13 / 28
第十三話 おはよう、よく眠れた?
しおりを挟む
城ケ崎は不思議な夢を見た。
城ケ崎は夢の中でも寺嶋と手を繋いでいた。自分も彼も、子供の姿をしていた。
気がつくと、城ケ崎と手を繋いでいるのが母に変わっていた。カールした金髪が綺麗な、自慢の母。夢の中の城ケ崎は、上機嫌で母と手を繋いで歩いていた。
ふと、母が急に立ち止まった。
振り向くと、母が片手に人形を持っていた。金髪碧眼の、母にそっくりな人形だ。
母は城ケ崎の手を放し、代わりに両手で人形を差し出した。
母と手を繋いだままでいられないことを悲しく思いながらも、夢の中の城ケ崎は人形を受け取り、大事に人形を抱き締めたのだった……。
「レイ、おはよう。よく眠れたか?」
目を開けると、寺嶋が城ケ崎の顔を覗き込むように見下ろしていた。
もう手は握っていないが、まだ温もりが残っているような気がした。
「ああ、そうか。ソウが泊まってくれたんだったな」
昨晩のことを思い出し、不思議な夢の残滓が、朝起きてすぐに想い人に会えた喜びに上書きされていく。
だって目の前の彼は、なんと髪を下ろしているのだ。
髪を結んでいない彼の姿は、初めて見た。やはりミディアムヘアの女子くらいの長さはある。――なんだか、こう……艶っぽい。
「ソウ、おはよう!」
城ケ崎は満面の笑みになって、大きな声で朝の挨拶をした。
「あはは、いつも通りでよかった。おはよう、レイ」
彼の笑顔を目の前にして、心が高揚する。
彼は笑顔でいるのが一番だと感じた。――うーん、キスしたくなるくらい可愛い!
「ところで、こんな夢を見たんだが……」
城ケ崎は起き上がって布団を畳みながら、先ほど見ていた夢の内容を寺嶋に話した。なんだか妙に頭に残る、不思議な夢だったからだ。
「それだ!」
話を聞き終わった彼は、なんだか興奮した様子で「閃いた」のジェスチャーをした。
「それだ、それだよ! 考えてみれば、護符よりも強力にレイを守ってくれるものがあるじゃないか!」
「強力にボクを守ってくれるもの?」
「市松人形だ」
彼の言葉を聞いて、父の部屋にある金髪碧眼の市松人形を思い出した。
「あの市松人形は、レイのお母さんを模したものなんだろう? 人の形をしたものは念が籠りやすいから、悪霊が憑きやすい。裏を返せば、良い念も籠りやすいということだ。レイのお母さんはレイの守護霊と考えていいから、そのお母さんと同じ姿をした人形には、レイを守る念が籠っていると思う」
「ええと待ってくれ、守護霊というのはなんだ。いや、一度ソウから説明を聞いたな……」
寺嶋が転校してきた初日に、幽霊について説明を受けた時に守護霊というものについても軽く説明された気がする、と記憶を手繰り寄せる。
「災難に遭わないように守ってくれる幽霊のことだよ」
「ああ、そうだった。……それはつまり、母が常にボクを守っているということか?」
「うん。きっとレイの見た夢は、人形があれば守ってあげられるよって、お母さんが伝えに来たんだ」
「伝えに……」
夢の意味を聞いて、目の奥が熱くなった。
母の愛に包み込まれているのを、肌で感じたような気がした。
「なるほど。なら、人形が傍にあればいいんだな?」
「その通り。念持仏用の箱とかに入れれば、外出先でも安全だ」
念持仏が何かわからなかったので、寺嶋に説明してもらった。簡単に言うと持ち歩き用の仏像ということだった。博識だなと城ケ崎は感心した。
「そういうことならば、まずは父に許可をもらわないとな。あの人形は父のものだ」
「そうか、レイのお父さんのなのか。でも、なんて言って持ち出しの許可をもらうんだ? きっとすごく大事なものなんだろう?」
「素直に事情を全て話すさ。ボクの安全のためならば、父はわかってくれるはずだ」
城ケ崎の言葉を聞いた寺嶋は、唖然としたように口を大きく開いた。
「いや、それは……レイには悪いけれど、信じてもらえるはずがないよ。レイがおかしくなっちゃったんだって思われるのが関の山だ。真剣に説明しただけで信じてもらえるなら、俺は『タタリくん』なんて呼ばれてない」
タタリくんという単語を口にした寺嶋は、かつての痛みを今まさに感じているかのように顔を歪めていた。
その痛みは見逃してはならないものだ、と直感が囁いた。
「ソウ、キミは……まさか、いじめを受けていたのか? 助けようとした相手に、恩を仇で返されたということか? それで転校してきたのか?」
「違う!」
彼は叫ぶように言い返した。
それが何より雄弁な答えに感じられた。
「いじめなんて、そんな大げさなものじゃない。ただ、避けられたり……揶揄われたりするようになっただけだ」
それは立派ないじめじゃないかと、城ケ崎は衝撃を受ける。
城ケ崎は、衝動のままに彼を抱き締めた。
「すまない、そんなこと少しも知らなくて……! 今まで辛かっただろう!」
彼がこれまでに受けてきた痛みを思うと、涙が出そうだった。
「ボクの知っているソウは、他人を助けるために行動できる誇り高い人だ。常に自分のためじゃなくて、他人のためを考えている。そんな人が、そんな人が虐げられていいはずがない!」
城ケ崎は頬に濡れた感覚を覚えて、実際に涙が出ている自分に気がついた。
「だから、そんな大げさなことじゃないって。もう転校したんだから、過去のことだし」
笑い飛ばそうとする寺嶋の表情は見えない。
ただ、彼の語尾が揺れているのは聞き取れた。
呼吸のあと、ぽつりと彼が漏らした。
「……でも、信じてくれたのはレイが初めてだよ」
救われた、とでも言うように。
もっと早く信じてあげればよかった。
後悔しながらも、強く強く彼を抱き締めた。痛みを少しでも肩代わりしたくて。
城ケ崎は夢の中でも寺嶋と手を繋いでいた。自分も彼も、子供の姿をしていた。
気がつくと、城ケ崎と手を繋いでいるのが母に変わっていた。カールした金髪が綺麗な、自慢の母。夢の中の城ケ崎は、上機嫌で母と手を繋いで歩いていた。
ふと、母が急に立ち止まった。
振り向くと、母が片手に人形を持っていた。金髪碧眼の、母にそっくりな人形だ。
母は城ケ崎の手を放し、代わりに両手で人形を差し出した。
母と手を繋いだままでいられないことを悲しく思いながらも、夢の中の城ケ崎は人形を受け取り、大事に人形を抱き締めたのだった……。
「レイ、おはよう。よく眠れたか?」
目を開けると、寺嶋が城ケ崎の顔を覗き込むように見下ろしていた。
もう手は握っていないが、まだ温もりが残っているような気がした。
「ああ、そうか。ソウが泊まってくれたんだったな」
昨晩のことを思い出し、不思議な夢の残滓が、朝起きてすぐに想い人に会えた喜びに上書きされていく。
だって目の前の彼は、なんと髪を下ろしているのだ。
髪を結んでいない彼の姿は、初めて見た。やはりミディアムヘアの女子くらいの長さはある。――なんだか、こう……艶っぽい。
「ソウ、おはよう!」
城ケ崎は満面の笑みになって、大きな声で朝の挨拶をした。
「あはは、いつも通りでよかった。おはよう、レイ」
彼の笑顔を目の前にして、心が高揚する。
彼は笑顔でいるのが一番だと感じた。――うーん、キスしたくなるくらい可愛い!
「ところで、こんな夢を見たんだが……」
城ケ崎は起き上がって布団を畳みながら、先ほど見ていた夢の内容を寺嶋に話した。なんだか妙に頭に残る、不思議な夢だったからだ。
「それだ!」
話を聞き終わった彼は、なんだか興奮した様子で「閃いた」のジェスチャーをした。
「それだ、それだよ! 考えてみれば、護符よりも強力にレイを守ってくれるものがあるじゃないか!」
「強力にボクを守ってくれるもの?」
「市松人形だ」
彼の言葉を聞いて、父の部屋にある金髪碧眼の市松人形を思い出した。
「あの市松人形は、レイのお母さんを模したものなんだろう? 人の形をしたものは念が籠りやすいから、悪霊が憑きやすい。裏を返せば、良い念も籠りやすいということだ。レイのお母さんはレイの守護霊と考えていいから、そのお母さんと同じ姿をした人形には、レイを守る念が籠っていると思う」
「ええと待ってくれ、守護霊というのはなんだ。いや、一度ソウから説明を聞いたな……」
寺嶋が転校してきた初日に、幽霊について説明を受けた時に守護霊というものについても軽く説明された気がする、と記憶を手繰り寄せる。
「災難に遭わないように守ってくれる幽霊のことだよ」
「ああ、そうだった。……それはつまり、母が常にボクを守っているということか?」
「うん。きっとレイの見た夢は、人形があれば守ってあげられるよって、お母さんが伝えに来たんだ」
「伝えに……」
夢の意味を聞いて、目の奥が熱くなった。
母の愛に包み込まれているのを、肌で感じたような気がした。
「なるほど。なら、人形が傍にあればいいんだな?」
「その通り。念持仏用の箱とかに入れれば、外出先でも安全だ」
念持仏が何かわからなかったので、寺嶋に説明してもらった。簡単に言うと持ち歩き用の仏像ということだった。博識だなと城ケ崎は感心した。
「そういうことならば、まずは父に許可をもらわないとな。あの人形は父のものだ」
「そうか、レイのお父さんのなのか。でも、なんて言って持ち出しの許可をもらうんだ? きっとすごく大事なものなんだろう?」
「素直に事情を全て話すさ。ボクの安全のためならば、父はわかってくれるはずだ」
城ケ崎の言葉を聞いた寺嶋は、唖然としたように口を大きく開いた。
「いや、それは……レイには悪いけれど、信じてもらえるはずがないよ。レイがおかしくなっちゃったんだって思われるのが関の山だ。真剣に説明しただけで信じてもらえるなら、俺は『タタリくん』なんて呼ばれてない」
タタリくんという単語を口にした寺嶋は、かつての痛みを今まさに感じているかのように顔を歪めていた。
その痛みは見逃してはならないものだ、と直感が囁いた。
「ソウ、キミは……まさか、いじめを受けていたのか? 助けようとした相手に、恩を仇で返されたということか? それで転校してきたのか?」
「違う!」
彼は叫ぶように言い返した。
それが何より雄弁な答えに感じられた。
「いじめなんて、そんな大げさなものじゃない。ただ、避けられたり……揶揄われたりするようになっただけだ」
それは立派ないじめじゃないかと、城ケ崎は衝撃を受ける。
城ケ崎は、衝動のままに彼を抱き締めた。
「すまない、そんなこと少しも知らなくて……! 今まで辛かっただろう!」
彼がこれまでに受けてきた痛みを思うと、涙が出そうだった。
「ボクの知っているソウは、他人を助けるために行動できる誇り高い人だ。常に自分のためじゃなくて、他人のためを考えている。そんな人が、そんな人が虐げられていいはずがない!」
城ケ崎は頬に濡れた感覚を覚えて、実際に涙が出ている自分に気がついた。
「だから、そんな大げさなことじゃないって。もう転校したんだから、過去のことだし」
笑い飛ばそうとする寺嶋の表情は見えない。
ただ、彼の語尾が揺れているのは聞き取れた。
呼吸のあと、ぽつりと彼が漏らした。
「……でも、信じてくれたのはレイが初めてだよ」
救われた、とでも言うように。
もっと早く信じてあげればよかった。
後悔しながらも、強く強く彼を抱き締めた。痛みを少しでも肩代わりしたくて。
77
あなたにおすすめの小説
前世から俺の事好きだという犬系イケメンに迫られた結果
はかまる
BL
突然好きですと告白してきた年下の美形の後輩。話を聞くと前世から好きだったと話され「????」状態の平凡男子高校生がなんだかんだと丸め込まれていく話。
三ヶ月だけの恋人
perari
BL
仁野(にの)は人違いで殴ってしまった。
殴った相手は――学年の先輩で、学内で知らぬ者はいない医学部の天才。
しかも、ずっと密かに想いを寄せていた松田(まつだ)先輩だった。
罪悪感にかられた仁野は、謝罪の気持ちとして松田の提案を受け入れた。
それは「三ヶ月だけ恋人として付き合う」という、まさかの提案だった――。
悪役を幸せにしたいのになんか上手くいかないオタクのはなし
はかまる
BL
転生してみたものの気がつけば好きな小説のモブになっていてしかもストーリーのド終盤。
今まさに悪役が追放されそうになっているところを阻止したくなっちゃったオタクの話。
悪役が幸せに学園を卒業できるよう見守るはずがなんだか――――なんだか悪役の様子がおかしくなっちゃったオタクの話。
ヤンデレ(メンヘラ)×推しが幸せになってほしいオタク
【完結】俺はずっと、おまえのお嫁さんになりたかったんだ。
ペガサスサクラ
BL
※あらすじ、後半の内容にやや二章のネタバレを含みます。
幼なじみの悠也に、恋心を抱くことに罪悪感を持ち続ける楓。
逃げるように東京の大学に行き、田舎故郷に二度と帰るつもりもなかったが、大学三年の夏休みに母親からの電話をきっかけに帰省することになる。
見慣れた駅のホームには、悠也が待っていた。あの頃と変わらない無邪気な笑顔のままー。
何年もずっと連絡をとらずにいた自分を笑って許す悠也に、楓は戸惑いながらも、そばにいたい、という気持ちを抑えられず一緒に過ごすようになる。もう少し今だけ、この夏が終わったら今度こそ悠也のもとを去るのだと言い聞かせながら。
しかしある夜、悠也が、「ずっと親友だ」と自分に無邪気に伝えてくることに耐えきれなくなった楓は…。
お互いを大切に思いながらも、「すき」の色が違うこととうまく向き合えない、不器用な少年二人の物語。
主人公楓目線の、片思いBL。
プラトニックラブ。
いいね、感想大変励みになっています!読んでくださって本当にありがとうございます。
2024.11.27 無事本編完結しました。感謝。
最終章投稿後、第四章 3.5話を追記しています。
(この回は箸休めのようなものなので、読まなくても次の章に差し支えはないです。)
番外編は、2人の高校時代のお話。
有能副会長はポンコツを隠したい。
さんから
BL
2.6タイトル変更しました。
この高校の生徒会副会長を務める僕・東山 優真は、普段の仕事ぶりから次期生徒会長の最有力候補と言われている。……んだけど、実際は詰めの甘さやうっかりミスを根性論でカバーしてきたポンコツだ。
こんなに頑張れているのは、密かに思いを寄せている安西生徒会長のため。
ある日、なんの奇跡か会長に告白され晴れて恋人同士となった僕は、大好きな人に幻滅されないためにポンコツを隠し通すと決めたけど……!?(内容は他サイト版と同じですが、こちらの方がちょっと読みやすいはずです)
追放されたおまけの聖女♂は冷徹王太子の腕の中から離してもらえない〜今さら戻れと言われても、もうこの人の魔力しか受け付けません!〜
たら昆布
BL
聖女のおまけで召喚されたと思われて追放された不憫受けが拾われて愛される話
家を追い出されたのでツバメをやろうとしたら強面の乳兄弟に反対されて困っている
香歌奈
BL
ある日、突然、セレンは生まれ育った伯爵家を追い出された。
異母兄の婚約者に乱暴を働こうとした罪らしいが、全く身に覚えがない。なのに伯爵家当主となっている異母兄は家から締め出したばかりか、ヴァーレン伯爵家の籍まで抹消したと言う。
途方に暮れたセレンは、年の離れた乳兄弟ギーズを頼ることにした。ギーズは顔に大きな傷跡が残る強面の騎士。悪人からは恐れられ、女子供からは怯えられているという。でもセレンにとっては子守をしてくれた優しいお兄さん。ギーズの家に置いてもらう日々は昔のようで居心地がいい。とはいえ、いつまでも養ってもらうわけにはいかない。しかしお坊ちゃん育ちで手に職があるわけでもなく……。
「僕は女性ウケがいい。この顔を生かしてツバメをしようかな」「おい、待て。ツバメの意味がわかっているのか!」美貌の天然青年に振り回される強面騎士は、ついに実力行使に出る?!
【完結】もしかして俺の人生って詰んでるかもしれない
バナナ男さん
BL
唯一の仇名が《根暗の根本君》である地味男である<根本 源(ねもと げん)>には、まるで王子様の様なキラキラ幼馴染<空野 翔(そらの かける)>がいる。
ある日、そんな幼馴染と仲良くなりたいカースト上位女子に呼び出され、金魚のフンと言われてしまい、改めて自分の立ち位置というモノを冷静に考えたが……あれ?なんか俺達っておかしくない??
イケメンヤンデレ男子✕地味な平凡男子のちょっとした日常の一コマ話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる