がついた。

「だから、そんな大げさなことじゃないって。もう転校したんだから、過去のことだし」

 笑い飛ばそうとする寺嶋の表情は見えない。
 ただ、彼の語尾が揺れているのは聞き取れた。

 呼吸のあと、ぽつりと彼が漏らした。

「……でも、信じてくれたのはレイが初めてだよ」

 救われた、とでも言うように。

 もっと早く信じてあげればよかった。
 後悔しながらも、強く強く彼を抱き締めた。痛みを少しでも肩代わりしたくて。
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