寺嶋くんは祓いたい

野良猫のらん

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第二十四話 知ってはいけない

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 お堂を出ると、寺嶋家の長兄が待ち構えていた。

「ソウは、どうしたんだ?」

 彼は寺嶋がいない理由を知らないらしく、尋ねてきた。
 「絶対にソウを連れて帰って来ること」という彼の提示した条件を思い出して、城ケ崎は申し訳なさを覚えた。

「祠でいなくなりました」

 城ケ崎の端的な説明を聞いて、彼は大きく目を見開いた。ただでさえ小さい黒目が、白目の中心で点のように見えた。
 
 唐突に、彼は身体を九十度に折った。
 
「すまなかった」

 謝罪の言葉を聞いて、やっと彼の仕草が謝罪の意を表すお辞儀なのだと気がついた。

「俺のせいだ。俺が祠に行けと言ったせいだ」

 まさか後悔の言葉が彼から出るとは思わず、城ケ崎は呆気に取られた。

「俺は本気で、お前とソウなら勝算があると思っていた。ソウ自身が祠のカミを祓えば、元に戻れると思っていた。……でも、違った。俺のせいだ」

 彼は顔を上げようとしない。
 呆気に取られていた城ケ崎は、少しずつ彼が本気で反省していることを理解した。

「……そんなに謝らないでください。お兄さんは『失敗する可能性もある』って教えてくれたじゃないですか」

 寺嶋がいなくなったのは彼のせいではない、と声をかけた。

「でも、俺は。自分ではカミを倒せないから、勝手にソウに期待を託していたのかもしれない」

「とりあえず、顔を上げてください」

 そろそろと顔を上げた彼は、今にも泣きそうな顔をしているように城ケ崎には見えた。

「……祠のカミは、知ってはいけない。見てはいけない。調べてはいけない。知れば知るほど、カミに力を与えてしまう」

 長兄は静かに語り出した。

「俺は昔、調べれば祠のカミを倒す方法が見つかるんじゃないと思った。山ほどあるカミの別名も、いつからカミがいるのかも、被害規模も、言い伝えも、地道に聞き込みをしたり図書館に通いつめたりして、調べた。霊力ではソウに及ばなくても、努力こそが俺の武器だと信じて……」

 末の弟が贔屓されていても腐らず努力できる人間だったのか、あるいは妬みを抱いていたからこそ、対抗心から努力し続ける人間だったのか。
 城ケ崎は、初めてこの長兄の人間味が見えた気分だった。

「そうして調べた結果、わかったんだ。調べては絶対に駄目だということが」

 その瞬間の絶望が、彼の黒い瞳を介して見えるようだった。

「俺では絶対にカミに勝てない。だから俺は、挑もうともしなかった。けれども親父に贔屓される霊力があって、カミについて何も知らないソウならばと期待を抱いていた」

「だから、ボクに詳しいことを語ろうとしなかったんですね」

 城ケ崎は静かに尋ねた。

 思えば、「手」が見えたのは寺嶋の話を信じてからだった。
 話を聞いても信じていなければ、「知った」扱いにならないのだろうか。信じて「知って」しまったから、カミの力が増して自分にも見えるようになったのか。

 だから寺嶋の父親は、寺嶋の話は思い込みだという方向で嘘を吐いたのかと、あらゆることに合点がいく。

 ならば、祠で過去の映像を映した幻覚のようなものが見えたのは、「知ってもらうため」だったのだろう。カミとやらの悪意に触れたような気がした。

「何をどこまで知ったらアウトになるかわからなかったから、なるべく情報を制限したかった。けれどもこんなことになるんなら、最初からきちんと危険性を伝えるべきだった」

 長兄の握り締められた拳が震えていた。
 拳の内側に爪を立てているのではないかと思うくらい、強く握っていることが窺えた。

「俺みたいな不器用な人間でも、兄として慕ってくれる……大事な弟を失ってしまった」

 長兄はうなだれた。
 後悔の念と、弟への愛情が感じ取れた。

「まだ失ったとは決まっていません」

 彼の肩に手を添え、言った。
 こうして見ると、彼は自分よりも背丈が低いことがよくわかった。寺嶋とよく似ている。

「まさか……諦めていないのか?」

 震えた声が返ってきた。

「はい」

 黒い目を見据え、しっかりと頷いた。

「これから、もう一度祠へ行ってソウを連れ帰ってくるつもりです」

「なら、俺も連れて行ってくれないか」

 長兄と目が合う。

「自分は挑みもせず、弟だけを祠に向かわせた。その罪を清算したいんだ」

 彼の言葉に、城ケ崎は若干の躊躇いを覚えた。
 もしや罪の清算のために、彼は死ぬつもりではないかと。

「ソウを連れ戻すのに、俺の知識は絶対に役に立つ」

 城ケ崎の中の躊躇を見抜いたかのように、彼は言い募る。

「……わかりました」

 自分ひとりだけで行ってどうにかなるのかと、不安を覚えていたのも事実だ。
 そこまで言うならと、長兄に同行してもらうことに決めたのだった。
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