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第十一話 ライラックの花*
夜も更け、月光が照らすライラックの木を午睡の間の窓辺から眺めていると、エドゥアールが訪れてきた。
「ライラックの花が好きなのかな?」
ひそめられた低い声に、耳が心地よさを覚える。
リュシアンは振り返らず、窓の外を眺めたまま答えた。
「結構好きだな。同じ花の中にも濃淡があって、華やかなのに繊細で」
ライラックが風に揺れている。きっと夜風は涼しいのだろう。
「なら、明日のお茶会は中庭で行おう」
「え?」
驚きに、思わずエドゥアールを振り返った。
当たり前のように、明日もお茶会を行う気なのか。
いや、それよりも信じがたいことがある。
「中庭に出てもいいのか?」
この離宮に閉じ込められていなければならないのに、中庭に出てもいいだなんて。
「今更君が逃げ出すだなんて、疑っていない。むしろ自由に外出してもらいたいくらいだ。残念ながら、私の権限ではそこまで許可はできないが」
契約婚のことは、みだりに他人に知られてはならない。王太子とオメガが結婚しているだなんて、王室の醜聞だからだ。エドゥアール一人の意思では、自分を外に出すことはできない。
「そうだ、明日から好きに中庭に出るといい。これを君に渡しておこう」
彼が懐から取り出したものを差し出すので、リュシアンは受け取った。
銀色の鍵だ。
「中庭に通じる扉を開ける鍵だ。中庭も離宮の一部だ、君が出入りしたからといって、文句を言うものは存在しない。いたとしても、私が説き伏せよう。いつでも好きなときに自由に出入りしてくれ」
「エドゥアール……」
胸が熱くなるのを感じながら、手の中の鍵を眺める。抑制剤の入った小瓶と一緒に、宝箱に大事にしまっておこうと胸に決めた。
「ありがとう、とても嬉しいよ」
「君が喜んでくれると知っていたなら、もっと早くあげればよかった」
柔らかい微笑に、胸が苦しくなる。
自覚しなければならない、自分が彼に対してある種の想いを抱いていることは。
オメガの身分で、王太子に恋をしてしまうなんて。きっと苦しい思いをすることだろう。穏やかな日常を送れれば、それでよかったのに。
「じゃあ、そろそろ夫婦の間に移動しようか」
「あ、ああ」
自分がオメガらしくなってしまう、接合の瞬間が嫌いだ。それでも低い囁きに、心が躍ってしまった。
嫌なのに、どうしても心は望んでしまっている。
リュシアンが寝台に横になると、エドゥアールもまた寝台に上がった。
「申し訳ないけれど、服を脱がせるよ」
「仕事なんだから、『申し訳ない』なんていちいち言う必要はないよ」
「わかった」
彼は頷くと、そっとリュシアンの衣服に手をかけた。決して急いた動きではなく、シャツのボタンを一つ一つ丁寧に外していく。
彼の顔が近い。視線だけで、胸の鼓動が高鳴っているのを見抜かれてしまいそうな近さだ。
やがてはだけた上半身の、脇腹の辺りを彼の手がすっと撫でる。ビクリと震えそうになるのを、必死で抑えた。
彼の手はブリーチズに手をかけ、下ろしていった。続けて下着を下ろされると、リュシアンもまた足を動かして下着から足を抜いた。
リュシアンは生まれたままの姿になった。
何度も見せている姿だが、いまだに慣れない。彼の視線が肢体を舐めたような気がして、つい胸の上で手を組んだ。
衣擦れの音を響かせながら、彼が目の前で衣服を脱ぎ捨てていく。流石にもう彼の中心から目を逸らさなくても、平気にはなった。
「リュシアン、触るよ」
「うん」
彼がリュシアンの膝裏に手をかけ、両足を広げさせた。
あらかじめ拡げておいた入口が、彼に向けて晒される。香油を潤滑液にして解したから、濡れているのが見えるだろう。恥ずかしい。
彼は片手を離すと、入り口にそっと触れた。くちりとかすかな水音が響く。
「君はいつも、あらかじめ用意をしてきてくれているな」
それが何か、と彼を見つめる。
「その……自分の手でするのも、苦しいのではないか? もし君さえよければ、今後は私がしてもいいだろうか?」
「え……」
入口の周縁を、細い指が撫でる。
この指が中に挿入ってきたら、と想像する。どんな心地がするのだろうか。もし感じてしまったら、善がってしまったら。
オメガらしくなりたくない。父の言っていたような、汚らしくいやらしい存在にはなりたくない。
「駄目だ……!」
予想外に大きな声が出てしまった。すぐに指が離れていく。
「すまない。やはり不快だよな、忘れてくれ」
穏やかな声に、逆に彼の心が傷ついたであろうことを痛く感じてしまった。
「違うんだ、俺が駄目なんだ。俺のせいだ」
リュシアンは必死に訴えた。
「君のせいだなんていうことは絶対にないと思うが、事情を話してくれないか?」
彼にならば、内心を話しても大丈夫。
自分に言い聞かせると、リュシアンは口を開いた。
「あんまり情けない姿を見せたくないんだ。喘いだりとか、感じたりとか。そんなオメガらしい姿、いやらしくて汚いだろう?」
勇気を出して尋ねると、彼はぽかんとしてしまった。何を言っているのかわからないといった風に。
「いやらしい? 汚い? そんな風に思うわけないだろう」
「え……?」
「他人と行為をすれば、人はだれしもいつもとは違う姿を晒してしまうものだ。それが汚いなんていうことはない。あと、そういった姿がオメガらしいということもない。アルファもベータもオメガも、行為をすれば、その、気持ちよくなるものだ。人として正常な反応が、汚いだなんてことはない」
彼の言葉は、まっすぐだった。胸の内に、まっすぐに届く。
「汚くない?」
「そうだ、君はむしろ綺麗だ。いや、そうではなくて。とにかく、情けないだなんて決して思わない。だから君も、自分を嫌わないでほしい」
目を瞬いて、彼を見つめる。銀青色の瞳に映る自分の裸は……たしかに、綺麗だった。
「私は、君さえ不快でなければ、君のいろいろな姿を見たいと願っている。もし、よければ……この手を避けないでほしい」
彼の手が、身体に伸びてくる。腰の辺りに添えられた手がすっと下がり、尻から回り込むようにして下に触れる。彼の指は後ろの入口を通り過ぎ、もっと直接的な快感を得られる場所……陰茎を撫でた。
「あっ」
表面をほんの一撫でされただけで、声が出てしまった。
指が緩くリュシアンのモノを握り込む。彼の親指が茎を撫で上げ、先端に触れる。彼は確かめるように、リュシアンの顔を覗き込んでいた。
「そこっ、さわられると、だめだ……!」
「性器に触れられれば、誰だって快感が生じる。それがオメガらしいなんてことはない。それでも駄目だろうか?」
駄目だろうか、なんて。
自分のモノは彼の手の中で膨らみ、硬くなり始めている。自らのオメガ性を嫌ってまともに自慰もしたことなかったそこは、わずかな刺激にも反応してもっと欲しいと訴えている。彼の手に擦られたくて、腰が動いてしまいそうだ。
駄目じゃない、もっとしてほしいと言ってしまいたい。そんなことを口にしても、淫らではないのだろうか。汚らしいオメガだと罵られることは、ないのだろうか。
「リュシアン……」
銀青色の瞳が、切なげに見つめてくる。
胸の内からどんどん想いが込み上げてきて、蓋をしているのが難しくなってくる。愛しい彼に触れられたい。愛しい人に、ありのままの自分を認められたい。
穏やかな日々だけ過ごせればいいなんて、嘘だ。本当はこんなにも求めていた、ありのままの自分を認めてくれる人を。
「だ、だめじゃない……」
震える声で零した。
彼の瞳孔が丸くなったかと思うと、穏やかに目が細められた。
「嬉しいよ、リュシアン」
リップ音を立てて、内腿に口づけを落とされる。
それからリュシアンの大事な部分を握っている手が、ゆっくりと動き始めた。
「あ、ぁ……っ!」
生まれて初めてと言っても差し支えないほどの快感に、嬌声が口からまろび出た。
緩やかにだけれども何度も扱かれ、茎の先端からはすぐに蜜が滴り始める。彼の指が滴りで濡れ、上下の度に水音が立つようになる。
「あっ、あ、あぁ……っ!」
大きな声が出てしまう。けれども彼は嘲笑わない。それどころか、食い入るように顔を見つめてくる。
「可愛い声だな、リュシアン」
可愛い声だなんて。羞恥心に顔が熱くなる。
ただの契約なのに、そんな言葉をかけられたら、勘違いしてしまう。
「もっと聞かせてくれないか」
「あっ、ん……っ!」
甘い声が出てしまうのが恥ずかしい。けれども、嫌ではない。彼が可愛いと言ってくれるから。
「エドゥ、アール、もう、でちゃう……っ!」
すぐに射精感を覚える。彼の手の中に出してはならないと、羞恥心を覚えながらも必死で訴えた。
彼がこくりと頷いたのが見えた。よかった、手を離してもらえる。リュシアンはそう思った。
「わかった、遠慮なく出してくれ」
だから、彼の言葉を聞き間違えたのだと思った。
「あ、あぁ、ん、あぁ……ッ!」
彼はリュシアンのモノを扱き続けるだけでなく、激しさを増していく。耐えられるわけがない。
「……ッ!」
高められた快感はすぐに限界を超え、彼の手の中に精を吐き出してしまった。オメガの透明な精だ。
初めて、彼の前で達してしまった。痴態を眼前に晒してしまった。
「汚しちゃっ……」
荒い息に胸を上下させながら、リュシアンは話そうとする。
彼の手を汚してしまった。
「私の手で気持ちよくなってくれたのだね。ありがとう、嬉しいよ」
なのに、彼は平然としている。
慌てて上体を起こすと、手が精で汚れているのを直視してしまって、かっと耳まで顔が熱くなった。
「う、嬉しいなんて言っている場合じゃないだろ!」
リュシアンはベッド脇にあった布を適当にひっつかむと、ごしごしと彼の手を拭いた。
「あ、なんてことをしてしまうんだ」
「なんてことをしてしまうんだじゃない、黙れ!」
照れ隠しに猛然とした勢いで、彼の手から精を拭き取った。
「もっと君に触れたいのだけれど、いいだろうか」
なのに、彼はまじめくさった声音で言い募ってくる。
「ふ、触れたいって……?」
「君の後ろとか」
囁かれた瞬間、きゅっと腹の奥が疼いた気がした。
「う、後ろって、そんな……」
「駄目かな?」
耳元で尋ねられる。
すぐそばまで彼の顔が迫っていて、頬の熱が伝わってしまいそうだった。
嫌と言えるわけがない。見えない糸に引かれるかのように、自然と頷いてしまっていた。
「ありがとう」
起こしていた上体を、そっと押し倒される。それから自然な動作で、寝台の上に投げ出していた片手を握り締められた。掌から直に体温が伝わってくる。
宣言通り、彼の手は後ろへと伸びた。自分で拡げて濡れた入口を、指の腹が撫でた。
「……っ」
小さく息を呑んだ。
それでも嫌がる素振りを見せないとわかると、彼は指を動かし始めた。
つぷりと先端が入口を押し割って入ってきた。
「あっ」
自分で指を挿入れるのとは、まったく感触が違う。内側に他人の体温を直接感じる。それが予期しないタイミングで勝手に動くのだ。
挿入ってきた指は、ゆっくりと奥へと進んでいく。
そうして、指での愛撫が始まった。
「ライラックの花が好きなのかな?」
ひそめられた低い声に、耳が心地よさを覚える。
リュシアンは振り返らず、窓の外を眺めたまま答えた。
「結構好きだな。同じ花の中にも濃淡があって、華やかなのに繊細で」
ライラックが風に揺れている。きっと夜風は涼しいのだろう。
「なら、明日のお茶会は中庭で行おう」
「え?」
驚きに、思わずエドゥアールを振り返った。
当たり前のように、明日もお茶会を行う気なのか。
いや、それよりも信じがたいことがある。
「中庭に出てもいいのか?」
この離宮に閉じ込められていなければならないのに、中庭に出てもいいだなんて。
「今更君が逃げ出すだなんて、疑っていない。むしろ自由に外出してもらいたいくらいだ。残念ながら、私の権限ではそこまで許可はできないが」
契約婚のことは、みだりに他人に知られてはならない。王太子とオメガが結婚しているだなんて、王室の醜聞だからだ。エドゥアール一人の意思では、自分を外に出すことはできない。
「そうだ、明日から好きに中庭に出るといい。これを君に渡しておこう」
彼が懐から取り出したものを差し出すので、リュシアンは受け取った。
銀色の鍵だ。
「中庭に通じる扉を開ける鍵だ。中庭も離宮の一部だ、君が出入りしたからといって、文句を言うものは存在しない。いたとしても、私が説き伏せよう。いつでも好きなときに自由に出入りしてくれ」
「エドゥアール……」
胸が熱くなるのを感じながら、手の中の鍵を眺める。抑制剤の入った小瓶と一緒に、宝箱に大事にしまっておこうと胸に決めた。
「ありがとう、とても嬉しいよ」
「君が喜んでくれると知っていたなら、もっと早くあげればよかった」
柔らかい微笑に、胸が苦しくなる。
自覚しなければならない、自分が彼に対してある種の想いを抱いていることは。
オメガの身分で、王太子に恋をしてしまうなんて。きっと苦しい思いをすることだろう。穏やかな日常を送れれば、それでよかったのに。
「じゃあ、そろそろ夫婦の間に移動しようか」
「あ、ああ」
自分がオメガらしくなってしまう、接合の瞬間が嫌いだ。それでも低い囁きに、心が躍ってしまった。
嫌なのに、どうしても心は望んでしまっている。
リュシアンが寝台に横になると、エドゥアールもまた寝台に上がった。
「申し訳ないけれど、服を脱がせるよ」
「仕事なんだから、『申し訳ない』なんていちいち言う必要はないよ」
「わかった」
彼は頷くと、そっとリュシアンの衣服に手をかけた。決して急いた動きではなく、シャツのボタンを一つ一つ丁寧に外していく。
彼の顔が近い。視線だけで、胸の鼓動が高鳴っているのを見抜かれてしまいそうな近さだ。
やがてはだけた上半身の、脇腹の辺りを彼の手がすっと撫でる。ビクリと震えそうになるのを、必死で抑えた。
彼の手はブリーチズに手をかけ、下ろしていった。続けて下着を下ろされると、リュシアンもまた足を動かして下着から足を抜いた。
リュシアンは生まれたままの姿になった。
何度も見せている姿だが、いまだに慣れない。彼の視線が肢体を舐めたような気がして、つい胸の上で手を組んだ。
衣擦れの音を響かせながら、彼が目の前で衣服を脱ぎ捨てていく。流石にもう彼の中心から目を逸らさなくても、平気にはなった。
「リュシアン、触るよ」
「うん」
彼がリュシアンの膝裏に手をかけ、両足を広げさせた。
あらかじめ拡げておいた入口が、彼に向けて晒される。香油を潤滑液にして解したから、濡れているのが見えるだろう。恥ずかしい。
彼は片手を離すと、入り口にそっと触れた。くちりとかすかな水音が響く。
「君はいつも、あらかじめ用意をしてきてくれているな」
それが何か、と彼を見つめる。
「その……自分の手でするのも、苦しいのではないか? もし君さえよければ、今後は私がしてもいいだろうか?」
「え……」
入口の周縁を、細い指が撫でる。
この指が中に挿入ってきたら、と想像する。どんな心地がするのだろうか。もし感じてしまったら、善がってしまったら。
オメガらしくなりたくない。父の言っていたような、汚らしくいやらしい存在にはなりたくない。
「駄目だ……!」
予想外に大きな声が出てしまった。すぐに指が離れていく。
「すまない。やはり不快だよな、忘れてくれ」
穏やかな声に、逆に彼の心が傷ついたであろうことを痛く感じてしまった。
「違うんだ、俺が駄目なんだ。俺のせいだ」
リュシアンは必死に訴えた。
「君のせいだなんていうことは絶対にないと思うが、事情を話してくれないか?」
彼にならば、内心を話しても大丈夫。
自分に言い聞かせると、リュシアンは口を開いた。
「あんまり情けない姿を見せたくないんだ。喘いだりとか、感じたりとか。そんなオメガらしい姿、いやらしくて汚いだろう?」
勇気を出して尋ねると、彼はぽかんとしてしまった。何を言っているのかわからないといった風に。
「いやらしい? 汚い? そんな風に思うわけないだろう」
「え……?」
「他人と行為をすれば、人はだれしもいつもとは違う姿を晒してしまうものだ。それが汚いなんていうことはない。あと、そういった姿がオメガらしいということもない。アルファもベータもオメガも、行為をすれば、その、気持ちよくなるものだ。人として正常な反応が、汚いだなんてことはない」
彼の言葉は、まっすぐだった。胸の内に、まっすぐに届く。
「汚くない?」
「そうだ、君はむしろ綺麗だ。いや、そうではなくて。とにかく、情けないだなんて決して思わない。だから君も、自分を嫌わないでほしい」
目を瞬いて、彼を見つめる。銀青色の瞳に映る自分の裸は……たしかに、綺麗だった。
「私は、君さえ不快でなければ、君のいろいろな姿を見たいと願っている。もし、よければ……この手を避けないでほしい」
彼の手が、身体に伸びてくる。腰の辺りに添えられた手がすっと下がり、尻から回り込むようにして下に触れる。彼の指は後ろの入口を通り過ぎ、もっと直接的な快感を得られる場所……陰茎を撫でた。
「あっ」
表面をほんの一撫でされただけで、声が出てしまった。
指が緩くリュシアンのモノを握り込む。彼の親指が茎を撫で上げ、先端に触れる。彼は確かめるように、リュシアンの顔を覗き込んでいた。
「そこっ、さわられると、だめだ……!」
「性器に触れられれば、誰だって快感が生じる。それがオメガらしいなんてことはない。それでも駄目だろうか?」
駄目だろうか、なんて。
自分のモノは彼の手の中で膨らみ、硬くなり始めている。自らのオメガ性を嫌ってまともに自慰もしたことなかったそこは、わずかな刺激にも反応してもっと欲しいと訴えている。彼の手に擦られたくて、腰が動いてしまいそうだ。
駄目じゃない、もっとしてほしいと言ってしまいたい。そんなことを口にしても、淫らではないのだろうか。汚らしいオメガだと罵られることは、ないのだろうか。
「リュシアン……」
銀青色の瞳が、切なげに見つめてくる。
胸の内からどんどん想いが込み上げてきて、蓋をしているのが難しくなってくる。愛しい彼に触れられたい。愛しい人に、ありのままの自分を認められたい。
穏やかな日々だけ過ごせればいいなんて、嘘だ。本当はこんなにも求めていた、ありのままの自分を認めてくれる人を。
「だ、だめじゃない……」
震える声で零した。
彼の瞳孔が丸くなったかと思うと、穏やかに目が細められた。
「嬉しいよ、リュシアン」
リップ音を立てて、内腿に口づけを落とされる。
それからリュシアンの大事な部分を握っている手が、ゆっくりと動き始めた。
「あ、ぁ……っ!」
生まれて初めてと言っても差し支えないほどの快感に、嬌声が口からまろび出た。
緩やかにだけれども何度も扱かれ、茎の先端からはすぐに蜜が滴り始める。彼の指が滴りで濡れ、上下の度に水音が立つようになる。
「あっ、あ、あぁ……っ!」
大きな声が出てしまう。けれども彼は嘲笑わない。それどころか、食い入るように顔を見つめてくる。
「可愛い声だな、リュシアン」
可愛い声だなんて。羞恥心に顔が熱くなる。
ただの契約なのに、そんな言葉をかけられたら、勘違いしてしまう。
「もっと聞かせてくれないか」
「あっ、ん……っ!」
甘い声が出てしまうのが恥ずかしい。けれども、嫌ではない。彼が可愛いと言ってくれるから。
「エドゥ、アール、もう、でちゃう……っ!」
すぐに射精感を覚える。彼の手の中に出してはならないと、羞恥心を覚えながらも必死で訴えた。
彼がこくりと頷いたのが見えた。よかった、手を離してもらえる。リュシアンはそう思った。
「わかった、遠慮なく出してくれ」
だから、彼の言葉を聞き間違えたのだと思った。
「あ、あぁ、ん、あぁ……ッ!」
彼はリュシアンのモノを扱き続けるだけでなく、激しさを増していく。耐えられるわけがない。
「……ッ!」
高められた快感はすぐに限界を超え、彼の手の中に精を吐き出してしまった。オメガの透明な精だ。
初めて、彼の前で達してしまった。痴態を眼前に晒してしまった。
「汚しちゃっ……」
荒い息に胸を上下させながら、リュシアンは話そうとする。
彼の手を汚してしまった。
「私の手で気持ちよくなってくれたのだね。ありがとう、嬉しいよ」
なのに、彼は平然としている。
慌てて上体を起こすと、手が精で汚れているのを直視してしまって、かっと耳まで顔が熱くなった。
「う、嬉しいなんて言っている場合じゃないだろ!」
リュシアンはベッド脇にあった布を適当にひっつかむと、ごしごしと彼の手を拭いた。
「あ、なんてことをしてしまうんだ」
「なんてことをしてしまうんだじゃない、黙れ!」
照れ隠しに猛然とした勢いで、彼の手から精を拭き取った。
「もっと君に触れたいのだけれど、いいだろうか」
なのに、彼はまじめくさった声音で言い募ってくる。
「ふ、触れたいって……?」
「君の後ろとか」
囁かれた瞬間、きゅっと腹の奥が疼いた気がした。
「う、後ろって、そんな……」
「駄目かな?」
耳元で尋ねられる。
すぐそばまで彼の顔が迫っていて、頬の熱が伝わってしまいそうだった。
嫌と言えるわけがない。見えない糸に引かれるかのように、自然と頷いてしまっていた。
「ありがとう」
起こしていた上体を、そっと押し倒される。それから自然な動作で、寝台の上に投げ出していた片手を握り締められた。掌から直に体温が伝わってくる。
宣言通り、彼の手は後ろへと伸びた。自分で拡げて濡れた入口を、指の腹が撫でた。
「……っ」
小さく息を呑んだ。
それでも嫌がる素振りを見せないとわかると、彼は指を動かし始めた。
つぷりと先端が入口を押し割って入ってきた。
「あっ」
自分で指を挿入れるのとは、まったく感触が違う。内側に他人の体温を直接感じる。それが予期しないタイミングで勝手に動くのだ。
挿入ってきた指は、ゆっくりと奥へと進んでいく。
そうして、指での愛撫が始まった。
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