悪逆第四皇子は僕のお兄ちゃんだぞっ! ~商人になりたいので悪逆皇子の兄と組むことにします~

野良猫のらん

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第一部 リューナジア城編

第四十六話 おじさんとの邂逅 ①

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 それは工房の下見を終えた帰りのことだった。

 下見自体はとても満足のいくものだった。
 案内された工房候補地は存外に広く清潔で、好きに作業が出来そうだった。
 色々な物を仕舞っておく倉庫も隣接されていた。

 お兄ちゃんも一目見て気に入っていたようだった。
 そこを工房にするとマクシミリアンに言っていた。

「細かい打合せを行いたいので、また後日近い内に城を訪ねさせて頂きます」
「ああ、分かった」

 マクシミリアンとそんな会話をして、無事下見は終わったのだった。
 僕の具合が途中で悪くなるようなこともなく、つつがなく終了した。

 問題はその帰りだ。

 城から工房候補地まで僕たちは馬車で移動していた。
 帰りも当然馬車で移動していた訳だが、窓から外を眺めていた僕はアッピルケの実を山と積んだ屋台を見つけてしまった。
 今年はアッピルケが豊作で特別甘いと聞いた。
 豊潤な甘い香りが鼻を擽り、思わずごくりと唾を飲んだ。

「カレン。少し下りてあれを買いに行こうか」

 食べたいと思ったのがお兄ちゃんにはお見通しのようで、そう言ってくれた。

「え、でも……」
「後はもう帰るだけなんだから大丈夫さ」

 お兄ちゃんがにこりと微笑む。
 彼も随分と柔らかい表情をするようになったものだと思う。
 こういう表情をした時のお兄ちゃんはまるで貴公子のようだった。
 まるでも何も正真正銘の皇子なんだけど。

 お兄ちゃんが大丈夫だと言ってくれたので、馬車から降りてアッピルケの実を一つ買うことになった。
 そして屋台に並んでいる時のことだった。
 ふっと首元が軽くなるのを感じた。

「?」

 振り返ると、見慣れた懐中時計を手に走り出す少年の姿が見えた。
 懐中時計をスられたのだ。

「あっ!」

 咄嗟にそれしか声が出なかった。
 それでも振り向いたお兄ちゃんが素早く事態を理解したらしく、スリの少年を追いかけて走り出した。

「おにーちゃん!」

 慌てて僕も走り出した。
 だが、それがいけなかった。

 間もなくしてスリの少年もお兄ちゃんのことも見失ってしまった。
 おまけに自分が今何処にいるのかも分からなかった。
 自分の足で追いつける訳がないのに。大人しく屋台の所で待っていれば良かったのだ。

 自分の判断力の無さが情けないやら何やらでその場に呆然と立ち尽くしてしまった。

 大切な懐中時計を奪われた上、お兄ちゃんを見失ってしまった。
 ちょっと交渉を成功させたくらいでいい気になってたけれど、僕はお兄ちゃんより頭も良くないし身体も弱いただの役立たずなんじゃないか。
 そんな考えが頭をもたげて離れなくなってしまった。
 涙が出てきそうになる。

 そのおじさんが現れたのは、そんな瞬間のことだった。

「やあお嬢さん、どうしたのかな? おじさんに助けになれることはあるかな?」

 青い綺麗な目が印象的な、垂れ目の優しそうなおじさんだった。
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